2022年2月から本格化したウクライナ紛争は、2023年、2年目に、2024年2月になれば3年目に突入します。
2022年末から、バフムート周辺で「自軍の兵士の死体を踏み越えて前進する」とも言われた激しい攻防戦が続いていましたが、今年から1年前、昨年1月中旬にバフムート近郊の地下要塞・ソレダールが陥落し、ロシア軍側の優勢が明らかになりました。
米国の軍事シンクタンク、ランド研究所は、昨年1月25日の時点ですでに「ウクライナでの長期戦を回避すべき」とする記事を公開、これ以上の戦争継続は米国の国益にならないと早くも警鐘を鳴らしました。
もちろん日本政府も、日本のマスメディアも、このような警鐘に一切耳を貸すことなどなく、徹底して無視し続けて、「頑張れウクライナ」のプロパガンダをたれ流し、日本国民を「洗脳」し続けてきました。
昨年2月、西側諸国は一斉にNATO級の戦車の供与を発表、ウクライナ軍の「春の大攻勢」への支援と期待を表明しました。
一方で、ゼレンスキー政権では、1月下旬から3名の閣僚がヘリコプター事故で死亡。大統領補佐官オレクシー・アレストビッチ氏の辞任を皮切りに、政府高官の解任・辞任ドミノが次々と連続し、2月にはユダヤ人であるゼレンスキーを大統領に押し上げた、フィクサーであるユダヤ人オリガルヒのコロモイスキー氏に対する家宅捜索も行われウクライナ権力内部の異変が次々を起きていました。
昨年2月8日、米国で最も著名な調査報道ジャーナリストであるシーモア・ハーシュ氏が、「ドイツとロシアを結ぶ天然ガスパイプライン・ノルドストリームを爆破したのは、米国とノルウェーだった」と暴露するスクープを発表しました。
おりしも、IWJが、ノルドストリームの建設と米国による妨害工作の歴史を紐解く検証記事シリーズを出している最中に出たスクープでした。IWJはこのハーシュ氏のスクープの全文粗訳・仮訳をいち早くお届けしました。
岩上安身は、12月から4月にかけて、JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)調査課長の原田大輔氏に5回連続のインタビューを行い、このノルドストリーム爆破事件の問題に取り組みました。
原田氏は、ノルドストリーム爆破の翌日にノルウェーからデンマークを経由してポーランドに行く「バルト海パイプライン」が開通している、と指摘しました。あまりに不自然すぎるタイミングでした。
ノルドストリームが爆破され、このバルト海パイプラインが開通した結果、ノルウェーは、2022年、欧州に対する最大の天然ガス供給国となり、EUのガス輸入需要の約3割を満たすまでになりました。
しかし、言いかえると、ロシアが供給していた格安の天然ガスを失って、欧州は、天然ガスの需要を満たしきれずにいるのです。欧州産業経済と欧州国民の家計は、一挙に窮に陥りました。
さらに、岩上安身は、現役の経産官僚で、経済産業研究所コンサルティングフェローである藤和彦氏にも「ノルドストリーム爆破事件」についてお話をうかがいました。
岩上安身は、2月24日の岸田総理会見で、「ノルドストリームの爆破を行なったのは、米国のバイデン政権とノルウェーというスクープ記事が事実なら、同盟国ドイツへの重大な背信行為! 米国は誠実な同盟国なのか!? 自衛隊の指揮権まで渡していいのか!?」との質問をぶつけました。この質問に対し、岸田総理は「多くの国々が関与を明確に否定している」と、独立した国際調査を要求するロシアを無視する一方的な欧米支持の姿勢を表明しました。
米国の言うことは無批判に信じてついてゆく、対米追従をはるかに超えた対米盲従の姿勢を示した瞬間でした。
同時期の2月4日に、イスラエルの前首相ナフタリ・ベネット氏が、2022年3月にロシアとウクライナの間で停戦合意がほぼまとまりかけていたが、「ブチャの虐殺」によって、和平交渉が頓挫した経緯を告白しています。ウクライナ紛争勃発から1年を経て、風向きが変わり、これまで隠されていた重要な情報が出始めたのです。このベネット氏の「告白」も、IWJはその内容全文を報じています。
ロシア軍がウクライナに侵攻してちょうど1年目となる昨年(2023年)2月24日、中国が12項目からなる本格的な停戦案を発表し、世界の注目を集めました。停戦と戦争停止、和平交渉の開始、人道的危機の解決、民間人と捕虜の保護、原子力発電所の安全性の維持、核兵器、化学兵器、生物兵器の使用停止、一方的な制裁の停止などを求めるものでした。
ウクライナ紛争勃発から1年が経過し、欧州では、各国の国民レベルで当初の「ロシア許すまじ」「頑張れウクライナ」の「空気」の退潮が明確になり始めました。
欧州各国では大規模な「反戦・反NATO」市民デモが起きました。ハーシュ氏によるスクープ、ベネット氏による告白、中国による停戦案の提示などとあわせて、ウクライナ紛争において掲げられてきた「ウクライナ=善、ロシア=悪」といったプロパガンダが、日本国内は別にして、もはや通用しなくなっていることは明らかでした。
昨年3月10日、中国の仲介による、スンニ派の盟主・サウジアラビアと、シーア派の盟主・イランの歴史的な国交正常化が北京で発表されました。中東における平和と安定を保証するのはもはや米国ではない、ということを強く印象付ける「事件」でした。3月27日には、ロシアの仲介で、サウジアラビアとシリアが関係正常化で合意しました。平和と対立の克服に向けての中露の外交努力が実を結んでいく中、さらに一段と、中東における米国の支配的影響力の低下が露呈しました。
米国の単独覇権、即ち支配的な影響力の低下は、軍事的・政治的な影響力の低下だけにとどまらず、米国の経済的な影響力の低下としても、目に見える形となって現れました。米国が、国際的な決済システムであるSWIFTを武器として対露制裁を行ったため、逆にかえって「脱ドル」化が進んだのです。
中国は3月28日、UAE(ドバイを抱えるアラブ首長国連邦)との間での液化天然ガス(LNG)の取引で、ドルに代わって、初めて人民弊決済を行ったと発表、ブラジルは同じく3月29日、中国とのすべての二国間貿易を、ドルではなく現地通貨で決済することに中国政府と合意したと発表しました。
さらにASEAN財務大臣と中央銀行総裁の会議は、同日の29日、米ドル、ユーロ、円、英ポンドへの依存を減らし、決済を現地通貨に移行することを議論したと報告しました。
「脱ドル」への流れは、対露制裁で見せた米国政府の姿勢に、グローバル・サウス諸国の大半が不信感を抱いた結果でした。
5月、ドル覇権に翳りがみえてきた米国内で、債務上限引き上げ問題から「デフォルト懸念」が浮上しました。米政府の「デフォルト懸念」はこのときは回避されましたが、9月、11月になって、ウクライナへの軍事支援を連邦議会が承認しないという形で、ウクライナ紛争の行方を揺さぶるほどの大きな問題になっていきます。
岩上安身は、エコノミストの田代秀敏氏に、G7広島サミットと米デフォルト危機についてお話をうかがいました。田代氏は、2023年は、日本とアメリカのGDP合計が、中国1国に抜かれる「記念すべき年」になると予告し、「G7サミットはもはや世界経済について議論する場所ではなくなった」と述べました。にもかかわらず、岸田総理は、「G7」が国際社会の中心であるという、ズレにズレた世界観を、記者会見で示していました。
田代秀敏氏は、2023年の9月と10月の岩上安身のインタビューで「米ドルの覇権崩壊は疑いようもない事実」だと述べています。
昨年の6月4日、ウクライナ軍が東部ドネツク州の5か所で大規模な攻勢に出たというロシア国防省の発表から、遅れに遅れていたウクライナの「反転攻勢」が始まったことが明らかになりました。6月6日には、「カホフカ・ダム爆破事件」が起きました。
6月23日、「プリゴジンの乱」が起き、民間軍事会社ワグネルの創設者であるエフゲニー・プリゴジン氏が、ワグネルの兵士らを率いてモスクワを目指したが、25日には撤退した。プリゴジン氏は、8月23日、自家用ジェットの墜落によって死亡したことがDNA鑑定で確認されました。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、12月22日付けで、プリゴジン氏のジェット機に、プーチン大統領の最側近・パトルシェフ安全保障会議書記の指示で、小型爆弾が仕掛けられていた、と報じています。ロシア大統領府のペスコフ報道官は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』のこの報道を「安っぽい小説」と、否定しています。
英国と米国は、劣化ウラン弾の供給とクラスター弾など、NATO諸国でさえ反発するような非人道的兵器のウクライナへの供給に踏み切りました。
『フォーリン・アフェアーズ』7月・8月号に、「勝ち目のない戦争――ワシントンはウクライナで終戦を迎える必要がある」が掲載され、このウクライナ紛争は「ミッション・インポッシブル(遂行不可能な任務)」だという指摘がなされました。
元外務省国際情報局長である孫崎享氏は、6月28日に行われた岩上安身によるインタビューの中で「ウクライナ紛争というのは、本当に、米国覇権の終わりの始まり、その通りだと思います」と述べました。
ジャーナリストの高野孟氏は、7月3日に「ちょっと認知のあやしい老大国アメリカを、世界中でどうやってうまく、暴れないようにするか、介護するかということが、実は今、世界の平和の中心課題」だと、岩上安身によるインタビューで述べています。
8月になると、ウクライナ軍側の損耗が著しく、西側諸国が供与した兵器や装備が次々に破壊され、負傷兵で病院があふれている、といった報道が、グローバル・サウスの国々では増えるようになりました。もはや、ウクライナ軍の劣勢は明白となっていました。
8月22日から24日にかけて南アフリカのヨハネスブルグで開催されたBRICS首脳会議では、新たに、アルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア、アラブ首長国連邦、サウジアラビアの6ヶ国が、BRICSに正式加盟することが決まりました(その後、政権交代したアルゼンチンは、12月30日に加盟しないことを表明)。そのほかにも、40ヶ国以上がBRICSへの参加を希望しているとも報じられました。「G7」を置き去りにするBRICS、グローバル・サウスの勢いは、他ならぬウクライナを「捨て駒」として使って「ロシア弱体化」を図った、卑劣な米国の謀略と「代理戦争」の敗北がもたらしたものだといえるでしょう。
放送大学名誉教授・高橋和夫氏は、7月13日の岩上安身によるインタビューで「もう、(米国の)覇権が弱まっていることは確かだし、『世の中は、アメリカの都合で回っているべきではないし、回ってはいない』ということを、みんなひしひしと感じてますよね」と述べた。
9月に入ると、西側メディアでもウクライナ軍の劣勢を隠さなくなっていきます。ただただ日本のマスメディアだけが、ずるずるとこれまで通りのプロパガンダを、惰性で続けていきました。「世界最低・最悪の記者クラブ制度」を自ら示し続けたといえます。
ゼレンスキー大統領は、ワシントンを訪れて米国連邦議会に支援を求めましたが、9月30日にデフォルト寸前で承認された「つなぎ予算案」にも、11月25日に承認された「つなぎ予算案」にも、バイデン政権が議会に要請した600億ドルのウクライナ支援は盛り込まれませんでした。
11月1日付け英『エコノミスト』に、ウクライナ軍のザルジニー総司令官が「現代の陣地型戦争とその勝ち方」と題する論文を寄稿し、「戦争の長期化はロシアの有利になる」と明確に論じました。ザルジニー総司令官は、戦争は膠着状態にあり、ロシアの動員可能な人的資源はウクライナのほぼ3倍であり、膠着状態が続けばウクライナ軍は敗北するだろうと、はっきりとウクライナ側の劣勢を認めました。IWJは、このザルジニー総司令官の論文の内容も、仮訳・粗訳して報じました。
岩上安身は、8月、9月、11月と安全保障・国際関係論の専門家である、桃山学院大学法学部の松村昌廣教授に連続してインタビューを行いました。
松村教授は、米国は「ロシア弱体化・孤立化」を看板にして、実は「米国の同盟国である欧州各国の弱体化」を進めている、潜在的に自分の競争相手となりうる欧州と日本などの「同盟国」の力を削ぐという目的を隠し持っている、米国の覇権は外部要因よりも「自壊」という形で崩壊するだろう、と重要な指摘を行いました。
その見立てが仮に正しいと考えると、ノルドストリームを爆破したのが米国であるというハーシュ氏の指摘は正しく、ロシアだけでなく、ドイツと欧州にも大損害を与えたのは、米国の故意の謀略である、ということになり、すべて辻褄があいます。
ウクライナ紛争2年目となった2023年も岩上安身とIWJは、岩上安身によるインタビュー、そしてIWJの取材活動、号外や日刊IWJガイドで、ウクライナ紛争の実相を追い続けてきました。2024年も追い続けます。追い続けなければならない理由があるからです。
ウクライナ紛争は、決して単なる地域紛争などではありません。落日の覇権国・米国が、必死の悪あがきをして欧州・日本などの従属国を動員し、搾取し、その結果、ロシアだけではなく、その背後にある世界人口の4分の3を占めるグローバル・サウスの国々に、成長の機会と「米国離れ」「脱ドル」の動きを加速させてしまったのです。
これは、政治・経済的な第3次世界大戦なのです。ロシアは決して孤立していません。その事実を直視しない岸田政権や日本のマスメディアの信頼は地に落ちました。
このウクライナ紛争と米国の覇権崩壊に関連するコンテンツを一堂に集め、2024年新春特設サイトとして、年末年始12月29日から1月7日(予定)まで開設します。ぜひ、この機会に御覧になってください。