【IWJ号外】ジョン・ミアシャイマー教授の9月3日付最新論文『負けるべくして負ける~2023年のウクライナの反攻』全文仮訳! 第1回「西側は消耗戦回避のためウクライナ軍に古典的な電撃作戦を実行することを望んだ」! 2023.9.5

記事公開日:2023.9.5 テキスト
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 IWJ代表の岩上安身です。

 9月に入り、6月初旬から始まったウクライナ軍の「反転攻勢」から3ヶ月が経過しました。ロシア・ウクライナの、短い夏を、ひとシーズン使いきって、この作戦の戦果はどうなったのでしょうか?

 ウクライナのマリャル国防次官が1日、地元テレビのインタビューで「南部ザポリージャ州の一部で、ロシア軍の第一防衛戦を突破した」と発言したことを受けて、日本を含む西側メディアは、ウクライナ軍が、ザポリージャ州に築かれたロシア軍の第一防衛線を突破したと盛んに報道し始めました。

 これを受けて、米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官が1日、最近3日間のウクライナ軍の戦いについて、「注目すべき進展があった」と述べたとあわせて報道しています。

ウクライナ軍、ザポリージャ州で「第一防衛線」を突破か(TBS NEWS DIG、2023年9月5日)

 IWJがこれまで報道してきたように、ザポリージャ州に敷かれている防衛線は、二重になっており、第一防衛線を突破すると第二防衛線にぶつかるようになっています。

 そして、防衛線自体が、塹壕・地雷原・障害物からなる3層構造をしており、これらを突破できたとしても、突破口自体は狭くなるので、ウクライナ軍の戦車や歩兵の大規模移動は難しいはずです。

 さらに、ロシアは、これまでにウクライナの空軍基地等を叩き、ウクライナの防空力を著しく弱めたため、ロシア空軍はウクライナの地上部隊を前線またはその真後ろから狙い撃ちできるようになっています。

  • 【第1弾!『TBS』が、ウクライナの「反転攻勢」について「南部ザポリージャ州の集落ロボティネを奪還し、南東方面に向けて前進している」、「今後、反転攻勢を進める上でより早い進軍が可能になる」とウクライナ側の主張だけを報じる!】…(『TBS NEWS DIG』、8月29日)(日刊IWJガイド、2023年8月31日)
    会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20230831#idx-5
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 こうした状況を考えると、「注目すべき進展があった」とジョン・カービー戦略広報調整官が言うのは、3ヶ月もかけて戦果を出せなかったウクライナ軍の「反転攻勢」作戦を、米軍やNATOも関与したその作戦の立案も含めて、正当化するための、明らかなプロパガンダであると受け止めるべきでしょう。

 6月24日の時点のサブスタックで「前途の闇: ウクライナ戦争の行方(The Darkness Ahead: Where The Ukraine War Is Headed)」を配信し、「ロシアが最終的に戦争に勝つだろう。ただし、ロシアはウクライナを決定的に打ち負かすことはないだろう」と予測したジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授が、9月3日に、このウクライナ軍の「反攻」を踏まえて最新論考を発表しました。

 IWJは、この論文の重要性に鑑み、全文を仮翻訳して、3回に分けてご紹介します。

 ぜひ、お読みください。

 なお、6月24日のミアシャイマー教授のサブスタックの仮翻訳は以下から読むことができます。

 9月3日付のジョン・ミアシャイマー教授のサブスタックのタイトルは、「負けるべくして負ける~2023年のウクライナ反攻」という決定的とも言えるものです。

 ミアシャイマー教授がどのように、その結論を導き出したのか。ぜひ、以下からお読みください。

 なお、原文の注は、仮訳を迅速にお届けする趣旨から、今回は割愛させていただきました。ご了承ください。


 「ウクライナが待ち望んでいた反攻作戦が大失敗に終わったことは明らかだ。ウクライナ軍は3ヶ月たっても、ロシア軍をほとんど押し返すことができていない。

 実際、いわゆる『グレーゾーン』と呼ばれる、ロシア軍防衛の第一列の前方に位置する、激しく争われている一帯の土地を越えることはまだできていない。

 『ニューヨーク・タイムズ』は、『反攻を開始してから2週間で、ウクライナが戦場に送った兵器の20%が損傷または破壊されたと、米欧当局者が発表した』と報じている。犠牲者の中には、ウクライナ側がロシア軍を撃退するために頼りにしていた、戦車や装甲兵員輸送車といった西側の強力な戦闘機も含まれていた。

 戦闘に関する、事実上すべての証言によれば、ウクライナ軍は甚大な死傷者を出している。NATOが反攻のために武装・訓練した自慢の9個旅団は、いずれも戦場でひどく消耗している。

 ウクライナの反攻は、最初から失敗する運命にあった。

 両軍の陣容と、ウクライナ軍がやろうとしていたことを見れば、通常の陸戦の歴史を理解することと相まって、攻撃するウクライナ軍が、ロシアの防衛軍を打ち破り、彼らの政治的目標を達成できる可能性が事実上なかったことは明らかだ。

 ウクライナとその西側支援者たちは、ウクライナ軍が消耗戦から逃れるために、古典的な電撃作戦を実行することを望んでいた。その計画とは、ロシアの防衛線に大穴を開け、ロシアが支配する領土の奥深くまで攻め込み、途中で領土を占領するだけでなく、ロシア軍に鉄槌を下すというものだった。

 歴史的な記録からも明らかなように、攻撃軍が正々堂々と戦っているとき、つまり、ほぼ対等な2つの軍隊が関与しているときには、これは首尾よく成功させるのが特に難しい作戦となる。

 ウクライナ軍は、対等な戦いに巻き込まれただけでなく、電撃作戦を実行する準備も整っておらず、電撃作戦を阻止する態勢を整えた敵と対峙していた。要するに、ウクライナの反攻には最初から不利な条件が揃っていたのだ。

 とはいえ、欧米の政策立案者、主要メディアの評論家や論説委員、退役将官、その他アメリカやヨーロッパの外交政策に携わる専門家の間では、ウクライナの戦場での見通しについて、楽観論が蔓延していた。ペトレイアス退役将軍(※IWJ注1)の反攻前夜のコメントは、一般的な時流をとらえている。そして彼は、ウクライナ軍がロシア軍に対して電撃戦を成功させたと効果的に表現した」。

(※IWJ注1)ペトレイアス退役将軍はデイヴィッド・ハウエル・ペトレイアス(David Howell Petraeus、1952年11月7日)のこと。アメリカ合衆国の陸軍軍人。階級は退役陸軍大将。退役後に中央情報局長官を務めた。2013年から南カリフォルニア大学教授。

 「実際、欧米の指導者や主要メディアは、6月4日に反攻作戦が開始される数ヶ月前から、キエフに反攻作戦を開始するよう、大きな圧力をかけていた。当時、ウクライナの指導者たちは足を引っ張り、計画されていた電撃作戦を開始することにほとんど熱意を示さなかったが、それはおそらく、少なくとも何人かは自分たちが虐殺に導かれていることを理解していたからだろう。

 ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、後に7月21日、『春に開始する計画はあったが、率直に言って、十分な軍需品と軍備がなく、適切な訓練を受けた旅団も不足していたため、開始しなかった』と述べた。

 さらに、反攻が始まった後、ウクライナ軍の最高司令官であるヴァレリー・ザルジニ将軍は、『ワシントン・ポスト』に、西側諸国がウクライナに十分な兵器を提供していないと感じており、『十分な兵器の供給がなければ、これらの計画はまったく実現不可能だ。しかし、実行に移されようとしている』と述べている。

 反攻作戦が泥沼化した直後でさえ、多くの楽観論者が、最終的には成功するだろうと希望を持ち続けた。

 電撃作戦の最も熱心な提唱者の一人であるベン・ホッジス退役米軍大将(※IWJ注2)は、6月15日、『ウクライナ軍はこの戦いに勝つことができるし、必ず勝つと思う』と述べた。

 主要メディアでしばしば引用される著名な専門家、ダラ・マシコ(※IWJ注3)は、7月19日、『今のところ、クレムリンの機能不全に陥った決定にもかかわらず、ロシアの前線は維持されている。しかし、間違った選択の累積的な圧力は高まっている。ロシアの前線は、かつてヘミングウェイが破産について書いたように、”徐々に、そして突然”ひび割れるかもしれない』と述べている。

 主要メディアが頻繁に引用するもう一人の専門家、マイケル・コフマン(※IWJ注4)は、8月2日、『反攻そのものは失敗していない』と主張し、『エコノミスト』誌は、8月16日、次のような記事を掲載した。『ウクライナの反攻は少しずつ前進している』」。

(※IWJ注2)ベン・ホッジス退役米軍大将は、(1958年4月16日生まれ)は、アメリカ陸軍ヨーロッパ司令官を務めた。2022年6月よりヒューマン・ライツ・ファーストのシニア・アドバイザーを務め、NATOのロジスティクス担当シニア・メンターも務める。以前は欧州政策分析センターの戦略研究パーシング・チェアを務めていた。

(※IWJ注3)ダラ・マシコ(Dara Massicot)氏は、ランド研究所上級政策研究員。ランド研究所入所以前は、国防総省でロシアの軍事力に関する上級アナリストを務めていた。ランド研究所では、ロシアとユーラシアの防衛・安全保障問題を中心に研究。専門はロシアの軍事戦略、戦闘作戦、エスカレーション・ダイナミクス。長期的な関心は、戦力態勢、戦力計画、大戦略など。

(※IWJ注4)マイケル・コフマン(ロシア語:Михаил Кофман)は、キエフ生まれで、ロシア軍を専門とする米国の軍事アナリスト。CAN(海軍分析センター)のロシア研究プログラム・ディレクター、新アメリカ安全保障センターのフェロー、2021年までウィルソン・センターのケナン研究所のフェローを務めた。

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