「アメリカは守ってくれない」という親米サウジの不信感が、中東の政治バランスを劇的に転換した! 〜岩上安身によるインタビュー第1127回 放送大学名誉教授・高橋和夫氏 2023.7.13

記事公開日:2023.7.16取材地: テキスト動画独自
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(文・IWJ編集部)

特集 中東|特集 ロシア、ウクライナ侵攻!!
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 7月13日(木)、午後4時半から、「中東で次々和解が実現する『不思議な風景』の鍵を握るのは、核保有『敷居国家』となり、通常戦力による抑止力も確立したイラン!」と題して、岩上安身による放送大学名誉教授・高橋和夫氏インタビューを生中継でお送りした。

 高橋教授は、4月に『ロシア・ウクライナ戦争の周辺』という著書を刊行した。

 ロシアがウクライナに侵攻してから、500日を超え、1年と5ヶ月が経とうとしている。ウクライナで、ロシアとウクライナが戦っている紛争の形をとりつつ、その背後では対露制裁やウクライナへの武器支援で、米国やNATO、EU、G7など西側諸国も動いている。

 他方、中国やインドは、欧米諸国からの働きかけにも動じず、軍事的には中立を守りながら、対露制裁には参加せず、むしろロシアとの貿易を増やしている。アジアで対露制裁に参加しているのは、日本と韓国、シンガポールが少し、といったところである。

 欧米列強の植民地支配に苦しんできたアフリカ勢は、ウクライナ紛争が米露「代理戦争」の様相をあらわにしていくにつれて、ウクライナで米国をはじめとする西側諸国と戦うロシアを、植民地主義からの解放者とさえ見立てるようになってきている。

 ウクライナ紛争を契機として、米国をはじめとする西側諸国の衰退と、グローバルサウスの台頭がはっきりと可視化されてきたように見える。

 高橋教授は、中東がご専門の国際政治学者である。ウクライナ紛争と対露制裁の間、中東でも大きな動きがあった。高橋教授に最近の中東の動向についてお話をうかがった。

 高橋教授は、これまでは紛争のイメージが強い中東で「和解」が次々と進む「不思議な風景」が見られるようになっている、と指摘する。

高橋教授「ひとつは、中東だけじゃなくて『グローバルサウス』という言い方をしますよね。みんな思っているのは、『ロシア人とウクライナ人が喧嘩してるんで、何で俺たちが巻き込まれないといけないんだ』という感覚ですよね。

 ウクライナが侵略を受けているという議論は、もちろん、あっていいんですけど。

 でも、侵略された国はたくさんあって。そのときは『誰も助けてくれなかったじゃないか』と。『何で、ウクライナにだけ、俺たちはそれほど肩入れしないといけないんだ』と」。

岩上「(なぜウクライナだけ)バックアップしているんだと。アメリカとヨーロッパがやる気になっていて、そうすると、国際社会はアメリカとヨーロッパ中心なんだから『従え』、こういう感じで来る。これまでは渋々、そういう国々に黙ってついていった。

 今、『侵略に反対』には、皆さん多くは賛成したんですけど、国連決議で。

 『対露制裁』となったら、途端に、非常に大きなアクターとなった中国であるとか、何よりもインドですね。インドは西側の仲間だと思い込んでいるところもあるわけです、クアッドとか。でも、インドが(対露制裁は)『ノー』と言って、どんどん石油をロシアから輸入して、ディーゼルに精製して欧州に売ったりとかしているわけですよね。

 そういうことが、『アメリカのバインドが弱まったな』という感じで、ラテンアメリカの国々も猛然と声を上げたり、アフリカの国々がまとまってウクライナに和平使節団を出したりとか、中東は中東で大変化が起こった。これは何でしょう。やっぱり一言で言うと、アメリカの覇権は弱まっているぞと、今なら動く時だと思い出し始めているということですか?」。

高橋教授「もう、(米国の)覇権が弱まっていることは確かだし、『世の中は、アメリカの都合で回っているべきではないし、回ってはいない』ということを、みんなひしひしと感じてますよね。

 欧米の新聞や日本の新聞を読んでいると、まだ(欧米を)中心に回っていることになっていますけれど。リアリティが反映されてないな、というのは、日本のメディアを見ていての印象です」。

 高橋教授は、米国から睨まれて圧力をかけられたこともある『アルジャジーラ』など、中東のメディアにも触れている。高橋教授は、日本人が英語のニュースに触れるのはとてもいいことだけれど、「アメリカイギリスのメディアだけ読んでたのでは(日本のメディアと)あんまり変わらないですから、どこのソースかという、ニュース源を考えつつ、色々あたられるといいかなと思います」と述べた。

 中東情勢の変化といえば、今年3月に北京で、サウジアラビアとイランが「歴史的和解」に到達したことが記憶に新しいところだ。高橋教授は、サウジアラビアとイランの和解については、イラクとオマーンが調整をしてきて、中国が最終的に仲介の花を持たせてもらったのだ、と説明した。

岩上「サウジとイランが和解して、しかも北京で。習近平の仲介によって。ちょっとこれは、『覇権交代か?』と、驚いたのですけども。あれはもう、伏流水としてもあったものが、本当に現れてきた、くらいの感覚で受け止めるべきということですか?」

高橋教授「実際はイラクとオマーンですね。イラクは、ずっとサウジとイランの仲介をやっていて、だんだんまとまりかかって、そろそろかなという時に、『じゃあ中国に花を持たせるか』というような形ですよね」。

岩上「これは、従来だったら(仲介するのは)アメリカだと思うんですけれども、もうそういう役割は、アメリカではなくなったということは、すごく象徴的な感じがしたのですけど」。

高橋教授「そうですね。アメリカはイランと外交関係は持っていないし、もう仲介する資格はまずないので。

 ですから、アメリカとイランの交渉も、実は、大体オマーンでやるんですね。オマーンの首都マスカットに『ブースタン・パレス』というとても素敵なホテルが、ちょっと郊外にあるんですね。

 だから、人目に触れずに会えるというので、イランの外交官とアメリカの外交官は、そこにたまたま泊まって、話をするというようなことなので。そこのボーイの方にチップを握らせると、色々教えてくださいますね」。

 高橋教授は、サウジアラビアとイランの歴史的和解だけではなく、2020年に、イスラエルとアラブ首長国連邦、そしてイスラエルとバーレーンが国交を樹立していると指摘した。高橋教授は、それまでイスラエルを無視してきたアラブ諸国とイスラエルの関係が、突然、変わり始めたのは、2019年に起きたある事件からだ、と説明した。

高橋教授「この時期(2020年)、突然ですよね。で、何なのだろうかということで。イスラエルが、(国交樹立の)代わりに何をオファーしてくれるのかということなんですけれども」。

岩上「何らかの取引があったのかと」。

高橋教授「重要なことは、この前の年(2019年)に、サウジアラビアの油田地帯が爆撃されるという事件があった。2019年」。

岩上「2019年、イランによるサウジアラビアの攻撃」。

高橋教授「この爆撃があって、イランはもちろん(攻撃を行ったことを)否定しているんですけど」。

岩上「否定してるんですね」。

高橋教授「でも非常に大規模だし、非常に正確に目標を潰しているんですね。イエメンのフーシ派というところが犯行声明を出してるんですけど、『いや、フーシ派にこんなことできない』とみんな思っていて」。

岩上「フーシ派は、いわゆるシーア派ですね?」。

高橋教授「シーア派。イランの支援を受けているんですね。で、みんな『イランがやったんだろう』と思っていて。トランプ政権もそう言ってる訳ですね」。

岩上「当時はトランプ政権で、ポンペオが国務長官だった時代ですね」。

高橋教授「そうですね」。

岩上「(ポンペオが)イランによる『戦争行為』だと非難したというのは、そういうことはなんですね。

 でも、トランプは(イランに報復)しなかったんですね」。

高橋教授「一番重要なことは、これが『攻撃された』ということじゃなくて、その後に『何にも起こらなかった』ということなんですね。

岩上「アメリカは、何もしなかった」。

高橋教授「世界は、少なくともサウジアラビアは、アメリカが報復するものだと思っていたら、トランプは『サウジが頑張るんだったら、応援しないこともないよ』と冷たかったんですね。

 ということは、『アメリカは守ってくれない』ということじゃないですか。

 サウジは毎年、毎年、日本円にすると何兆円ほどもの武器をアメリカから買っているわけですよね。その武器で、サウジが軍事大国になるなんて誰も思っていないわけです。

 何のためにそんなお金を使っているのかというと、まあ、保険をかけているんですね、アメリカにね。『いざとなったら来てくださいよ』という。暗黒社会の言葉で言えば、『みかじめ料』を払ってる」。

岩上「莫大なみかじめ料をね」。

高橋教授「なのに、いざとなったら、アメリカが向こう向いちゃったっていうんで、『何なんだ。これは』とサウジは思って」。

岩上「日米安保条約だとか、NATOの集団安全保障条約のような明文化された、がっちりとしたアメリカ・サウジアラビア安保条約みたいなものはないのですか? 一定の安全保障を与えますよ、という何らかの契約だとか、条約だとかあるんですか?」。

高橋教授「いや(明文化された契約や条約はない)。それは、暗黙の合意ですね。

 1945年から、サウジの石油をアメリカが掘る、あるいはそれを輸出する。その後、サウジはアメリカに石油供給をする、世界に約束する。アメリカをサウジは守るというのが契約」。

岩上「『ペトロダラー・システム』ですね。こうやってサウジの石油が出ていく。そして結局、お金がドルで返ってくる。でも、返ってきたドルは、サウジにとどまる富ではなくて、アメリカを潤す。『いろんなものを買いなさい』。

 米国債も買ってますね。兵器も買っていた。自分たちで、そんなものをオペレーションする気はないし、そこまでの軍隊を持ってないんだけど」。

高橋教授「アメリカの軍事顧問団、コントラクターが実際動かすと。ところが、そういうことだったのに、『何もしてくれなかったんだ』と。

 『じゃあ、新しい親分を探すしかないかな』というので、探すと、親分がイスラエルで。イスラエルと組めば、防空システムも入るかもしれない。

 ただ、サウジというのは、やはり、イスラムのメッカ・メディナを抱える盟主ですから、サウジが直接イスラエルと付き合うわけにいかない。だから、サウジとしては、親しいアラブ首長国連邦、あるいはサウジの実質上、県のひとつのようなバーレーン(がイスラエルと国交樹立するのを黙って見ていた)」。

 高橋教授は、バーレーンは、小さな島だったが、サウジアラビアとの間に橋をかけてから、事実上陸続きとなり、サウジの人々がお酒を飲みにいくところになった、「ペルシャ湾岸の中の、赤提灯みたいなところ」だと説明した。そのくらい、サウジとは一体化している、ということである。

高橋教授「ですから、もうバーレーンはこの地域では、一番最初に石油が出た国なんですけど、石油がもう枯れていて。サウジの補助金で何とかやってるという感じ。だから、サウジにとっては、モルモットというか、観測気球」。

 もはや米国をあてにはできないと知ったサウジアラビアは、イスラエルの防空システム「アイアンドーム」に強い興味を持っていたが、米国の後ろ盾なしにイランと対立を深めていくのはあまりにも危険である。サウジアラビアも、イランとの関係改善を模索していた。このような情勢が、2023年3月に、北京で華々しく、サウジアラビアとイランが「歴史的和解」に至った背景にあった。

 インタビュー後半で、オマーンやイラクの調停で進んでいたサウジアラビアとイランの「歴史的和解」の花を、中国が最後に取ることができた理由、イランが教育大国で、特に科学技術は非常に優れていること、そのためロシアに輸出したドローンなどは、最新鋭のものが作れること、トランプ政権が、2018年に一方的にイランの核開発を封じ込める「核合意」から離脱した結果、イランで核濃縮が進み、イランが核保有の直前にまで到達した「敷居国家」となったこと、イランは今年「極超音速ミサイル」の試射に成功し、核兵器を用いない通常戦力だけでも抑止力を実現しつつあることなどを、高橋教授にうかがった。

 詳しくはぜひ、インタビュー全編動画で御覧ください。

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  • 【高橋和夫さんサイン入り】ロシア・ウクライナ戦争の周辺

     この最新刊に書かれているような、ロシアとウクライナの紛争の深刻化が、どのように中東諸国に影響を与えるか、また、中東における重要なプレイヤーであるトルコが、欧州や米国なども手玉に取るタフネゴシエーターぶりを見せているが、これはいったいどこに落着するのかなど、お聞きしたいことがまだまだあったが、時間の都合上、またお話をうかがう機会を儲けることになりました。続編にご期待ください!

■ハイライト

  • 日時 2023年7月13日(木)16:30~17:30
  • 場所IWJ事務所(東京都港区)

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