米国最大のタブー、イスラエル・ロビーに切り込んだ気骨あるシカゴ大学の政治学者、ジョン・ミアシャイマーがウクライナ戦争の根本原因を考察! 2022.4.20

記事公開日:2022.4.20 テキスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

(文・IWJ編集部)

 プーチン大統領は、ウクライナ侵攻直前の2月22日(現地時間)のメディア・ブリーフィングにおいて、タス通信の記者の質問に答える中で、NATOとウクライナの関係について、次のような重要な指摘をしている。

 「このこと(ウクライナのNATO加盟問題)は何度も公の場で話しており、事実上、ワシントンやNATOとの間で最も鋭く論争しているテーマです。私たちは、ウクライナのNATO加盟に断固として反対します。なぜなら、これは私たちにとって脅威となり、これを支持する論拠があるからです。私はこのホール(大統領府の記者会見会場)で繰り返しこのことを話してきました。

 この点については、もちろん、西側諸国の首都を含む多くの人々が言っていることから話を進めています。つまり、西側諸国の同僚が面目を失わずに、いわばキエフ自身がNATO加盟を拒否することが最善の決断であろうということです。事実上、そうすることによって、中立の理念を実現することになるのです」

▲ウラジミール・プーチン大統領(Wikipediaより)

 ウクライナのNATO加盟問題は、ロシアのウクライナ侵攻の重要な動機となった問題である。

 プーチン大統領は、このメディア・ブリーフィングのときに、実は、このウクライナのNATO加盟問題以外にも、ウクライナには3つの問題が存在すると述べている。

 1. セヴァストポリやクリミアに住む人々は自らの自由意志で投票所に足を運び、ロシアとの統一を決断した。この決断は尊重されなければならない。

 2. 常々ドンバス問題は和平交渉とミンスク合意の履行によって解決されなければならないと言ってきたが、それはもう不可能になった。

 3. 西側諸国がキエフ政権に近代的な武器を供与し続けていること(これは、ウクライナ侵攻前の時点での発言です)。したがって、最も重要な点は、ある程度まで、ウクライナを武装解除すること。非武装化は、客観的にコントロールでき、監視でき、対応できる唯一のファクターである。

 こうした諸問題の底流には、ウクライナとNATOの関係が通奏低音のように響いている。

 シカゴ大学の政治学者、ジョン・ミアシャイマー氏が、3月19日に英国の雑誌『The Economist』に発表した論文「西側にウクライナ危機の主な責任がある理由をジョン・ミアシャイマーが考える」は、感情論が溢れかえるウクライナ戦争の報道や論説の中にあって、非常に冷静な現状分析を展開している。

 フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏を始め、冷静に現実を見つめようとする国内外の知識人から、ミアシャイマー氏の『The Economist』論文やYoutubeでの言説が注目を集めている。

 ジョン・ミアシャイマー氏は、1947年生まれで、将校として空軍に5年間勤務した経験を持つ。1982年よりシカゴ大学で教鞭を取っている。

▲ジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授(Wikipediaより)

 自身のホームページでは、マキャヴェッリの肖像画の顔の部分を、自身の顔と交換した画像を掲げており、その思想がリアリズムに立脚したものであることを強く示している。

 ホームページの自己紹介でミアシャイマー氏は、次のように述べている。

 「私は何よりも国際関係論者です。具体的に言えば、リアリストです。つまり、大国が国際システムを支配し、常に安全保障上の競争を繰り広げ、時にそれが戦争に発展すると考えています。

 私はこれまで学問に人生を捧げてきましたが、同時にその時々の政策論争にも参加するように心がけてきました。例えば、私は2003年のイラク戦争のとき、最も率直に反対を表明した一人でした。私は、社会科学の理論が外交政策の立案や分析に非常に役立つと確信しています」

 ミアシャイマー氏は、米国最大のタブーの一つ、イスラエル・ロビーに切り込んだ『イスラエル・ロビーと米国外交政策』(2007年)をハーヴァード大学の政治学者、スティーヴン・M・ウォルトと共著で出した気骨ある政治学者でもある。

記事目次

  • ウクライナ戦争は1962年のキューバのミサイル危機以来最も危険な国際紛争!
  • 2014年2月に始まった危機の主な責任は、欧米、特に米国にある!
  • ウクライナ戦争の発端はウクライナとグルジアを「NATOに加盟させる」と発表した2008年のブカレスト・サミット!
  • ユーロ・マイダン・クーデターを「米国の支援を受けた反乱」と正しく認識!
  • 現在の戦争につながったのは2021年12月のトランプ政権のウクライナへの兵器売却!
  • バイデン政権はウクライナとの結びつきを強化! そればかりか、ウクライナ紛争の発端である「ブカレスト・サミット宣言」に両国が従うことを確認!
  • モスクワは「沸点に達した」!
  • NATOによるNATOの自己認識が重要なのではなくロシアによるNATO認識が重要!
  • 西欧世界のロシア拡張主義というマントラは根拠がない! 「ソ連を懐かしまない者は心がない、ソ連を取り戻したい者は頭がない」!
  • 米国による2014年のユーロ・マイダン・クーデターを境にして、西側諸国の対ロ認識が質的に変化!
  • NATOの東方拡大が紛争の原因!
  • 現状は極めて危険な状況にあり、欧米の政策がそのリスクを悪化させている!
  • ロシアがウクライナの戦場と経済制裁で瀬戸際に追い詰められれば、核兵器の使用もありえる!
  • 戦争の原因の探求が戦争を終わらせる!

ウクライナ戦争は1962年のキューバのミサイル危機以来最も危険な国際紛争!

 ミアシャイマー氏の『The Economist』の論文「西側にウクライナ危機の主な責任がある理由をジョン・ミアシャイマーが考える」は、「政治学者は、NATOの無謀な拡張がロシアを挑発したと考えている」という副題がついている。

 ミアシャイマー氏は、冒頭で、ウクライナ戦争を次のように定義し、この議論を行う理由に言及している。

 「ウクライナ戦争は1962年のキューバのミサイル危機以来最も危険な国際紛争である。事態の悪化を避け、収束に向けた道のりを見出そうとするなら、その根本原因を理解することが必要不可欠である」

 ロシアの侵攻の理由を議論するだけで、親プーチン派のレッテルを貼られて、排除されかねない米国や英国において、侵攻の根本原因を探求するという宣言から始まっている。

 プーチン大統領の責任について、ミアシャイマー氏は、「ウラジミール・プーチンがこの戦争を始め、戦争遂行のプロセスに責任があるのは疑問の余地がない」と批判している。

 戦争を実際に始めたのはプーチン大統領であり、その遂行プロセスに責任があるという正論である。

 ここからが、並みの論者と異なるところである。

 「しかし、なぜ彼が戦争を始めたのかは別問題である。欧米では、プーチンは旧ソ連のような大ロシアを作り上げようとする非合理的で傍若無人な侵略者だという見方が主流である。このため、ウクライナ危機の全責任はプーチン一人が負うことになる」

 これは、ミアシャイマー教授の、プーチン大統領一人を悪党に仕立ててこの問題は解決するのかという重要な問題提起である。

(…会員ページにつづく)

アーカイブの全編は、下記会員ページより御覧になれます。

一般・サポート 新規会員登録

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です