プーチン大統領は、ウクライナ侵攻直前の2月22日(現地時間)のメディア・ブリーフィングにおいて、タス通信の記者の質問に答える中で、NATOとウクライナの関係について、次のような重要な指摘をしている。
「このこと(ウクライナのNATO加盟問題)は何度も公の場で話しており、事実上、ワシントンやNATOとの間で最も鋭く論争しているテーマです。私たちは、ウクライナのNATO加盟に断固として反対します。なぜなら、これは私たちにとって脅威となり、これを支持する論拠があるからです。私はこのホール(大統領府の記者会見会場)で繰り返しこのことを話してきました。
この点については、もちろん、西側諸国の首都を含む多くの人々が言っていることから話を進めています。つまり、西側諸国の同僚が面目を失わずに、いわばキエフ自身がNATO加盟を拒否することが最善の決断であろうということです。事実上、そうすることによって、中立の理念を実現することになるのです」
- Vladimir Putin answered media questions(ロシア大統領府、2022年2月22日)
ウクライナのNATO加盟問題は、ロシアのウクライナ侵攻の重要な動機となった問題である。
プーチン大統領は、このメディア・ブリーフィングのときに、実は、このウクライナのNATO加盟問題以外にも、ウクライナには3つの問題が存在すると述べている。
1. セヴァストポリやクリミアに住む人々は自らの自由意志で投票所に足を運び、ロシアとの統一を決断した。この決断は尊重されなければならない。
2. 常々ドンバス問題は和平交渉とミンスク合意の履行によって解決されなければならないと言ってきたが、それはもう不可能になった。
3. 西側諸国がキエフ政権に近代的な武器を供与し続けていること(これは、ウクライナ侵攻前の時点での発言です)。したがって、最も重要な点は、ある程度まで、ウクライナを武装解除すること。非武装化は、客観的にコントロールでき、監視でき、対応できる唯一のファクターである。
こうした諸問題の底流には、ウクライナとNATOの関係が通奏低音のように響いている。
シカゴ大学の政治学者、ジョン・ミアシャイマー氏が、3月19日に英国の雑誌『The Economist』に発表した論文「西側にウクライナ危機の主な責任がある理由をジョン・ミアシャイマーが考える」は、感情論が溢れかえるウクライナ戦争の報道や論説の中にあって、非常に冷静な現状分析を展開している。
- John Mearsheimer on why the West is principally responsible for the Ukrainian crisis(The Economist、2022年3月19日)
- ジョン・ミアシャイマー「ウクライナ危機について」(危機の責任はNATOにある)(Youtube、2022年3月2日)
フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏を始め、冷静に現実を見つめようとする国内外の知識人から、ミアシャイマー氏の『The Economist』論文やYoutubeでの言説が注目を集めている。
ジョン・ミアシャイマー氏は、1947年生まれで、将校として空軍に5年間勤務した経験を持つ。1982年よりシカゴ大学で教鞭を取っている。
自身のホームページでは、マキャヴェッリの肖像画の顔の部分を、自身の顔と交換した画像を掲げており、その思想がリアリズムに立脚したものであることを強く示している。
ホームページの自己紹介でミアシャイマー氏は、次のように述べている。
「私は何よりも国際関係論者です。具体的に言えば、リアリストです。つまり、大国が国際システムを支配し、常に安全保障上の競争を繰り広げ、時にそれが戦争に発展すると考えています。
私はこれまで学問に人生を捧げてきましたが、同時にその時々の政策論争にも参加するように心がけてきました。例えば、私は2003年のイラク戦争のとき、最も率直に反対を表明した一人でした。私は、社会科学の理論が外交政策の立案や分析に非常に役立つと確信しています」
- ジョン・ミアシャイマー氏のホームページ(2022年4月15日閲覧)
ミアシャイマー氏は、米国最大のタブーの一つ、イスラエル・ロビーに切り込んだ『イスラエル・ロビーと米国外交政策』(2007年)をハーヴァード大学の政治学者、スティーヴン・M・ウォルトと共著で出した気骨ある政治学者でもある。