4日17日、岩上安身は、JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)調査課長の原田大輔氏に、第5回のインタビューを行った。
インタビューでは、2022年9月に爆破されたロシアと欧州を結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1」「ノルドストリーム2」について、「米国に妨害され続けてきたノルドストリームの建設の歴史」と「なぜノルドストリームは妨害されなければいけなかったのか」という、爆破した側の必然性の2つを軸に、お話をうかがった。
「ノルドストリーム」の爆破について、今年2月8日に米国の著名なジャーナリスト、シーモア・ハーシュ氏が、「破壊工作は米国が計画し、ノルウェーが協力して実行された」というスクープを報じた。このハーシュ氏の記事について、原田氏は「自国の中から国を糾弾する人が出てくるアメリカは、すごいなと思う」と述べ、次のように語った。
「ハーシュはそういう形で真実を暴くということが生業と言いますか、そういうベクトルが働く方なので、この話の中には信憑性の高いファクトが含まれている。
ただ、バックボーンがハーシュさんとその情報を与えた人との契約というか取り決めもあるので、私たちが確認をすることができないものがある。ただ、『火のないところに…』ということも言えると思うんです。
ですから、何らかの形のファクトというのを握ってらしていて、それがベースになっていて、アメリカ(CIA)とノルウェー軍が(爆破を)行ったんだというところは、一つの説としては有力になっているということが言えると思います」
一方、このハーシュ氏の記事が出たあと、3月8日には『ニューヨーク・タイムズ』が、「破壊工作は、親ウクライナ派グループ(ウクライナ人か反プーチン大統領派のロシア人、またはその両方)によるもの」と報じた。これについて、原田氏は、次のように指摘した。
「『ニューヨーク・タイムズ』の記事を読んだ時、そういう可能性はあるのかないのかといわれると、かなり低いなと。
(爆破地点は)深さが75mから80mくらいのところにパイプラインが位置していて、かつデンマークとスウェーデンの排他的経済水域を狙って爆弾を仕掛けるということになると、素人ではできない。
ロシア側はプーチン大統領もそう言っているし、ノルウェーもそういう見解を示している。EUも『国が関与しなくてはできない』と言っているんですね。
『親ウクライナ派』という、まったく何かわからない者。もしかしてそれは、ウクライナ人ではなくて、ポーランド人なのかもしれない、アメリカ人なのかもしれない、日本人なのかもしれないという、不特定多数を指して、紛らわすような印象を受けますね。
アメリカ側からすれば、(もし)ロシアがやったんだったら、そういう記事を出すより、早く『ロシアがやった』という記事を出せばいいのではないかと思いますが、なかなか出てこない。(中略)
アメリカ側から、ロシアの犯行説とするものが出てこないのが、不可解に映るということを、付け加えたい」
また、3月24日には英『タイムズ』が「ノルドストリームを爆破したのは誰か? 4つの重要な説」という記事を掲載した。『タイムズ』は、ハーシュ氏のスクープを最初に紹介しているが、「(OSINT分析者の)アレクサンダーと他の研究者が多くの不正確さを明らかにしたため、物語の多くが崩壊」と真っ向から否定している。
- Who really blew up Nord Stream pipelines? The 4 key theories(The Times、2023年3月24日)
岩上安身がパワーポイントのスライドで、この『タイムズ』の報じた4つの説を紹介すると、原田氏は「この4つを比べると、一番信憑性が出てくるのが、ハーシュ説になってしまうとわかってしまう」と述べた上で、次のように語った。
「ただ、ハーシュ説も、アメリカが関与していれば、すごくわかりやすいんです。ですからそれが明らかになるようなものが出てこなければ、なかなか信じられないところもあるわけなんですね。ただ、『(ハーシュ説が)崩壊している』とまでは言いにくいというところでもありますし、まだこの4つ以外にも、被疑者が(ポーランドなど)ほかにもいるわけです。(中略)
重要なのは、ロシアが(被疑者として)あがっていないことですね。西側のメディアが分析をしても、なぜロシアを犯人にしないのか。こんな都合のいい説はないわけなんですけど、ロシアこそが犯人にあがっておかしくないのに、3つ目の説で、ロシアのタンカーが近くにいたというだけなのが、やはり今回のノルドストリーム1、2を破壊した(犯人の)中に、ロシアが入らない可能性を暗に示していることになるんじゃないかなと思います」
このあと岩上安身は、ハーシュ氏の記事の「間違い」を指摘したとされる、オリバー・アレクサンダー氏の分析を詳細に検証して、このアレクサンダー説に対して反論を展開した。
また、原田氏は、(ハーシュ氏が爆破に関わったと指摘している)ノルウェーがロシアの報復を恐れて、沿岸沖の海底ガスパイプライン「バルティック・パイプ」付近の海軍パトロールを強化したという報道について、次のようにコメントした。
「今回、このノルドストリームが爆破されたことによって、プーチン大統領がそのあと言っている通り、こんなものが破壊されるんだっていう驚きもあったと思うんですね。だから、ノルウェーがこういう形でパトロールを強化するというのはわかるんですけど、一方でこれがロシアにとっては、『ロシアじゃない説』を、また強化していく。
ロシアが報復する可能性があるというのは推論ですけど、誰がパイプラインを破壊するだろうかと。考えてみていただくと、パイプラインというインフラは、敵対関係になければ、お互いの経済を潤すものなわけです。エネルギーを享受して、それで貿易で儲ける国がいると。これは、実はウィン・ウィンの関係にあるはずなんですね。
それを破壊するというのは、第三者、そこに関与していない、生産国でもない、買い手でもない人(国)なんです。その人たちが破壊するからということを、いわば、パンドラの箱を開けたような状態になっているんですね、今。ノルドストリームが破壊されたことによって。
こういうことは、通常ではたとえば中東で、イランとサウジの間で、例えばイランがイエメンを支援する形でサウジの精油所が2018年に爆撃されたわけですが、こういうことが起きたりはするんですけど、ヨーロッパで起きることに、誰がメリットを得るんだろうかと」
インタビューはこのあと、ウクライナ紛争前に米国がノルドストリーム2に対して行ってきた3度の制裁による建設・稼働の妨害を振り返り、さらに米国が2022年上半期、世界最大のLNG輸出国になっていたという「米国側の動機」などについて、お話をうかがった。
岩上安身による原田氏への、これまでの4回のインタビューは、以下のURLより、ぜひ御覧ください。