2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻し、すでに半年以上が経過した。ロシアを非難する米国は、ウクライナへ大量の武器支援を続けており、そのためもあって停戦は実現せず紛争は長期化。いまだに収束の目処も立っていない。
一方、米国主導で実施したロシアへの経済制裁は、穀物価格や原油価格の世界的な上昇を招き、回り回って制裁している側の米国や同盟国の一般の市民の暮らしを直撃している。
長引く紛争が世界経済に与える影響が懸念される中、岩上安身はエコノミストの田代秀敏氏に、2022年5月5日、5月12日、5月20日、5月30日と4回にわたるインタビューを行った。
4回目のインタビューとなった5月30日、田代氏は古代ギリシャ世界で起きたアテネ帝国の衰亡の歴史が、現在の米国の姿と重なりあうことを「米ドルの黄昏とアテナイ覇権喪失の教訓」というテーマで解説した。
今回も引き続き、民主主義の祖と謳われたアテネの崩壊プロセスが、現代への示唆に富むことを、米国の金融状況などを踏まえながら語っていただいた。
歴史から学ぶ意義について田代氏は、「こういう判断をすると間違えるのだ、ということを見ておくのが正しい。ヘーゲルが言うように、為政者は歴史からは何も学ばない」と話す。
古代ギリシャ世界で、ペルシャの専制主義からギリシャの民主主義を守ったアテネは、強大な軍事力とともに、アテネの通貨を同盟国の共通通貨とすることで、経済的にも圧倒的な覇権を持っていた。
しかしそのアテネの繁栄の持続のためには、「他国の民主制を抹殺することも辞さなかった」という、帝国主義を必要とした。
やがてアテネの自由と繁栄を守るための帝国主義に、不満を持つ同盟国が反乱を起こし、アテネとスパルタという、古代ギリシャ世界を二分する大戦争に発展する。
「民主主義の暴走」により、無謀な戦争を繰り返したアテネは、最後はペルシャと手を結んだスパルタに敗退する。
軍事力と金融の力で覇権国家となった米国もまた、「凶暴なデモクラシー」により、1776年の建国以来戦争を繰り返してきた。フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、アラン・ビーティーは「冷戦時代、米国は民主主義を標榜しながら、収奪や大量殺人に手を染めるならず者政権を世界各地で擁立したり、支援したりしてきた」と指摘する。
米国のデモクラシーは、すでにアテネのデモクラシーの韻を踏みだしていると田代氏は言う。
「アメリカ帝国が崩壊したら世界秩序が根底から覆り、大変な混乱を招く。どうやって安楽死させるか。延命ではなく、安楽死させて、アメリカを普通の国にするということを、全世界の国際政治学者は必死になって考えるべきだ」と訴えた。