2022年5月12日、岩上安身はエコノミスト田代秀敏氏に、5月5日の続編となる2回目のインタビューを行った。
冒頭、10日に報じられた「国の長期債務残高が20年で倍増! ついに1000兆円を突破!」というニュースについて話をうかがった。
- 国の長期債務、初の1000兆円超え 21年度末(日本経済新聞、2022年5月10日)
田代氏は、利上げした場合の財務省の試算と、防衛予算の拡大について、以下のように述べた。
田代氏「1000兆円というのはあくまで国の長期債務で、地方自治体の債務もあり、それを入れると1300兆円は行きます。
1300兆円として、いったいそれを返せるんだろうかと。あまり返せる見込みはないんですね。もし毎年10兆円ずつ返済していったとしても130年かかるわけですよ。通常はこんな話は通らなくて、デフォルト扱いされますよね。
そこはさて置き、利払いは大丈夫なのかという問題があります。
現状、日本の長期金利10年物国債の新規発行利回りは、0.245%です。非常に小さいんですが、元本が1000兆円ですから、馬鹿にならないわけです。
この金利が上昇したらどうなんだろうと。財務省は1%金利が上昇したらと検討しているんですが、その試算には、経済成長率が3%で持続するという強力な仮定があって。
もし一律に各種各国債の金利が1%上昇すれば、利払いが単純に13兆円増えるんです。それは日本のGDPの2.75%から出ています。
今、防衛費をGDPの2%にしようと言っているじゃないですか。この金額を上回る利払い費の増加が生じるわけですよ」。
借金大国日本の、どこにそんな余裕があるのか。
田代氏「よくある話で、日本国債は外国人が持っているのは7.5%ぐらいだから大丈夫と言うけど、実は、国債の中で、満期が1年未満の短期国債は、7割ぐらいは外国の機関投資家が持っています。
政府は、お金が足りないときは、まず短期国債を出すんですが、それに今一番応じてくれているのは、外国の金融機関なんですね。
次に国債の取引。日銀は買ったきりでずっと保有しているだけですから『プレイヤー』ではないんです。実際に東京証券取引所で、日本の国債を売買しているのは、6割が外国の金融機関です。
現物の価格の前に、先物の価格が決まります。大阪の取引はいくらだとか、シカゴはいくらと、日経平均の実際の値はそれにめちゃくちゃ影響されています。
国債の先物取引は、96%外国の機関投資家です。債権の取引は非常に難しく、とても日本の金融機関のように、学部卒で、日本の法学部、経済学部を出た学生を使っていたら無理ですね。
数学や物理学で博士号を取った人を、年棒で億円単位で雇わなければ、とてもできる取引ではない。そうなると日本国債の金利は、実質、外国の金融機関が決めているといってもいいわけです」。
岩上「短期があって、その中の特に先物が決定的な鍵を握っているわけですね」
田代氏「しかし、私はずっと不思議だったんですが、なぜ彼らはそんなに熱心に日本国債にこだわるんだろうかと。外国の金融機関に勤めている人に聞いてみると、『どこかでビッグディールがくる』と。日本国債暴落の瞬間に、賭けてるのではないかと思うんですね」
岩上「いつもおっしゃっている、ボラティリティがすごい、大きく上がったり下がったりする、そういう場面があれば、一番儲けになると。いわばダムに水が溜まっているような状態だということですね」
田代氏「しかもめちゃくちゃに大きい規模の金額ですから。これでもしひと山当てれば、もう大変なことが起こるんですね」
岩上「そのひと山当てるっていうのは、マイナスの方に賭けるってことですよね?」
田代氏「まあ、日本国債が急落して、金利が急騰するというのを予知した段階で、先物で、今の金利で、3ヶ月後に取引しましょうとやっておけば、日本国債が急落したときに、先物契約にしたがってやれば大儲けですよね。
持っていなくても、バカ安になった日本国債を買ってきて、今日の価格で売ればその差額儲かるわけです。元手ゼロで」
田代氏は、日本国債に外国の金融機関が注目しているのは、日本国債が急落して金利が急騰すると予知した段階で、先物で取引すれば大儲けだからだと、説明した。
田代氏は米国の現在のインフレも、レーガン政権時代のインフレやオイルショックの時の比ではない、バイデン大統領はなりふり構わず対応しなければならないのに、FRBの対応も「遅きに失した」と指摘した。
FRBのパウエル議長はずっと「今の物価上昇は一過的」であるから、放っておけば収まると主張し続け、もう収まらないとなったら急に血相を変えて金利を上げたが、「ちょっと遅すぎます。遅ければ遅いほど金利の上昇幅が大きくなります」と田代氏は批判した。
岩上「アメリカは大変な金額のウクライナへの武器支援をやっていますが、あんなことをやっている余裕があるのかな、と」
田代氏「バイデン政権がやっているのは、インフレーションという大火事が起こっているところに、ですね。世界有数の原油と天然ガスと石炭の生産国であるロシアを制裁してしまうと、当然資源価格が爆騰します。
その上に、ウクライナに兆円単位の金を次々ぶち込んでいるでしょう。要するに財政出動です。
これ、何をやっているかというと、インフレーションの炎に油をぶちまけているわけです。ガソリンをどんどん、放水ならぬ『放ガス』しているという状態です。経済学的にはもう、ただの狂気」
岩上「片目で地政学、あるいは軍事安全保障を考えるのはいいと思いますが、左目で財政とか経済を考えてもらわないと。破綻しているじゃないですか」
4月28日に日銀は金融緩和継続を発表し、円安容認を示した。その途端、円相場はついに1ドル=130円台に突入した。
岩上「ガソリン価格の高騰、幅広くさまざまなものの値上げが続いています。このままいけば、家計には1年6万円程度の負担増になると、政府は平気で言うわけです。
ロシア産の資源がありますけれども、肥料なども、(対露制裁で)禁輸にされてしまうわけです。そうすると、世界中の農業に直接間接に影響が出てくるわけです。
経済制裁をなぜするのかっていう反発が世界中に広がっているんですが、日本のマスコミに洗脳されちゃうと、マイナス面が見えてこないんですね。
マイナス面を報じないで、ロシアが悪い、ウクライナかわいそうで、善玉悪玉を決め込んで、徹底的に世界は制裁しなければならないと」
実際に対露制裁に参加しているのは、世界で35ヵ国だけである。インドは、ロシアの原油を買い、それを、ロシア産石油の禁輸を掲げている欧州に転売しているという話もある。
コロナ禍でただでさえも苦しいのに、7割の企業が値上げもできずに苦しんでいる。円安は輸出大企業のために人為的に誘導されてきたとされているが、実際は、多くの企業が円安は、経営上マイナスだと回答している。
田代氏「厳密に言えば、円安は意図したものではなく、副産物です。あくまで日本の財政破綻を防ぐために、赤字国債を日本銀行が吸収しているわけです。その結果、金利がうんと低くなり、円安が進む。
円安が進むと、実は大企業も苦しいんですが、例えばソニーグループは、営業収益が1兆円を超えて、史上最高益です。それは簡単なことで、世界中で事業をやっていますから、それを日本円に換算すると、バッと大きな金額が出るんですよ。何の努力もしなくても、魔法のように利益が膨らむわけです。
日本の社長の任期は4年と短いですから、新しいことはできない。任期中に利益を膨らますのに一番いいのは、円安なんですね。ドルベースでは減っているんですが、目の前の数字は上がるわけです」
岩上「トヨタが最高益を出したわけですが」
田代氏「世界中で商売してるので、円安の時に円ベースで表示すれば数字は膨らむわけですよね。本当はトヨタもソニーも工場が止まってる状況です」。
インタビューでは、この不況の中で、東京や大阪、福岡などで不動産バブルが起きている不思議について、田代氏が詳しく解説した。