「長期化するウクライナ紛争~米国の代理戦争の代償」「米ドルの黄昏とアテナイ覇権喪失の教訓」(第4回)~岩上安身によるインタビュー第1078回 ゲスト エコノミスト田代秀敏氏 2022.5.30

記事公開日:2022.6.2取材地: テキスト動画独自
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(文・IWJ編集部)

 5月30日、夜6時半過ぎから、「長期化するウクライナ紛争~米国の代理戦争の代償」「米ドルの黄昏とアテナイ覇権喪失の教訓」岩上安身によるエコノミスト田代秀敏氏インタビュー 第4弾をお送りした。

 インタビュー冒頭、第1弾から第3弾までの振り返りをしたあと、ウクライナ紛争の最新状況を見た。これまで散々「ロシア軍は劣勢」と伝えられてきたが、5月20日のマリウポリ陥落後、ロシア軍は東部ドンバス地方で、要衝の地・セベロドネツクに迫り、ルガンスク・ドネツクの両州を制圧しつつある。

 続いて、ダボス会議の話題に移った。特に、ジョージ・ソロス氏が、欧州の連邦制について言及した部分をたどった。ソロス氏は、EUに替わる新しい新秩序として、中核国と広域連合国からなる二重構造にするという、イタリアの元首相であるエンリコ・レッタ氏の新欧州連合の提案に言及した。

 中核国がどこか、レッタ氏も、ソロス氏は明らかにしていないが、文脈からみておそらく、独・仏・伊・スペインなどではないかと推測される。中核国は拒否権を持たないという。

 広域連合国にはウクライナ、グルジア、モルドバ、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、モンテネグロ、北マケドニア、セルビアなどが加わると思われる。

岩上「どうですか、ソロス氏の連邦制。バクチ打ちが何を言うのかな、という気がするんですが」

田代氏「広域連合国は、ほとんど破綻国家ばかりですね。もしかしたら、こうした破綻国家の紙屑のような国債を買い占めておき、新欧州連合を立ち上げるという情報を流すことで、それらの国の国債が高騰するのを期待しているのかもしれません。

 ソロス氏ほど、過大評価されている人はいないですね。ヘッジファンドの創設者としては確かに飛び抜けて優れていますけれど。ソロス氏の出身地であるハンガリーは、素晴らしい数学者を排出している国なんですね。

 ソロス氏は青年時代、ポパー氏に師事して、哲学と量子力学を志しましたが認められず、ウォール・ストリートに行って大成功するんですね。でも彼の会社は『クァンタム(量子)・ファンド』でしょう? 青春の日の思いがあるわけですよ。

 そのせいか、哲学的なことを話したがるんですね。欧州では『神』に代わるものとして、哲学が人間に価値を示すようになったわけでしょう」。

 田代氏は、ソロス氏が英国のポンドとタイのバーツを破綻させた事例を引き合いにして、今回も欧州各国の国債や通貨の変動を、ビジネスチャンスとして期待を寄せているのかもしれないと指摘した。

 続いて、ハーヴァード大学のグレアム・アリソン教授の『米中戦争前夜』、そして2021年に発表したレポート「偉大なるライバル 21世紀の中国vs.アメリカ」を岩上が紹介、米国が技術分野、軍事分野などで、中国に追いつかれ、追い抜かれつつある状況を説明した。

 休憩を挟んで後半は、「米ドルの黄昏とアテナイ覇権喪失の教訓」と題して、田代氏が、古代ギリシャ世界で起きた、アテネ帝国の衰亡の歴史を解説した。

 古代ギリシャ世界では、世界史上初めての「硬貨」の出現と広域的な通貨圏、交易圏が形成されていた。そこにペルシャが侵攻した。ペルシャを撃退した後、ペルシャの再侵攻の脅威に備え、エーゲ海を囲む1000近くのポリスが集まって、紀元前478年に、アテネを中心としたデロス同盟を結成する。

 アテネは、デロス島にあった同盟の資金の金庫をアテネに移動させ、パルテノン神殿を築いた。それだけではなく、アテネのアッティカ通貨が国際通貨(つまり、基軸通貨)として流通するように同盟国に強制し、強大な海軍力をもって、デロス同盟に君臨する帝国を築いた。

 「民主主義」の祖となったアテネだが、その同盟国を属国化し、反抗するポリスに対してはきわめて過酷な仕打ちをした。虐殺、賠償金の支払い、反乱首謀者の処刑、そして領土のアテネ下級市民への割譲など。戦争で儲かることがわかると、市民はますます戦争を求めるようになった。

 田代氏は、ヴィクター・デイヴィス・ハンセン(2003)『図説 古代ギリシアの戦い』を引き、アテネの民主制がいかに戦争を招き寄せたかを説明した。

 「事実、ギリシア都市国家の戦争の全歴史を通じて、敵であれ、味方であれ、アテナイが絡んだ戦争ほど多数の戦死者を出した例はない。古代では、民主制は軍事侵略と戦争に対する抑止力としてではなく、刺激剤として機能したのだった」。

 もちろん、こうしたアテネの振る舞いは、同盟国の恨みと不満を高めた。アテネは強い恨みをもつ同盟国に対し、決して負けられないため、ますます強硬になった。しかし、紀元前431年に起こったペロポネソス戦争で、ペルシャの支援を受けたスパルタに敗北する。多数の国家を巻き込んだペロポネソス戦争は、まさに世界大戦であった。

 基軸通貨を持ち、圧倒的な軍事力で同盟国を従え、民主制をしき、多くの戦争に明け暮れたアテネの姿は、現在の米国の姿に重なる。田代氏は、マーク・トゥエインの言葉を引き、「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」と述べた。

 米国も慢性的な財政赤字国なのに、米国債を大量に発行して、大海軍、大空軍を世界に展開している。民主主義のリーダーを標榜し、1776年の建国以来、ほぼ毎年戦争をしてきた。田代氏は、米国が戦争をしなかったのは、全部あわせて20年間だけだと指摘した。

 強硬な外交を進め、金融制裁を科し、紛争当事国に武器を供与し、無差別爆撃や派兵、占領を行い、体制変更も進めた。

田代氏「フセイン政権だって、アメリカの支援のもとにできた政権じゃないですか」

岩上「今のゼレンスキーだってそうですよ」。

 しかし、アテネの歴史を振り返れば、米国もいつまでも同じようなことを続けられるとはいえない、と田代氏は指摘した。

田代氏「あれほど強大な覇権を握っていたアテネがスパルタごときに負けてしまった、これは歴史の大事件です。アテネは軍事力だけじゃなく、多くの人材を輩出しています。ソクラテスもプラトンも、悲劇作者も、現代の文明につながる大文化人を数多く輩出しています。それがスパルタに負けました。

 アメリカも圧倒的覇権を持っているからといって、それが未来永劫の覇権を保証することはないのです。

 アメリカは複数の外国に対して支配力を持っている帝国で、覇権を握っており、ものすごい金融の力を持っています。金融帝国ですよね」。

 田代氏は、米国の計上収支赤字がバイデン政権になって急激に拡大していること、米ドル建て金価格が、トランプ政権・バイデン政権を通じて、急騰している(つまりドルが暴落している)こと、米国の対外債務がバイデン政権下で急増していること、中国・サウジアラビア・インドなどが静かに米国債を売り逃げしていること、米国の貿易収支が悪化し続けていることなどを、豊富な資料で示した。金融帝国が崩壊に近づいている気配が伝わってくる。

 田代氏は、アテネと今の米国の違いについて、今の米国は世界貿易の中心には既にいない、と指摘した。

田代氏「G20の貿易規模を各国別にまとめた図ですが、米国の主要な貿易相手国は中国の他、カナダとメキシコなんですね。

 中国は米国の他、G20のほとんどの国と貿易があり、メキシコとカナダを除けば、どの国とも米国よりも多くの取引をしています。今や、世界120カ国にとって中国が最大の貿易相手国になっています。

 一方、アメリカは、ドルを使った金融制裁など、ネガティブな影響力を世界に与えています」。

 田代氏は、世界各国が困っている原油価格の急騰も、米国がロシアとイランへの制裁をやめれば済むことだと指摘した。

田代氏「前もお話ししましたが、アメリカ大統領の支持率は、ガソリン価格に反比例するんですね。バイデン政権は、秋の中間選挙で大敗すると見られていますが、実は、ガソリン価格を抑えるのは簡単なことです。

 それは、専門家がおっしゃっているように、イランへの制裁を解除するのが一番ですね」

岩上「今、ロシアへの制裁を解除すればいいんじゃないですか?」

田代氏「そうです。次にロシア制裁を解除する、そうすると、安い原油がどんと出てくるから、ガソリン価格が安くなって、大統領選挙にも勝てるかもしれない。

 その時は、優秀なスピーチライターが、アメリカのデモクラシーを守るためにロシアから原油を輸入します。『セーブ・アメリカ』と言えるじゃないですか」

岩上「アメリカの気まぐれなデモクラシーで、民主主義対専制主義の構図を作られて、世界で制裁しろと」

田代氏「世界で制裁されているのは、アメリカの貧乏な人たちですよ」

岩上「それと同盟国ですよ。欧州もじゃないですか。欧州はこの冬乗り切れなかったら大変ですよ」

田代氏「アメリカはドルの力を利用すると、そのこと自体でドルの力を弱めていってるんですね」

岩上「乱用するということですね。制裁に使うとか」。

 田代氏は、ファーウェイを例に取り、中国企業への関税や禁輸制裁が結局は、相手国を技術競争で強くすることになっている、と指摘した。

田代氏「アメリカ帝国が崩壊したら大変なことになります。世界秩序が根底から変わっちゃうわけですから。

 あとは、アメリカ帝国をどうやって安楽死させるか。安楽死させてアメリカを普通の国にするということを、全世界の国際政治学者が必死になって考えるべきです」。

 1、2、3回目のインタビューは、こちらから御覧ください。

■ハイライト

  • 日時 2022年5月30日(月)18:30~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

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