ペロシ米下院議長が訪台強行で東アジア緊迫! 中国を挑発する米国、米中「代理戦争」の戦場は台湾と日本!~岩上安身によるインタビュー 第1085回 ゲスト エコノミスト田代秀敏氏 2022.8.3

記事公開日:2022.8.7取材地: テキスト動画独自
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(文・IWJ編集部)

特集 台湾問題で米中衝突か?!
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 岩上安身は8月3日、午後4時から、米国No.3のペロシ米下院議長が、2日、台湾を強行訪問し、3日に蔡英文総統と会談したことなどを踏まえて、田代秀敏氏に緊急インタビューを行った。

 台湾に到着したペロシ下院議長は、日本時間の3日午前11時半すぎから台北の総統府で蔡英文総統と会談した。この会談は、恐らく宣伝効果を最大化し、米国と台湾の関係を強化する目的で、ネットでライブ中継されたと、3日付ニューヨーク・タイムズは伝えている。

 さらに、この席上、ペロシ議長は、蔡英文総統から、台湾に顕著な貢献をした台湾人や外国人に贈られる「卿雲勳章」(Order of Propitious Clouds)を授与された。

 冒頭、岩上安身が、「このバイデン大統領とペロシ議長によって作り出された『中国と台湾の緊張の高まり』に日本も大いに巻き込まれる可能性があるということを多くの方にお伝えしたい」とインタビューの趣旨を述べた。

 岩上は、2日の夜に出したIWJ号外で、2日22時台にペロシ下院議長が台湾に到着する予定だと報じた台湾メディアの『中国時報』を紹介した。

 『中国時報』は「空母ロナルド・レーガンの動向が注目される。この観測から、台湾の東太平洋海域は米軍と日本軍が担当し、台湾海峡の西側は(台湾)国民軍が担当するはずである」と報じている。

 この箇所で、岩上が注目したのは、「中国軍・台湾軍・米軍がスクランブル状態になっているところに、日本が軍としてすでに加わっている」点である。

 台湾メディアが自衛隊を「日本軍」と呼び、同時に、米軍と東太平洋海域を共同で担当するという記述に岩上は注目して、台湾では、このように受け止められているのに、日本メディアはまったく報じていない点に注意を促した。

 これに対して、田代氏は非常に興味深いことを述べた。

 「私は軍事の専門家ではないのですが、台湾からすれば、日本は台湾を長く支配していました。台湾はその置かれている国際的な微妙な位置から、誰に対しても笑顔で対応します。

 しかし、日本人が期待しているように、『日本はすばらしい。大陸は悪魔の国だけれど、日本は天使の国だ』なんて、(台湾人は)誰も思っていないんですよ。

 台湾にやってきた日本人に対して、植民地支配のことも言わないし、李登輝のように、『私、日本語得意ですよとか、私の愛読書は岩波文庫です』と言いますが、私の友人で国会議員の福島君(福島伸享衆議院議員)なんかが言うように、李登輝が英語、中国語、日本語で講演するのを聞いていますが同じテーマでも中身が違う。

 李登輝は聴衆が喜ぶことを言っている。(中略)それからすれば、台湾のメディアは、自分たちを取り巻く情勢を説明する際に、台湾の東側、アメリカ第七艦隊のロナルド・レーガン空母打撃群が進出していますが、これだけに限らず、つねに、(米軍は)海上自衛隊とワンセットで動いているわけですよね。

 それをできるように、安倍元総理が集団的自衛権を閣議決定で合法化しました。それも台湾の人々は知っていて、これは閣議決定だから、閣議決定は取り消すことができる。台湾海峡の西側は(台湾)国民軍が担当するはずである、と述べています。この『はずである』と言っているところがポイントで、本当はしません」。

 この後、田代氏が話していくことから、明らかになってゆくのは、大陸中国と台湾の関係は、米国メディアの「民主主義国で天使の台湾」対「権威主義の悪の中国」のストーリーを受け売りにしている日本のほとんどのメディアが報じない、強いビジネス上の結びつきがあることである。

 この点は、中国・台湾・米国の3者関係を観る上で、まったくの盲点になっている。この西側メディアによる意識的・無意識的な情報操作は、ウクライナ紛争でもそうだが、非常に深刻である。

 さらに、田代氏の話からわかるのは、台湾も大陸中国も、数千年の歴史と文明を共有する同じ「中国人」だという視点である。

 田代氏は、この台湾と中国の経済ビジネス上の結びつきから、ナンシー・ペロシ下院議長が、誘導灯の消された裏玄関の松山(しょうざん)空港に深夜降り立った理由を読み解く。

 「台湾が世界に誇る国際空港、桃園国際空港ではなく、松山空港に着陸しましたが、アメリカの連邦議員が台湾に来るときに、この国際際空港を使わせないんです。

 一つは、ここが混んでいるからです。大陸から来る飛行機は桃園国際空港に降りるんですよ。台湾と大陸との間には、膨大なビジネス用途の航空便が飛び交っていて、それが台湾にとっても大陸にとっても、経済的にきわめて重要なんです。

 そうすると、アメリカ軍機が降り立っているときに、中国発の航空機は、キャンセルするだろうし、逆に、中国側は、アメリカ軍機が滞在する空港から飛んできた航空機の大陸への侵入は拒絶するでしょうね。そうなると、これは世界経済的な大問題になります。

 台湾企業は膨大に中国大陸に投資して、人間も派遣しています。北京にも上海にも深センにも広州にも台湾が来た人がたくさんいるわけです。(中略)台湾と大陸の経済的つながりは、日本と大陸の経済的つながりを超えて愛憎ぐるみぐっちゃぐちゃなんです」。

 田代氏の話から浮かび上がるのは、国際関係を読み解く際のメディア・リテラシーのポイントは、リアリズムにあるということだ。このリアリズムを構成する要素は経済的な諸関係と軍事的な諸関係の主に2つだということである。

 岩上安身の問題意識は、こうした経済や軍事のロジックから見れば不合理な、ある意味で、リアリズムを超えたペロシ議長のような無理筋で無謀な行動がなぜ起きるのか、そしてその後にどんな惨事をもたらす可能性があるのか、という点にあり、これは、ウクライナ紛争を見れば、現実に、武力衝突が起きてしまったわけだから、重要な問題提起である。

 これに対する田代氏の答えは、主に3つである。

 ひとつは、ペロシ氏の個人的な欲望である。

 民主党は、11月の中間選挙で歴史的な敗北がほぼ決定している。中間選挙で議席を失うかもしれない82歳のペロシ氏が、最後の政治的な花道として国際的な注目を集める台湾訪問を決行した、というものだ。

 田代氏は、これを、米軍機をただで使い放題にしてどこにでも行けるという意味で、「JRの青春18切符」になぞらえて、ペロシ氏の「青春82切符」と述べている。

 もうひとつは、国際間の密約が、時間が経つにつれて、その当事者でなかった人々に、継承されにくくなるという点をあげた。

 文書化され、可視化された国際協定の背後には、多くの黙示の約束が存在すると田代氏は述べる。

 この例として、1972年のニクソン訪中と「一つの中国」を正式に認めた米中共同コミュニケ(上海コミュニケ)に結実した、1971年の10回以上に及ぶキッシンジャーと周恩来の機密会談をあげた。

 第三に、田代氏が言及したのは、中国文明と西欧文明の違いである。

 司馬遷など、数千年に及ぶ権謀術数に関する膨大な古典を有し、世の中の成り立ちを親が子どもに教えるときの古典として孫氏を子どもの頃から読まされる中国文明に、中国も台湾も属していると、田代氏は指摘する。

 シンプルすぎる米国人の頭脳で考えることなど、すぐに見破ってしまい、しかも、見破っていないふりをして、高齢のペロシ氏を歓迎してみせるというのだ。

 同じことを言うにしても、漢詩がそうであるように、微妙に違った表現を取り、その違いに意図を込め、この場面では当然言われるべきことが、意図的に黙示され、それがもっとも言いたいことだと伝える洗練されたコミュニケーションスキルをもつ中国文明に属する中国人には、同じ西欧文明に属し、その亜種であるロシアには通用した、見え透いた挑発は、通じないだろうと田代氏は強調した。

 文明論的な広がりを持った2人の対話を、ぜひ御覧ください。

■ハイライト

  • 日時 2022年8月3日(水)16:00~17:00
  • 場所 Zoom + IWJ事務所(東京都港区)

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