10月3日、夜18時半すぎから、「21世紀の新・帝国主義」と題して、岩上安身による政治経済学者・植草一秀氏へのインタビューを生中継配信した。
植草氏は、『日本経済の黒い霧』を今年4月にビジネス社から上梓された。ロシアによるウクライナ侵攻が2月24日にはじまり、そのすぐ後、原稿を3月に入稿されたことになる。『日本経済の黒い霧』は、主として日本の政治と経済を対象とする内容だが、植草氏はウクライナ紛争にも言及されている。
序文の中で、植草氏は「バイデンの仕掛けた罠にプーチンは嵌まったのか」と題して、ロシア側の抗議を無視してNATOを東方拡大し、「2014年の暴力革命」と、ミンスク合意が履行されない中でウクライナがNATO加盟申請をおこなったことなどを指摘し、米国、特にバイデン氏が副大統領であったオバマ政権時代からずっと、ロシアを挑発してきたと指摘した。
岩上が3月の時点で、ウクライナ紛争の構図を正確に指摘していたのはさすが、と述べると、植草氏は、今も基本的な見方は変わっていない、と述べた。
植草氏「その時の判断と現在の判断は基本的に同一です。世の中の、どちらかといえば少数派の見解ではあるんですけれども。今も基本的な見立てというのは、変わってないです」
岩上「これですね。『バイデンの仕掛けた罠にプーチンは嵌まったのか』。この段階でこれだけきちんと見抜いて言い切れる方っていうのは、やはり、継続的にアメリカの政治のあり方とか、ロシア、ウクライナがどのような状態に陥ってるのかということを過去の歴史、100年200年ではなくて、この30年でいいと思うんですけれども、ソ連崩壊後何が起こったかということ、NATOがどのように東方拡大してきたのか、『民営化』といいながら、どのようにして外資が好き放題に、(ロシアや旧ソ連の国々を)食い物にしてきたのかを見てきた方だったから(正しく見抜くことができた)。
ウクライナが『天使の国』で、ロシアが『悪魔の国』で、天使を助けて悪魔と戦う善意のNATO軍団と言った図式、そういう気持ちの悪い図式で、論評したり報道したりできないのは当たり前だと思うんですよね」
岩上は、植草氏の慧眼、そして安倍元総理の国葬の裏、日本という国の裏を読んだ『黒い霧』が秀逸であったため、お忙しい中、植草氏にお時間をいただいた、とインタビューの意図を説明した。
インタビュー当日、植草氏に『21世紀の新・帝国主義』というタイトルをいただいた。
岩上「直前、タイトルを変えまして、『21世紀の新・帝国主義』としました。というのは、国内外の現状を分析していくと、まさに世界恐慌直前の時代で、かつ新たな形の帝国主義が勃興していて。一方で、それと対抗する側もあってという状態なんですよね。
植草さんがまた次のご著書をお書きになるときには、この題名になるかもしれないとおっしゃったので、ちょっと先取りをしてこのタイトルでインタビューを進めさせていただこうと」
植草氏「(『日本経済の黒い霧』の)帯に、『強欲資本主義対共生民主主義の戦いが始まる』。資本主義と民主主義というのは、一般的にいうと、非常に似たような概念として捉えられることが多いんですけれども。
私は資本主義というのは、1%の利益を追求する考え方で、民主主義というのは99%の利益を追求する考え方なので、実は対立概念だという考えを持っています」
岩上「資本主義と自由主義、リベラリズムは、親和性が非常に高いかもしれないんですけれども、自由主義と民主主義っていうのは縦軸と横軸みたいなもので、実は『自由民主党』なんて言いますが、引っ張りあったり相克し合ったりする概念ですよね」
植草氏「1774年の『世界革命行動計画』(※IWJ注)、実在したかどうかの確認は取れていないんですが、その25条に『自由、博愛、平等という概念を作りだしたのは、我々だけれども、その概念が持っている根本的な矛盾にみんな気付かない』みたいなことが書いてあるんですね。
自由と平等というのは、並べるのは簡単なんですけれども、もし、自由に任せれば、当然格差ができるし、弱肉強食になる訳ですね。それに対して平等は、それを壊す方ですから、実は両立しない。民主主義は、99パーセントの利益のためのシステムなので、こちらの方向に、私は、世界、あるいは政治のあり方を誘導するべきだという考えを持っています。
ただ、今、世界はどちらに向かっているかいうと、アメリカが一番中心ですけれども、自由主義とか市場原理を中核に据えて、格差の拡大も容認するし、弱肉強食も容認するし、一握りの1パーセントの者が、99パーセントを支配する。世界を一つの世界にして、いわゆる『ワン・ワールド』の世界を作る。その『ワン・ワールド』の世界を作るために必要があれば、武力の行使も辞さない。軍事力を背景に、力の行使をしていく。
私は、ウクライナについて、アメリカが行ってきた行動が『力による現状変更』だという風に理解しているんですよ。よく、ロシアについて『力による現状変更』だと批判するんですが。『力による現状変更』を強引に推し進めてきたのは、むしろ米国であって、軍事力を背景とした考え方ですね。
もうひとつは、『ワシントン・コンセンサス』という言葉があるんですが、ジョン・ウィリアムソンというアメリカの経済学者が作った言葉なんですが。ワシントンに、IMFとか、世界銀行とか、アメリカの財務省とか、そういう機関があり、いわゆる『小さな政府』とか、規制の撤廃とか、あるいは民営化であるとか、市場原理。こういう経済運営上、一般的に『新自由主義』、あるいは『市場原理主義』と呼ばれるような経済運営の仕組みを各国に埋め込んでいく。
埋め込むためには、危機を発生させ、その危機に乗じて(新自由主義の仕組みを埋め込む)。韓国もそうですし、ギリシャもそうですし、ウクライナも独立させて親米政権をつくり、そこで少数の資本がウクライナの様々な利権を収奪するような過程がずっと行われてきているんですけれども」
※IWJ注:1774年の『世界革命行動計画』:マイヤー・アムシェル・ロスチャイルドが1774年に策定したとされる。
植草氏は、まさに今、『ワン・ワールド』に向かう強欲資本主義で世界が一色に塗り染められようとしているが、これに対してそうではないんだと、すべての人々を最低保障内に引き上げるような、共に生きるような『共生の民主主義』というものを打ち立てなければいけない」時だと主張した。
植草氏「(強欲資本主義と共生民主主義の)戦いがいよいよ本格化するという視点で、この本を書いて、その過程でウクライナの紛争が起きた。ウクライナ紛争は底流の部分で、強欲主義対共生民主主義の戦いの一断面という側面があるということ。
もう一つ、日本の敗戦後、1947年から55年ぐらいにかけての、日本の占領統治が大きく方向を変えた。
1947年にトルーマン大統領が特別教書演説をして、ソ連封じ込めというのが米国の政策の基軸だったんですが、変えました。これが、反共政策、共産主義封じ込め、共産主義に打ち勝つ、『勝共政策』ですね」
岩上「統一教会と表裏一体の『勝共』、『反共』」
植草氏「『勝共』『反共』っていうのは、1947年の(トルーマン大統領の演説)から始まって、現在まで脈々と続いてる、メーンストリームなんですね。その過程で、日本の逆コースを主導したのは、GHQの中の『G2』、参謀2部と呼ばれる部署でした。この『G2』が主導して、色々な怪事件を起こしているのをまとめたのは、松本清張の『黒い霧』。
それから、もうひとつ。ジョン・コールマンという人がいて、元MI6の職員なんですけれども、第三次世界大戦、あるいはウクライナの問題も、2015年、その前にも、かなり細かい分析をして、いわゆる『ワン・ワールド』を追求する勢力が、このウクライナ問題を引き起こしているというのを書いて。
その人が『世界の黒い霧』という本を2015年に書いていまして、松本清張の日本の『黒い霧』と、ジョン・コールマンの『世界の黒い霧』と、私が今回出した『日本経済の黒い霧』。『黒い霧三部作』と呼んでいるんですけれども、底流に流れる視点が非常に共通しています。
いわゆる『価値観外交』といわれる、『自由、民主主義、人権、そして市場経済と法の支配』。この価値観を共有する国と連携しましょうと言うんですけど、私はこの考え方の中には、根本的に矛盾があると思います。
民主主義というのは、実は異なる思想とか哲学とか価値観の共存を認めるのが、民主主義の一番重要なところなんですが、『価値観外交』の一番のポイントは、アメリカが主導する、どちらかというと自由主義、市場原理主義を基軸において、それを受け入れられない国に対しては強要する。場合によっては、軍事力の行使をする。
『価値観外交』を推進したアメリカのネオコンであって、軍事力を背景に、自由主義・市場原理主義を埋め込んでいくという動きがここ10年から20年にかけて、一気に加速していると私は見ています。それを、『21世紀の新・帝国主義』と呼んでいます。
これが今、いろんな問題を起こして、ウクライナでは戦乱が起きましたが、全く同じメカニズムによって、極東地域において新しい戦争が引き起こされるかもしれない」
岩上「台湾有事を理由として、ですね」
植草氏「そうですね。その時に、場合によっては、例えばロシアがどう行動するかによりますけれども、いわゆる第三次世界大戦に移行することは、ただの机上の空論ではなしに、可能性は5割を超えている状況ではありませんけれども、現実に起こってもおかしくはないようなところに来ている。
金融市場の混乱も含めて、非常に緊迫した時代に入っているなという印象があります」
この後、いよいよインタビューの本題に入っていった。植草氏は、「金融波乱への警戒」というテーマで、まず「世界恐慌が発生するリスク」を3つあげた。
第1のリスクは、「ニューヨーク発の世界株価暴落」である。過去、米国の株価急落が世界に波及するというパターンがある。
植草氏「今、ニューヨークの株価の下落が進行していますけれども、背景には米国のFRBの金融政策があります。(激しいインフレが背景にあり)、金融引き締めを行っていますので。
私は、今回の世界経済の悪化とか、あるいは株式市場の調整などについて『バイデンインフレ』『バイデンスタグフレーション』と呼んでいます。
一番大きい要因はウクライナの戦乱が発生して、資源価格が高騰して」
岩上「ロシアに対する対露制裁が、結局、自分たち制裁している側の(欧米日)の首を絞めてるところがありますよね」
植草氏「本来この戦乱は、回避も可能だったし、必要ないものだったわけですけれども。
バイデン政権の、ある意味、暗い部分によって、戦乱が引き起こされて、それによってインフレが高騰して、それを受けてFRBがかなり激しい金融引き締めに移行しているんですけれども」
植草氏は、インフレによって実質所得が減り、個人消費が圧縮され、景気が下方スパイラルを生み出していく原因になっていくと説明し、「今回の不況の1番の原因は、バイデンにある」と指摘した。
植草氏は、「世界株価暴落」が起きるかどうかは、米国の金融政策が鍵を握る、と指摘した。2008年に起こった世界的な恐慌(リーマンショック)では、バーナンキFRB議長が大規模な量的金融緩和を行った。
第2のリスクは、「中国金融危機の世界への波及」である。
植草氏は、トランプ大統領野時代に、中国経済に非常に強い下方圧力をかけた米中貿易戦争があった、と指摘した。
植草氏「(ウクライナ紛争も、米中貿易戦争も)いずれも、アメリカが世界ナンバーワンの国の地位から転げ落ちるかもしれないという焦燥感、いろんな意味の焦りがあって。中国経済を抑え込もうとしたり、あるいはウクライナで戦乱を始めて、最終的にはロシアの殲滅を狙っているということだと思いますけれども」
植草氏は、米国の焦りが中国に対する敵対的な政策に出ていることを懸念した。中国では、恒大集団の不良債権問題など、不動産業が落ち込んでおり、かつてのバブル崩壊の日本の状況に似てきていると指摘した。
中国では10月18日から共産党大会が開かれるが、習近平体制が安定した第3期を迎えるかどうか、政治的な安定性を注視する必要がある、と植草氏は述べた。
第3のリスクは、ずばり「第3次世界大戦」である。植草氏は、「ロシアを追い詰め過ぎれば、最終的には予期せぬ事態が発生しうる」と述べた。
植草氏「それは、何らかの形の核兵器の使用、それからもう一つは原発に対する攻撃。原発そのものは存在しているだけで、巨大なその核兵器が埋め込まれているということ同義です。原発で何かが発生すれば、核攻撃と同じような影響が出てくる。そういうことが仮に起きると、今度はそれに対する報復がさらに発生し、最終的には世界が消滅するということも含めて、第3次世界大戦のリスクがある」
植草氏は、米国のネオコンの利益のために戦争が行われる可能性があると懸念し、米国の横暴と暴走をどう止めるかが一つの鍵になると述べた。
植草氏「今起きている、様々な世界の不幸の原因がどこにあるのかというのを、見定めることが重要だと思うんですけれども。一言で言えば、やはり、アメリカの横暴と暴走を止めないと、世界全体が不幸に突き落とされつつあると、私は思います」
『トゥキディデスの罠』という言葉がありますけれども、アメリカがこれまで世界第1の地位を確保してきたところに、中国が急速に伸びて、(覇権国である米国が)脅かされるときに、衝突が起こるという見立てなんですね。まさにそのアメリカの焦りというものが、様々な形で悪い結果を生み出している。中国との関係から、ロシア・ウクライナの関係もですね。
一番大事なことは、相互の理解とか、相互の尊重とか、相互依存によって成り立っているんだ、ということを見定めて、その中で問題解決を図るというのが、原点のはずなんですが。
『自分の地位が脅かされることを許せない』ということで、中国に対してかなり高圧的に(対している)。米中貿易戦争も客観的に見れば、米国が勝手に始めて、米国がいきり立って、最終的にその跳ね返りが自分のところに来るので、もう、米国の自作自演の喜劇のような話なんですね。
それからウクライナの問題も、ウクライナとロシアとの間で色々な問題がありましたが、解決するために、ミンスク合意という合意を結んで、東部2州に対しては高度の自治権を付与すると決めた。これが守られるのであれば、停戦もできる。国連安保理でも決議されて、決着を見たにもかかわらず、ミンスク合意を一方的に踏み躙ったのは、ウクライナの側なんですね。
その結果、あの戦乱が起きている。物事が起きた時のプロセスを考えれば、あの戦乱も回避できたし、相互依存の関係も維持できたはずなんです。ところがここで戦乱が起きて。
ロシアは戦術的に、ロシアの資源を供給を遮断することもできますけれども、アメリカはアメリカで、アメリカの天然ガスをヨーロッパに売れば、これで大儲けができる。アメリカ産のものをヨーロッパへ持っていって売ろうとしますが、値段が高いのでヨーロッパは、困る訳ですよね。
これからあの冬が到来すれば、当然、エネルギーの調達でヨーロッパ諸国がかなり厳しい状況になりますから。そうなるとヨーロッパ諸国の内部で、この戦乱は何なんだという見直しは当然出てきます」
つい先日、イタリアでも「極右」といわれる政権が誕生したばかりである。植草氏は、11月8日の米国の中間選挙の結果次第では、大きな状況の変化につながる可能性があると指摘した。
インタビューは、当初予定していた安倍元総理の国葬問題、その背景にある、日本国内の対米隷属勢力と対米自立勢力のせめぎ合い、そして<国葬=旧統一協会=対米隷属=勝共連合>の図式にまでは至らなかった。植草氏には近日中に、再度、岩上安身のインタビューにご登壇いただく予定である。