【IWJ号外】ソ連解体からロシアを見てきた「世界で最も重要な経済学者」ジェフリー・サックス氏が「ウクライナ戦争の本当の歴史」で、「ウクライナを救う唯一の方法は、交渉による和平だ」と明言! 2023.7.31

記事公開日:2023.7.31 テキスト
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(文・IWJ編集部)

 IWJ代表の岩上安身です。

 米国を代表する経済学者である、ジェフリー・D・サックス氏が、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏の選挙サイト「ケネディ・ビーコン」のサブスタックページに、「ウクライナ戦争の本当の歴史―事件の年表と外交のケース」と題する記事を寄稿しました。

 ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、サックス氏の寄稿について、以下のようにツイートしました。

 「バイデン大統領はいかにしてウクライナ戦争を引き起こし、国内政治課題のためにウクライナ人の命を犠牲にし続けているのか。#ケネディ24」

 経済学者のジェフリー・D・サックス氏は1954年生まれの68歳、ハーバード大学出身、ハーバード大学教授、コロンビア大学教授(持続可能な開発センター所長、地球研究所所長)として活躍してきました。ハーバード大学教授時代には、皇后陛下となる前の、小和田雅子さんの指導教授をつとめたこともあります。

 『ニューヨーク・タイムズ』紙はサックス氏を「おそらく世界で最も重要な経済学者」と評価し、サックス氏は英国エコノミスト誌の調査で「今現在活躍する経済学者の中で最も影響力のある3人」の1人に選出されています。

 サックス氏の出世作は『マクロエコノミクス』(1996、フィリップ・ラレーンと共著)です。2000年以降も積極的な執筆を続けています。

2005年『貧困の終焉―2025年までに世界を変える』
2008年『地球全体を幸福にする経済学:過密化する世界とグローバル・ゴール』
2011年『世界を救う処方箋──「共感の経済学」が未来を創る』
2013年『世界を動かす-ケネディが求めた平和への道』
2015年『持続可能な開発の時代』
2017年『Building the New American Economy: Smart, Fair & Sustainable(新しいアメリカ経済の構築―スマートで公正、持続可能)』(邦訳未出)
2018年『A New Foreign Policy : Beyond American Exceptionalism(新しい対外政策:アメリカ例外主義を超えて)』(邦訳未出)
2020年『The Ages of Globalization : Geography, Technology, and Institutions(グローバル化の時代:地理・技術・制度)』(邦訳未出)

 サックス氏は、ラテンアメリカ、東欧、ユーゴスラビア、ロシア政府の経済顧問を務めた経歴があります。

 ウクライナ紛争に関しては、サックス氏は複雑な立場にあります。

 サックス氏は、ソ連崩壊の1991年に、米ソ両国の経済学者による共同提案に参加し、1994年1月までロシア政府の経済顧問として、急進的な経済改革を担当し、「ショック・ドクトリン」と呼ばれる急進的な自由化・民営化に深く関わっていたからです。

 「ショック・ドクトリン」とは、「惨事便乗型資本主義=大惨事につけこんで実施される過激な市場原理主義改革」を意味する、とナオミ・クライン氏は指摘しています。

 ソ連の「民主化」と経済の「自由化」・「民営化」をうたった「ショック・ドクトリン」は、ロシア経済を破壊し、医療や福祉も行き届かなくなり、ロシア人男性の平均寿命を67歳から57歳にまで押し下げました。

 当時、「民主化」「民営化」の美名のもとに、どれほどロシアの政治が腐敗し、社会が傷み、国民が苦しんだか、また、膨大な公有財産がオリガルヒ(新興財閥)やマフィアによって奪われたか、岩上安身が『あらかじめ裏切られた革命』で克明に記録しています。

※岩上安身『あらかじめ裏切られた革命』(1996、講談社、第18回講談社ノンフィクション賞受賞、現在日刊IWJガイドで復刻連載中)

 一方、「ショック・ドクトリン」を推進した側の思惑について、国際政治学者の伊藤貫氏は、米政府と米金融業界による「『ロシアの経済改革に協力したい』という美しい名目の下に実行した、ロシア経済資源の巨大な窃盗行為」「ロシア国民資産の大窃盗」であったと述べています。

 1954年生まれのサックス氏は、この「大窃盗団」に関わった1991年から94年当時、働き盛りの37歳から40歳でした。

 ウクライナ紛争は、2022年2月24日に突然始まった、と見る見方に立てば、「ロシアによるいわれのない侵略」になります。米国以下、日本政府に至るまで、この立場に立つプロパガンダが横行しています。

 一方、2014年のユーロマイダン・クーデターと、そのクーデターによって樹立された親欧米政権(ポロシェンコ政権の次がゼレンスキー政権)のもとで、ウクライナ国内のマイノリティであるロシア語話者への激しい差別・弾圧・虐殺が行われ、ロシア語話者が多く住み、自治を求めた東部ドンバスへのウクライナ軍の武力攻撃が、8年以上も続いてきた帰結として、2022年のロシア軍の介入が引き起こされたとみれば、ウクライナを利用した米国によるロシア弱体化のための、対露代理戦争だということになります。

 しかし、米国の「ロシア弱体化」の試みは、それだけではありません。1991年のソ連解体から見れば、米国が30年以上にわたって、どれだけロシアを弱体化するために腐心し続けてきたかがよくわかります。

 「目的が曖昧だ」などと、しばしばいわれるウクライナ紛争の「目的」も見えてきます。ロシアは非常に自然資源の豊かな国です。1991年からプーチン大統領が登場するまでのエリツィン時代は、ロシアの国富を自由に簒奪することが可能だった、西側の「自由民主主義者」にとって、「夢」の時代でした。

 米国政府は今回のウクライナ紛争で、ウクライナに428億ユーロ(6兆6566億円)の軍事支援、36億ユーロ(5599億円)の人道支援、243億ユーロ(3兆7823億円)の経済支援を行なっています。

 米国政府によるウクライナ支援は700億ユーロ(10兆8993億円)を超えています。なぜ、米国政府はこれほどの支援をウクライナに注ぎ込むのでしょうか。これほどの支援にみあう「利益」とは何でしょうか。

 上述した伊藤氏によれば、「ロシア経済資源の巨大な窃盗行為」によって盗み出されたロシアの国富は、およそ26兆円から65兆円にのぼるといいます。もし、これだけの利益を再びロシアから上げられるのであれば、10兆円の「投資」は安いものだということになります。

 つまり、「投資額」からみると、米国が徹底的にウクライナ支援に支援を注ぎ込む目的は、1991年から90年代後半にかけての「大窃盗」の再現を狙い、。プーチン政権を打倒してから、ロシアをバルカン化(分裂・分割)すること、そして、非常に自然資源の豊富なロシアの領土を、間接的に植民地化・従属地域化し、米国と対決する姿勢を失わせて、核のライバルとしての脅威を取りのぞくことにある、と考えられます。

 そんな遠大な戦略が実現するかどうかはともかく、米国ないのネオコンと、その同類のタカ派戦略家たちは、米国の一極覇権の完全確立(つまり、米国による完全な世界征服)の夢想、過去も、まさに今も、そしてこの先には中国の打倒と弱体化をもみすえて(悪夢)に向かって突き進んできているのです。

 サックス氏は、ソ連解体時の「大窃盗団」の中にいました。ソ連の、すべて国有化されていた経済を民営化してゆくために、できるだけ早くそのプロセスを加速させる、急進的な改革を主導したのです。

 サックス氏自身が「窃盗」を行ったわけではありません。しかし、彼の主導した経済改革は、結果として「ロシアの弱体化」と「公共財産の不当な簒奪」に力を貸していました。

 しかし、ジェフリー・サックス氏はチリにおいて、米国の支援を受けてクーデターを起こし、独裁者となったピノチェトの、経済民営化のための「ショック療法」経済顧問団をつとめたミルトン・フリードマンの弟子たちのような、シカゴ学派の新自由主義のドグマティストたちとは、その後の歩みにおいて一線を画すことになります。

 「ショック療法」に手を貸してしまった、そうした「痛い」経験を経て、サックス氏は、その後は、グローバリズムの進展による格差の拡大の是正や、「持続可能な社会(SDGs)」のための経済学を構想してきました。

 そうしたキャリアをもつ、サックス氏の目に、ロシアとウクライナの対立、そしてその亀裂に手を突っ込み、外から介入する米国と西側諸国の姿は、どのように映ったのでしょうか?

 今はリベラルなケネディJrと近い関係にある、ジェフリー・サックス氏が、「ケネディ・ビーコン」に特別寄稿した「ウクライナ戦争の本当の歴史」とは、いかなるものか、IWJは、全文仮訳を試みました。

 以下が、全文仮訳となります。ぜひ、お読みください。

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 アメリカ国民は、ウクライナ戦争の真実の歴史と現在の見通しを緊急に知る必要がある。残念ながら、主要メディア(『ニューヨーク・タイムズ』、『ウォール・ストリート・ジャーナル』、『ワシントン・ポスト』、『MSNBC』、『CNN』)は、ジョー・バイデン米大統領の嘘を繰り返し、国民から歴史を隠す、単なる政府の代弁者になっている。

 バイデンは昨年、「あの男(プーチン)は権力の座に留まることはできない」と宣言した(※IWJ注1)後、今回もまたロシアのプーチン大統領を非難している。

 しかしバイデンは、ウクライナへのNATO拡大を推し進め続けることで、ウクライナを未解決の戦争に陥れている張本人だ。彼はアメリカ国民とウクライナ国民に真実を伝えることを恐れ、外交を拒否し、代わりに永久戦争を選んでいる。

 バイデンが長年推進してきたウクライナへのNATO(の東方)拡大は、失敗したアメリカの策略だ。

 バイデンを含むネオコンたちは、1990年代後半から、ロシアが長年声高に反対してきたにもかかわらず、アメリカはNATOをウクライナ(とグルジア)に拡大できると考えていた。彼らは、プーチンがNATOの(東方)拡大をめぐって、(※NATO拡大を阻止するために)実際に戦争を起こすとは考えていなかった(※つまり、ロシアを侮り、なめていた)。

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