【IWJ号外】ジョン・ミアシャイマー教授の最新論文『前途の闇:ウクライナ戦争の行方』を全力で全文仮訳! 第1回「意味のある和平合意は可能なのか。私の答えは『ノー』、『最悪の結末は、核戦争』!」 2023.7.13

記事公開日:2023.7.13 テキスト
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(文・IWJ編集部)

 IWJ代表の岩上安身です。

 ジョン・ミアシャイマー教授の最新論文『前途の闇:ウクライナ戦争の行方』を全力で全文仮訳しました。

 第1回は、「意味のある和平合意は可能なのか。私の答えは『ノー』である! 『最悪の結末は、核戦争である』! 『ロシアが最終的に戦争に勝つだろう。ただし、ロシアはウクライナを決定的に打ち負かすことはないだろう』!」です。

 ジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授の発言については、IWJは、ウクライナ紛争当初から注目してきました。

 そのミアシャイマー教授が、ウクライナ紛争の結末について、注目すべき発言を行いました。

 一つは、6月30日にストリーミング配信された、ジャーナリストのグレン・グリーンウォルド氏による1時間45分のインタビュー「INTERVIEW: John Mearsheimer―Leading International Relations Scholar―On US Power & the Darkness Ahead for Ukraine | SYSTEM UPDATE #109」における発言です。

 もう一つは、6月24日に、ミアシャイマー教授のサブスタック(日本の「note」のような媒体でメルマガとして購読者に配信される)に発表された「前途の闇: ウクライナ戦争の行方(The Darkness Ahead: Where The Ukraine War Is Headed)」です。

 IWJは、ジョン・ミアシャイマー教授のサブスタックを、長文ですが、重要な現状分析を含むため、全力で、全文仮訳しました! 3回に分けて、その内容をお伝えします!

 以下から、ジョン・ミアシャイマー教授の論文「前途の闇: ウクライナ戦争の行方(The Darkness Ahead: Where The Ukraine War Is Headed)」(第1回)の全文仮訳となります。

 ぜひ、お読みください!

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 「本稿では、ウクライナ戦争が今後どのような軌跡をたどるかを検証する(原注1)。私は2つの大きな問題を検討する。

 第一に、意味のある和平合意は可能なのか。私の答えは『ノー』である。

 我々は現在、ウクライナ・西側諸国とロシアという両陣営が、互いが互いを敗北させなければならない存亡の危機とみなす戦争状態にある。全面的に、最大の目標が設定されているため、実行可能な平和条約を結ぶことはほとんど不可能である。さらに、領土や、ウクライナの西側諸国との関係についても、両者には和解しがたい溝がある。考えられる最善の結末は、容易に熱い戦争に逆戻りする可能性がある凍結された紛争である。最悪の結末は核戦争であり、可能性は低いが排除できない」。

(原注1)この論文は、ウクライナ紛争について私(ジョン・ミアシャイマー)が行った、あるいは行う予定の公開講演の基礎資料として執筆された。例えば次の動画を御覧ください。

 「第二は、どちらの側が戦争に勝つ可能性が高いか、という問題である。ロシアが最終的に戦争に勝つだろう。ただし、ロシアはウクライナを決定的に打ち負かすことはないだろう。

 言い換えれば、ロシアは、ウクライナ全土を征服することはないだろう。これは、モスクワの3つの目標を達成するためには必要なことである。つまり、ウクライナの政権転覆、ウクライナの非武装化、キエフと西側諸国との安全保障上のつながりの断絶である。

 しかし、ウクライナの領土の大部分を併合し、ウクライナを機能不全のランプ国家(※IWJ注1)にしてしまうことになる。つまり、ロシアは醜い勝利を収めるだろう」。

(※IWJ注1)ランプ国家(rump state)は、かつてより大きな国だったものが、分裂や併合、占領、独立、または元の領土の一部の成功したクーデターや革命によって、縮小された領土を持つ残骸国家のことです。

 例えば、ハプスブルグ家が支配したオーストリア=ハンガリー二重帝国は、第一次世界大戦後に分裂し、オーストリアとハンガリーの2つのランプ国家が誕生しました。また、ソビエト連邦は、1991年に崩壊し、15の連邦構成共和国はそれぞれ独立して、ロシア、ウクライナ、ベラルーシなど15のランプ国家が誕生しました。

 ランプ国家は、通常、元の国よりも経済的、政治的に弱い傾向にあります。また、元の国との紛争に巻き込まれるリスクも高くなります。

 「これらの問題を直接取り上げる前に、3つの予備的な指摘がある。

 まず第一に、私は未来を予測しようとしているが、不確実な世界に生きている以上、これは容易なことではない。実際、私の主張のいくつかは間違っていると証明されるかもしれない。

 第二に、私は何が起こってほしいかを言っているわけでもない。どちらか一方を、応援しているわけでもない。私は単に、戦争が進むにつれて起こるだろうと思うことをお伝えしているだけである。

 最後に、私はロシアの行動や、紛争に関与している国々の行動を正当化しているわけではない。彼らの行動を説明しているだけだ。

 では、話の中身に戻ろう。

現在の状況

 ウクライナ戦争の行方を理解するためには、まず現状を把握する必要がある。ロシア、ウクライナ、西側諸国という3つの主役が、それぞれの脅威環境をどう考え、目標をどう考えているかを知ることが重要だ。

 ただし、西側諸国というのは、主に米国のことである。なぜなら、欧州の同盟国は、ウクライナに関してはワシントンから指令を受けているからである。また、戦場の現状を理解することも不可欠である。

 まず、ロシアの脅威環境とその目標から説明しよう。

ロシアの脅威環境

 2008年4月以来(※IWJ注2)、ロシアの指導者たちが、ウクライナをNATOに加盟させ、ロシア国境の西側の防波堤にしようとする西側の努力を、存続に関わる脅威と見なしていることは明らかだ。実際、プーチン大統領とその側近たちは、ウクライナがほぼ事実上のNATO加盟国であることが明らかになりつつあったロシア侵攻前の数カ月間、繰り返しこの点を指摘していた(原注2)。

 2022年2月24日の開戦以来、西側諸国は、ロシアの指導者たちが極めて脅威と見ざるを得ない新たな目標を採用することで、その存立危機事態に新たなレイヤーを加えている。

 西側の目標については後述するが、西側はロシアを打ち負かし、大国の地位から引きずり下ろすことを決意していると言えば十分である。それが、プーチン体制の転覆や1991年のソビエト連邦の崩壊のようなことにならないとしても」。

(※IWJ注2)2008年4月は、ブカレストNATO首脳会議が行われました(4月2日~4日)。

 この会議では、ウクライナとグルジア(現・ジョージア)のNATO加盟が議題となりました。米国、英国、カナダ、ポーランド、ルーマニア、チェコ、バルト諸国は、ウクライナとグルジアのNATO加盟を支持しましたが、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギーは、ロシアの反発を懸念して反対しました。

 最終的に、首脳会議は、ウクライナとグルジアが『NATO加盟の資格がある』という宣言を採択する一方で、加盟時期については明言しないという妥協案を発表しました。

 この会議は、NATOの東方拡大をめぐるロシアと西側諸国の間の緊張を高める分岐点となりました。

(原注2)たとえば、次の資料でわかります。

 ミアシャイマー教授の論文に戻ります。

 「プーチンは今年(2023年)2月に行った重要演説で、西側諸国はロシアにとって致命的な脅威であると強調した。

 『ソビエト連邦崩壊後の数年間、西側諸国はソビエト連邦崩壊後の諸国に火をつけ、そして最も重要なことは、ロシアという歴史的国家最大の存続部分を消滅させようとすることを止めなかったことである。西側諸国は、国際的テロリストによる襲撃を奨励し、国境周辺での地域紛争を誘発し、我が国の利益を無視し、我が国の経済を封じ込め、抑圧しようとした』

 さらにプーチンは、以下のように、強調した。『西側のエリートたちは、「ロシアの戦略的敗北」という目標を公言している。これは我々にとって何を意味するのか。つまり、彼らは我々をきっぱりと終わらせるつもりなのだ』。

 プーチンは、続けてこう言った。

 『これは、我が国の存続に関わる脅威である(原注3)。ロシアの指導者たちもまた、キエフ政権をロシアにとっての脅威と見なしている。キエフ政権が西側諸国と密接に連携しているからというだけでなく、第二次世界大戦でナチス・ドイツとともにソ連と戦ったファシスト・ウクライナ勢力の子孫と見なしているからである(原注4)」。

 「ロシアの目標

 ロシアは、自国の生存を脅かす脅威に直面していると考えているため、この戦争に勝たなければならない。

 しかし、勝利とはどのようなものだろうか」。

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