IWJ代表の岩上安身です。
IWJでたびたびお伝えしている「エフゲニー・プリゴジンの乱」がいったん収束した直後の25日、これまで数多くの鋭いレポートや批評を掲載してきた米国の調査報道サイト、『CovertAction Magazine』から、注目すべきレポートが発表されました。
タイトルは、「ウクライナの反攻は不発に終わり、タカ派の予測は再び外れる」という、西側ではタブーになっているテーマです。
執筆者は、『CovertAction Magazine』のマネージング・エディターのジェレミー・クズマロフ氏です。
- Ukrainian Counteroffensive a Dud as War Hawk Predictions Are Wrong Again(CovertAction Magazine、2023年6月25日)
このレポートで特筆すべきは、カホフカ・ダムの破壊はウクライナの仕業であると次のように断言していることです。
「ウクライナの絶望は、クリミアへの水の供給を断とうと6月6日にノヴァヤ・カホフカ・ダムを攻撃し、いくつかの村とケルソンの町の一部を浸水させたことからも明らかだ」
また、西側で報道がほとんどない、ウクライナ軍が、穀物協定の一部であったトリアッティとオデッサを結ぶアンモニアパイプラインを破壊し、クリミアとウクライナを結ぶチョンハル橋を爆撃した点にも言及しています。
このウクライナ軍の攻撃を、「これらは、ナチスの指導者たちが訴追され、ニュルンベルク裁判のあとに絞首刑に処せられたとの同じ類の戦争犯罪である」と、ナチスに匹敵する犯罪であると厳しく指摘している点も重要です。
さらには、原注2において、元国連査察官のスコット・リッター氏の6月24日のコラムを引用して、「リッターは6月24日付のコラムで、ウクライナがロシア支配層内部の亀裂を利用し、西側諜報機関の支援によって、ワグネルトップのエフゲニー・プリゴジンのクーデター未遂を煽ったことを示唆している」と述べている点も注目されます。
これは、プリゴジン氏とウクライナと西側諜報機関による共謀で、クーデター事件は画策されたことを意味しています。
前線のウクライナ反転攻勢の後方で攪乱をすることが、クーデター事件の狙いだったと思われます。結果として、「ロシアの亀裂」なるものは、この作戦では、大きく裂けなかったということです。
スコット・リッター氏は、プリゴジン氏のクーデターを、2014年2月のウクライナにおける欧米の支援によるクーデター、ユーロマイダン・クーデターになぞらえて、「モスクワ・マイダン」と呼んでいます。
IWJは、この25日付『CovertAction Magazine』の記事を全文仮訳しました。ぜひ、御覧ください。
全文仮訳は、以下からとなります。
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「バイデンが期待していた選挙前の戦場での勝利は得られず
アメリカの偉大なフォークシンガー、ウディ・ガスリーは、朝鮮戦争について書いた歌の中で、ダグラス・マッカーサー元帥とロバート・ロベット国防長官がクリスマスまでに米軍が帰還すると約束したことを嘲り、マッカーサーとロベットが実際にどのクリスマスまでに帰還するのかを明言していなかったことを強調した(※原注1)」。
(※原注1)1952年に書かれたこの曲のタイトルは「ヘイ、マッカーサー将軍」だった。ジェレミー・クズマロフ「『ヘイヘイ、マッキーマッカー将軍、ホー、ホー・ミスター・ロヴィット』ウディ・ガスリーの忘れられた反抗 原爆から朝鮮戦争まで」『アジア太平洋ジャーナル』2018年4月1日号を参照のこと。
https://apjjf.org/-Jeremy-Kuzmarov/5133/article.pdf
「ウクライナで代理戦争を戦っているアメリカは、ベトナム戦争と同じように、楽観的な見通しを立てているが、それは誤りであるように見える。
ウクライナは6月5日、ウクライナ東部でロシアに占領された領土を奪還し、ロシア軍に戦いを挑むことを目的に、大々的に反攻作戦を開始した。
この反攻作戦は、ジョー・バイデン大統領の再選に向けての重要性を認識した大統領から祝福を受けた。
デビッド・ペトレイアス元CIA長官は、朝鮮戦争におけるマッカーサー元帥のように、ウクライナの反攻は『非常に印象的なものになるだろう』と予測した。
ペトレイアスは、BBCにこう語った。
『私の感覚では、彼ら(ウクライナ軍)は、複合兵器の効果を達成するだろう。つまり、障害物を突破して、地雷原などを無効化する工兵、対戦車ミサイルに対抗する歩兵に守られた後続の装甲部隊、ロシア軍の航空機を寄せ付けない防空網、無線ネットワークを妨害する電子戦、彼らのすぐ後ろにいる兵站、彼らのすぐ前にいる大砲と迫撃砲など、複合兵器の作戦を成功させるだろう。
そして何よりも重要なのは…先頭部隊が72~96時間後に必然的に集結し、物理的にはそこまでが限界で、彼らは損害を被ることになる…後続部隊がそのまま押し切り、前進を生かして勢いを維持する』
しかし、反攻開始早々、ペトレイアスの予測は的外れであり、自信過剰であったことが明らかになった。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』は6月17日、ウクライナが軍事戦略を見直すために反攻を一時停止していると報じた。
『ワシントン・ポスト』は以前、ウクライナの第37旅団が、ドネツク州南東部のヴェリカ・ノヴォシルカ南方で訓練されたばかりで、米国製兵器を支給されたにも関わらず、戦車も、重装甲車もないまま、戦場に放置されたあげく、3方向から迫撃砲の砲撃を受け、全滅したと報じた。
アラバマ州のブロガー、ムーン氏は次のように書いている。『ウクライナ軍は(最初の反撃の)攻撃に少なくとも4個旅団を使った。そのうちの少なくとも2個旅団は、反撃のために増強された12個旅団の予備軍であった。約30%の損失で、関係者はほとんど何も得ることなく、深刻な打撃を受けた』(※原注2)」。
(※原注2)スコット・リッター元国連兵器査察官は、6月17日、「ウクライナの反攻2週目は失敗に終わった」と題する記事で、「ウクライナはロシアの防衛に打ち勝つ軍事力を欠いている。西側の最新軍事技術を装備したウクライナの最精鋭突撃旅団は、ロシアの防衛ドクトリンが『カバー』防衛ラインと呼ぶもの(攻撃部隊を『メイン』防衛ラインに到達させる前に迂回させ、混乱させるための緩衝地帯)から前進することができなかった。
ウクライナの死傷者は極めて多く、ロシアは兵力比で10対1のキルレシオ(殺傷率)を達成したが、これはウクライナの立場からすれば、(戦闘の続行が)持続不可能なレベルである。ウクライナの失敗の理由は、根本的なところにある」。
リッターがあげる第一の理由は、ロシアの防御の質の高さと、ロシア守備側の粘り強さ、そしてウクライナの戦力と戦術が不十分であるのに対し、ロシアが火力支援において圧倒的な優位を享受していることである。
第二に、「ウクライナ側は、ここ何週間も続いているロシアの見事な敵防空(SEAD)制圧作戦の代償を払っている」とリッターは続ける。「ロシアは、ウクライナが前線をはるかに越えて戦略目標を防衛する能力を無力化しただけでなく、実際の紛争地帯に意味のある防空能力を投射することもできなくした。これは、実行可能な空軍の欠如と相まって、攻撃してくるウクライナの地上部隊をロシアの航空戦力の全重量にさらすことになる」。
リッターは6月24日付のコラムで、ウクライナがロシア支配層内部の亀裂を利用し、西側諜報機関の支援によって、ワグネルのトップのエフゲニー・プリゴジンのクーデター未遂を煽ったことを示唆している。これをスコット・リッターは、ウクライナ紛争の引き金となった2014年2月のウクライナにおける欧米支援によるユーロマイダン・クーデターになぞらえて「モスクワ・マイダン」と呼んでいる。
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