クレムリン宮殿・ロシア大統領府のドーム屋根をドローンが襲撃
5月3日未明、一機の無人機が、モスクワ川沿いに建つ旧ロシア帝国時代の宮殿、クレムリン宮殿(ロシア語で「城塞」)に接近し、爆発しました。ドローンが爆発したのは、ロシア大統領府旗を掲げたクレムリン宮殿の大統領府(元老院)のドーム付近です。まさにクレムリン宮殿の心臓部で起きた爆発でした。
赤の広場では、5月9日の対ナチスドイツ戦勝記念日の祝賀会の準備が進められており、白・青・赤の観客席が設営されていました。『BBC』は、ドローン爆発時にドーム屋根にかけられているメンテナンス用の階段に2人の人物がいると指摘しています。
『BBC』などが公開している、ロシアのSNSにアップされたという動画は、画角から推定すると、おそらく赤の広場側から撮影されたものだと思われます。クレムリンの屋根が見えるほどの高い位置から撮影されていることから、撮影者は赤の広場の向かい側に建つグム百貨店の上層階か、屋根付近にいたと思われます。
『BBC』が公開しているその他の複数のビデオには、ドーム屋根の頂上付近の出火が認められるものや、南側のグラヴィータヤ宮殿側から撮影された動画もあります。複数の動画から、ドローンはおそらくクレムリン宮殿の南側、モスクワ川側から飛来したと推定されます。
ロシア領内・クリミアなどで頻発するドローン攻撃・テロ事件
実は、今回起きたクレムリン宮殿へのドローン攻撃事件の以前から、ウクライナのロシア占領地域内と、ロシア領内におけるドローン攻撃・テロ事件が頻発していました。攻撃の主体は明らかになっていませんが、ウクライナ軍によるドローンが確認されている件もあります。
3月29日 クリミア中部シンフェロポリ市のロシア軍航空基地がある地域でドローンが畑に墜落し、黒煙。
4月23日 ウクライナのドローンがモスクワのルドネヴォ工業団地の近くで墜落。プーチン大統領暗殺未遂。
4月24日 クリミア半島セヴァストポリ市へのウクライナ軍による無人機攻撃。
4月24日 爆発物を積んだドローンがモスクワの東にある農村部に墜落。機体はウクライナ製のもので、約17kgのC4爆薬を積んでいたとされる。
4月27日 ウクライナ南部にあるロシア占領地域の複数の場所ノバカホフカなどで27日、激しい爆発が発生した。
4月29日 クリミア半島セヴァストポリ市にある燃料貯蔵所への無人機攻撃で大規模火災。石油製品が入ったタンクの10基以上が破壊された。
5月1日 ブリャンスクの西で約150キロ(93マイル)貨物列車が爆発し脱線。
5月2日 ウクライナ南部ザポリージャ州メリトポリで2日、ロシアが任命した警察幹部が爆発物によって負傷し、入院。
5月2日 ウクライナ国境に近いウネーチャ近郊で、爆発により列車が脱線し、炎上。
5月3日 ロシア連邦保安局(FSB)が、クリミア半島で、暗殺を含む一連の攻撃を計画していたウクライナ工作員を拘束したと発表。
5月3日 ウクライナと国境を接するロシア西部ブリャンスク(Bryansk)州で2日、線路上の「爆発装置」が原因で貨物列車が脱線した。
5月3日 ウクライナは4月、オデッサ地域に最大4000人の軍人を派遣し、モルドバの沿ドニエストル共和国の分離地域への侵攻の基礎を築いていると『RT』がスクープ。
5月3日 レニングラード地方の送電線から爆発物らしきもの6点が発見される。
5月3日 フィンランドのロシア領事館に爆発物が投げ込まれる。
5月4日 ロストフ地方の石油精製工場の敷地内にドローンが墜落。
5月4日 クラスノダール州の製油所で石油製品の入ったタンクから出火。火災の原因はドローンの墜落。
5月4日 タマンの油槽所の燃料タンクで火災。火災の原因は、ドローンの落下であった。
- 「ウクライナ」のニュース(CNN、ライブアップデート)
ロシア大統領府は、「キエフがプーチン大統領を標的としたテロ攻撃だ」と声明
ロシア大統領府は、3日14時35分(モスクワ時間)に、キエフ(ゼレンスキー政権)が、プーチン大統領を標的としたテロ攻撃をおこなったとするメッセージを出しました。ロシア大統領府は2台のドローンが攻撃を試みたと発表しました。動画には写っていないもう1台のドローンがあったようです。『BBC』が公開した、ドーム屋根から出火している動画は、もう1台のドローンによる攻撃であると思われます。
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<ここから特別公開中>
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ロシア大統領府が公開した声明は以下です。
「昨夜、キエフはクレムリンにあるロシア連邦大統領官邸に対して無人航空機による攻撃を試みた。
2台の無人航空機がクレムリンを標的とした。軍と特殊部隊によるレーダーシステムを使った即時行動により、無人機を無効化することができた。無人航空機はクレムリンの敷地内に墜落し、破片が散乱したが、死傷者や被害は発生しなかった。
我々は、これらの行動を、戦勝記念日や外国からの賓客などが出席する5月9日のパレードを前に行われた、大統領を標的とした計画的なテロ攻撃および暗殺の試みと見ている。
大統領は、このテロ攻撃による被害を受けていない。大統領の仕事のスケジュールは変更されず、通常通り進められている。
ロシアは、いつでもどこでも適切と判断した場合、報復措置を取る権利を留保する」
ロシア大統領府は、「軍と特殊部隊によるレーダーシステムを使った即時行動により、無人機を(電子的に不具合を起こすなど)無効化することができた」と主張していますが、動画からは、ドローンが自爆したのか、ロシア側の何らかの措置によって爆発させられたのか、判断できません。
ロシア大統領府は、報復攻撃などを講じる「権利を留保する」と表明しています。しかし、ロシア大統領府の発表通り、このクレムリン宮殿のドローン爆発事件がプーチン大統領を狙ったものであり、プーチン大統領が暗殺された場合、即時キエフ空爆、あるいはキエフにあるウクライナ大統領府への爆撃があってもおかしくはない状況でした。
『インターファクス』(3日)などによると、モスクワのセルゲイ・ソビアニン市長は3日、州当局の決定により使用されるドローンを除いてモスクワで禁止される、とテレグラムで発表しました。
ただし、本当にプーチン大統領の暗殺を狙った攻撃であれば、プーチン大統領が不在の大統領府を襲撃した無意味な攻撃ということになります。ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、プーチン大統領がドローン襲撃の際にどこにいたのかを明らかにしていませんが、プーチン大統領は最近モスクワ近くの彼の住居(モスクワ地方のノヴォ・オガリョヴォにある大統領官邸)で仕事をしている、と説明しています。
この攻撃には、ロシアにとって重要な意味を持つ5月9日の戦勝記念日の式典を前に、プーチン大統領の暗殺予告や式典に対するテロ攻撃予告をするという意味があるのかもしれません。ペスコフ報道官は、「戦勝記念日のパレードには影響しない」と付け加えました。
ウクライナ政府はドローン攻撃への関与を否定するが、クレムリン攻撃の記念切手を発行すると発表
他方、ウクライナ側は、このドローン攻撃への関与を否定しています。
『ブルームバーグ』(3日)は、「ウクライナのニキフォロフ大統領報道官がブルームバーグニュースへの文書で、『ゼレンスキー大統領がこれまで何度も述べた通り、ウクライナは持てる全ての資源と装備を自国の領土解放に使う。外国の領土への攻撃には使わない』と説明した」、と報じました。
ニキフォロフ大統領報道官の上司で、常に好戦的なポドリャク大統領補佐官は、ツイッターに以下のように投稿しました。
「クレムリン上空の無人偵察機について。
それはすべて予測可能なことだ…。ロシアは明らかに大規模なテロ攻撃を準備している。だから、まず、クリミアで破壊活動を行ったとされる大規模なグループを最初に拘束したのだ。さらに、『クレムリン上空の無人機』のデモンストレーションを(IWJ注:ロシアが)行ったのだ。
まず第一に、ウクライナはもっぱら防衛戦争を繰り広げており、ロシア連邦の領土の標的を攻撃していない。何のために? これは軍事問題を解決できない。それはRF(ロシア連邦)に民間人への攻撃を正当化する根拠を与える…。
第二に、私たちは、RFのさまざまな部分で発生している事故や事件の数が増えていることを興味深く見守っている。エネルギー施設やクレムリンの領土での正体不明の無人航空機の出現は、地元の抵抗勢力のゲリラ活動を示しているとしか思えない。ご存じのように、ドローンはどの軍用品店でも購入できる…。
プーチン一族による、国に対する権力支配の喪失は明らかだ。しかしその一方で、ロシアは空の(IWJ注:実質を伴わない)完全支配を繰り返し主張している。一言で言えば、RFで何かが起こっているのだ。クレムリン上空ではウクライナの無人偵察機が存在しないことは間違いない…」
つまり、ポドリャク大統領補佐官は、クレムリン宮殿へのドローン攻撃にウクライナ政府は関与しておらず、ドローン攻撃をおこなったのは、ロシア政府自身による「デモンストレーション」(ロシアによる自作自演の偽旗作戦)か、ロシア国内の反プーチン勢力によるゲリラ攻撃であると主張しています。
- ポドリャク大統領補佐官のツイート(2023年5月3日午後10:06)
しかしその一方で、ウクライナ郵政公社(ウクルポシュタ)は、クレムリン宮殿へのドローン攻撃を記念して、新しい切手を発行するとツイッターで発表しました。
キエフポスト「ウクライナの郵便公社#Ukrposhtaは、 #Kremlinへの夜間攻撃の後、新しい切手の発行を発表した」
新しい切手の図柄は、ドローンが飛来して赤の広場から見たクレムリン宮殿の丸いドーム屋根が燃え上がり、それをウクライナ兵が見上げるという構図になっています。クレムリン宮殿攻撃を「喜ばしいこと」として歓迎している立場であることは明確です。
こうしたウクライナ側の反応には既視感があります。昨年のクリミア大橋爆破事件でも、「ロシアによる偽旗作戦」であるか、「反プーチン派のゲリラ活動」だと指摘する一方、今回同様、記念切手を発行していました。
- キエフポストのツイート(2023年5月3日午後11:32)
ウクライナ郵政公社は、クリミア大橋が爆弾を積んだトラックで爆破された時(2022年10月8日)に、同じようにはしゃいで記念切手を発行しているのです。『ウクルインフォルム』によると、スミリャンシキー・ウクライナ郵便公社総裁は、以下のように自身のテレグラムに投稿しました。
「11月4日には、ロシア侵略に対するウクライナの抵抗開始から8年8か月8日が経過する。また11月4日は、ロシアにおける祝日『民族統一の日』だ。私たち、ウクルポシュタは、善意に満ちていることから、私たちの敵にもプレゼントを作っている。そのため、11月4日金曜日には、ウクルポシュタは新しい切手を発行する。『クリミア橋をアンコール!』である。実際に誰が橋を爆破したかは重要ではない。攻撃された、私たちには、その事実で十分である」
クリミア大橋の爆破について、ウクライナ側は反プーチン派によるものと主張していますが、ロシア側は、「ウクライナの情報機関によるテロ行為」であり、テロ攻撃を主導したとして、ウクライナ国防省情報総局のキリロ・ブダノフ局長に逮捕状を出しています。
常識的に考えて、「偽旗作戦」を実行され、攻め込まれた側が、喜んで切手を発行することは考えられません。歴史上、有名な偽旗作戦といえば、1964年、ベトナム戦争時に、米軍が北ベトナムに爆撃する口実として利用したトンキン湾事件(※1)であるとか、旧日本軍の関東軍が起こした1928年の張作霖爆殺事件(※2)や、同じく1931年の柳条湖事件(※3)などがあります。
いずれも、「偽旗作戦」の罠にはめられて、攻撃された北ベトナムや満州、中国の側が喜んでこれを歓迎し、記念切手を発行した、などという事実はありません。
(※1)トンキン湾事件:北ベトナム沖のトンキン湾で北ベトナム軍の哨戒艇がアメリカ海軍の駆逐艦に2発の魚雷を発射したとされる事件。米国が本格的にベトナム戦争に改修する口実となった。
(※2)張作霖爆殺事件:日本の関東軍が奉天軍閥の指導者張作霖を暗殺した事件。 関東軍はこの事件を国民革命軍の仕業に見せかけ、それを口実に南満洲に進行し占領しようとしていた。この事実は戦後まで明らかにされなかった。
(※3)柳条湖事件:満洲の奉天近郊の柳条湖付近で、関東軍が南満洲鉄道(満鉄)の線路を爆破した事件。関東軍はこれを中国軍による犯行と発表することで、満洲における軍事展開およびその占領の口実として利用した。
参照:
・偽旗作戦(wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%81%BD%E6%97%97%E4%BD%9C%E6%88%A6
ロシア政府内部から、ゼレンスキーを排除すべきとする強硬論も
今回のドローン攻撃が、仮に「脅し」であったとしても、偶然プーチン大統領がクリムリンに居合わせて死亡したり、ロシア側がウクライナを叩きのめし、その領土を全て手に入れる口実が欲しい、と常日頃から強く念願していたりすれば(こうした見方は、ウクライナ侵攻を、ロシア帝国の再現を目指すプーチンの野望、というざっくりとした見方をする論者に共通しています)、上記に述べた通り、即時キエフへの報復空爆、NATO参戦、第3次世界大戦へと歯止めのかからない戦争の拡大につながりかねない危険な攻撃でした。
『TASS』(3日)は、前ロシア大統領で、ロシア安全保障理事会副議長ドミトリー・メドベージェフ氏が「ゼレンスキー大統領と『その陰謀集団』を物理的に排除する以外に選択肢がなくなった」と、自身のテレグラムチャンネルで語ったと報じました。話し合いはもう必要ない、抹殺あるのみだ、という非常に強硬な主張です。
同『TASS』によれば、メドベージェフ氏は「(ゼレンスキー大統領は)無条件降伏の文書に署名する必要さえない」「ご存知のように、ヒトラーもそれに署名しなかった。常に何らかの代替者がいるだろう」と書きました。
日本の主要メディアでは、プーチン大統領の「悪魔性」を面白おかしく際立たせるために、プーチンを「狂人」「狂気の独裁者」「プーチンさえ排除できれば事はすむ」などという愚論が昨年来、飛びかい続けています。しかし、プーチン大統領は、実際にはロシア国内の強硬派を押さえ込んできた人物です。ロシアの中には、大衆レベルでは平和を求める人々もたくさんいますが、政治指導者のレベルでは、かなりの強硬派がひしめいています。
メドベージェフ氏は、プーチン氏とともに大統領の席をかわるがわるつとめてきた「タンデム」の片翼であり、見た目はプーチン氏よりずっと温厚そうですが、思考はプーチン氏より、はるかに強硬です。プーチン氏が暗殺されたら、ロシアを率いる後継者候補の一人でしょう。プーチンさえいなければ、ロシアは「気の抜けたぬいぐるみの熊」のようになる、というのは、ロシアについて何も知らない半可通な人間の言うセリフです。
『アルジャジーラ』(3日)は、メドベージェフ氏が「ゼレンスキーの『排除』を求め」、ロシア下院議長のヴォロディン氏が「我々は、キエフのテロ政権を阻止し、破壊することができる武器の使用を要求する」と述べたと、報じました。
ロシア下院には、昨年2月のロシア軍によるウクライナ侵攻以前から、ウクライナ東部の独立国家の承認を強く求め、ロシア軍の関与を積極的に求める強硬派がいます。
ドローン攻撃の日、ゼレンスキー大統領はたまたまNATOに加盟したばかりのフィンランドで会談、安全圏からウクライナの関与を否定
プーチン大統領は、ドローンが爆発した時、クレムリンにはいませんでした。
そしてなんと、ただちに報復攻撃を受ける可能性があったゼレンスキー大統領も、ウクライナ大統領府、いや、キエフにはいませんでした。
あらかじめ、体をかわしていたのでしょうか、ゼレンスキー大統領は、3日、NATOに加盟したばかりのフィンランド首都ヘルシンキに到着し、3日午後にニーニスト大統領と「ウクライナ支援やその他安全保障分野の喫緊の問題」について会談を行いました。ニーニスト大統領との共同記者会見で、ゼレンスキー大統領は、ウクライナのNATO完全加盟への強い希望を表明しました。
クレムリン攻撃事件によるロシアとの対立の激化を想定に入れて、NATOに加盟することよりも、この紛争を拡大し、NATO軍を戦争に引き込もう、とする呼びかけのように聞こえます。
「戦争が続いている内は、私たちはNATOに入れない。私たちはそれを明確に認識している。しかし、私たちは、オープンドア(ウクルインフォルム編集注:NATOのオープンドア政策)の他に、パートナーたちが私たちに、将来の何かだけでなく、ウクライナ社会を奮起させる何かしらの強力な行動を私たちに対して行うことを望んでいる。私たちは今日支援を得たい。現在、私たちはその方向で、ウクライナの(ウクルインフォルム編集注:NATO加盟への)招待という政治的なサポートを望んでいる」
ゼレンスキー大統領は、ウクライナ・北欧首脳会議で、デンマーク、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの各国首相との二国間協議も行いました。
ゼレンスキー大統領は、3日夜遅くに、オランダのスキポール空港に到着しました。4日にオランダのマーク・ルッテ首相と会談し、ハーグで「ウクライナに正義なくして平和はない」と題する演説をする予定です。
- ゼレンシキー宇大統領、フィンランド訪問を開始(ウクルインフォルム、2023 年5月3日)
「たまたま」安全圏にいたとする、ゼレンスキー大統領は、ウクライナがクレムリン攻撃を行ったことを否定しています。
『NBC』(3日)は、ゼレンスキー大統領によるヘルシンキでの発言を紹介しています。
「我々はプーチンやモスクワを攻撃しているわけではない。我々は自分たちの領土で戦い、村や都市を守っている」「まだ十分な武器がない。そのため、他の場所(IWJ注:ウクライナ国内の戦場以外の場所)では使わない。赤字だ。すべてをどこでも使用することはできない」
同『NBC』は、「2人の米国当局者は、(ロシアの偽旗作戦である可能性は不明だが)ワシントンがウクライナに提供した可能性のある無人機が使用されることに懐疑的だった」と報じ、「リークされた米国の諜報文書の一部によると、ウクライナのエージェントは、米国と西側の希望に反して、ロシア国内で無人機攻撃を追求している」と指摘しました。
リークされた一連の諜報文書の中には、かねてよりウクライナ側が米国の言うことを聞かずに暴走して、ロシア国内でドローン攻撃を試みる懸念があると書かれていたと言うのです。
これはウクライナ犯行説を補強する、有力な状況証拠といえそうです。
米独立系メディアが「ウクライナの銀行家がロシアでの無人機テロに資金を提供した」とスクープ
米国の独立系メディア『グレイゾーン』(米国時間2日)は、アレクサンダー・ルビンシュタイン氏による「ウクライナの銀行家がロシアでの無人機テロに資金を提供した」とするスクープを掲載、「ナチス・ドイツの敗北を記念する祭典は、ウクライナの政権中枢にいるエリートたちにとって、最も自然な標的である」と報じました。
ネオナチと極めて親和性の高い現在のウクライナの政権中枢は、ソ連の赤軍がナチス・ドイツ軍を破った戦争の記念式典を狙って、ドローン攻撃を敢行した可能性がある、というわけです。
この場合は、プーチン大統領暗殺という「実」を狙ったというより、ロシア(ソ連)の大祖国戦争勝利記念日に対し、シンボリックに「ニエット(NO!)」をつきつけるということが狙いとなります。
ルビンシュタイン氏によれば、「プーチン大統領を狙った無人機による暗殺が失敗する数日前、ウクライナの銀行王ヴォロディミル・ヤツェンコは、モスクワで開催される戦勝記念パレード中に赤の広場に無人機を着陸させることができる兵器メーカーに50万ドルの賞金を提供することを申し出た」。銀行家といえば聞こえはいいかもしれませんが、要するにウクライナ・オリガルヒの一人です。経済マフィアと考えてもらって、何もおかしくありません。
ルビンシュタイン氏は同記事で、4月23日にプーチン大統領の訪問先を狙った、モスクワのルドネヴォ工業団地の近くでドローン墜落事故について「(カナダ)オタワ政府はロシア軍に対するウクライナの戦いを支援するため、キエフに 60 億ドル相当の援助を提供していた」と指摘しています。
ルビンシュタイン氏によれば、ゼレンスキー政権が2022年7月に開始した「ドローン軍(Army of Drones)」という国際的な資金調達キャンペーンが、ロシア領内でのドローン攻撃の増加につながっている、と分析しています。「キエフ郊外の秘密の場所でのウクライナの最新のドローンパイロットグループのためのトレーニングセッション」が行われているとも指摘しています。
ルビンシュタイン氏は、5月9日の対ナチスドイツ戦勝記念パレードがテロ攻撃の対象になっていると指摘し、以下のように記事を締め括っています。
「ロシアの大祖国戦争として知られる第二次世界大戦でのソビエトの勝利は、今日に至るまでロシアの国家的誇りの源となっている。一方、西側が支援するキエフの政府は、ネオナチ大隊を軍隊に組み込み、ウクライナの第二次世界大戦時代のナチス協力者を公式の国家栄誉賞で表彰した。
キエフが戦場でモスクワに勝利する見込みが薄れるにつれ、キエフのエリートたちは、ロシア連邦内で空中テロの戦略を公然と推進している。ナチスドイツの敗北を記念する祝賀会は、おそらく彼らの最も自然な標的だ」
知らぬ存ぜぬの米政府、ウクライナが主張するロシア偽旗作戦説を否定せず
米国が提供したドローンが、テロ攻撃に使われた可能性を指摘されていることに対し、米政府の反応は曖昧です。
上記『ブルームバーグ』は、「ブリンケン米国務長官は、ロシアの主張を『いかなる方法によっても確認できない』と発言」し、ウクライナ側による攻撃だとする「ロシアの主張は全て極めて懐疑的に受け取っていると述べた」と報じています。
ホワイトハウスのカリーン・ジャン=ピエール報道官は5月3日の記者会見で、このドローン攻撃が「ロシアによる偽旗作戦」ではないかという記者の質問を否定しませんでした。
記者「(バイデン)政権は、プーチン大統領を狙ったクレムリンへの無人機攻撃の試みを阻止したというロシアの主張に何らかの妥当性があると判断していますか?」
ピエール報道官「我々は報告を認識していますが、現時点ではそれらの信憑性を確認することはできません。ですから、何が起こったのかについて、ここで推測するつもりはありません(後略)」
別の記者「このドローン攻撃の疑いについて、真偽を確認できないことは承知しています。しかし、それにもかかわらず、ウクライナ当局者が(IWJ注:ロシアによる偽旗作戦を)示唆したように、ロシアがこれを利用して新しい種類の挑発を開始する可能性について、あなたはどの程度懸念していますか?」
ピエール報道官「私はここは非常に気をつけたいと思います。 (中略)
お尋ねのように『(IWJ注:ロシアによる)偽旗作戦』について、本質的に言うのは時期尚早です。しかし、明らかに、ロシアにはこのようなことをした歴史があります。
しかし、繰り返しますが、私は推測したくありません。ここからは仮説には立ち入りたくありません。現時点では確認できません」
クレムリン宮殿に対するドローン攻撃を行ったのは誰なのか?
クレムリン宮殿へのドローン攻撃については、ロシア側と、ウクライナ側の主張は全く相入れません。特に「誰がクレムリン攻撃をおこなったのか」という点が焦点となっています。
以下、「犯人は誰か」という仮説について、整理してみます。
1. ロシア大統領府の主張は、「ウクライナ政府が、5月9日の対ナチスドイツ戦勝記念日を前にプーチン大統領の暗殺を試みた」というものです。
2. ウクライナ政府の主張その1は、「反プーチン派のゲリラ攻撃というものです。誰のことか、特定していません。
3. ウクライナ政府の主張その2は、「ロシアによる自作自演の偽旗攻撃」というものです。米政府はその可能性について、否定していません。
このなかで、1番目の対ナチスドイツ戦勝記念日記念式典が狙われているという指摘は蓋然性が高いように思われます。とはいえ、プーチン大統領の暗殺を狙ったといえるかどうかまでは断定できません。
2番目の「反プーチン派」は、「親ウクライナ派のネオナチ」にも置き換え可能です。具体的な集団を特定しての話ではなく、「そのような連中がいる」くらいの雑駁な話です。ゲリラ的なテロ集団が存在するとして、それらがウクライナ政府や西側諸国とどのような関係を持っているのかは明らかではありません。事件当日に、「たまたま」ゼレンスキー大統領が、NATOに加盟したばかりのフィンランドにいたことは、ウクライナ政府がクレムリンに攻撃が行なわれることを事前に察知していたのではないかとの疑いを抱かせますが、現時点でその証拠はありません。
要するに、1と2はどちらも決定打がありません。
こうして見ると、3番目のロシアによる自作自演説は、最も無理があるように思います。
ロシア側の自作自演であれば、「報復の権利を保留」などせず、間髪を入れずに、即座にキエフ・ウクライナへの総攻撃を始めているはずです。防衛戦争のように見せかけて、実は自分に有利な段階で、相手の虚をついて先制攻撃をかけるために、「偽旗作戦」は用いられるものです。ロシア軍が、直後から何も行動を起こしていないのを見ると、この説は時間が経つほど怪しくなるでしょう。
しばらく時間が経過してから、ロシアが準備をし直して、報復の反撃に出た場合、ウクライナ側の挑発に対して、遅れて反応した、という解釈が有力になります。
そのほかにも、クレムリンが攻撃を受けることはロシア側にとっては屈辱であり、プーチン政権の弱さを国民に見せることになることなどを考えると、ロシアによる自作自演説には疑問が多いと言わざるを得ません。
米国の関与はあったのか? 米政府高官は「ウクライナが決定すること」と責任逃れ発言、ロシア報道官は「事件の背後には米国がいる」と主張
「誰がクレムリン攻撃をおこなったのか」という疑問以外にも、もうひとつの焦点があります。仮に、ウクライナ政府または、ウクライナのテロ組織がクレムリン攻撃に関わっていた場合、米国はどの程度関与し、情報を掌握していたのかという問題です。
『ロイター』(3日)によると、ブリンケン国務長官は、ウクライナが独自にロシア領内への反撃を決めた場合、米国は批判するかとの質問に対しては、「ウクライナがどのように自衛するかはウクライナが決定することだ」と答えています。
「ウクライナがどのように自衛するかはウクライナが決定すること」というブリンケン国務長官の発言はあまりにも無責任です。元外交官で作家の佐藤優氏は、ウクライナ紛争は、「米国によって管理された戦争」だと述べています。佐藤氏は、その意味するところを、以下のように書き綴っています。
「アメリカは、この戦争がウクライナ国土の外へ広がり、米ロ戦争に発展することを恐れています。ウクライナへの支援も、この制約の下に行われています。アメリカによる『管理された戦争』の枠組みで戦っている限り、ウクライナは勝てないのです」
米国は4月初めに、米国防総省の機密書類が大量に流出した問題によって、ウクライナ軍の配備などの情報も漏洩してしまったため、ウクライナ政府を怒らせています。同じく、アングロサクソン諸国で構成された諜報機関ネットワークであるファイブアイズ参加諸国(米、英、豪、ニュージーランド、カナダ)をも、不安に陥れています。
ブリンケン国務長官は3日、ウクライナに対して新たに約3億ドル(約407億500万円)相当の軍事支援を行うと発表していますが、本当に米国はウクライナ紛争を管理できているのでしょうか?
そもそも、自国内で軍事機密を管理できていない米軍・米国が、他国の行う戦争を管理することができるのでしょうか? 火をつけたのは米国であっても、その後、とろ火で燃やすはずの火が、火力を増して手に負えなくなりそうになると、「ウクライナ任せ」にしてしまうのは、卑怯ではないでしょうか。
『ニューヨーク・タイムズ』は4日、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官が、毎日の電話会議で記者団に、クレムリンでの事件の背後には米国がいると繰り返し語ったと報じました。
『ニューヨーク・タイムズ』によると、ペスコフ報道官は4日、「そのような行動やテロ行為に関する決定は、キエフではなくワシントンで下されることをよく知っている」「そして、キエフは言われたことを実行する」と述べ、米国がウクライナに標的情報を提供したため、攻撃の責任を負っていると主張しました。
カービーNSC報道官は、「ペスコフ氏は単に嘘をついている」と批判、「これに米国が関与していないことを保証する」と述べています。
『ニューヨーク・タイムズ』は、ペンタゴンから漏洩した機密情報に触れ、「米軍が実際にウクライナに戦場を標的とするデータを提供している一方で、米当局者がモスクワに対する潜在的な、挑発的攻撃をウクライナに思いとどまらせるために働いていることを示している」と、カービー報道官を擁護しています。
ペスコフ報道官はウクライナがクレムリンでの水曜日の事件への関与を否定し、米国がそれを事前に知っていたことを否定したことは「絶対にばかげている」と主張しています。
米政府高官は「ウクライナは我々に事前に通知する義務はない」と主張、責任逃れか
『ポリティコ』は2日、「ウクライナは同盟国に反撃の詳細を隠す」と題する記事を掲載しました。ウクライナは米国で起きた機密情報の漏洩で、キエフ軍の位置や武器の備蓄、死傷者の予測などの詳細な情報が漏洩したため、ウクライナ側は米国や欧州諸国に対して、春の反攻作戦」に関する情報を非公開にした、と報じられています。
同『ポリティコ』によれば、ウクライナのある議員は匿名を条件に、キエフのトップは首都内の他の政治家にも反攻に関する詳細を隠しているため、「この計画(春の反攻作戦)を知っているのは、国内でも数人しかいない」と述べました。
米国の国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は「米国は依然として、リアルタイムの情報と諜報活動でウクライナの作戦を支援している」と述べる一方で、「我々が重視するのは、ウクライナの作戦に必要なものがすべて揃っているかどうかを確認すること」であり、「彼らは我々に事前に通知する義務はない」と述べています。
米国は、ウクライナ政府がテロ攻撃に関与していても、それを米国に対して通知する必要はないといいます。米国は膨大な武器を支援したり、衛星情報を提供したり、ウクライナ軍を訓練したりしていても、米国にはウクライナ戦略を管理する責任はない、と言っているように聞こえます。これはやはり、責任逃れではないでしょうか。
それとも、もはや米政府・バイデン政権は、ウクライナ軍やウクライナ軍の戦略を管理する能力はなく、ウクライナ軍がロシア領内を攻撃するがままにしているのでしょうか。そうだとしたら、「管理された戦争」から、「漂流し始めた戦争」と定義し直さなければならなくなります。そんな危うい「戦争主体」に、劣化ウラン弾を提供して、「その結果責任は負わない」とうそぶく英政府の無責任ぶりもまた、尋常ではありません。
いずれにしても、米政府・バイデン政権も、英政府も、もはやウクライナ紛争の行方に何の責任も持ちたくないと考えていることは明白です。水面下でコントロールしていたとしても、です。これは米英が責任を取りたくない嫌な方向に、戦争が漂流してゆく、という予感を抱かせます。
トルコのテロ専門家は「組織化された国際的な攻撃」だと指摘、欧州核戦争勃発のリスクを回避できるのか
『RT』は3日、クレムリンに対するドローン攻撃に対する専門家の見解を掲載しました。そこには非常に重要な指摘が含まれています。
・サンクトペテルブルク在住のドイツ人作家で従軍記者であるトーマス・ローパー氏「非常に驚いた」、「ワシントンは知らされていなかったのかもしれないし、知らされていたのかもしれない。反応でわかるだろう。ワシントンが知らされていなければ、これは核保有国の大統領を攻撃する非常に大きな危険であるため、怒りの反応があるはずだ」
・ドイツ野党グループの代表であるラルフ・ニーマイヤー氏「ロシアが報復しなければならないことに疑いの余地はない」「さらなるエスカレーションがあり、核兵器の使用の脅威に至るまで、それはまだ起こりうる(脅威だ)」
・トルコの国際法の教授でテロの専門家であるメスート・ハッキ・カジン氏「(ウクライナ紛争の)エスカレーションが(クレムリンへの)攻撃を計画した人々の目標であった可能性がある」「攻撃の背後にいる勢力は、ロシアとウクライナの間で進行中の紛争を『ヨーロッパ中心の戦争』に置き、モスクワを挑発して戦術的な核攻撃を開始させようとした可能性がある」「これは非常に受け入れがたい、非常に汚いゲームだ」「(攻撃を計画し、組織したのはキエフだけではなかったかもしれない)これは組織化された国際的な攻撃である」
ローパー氏の指摘を考えてみましょう。ブリンケン国務長官はまったく何事もなかったかのように次の約3億ドルの支援を約束しました。カービー報道官は「彼らは我々に事前に通知する義務はない」と述べ、米国が支援する武器をウクライナ側がどう使うかは「白紙委任」していると表明しています。米国には「怒りの反応」は見られません。
ニーマイヤー氏が指摘する「核兵器使用の脅威」は、ロシアの「報復の権利を保留する」としていったん「保留」されましたが、すでに英国が劣化ウラン弾をウクライナに提供しており、それらが使われたら、ロシア側がいつまで「保留」するか、何の保証もありません。
カジン氏の指摘は、さらに明晰であり、さらに深刻です。「組織化された国際的な攻撃」であり、複数の主体が背後にいて、ロシアを挑発してウクライナ紛争を欧州全体に広げようとしているというのです。仮にロシア側が「報復の権利を保留」しなければ、カジン氏が指摘する通りになっていたことでしょう。ロシアの冷静さと欧州の覚醒が、これからも繰り返されるであろう、こうした欧州核戦争勃発の挑発を耐え忍んで、停戦にもっていけるかどうかが鍵になります。
ウクライナ紛争は現在、東部ドネツク州バフムート周辺でこう着状態が続き、「もはやウクライナの勝利はない」「ロシア側が住民投票を行いロシアへの併合を宣言した4州をウクライナ側が取り戻すことは絶望的だ」という見方が強まる中、和平へ声を上げた中国を中心に、欧州からも停戦へと向かう動きが顕在化しています。
しかし、停戦を好まず、あくまでもウクライナ紛争を継続したい主体(それが米国なのか、EUのトップ集団なのか、ゼレンスキー政権なのか、ウクライナ軍のトップなのか、ゲリラ的な民兵組織なのか、あるいはロシア側の勢力なのか、それらの全体が関与しているのかは、現段階では断言できませんが、およその推測はつきます)が、今後も繰り返し、ロシア領内(ロシアが領内だと考えるクリミアやウクライナ東部南部の4州も含む領域内)へのテロ攻撃を続ける可能性は非常に高いと言わざるを得ません。ロシアはいつまで「報復の権利を保留」し続けるでしょうか。
ウクライナ紛争は、第3次世界大戦への非常に大きな分岐点に至っています。