IWJ代表の岩上安身です。
ジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授について、IWJは、ウクライナ紛争当初から注目してきました。
その言葉は、核保有大国ロシアという現実を前提にしたリアリズムから導かれる現状分析と現実的な提言を特徴としています。
そのミアシャイマー教授が、ウクライナ紛争の結末について、注目すべき発言を行いました。
一つは、6月30日にストリーミング配信された、ジャーナリストのグレン・グリーンウォルド氏による1時間45分のインタビュー「INTERVIEW: John Mearsheimer―Leading International Relations Scholar―On US Power & the Darkness Ahead for Ukraine | SYSTEM UPDATE #109」における発言です。
もう一つは、6月24日に、ミアシャイマー教授のサブスタック(日本の「note」のような媒体でメルマガとして購読者に配信される)に発表された「前途の闇: ウクライナ戦争の行方(The Darkness Ahead: Where The Ukraine War Is Headed)」です。
- The Darkness Ahead: Where The Ukraine War Is Headed(ミアシャイマー教授のサブスタック、2023年6月24日)
IWJは、ジョン・ミアシャイマー教授のサブスタックを、長文ですが、重要な現状分析を含むため、全文仮訳しました。3回に分けて内容をお伝えします。
以下から、ジョン・ミアシャイマー教授の論文「前途の闇: ウクライナ戦争の行方(The Darkness Ahead: Where The Ukraine War Is Headed)」(第2回)の全文仮訳となります。
第1回は、以下のURLから御覧いただけます。
― – ― – ― – ― – ― – ― – ―― – ― – ― – ― – ― – ― – ―
「今日の戦場
戦場での出来事に目を向けると、戦争は消耗戦に発展しており、両陣営は主に相手にダメージを与え、降伏させることに腐心している。もちろん、両陣営とも領土を獲得することにも関心を寄せているが、その目的は相手を消耗させることに比べれば二の次である。
2022年後半、ウクライナ軍は優位に立ち、ハリコフやケルソン地方でロシアから領土を奪い返すことができた。しかし、ロシアは30万人の兵力を追加動員し、軍を再編成し、前線を短縮し、失敗から学ぶことでこれらの敗北に対応した(原注24)。2023年の戦闘の中心地はウクライナ東部で、主にドネツクとザポロージェ地域である。ロシア軍が今年優勢だったのは、主に消耗戦において最も重要な武器である大砲において、ロシア軍がかなり優位に立っていたからである」。
- (原注24)Russo-Ukrainian War: Schrodinger’s Offensive(Big Serge Thought、2023年3月2日)
「モスクワの優位はバフムートの戦いで明らかで、ロシア軍は5月下旬(2023年)に同市を占領して終結した。ロシア軍はバフムートを制圧するのに10カ月を要したが、大砲でウクライナ軍に甚大な損害を与えた(原注25)。
その直後の6月4日、ウクライナはドネツク地方とザポロージェ地方のさまざまな場所で待望の反攻を開始した。その狙いは、ロシアの防衛最前線に侵入し、ロシア軍に驚異的な打撃を与え、現在ロシアの支配下にあるウクライナの領土のかなりの部分を奪い返すことにある。要するに、2022年にハリコフとケルソンでのウクライナの成功を再現することが目的なのだ」。
- (原注25)The Battle of Bakhmut: Postmortem(Big Serge Thought、2023年6月3日)
「ウクライナ軍はこの目標を達成するためにこれまでほとんど前進しておらず、代わりにロシア軍との致命的な消耗戦に陥っている。2022年、ウクライナがハリコフとケルソンの作戦で成功したのは、ウクライナ軍が、戦線を拡大して数で劣ったロシア軍と戦っていたからだ。今はそうではない。 ウクライナは、十分に準備されたロシア軍の防衛線を前にして攻撃しているのだ。仮にウクライナ軍が防衛線を突破したとしても、ロシア軍はすぐに戦線を安定させ、消耗戦が続くことになる(原注26)。ロシア軍が火力面でかなり有利なため、ウクライナ軍はこうした戦闘で不利な立場に立たされている」。
- (原注26)Russia’s improved weaponry and tactics challenge Ukraine offensive(Military Times、2023年6月12日)
「我々はどこへ向かうのか
さて、ここで話を現在から未来に移し、戦場での出来事が今後どのように展開されるかを考えてみたい。前述の通り、私はロシアが戦争に勝利し、ウクライナの領土を大幅に征服・併合し、ウクライナを機能不全のランプ国家として残すことになると考えている。私が正しければ、これはウクライナと西側諸国にとって痛ましい敗北となる。
しかし、この結果には明るい兆しもある。ロシアの勝利は核戦争の脅威を大幅に減らす。というのも、ウクライナ軍が戦場で勝利を収め、キエフがモスクワに奪われた領土のすべて、あるいは大部分を奪還すると脅した場合、核戦争がエスカレートする可能性が最も高いからだ。
ロシアの指導者たちは、この状況を救うために核兵器を使用することを真剣に考えるに違いない。もちろん、私が戦争の行方について間違っていて、ウクライナ軍が優勢になり、ロシア軍を東に押しやり始めたら、核兵器使用の可能性はかなり高まるだろう。
ロシア軍が戦争に勝つ可能性が高いという私の主張の根拠は何か。
強調したように、ウクライナ戦争は消耗戦であり、領土の獲得や保持は二の次である。消耗戦の目的は、相手側の軍隊を消耗させ、戦闘をやめるか、あるいはもはや紛争地域を防衛できないほど弱体化させることである(原注27)。
消耗戦を誰が勝つかは、ほとんど3つの要因の関数で決まる。両軍の覚悟のバランス、両軍の人口バランス、および減損数比(casualty-exchange ratio(※IWJ注1))である。ロシア軍は、人口規模では決定的な優位にあり、減損数比では顕著な優位にある」。
- (原注27)Ukraine attempts to attack, Russia grinds down enemy forces ― commander(TASS、2022年10月19日)
(※IWJ注1)casualty-exchange ratio(減損数比)は、戦闘で片方の軍隊が負傷者または死亡者を出した数と、もう片方の軍隊が負傷者または死亡者を出した数の比率です。この比率は、戦闘の勝敗を判断する重要な指標の一つです。
覚悟のバランスを考えてみよう。前述したように、ロシアとウクライナはともに存亡の危機に直面していると考えており、当然ながら、双方は戦争に勝つことに全力を注いでいる。したがって、両者の覚悟に意味のある差を見出すのは難しい。
人口規模については、2022年2月の開戦前は、ロシアが約3.5対1で優位に立っていた。それ以来、比率は明らかにロシア有利に変化している。
約800万人のウクライナ人が国外に脱出し、ウクライナの人口が減少した。そのうちのおよそ300万人がロシアに移住し、ロシアの人口を増やしている。さらに、ロシアが現在支配している地域には、おそらく400万人ほどのウクライナ人が住んでおり、人口の不均衡はさらにロシアに有利に働いている。これらの数字を合わせると、人口規模ではロシアが約5対1の優位に立つことになる(原注28)」。
(原注28)紛争開始時のロシアの人口はおよそ1億4400万人、ウクライナの人口は4100万人で、この数字にはドンバスに住む人々は含まれているが、クリミアに住む240万人は含まれていない。つまり、3.5:1の割合でロシアが有利ということになる。
※ここから先は【会員版】となります。会員へのご登録はこちらからお願いいたします。ぜひ、新規の会員となって、あるいは休会している方は再開して、御覧になってください!https://iwj.co.jp/ec/entry/kiyaku.php
(会員限定・続きを読む :https://iwj.co.jp/wj/member/archives/517393)
― – ― – ― – ― – ― – ― – ―