岩上安身は2023年9月1日、安全保障と国際関係論の専門家である桃山学院大学法学部の松村昌廣教授へ、8月20日に続く第2弾インタビューを行った。
インタビューでは、ウクライナ紛争について、「米国ではウクライナ軍の『反転攻勢』があっという間に殲滅され、ウクライナは勝てないだろうという報道すらあるのに、日本は西側全体の中でも一番極端なプロパガンダ報道を繰り返している」という、岩上安身の指摘に対し、松村教授は「日本のメディアは能力面で、全体像をとらえることができていない。さらに情報を取れない、裏取りができないから、情報操作する政府側に頼っている。だからそんなもの」と、冷徹な見解を示した。
さらに松村教授は「日本には政権のオルタナティブとなりうる野党がない。大政翼賛会的になっていて、日本の民主制はもう終わっている。形の上ではリベラル民主制を取っていながら、(米国の言いなりに)自動操縦みたいに動いている」と指摘した。
その上で松村教授は、「日本の政治家や官僚の国際認識がひどいというのは、戦前からずっとそうで、驚くべきことじゃない」と述べ、「第2次世界大戦で負けた日本は、戦後ずっと米国の傀儡政権で、明確に傀儡政権であった占領時代から、ずるずるとなし崩し的に今日まで傀儡が続いている」と語った。
これに対して岩上安身が、「このまま覇権が衰退していく米国に、問題意識も持たず、ひたすら従属を続けていくのは危ういのではないか?」と疑問を呈すると、松村教授は(国際政治の常識として)100年単位で考えると、「戦後から100年後の2045年には、米国の覇権はおそらく崩れている。2045年までには(日本は)自立しなければいけない」との見通しを語った。
さらに松村教授は、次のように見解を示した。
「中国を台頭させたのは日本。経済的に繁栄していた日本に、米国がお金を出させ、それを米国の国際金融資本が、米国の金融市場やユーロ市場を使って、一番儲かる中国に投資した。
つまり、中国が台頭したのは、因果関係で言うと、日本が国単位の国際経済競争で、アメリカを事実上ノックアウトし、その後、日本が蓄積していた巨額な富を、米国の金融資本によって海外に流出させられ、それがぐるっと回って、結局は中国が台頭する原資になったということ。
そういう意味でいうと、前回(8月20日のインタビューで)米中は一蓮托生だと言いましたが、日米も一蓮托生だと考えると、日米中は一蓮托生なんです」。
インタビュー後半では、松村教授のご著書『衰退する米国覇権システム』(芦書房、2018年)を参照して、お話をうかがった。
松村教授は、「現状は、冷戦期の国際秩序が緩やかに崩壊しながら多極化が出現する過程にある」と指摘し、「米国の経済覇権の崩壊は、米国財政の危機と国防費の抑制を招き、米国は軍事覇権を維持できなくなる。米国の(経済覇権の根幹である)債権金融システムの破綻リスクは、日本にとっても『安全保障上の最大の脅威』」だと論じている。
これについて松村教授は、「日米同盟の本質は経済同盟。安全保障同盟ではない」と述べ、日本の自衛隊の成り立ちの根拠となった米国の「MDA法」には、「日本が米国に対して、いろいろな経済的な力を、可能な限り貸しますよ、と書いてある。その代わり、軍事的に(日本を)庇護するということ」だと明らかにした。
松村教授は「だから、本当は日米同盟の重要性は、経済的なものが大事なんです」と述べ、「そういう意味で言うと、NATO条約と日米条約は、アメリカから見て、何が重要なのかっていうことが、全然違うわけです」と語った。
「覇権が崩壊しつつある米国が、経済的な閉塞感を打破するために、核を使用する可能性はないのか?」という岩上安身の疑問に対し、松村教授は「米国の政権トップの、核使用に対する抑制と、レッドラインぎりぎりまでリスクを詰めていこうとする、そのレッドラインの見極め(次第)」だとして、次のように語った。
「特にこの10年ぐらいでみると、中国が核弾頭を1000発ぐらい持ちましたから、アメリカも、今までだったら米ソとか、米露でやったものが、米中露になると、関係が3倍になる。そんなにマネージできないから、よりもっと、抑制を効かさざるを得なくなる。
逆に言うと、中国が第3の核大国になるまでの時間の間に、そのトランジッション、移行期にリスクがあるということ。そういう意味で、今のリスクは高いでしょうね」。
さらに、「米国が中国を叩いてしまおうという可能性はどの程度ありますか? そこに日本が動員されてしまう可能性は?」との岩上安身の質問に、松村教授は「台湾有事がどれくらいの確率で起きるか」について、「少子高齢化が進んでいる中国は、内向きにならざるを得ない。長期的には老人国家になるので、中国の攻撃性というのは、まったく心配する必要はない」と述べた上で、次のように語った。
「ただし、今の(中国の)状況は、急速に(国力が)落ちながら、でもまだ力も持っているような余力があるので、外にいろいろ手を出せるというのが、この10年、15年ぐらいです。
ひょっとしたら、それはさらに短くなっているかもしれませんけども、その中期的な、10年そこそこの間が、非常にリスクが高いということで、このリスクは看過できないと思います。
だから、そうなった場合には、大局的にはそんなに差し迫った危機感はないが、非常に注意をして、そのリスクが、顕在化するというリスクは無視できないというか、かなり、僕はあると思います。
そういう意味で、準備はしておかなくてはいけなくて、そう言う意味ではアメリカの庇護というのは、頼りになるかどうかは別にして、必要だということですよね。
だから、本来は、日本には3つしかオプションがなくて、中国の軍門に下るというオプションと、それから核武装するというオプションと、それからスイスのように、非核の重武装国家になるという、この3つしかないわけです。
そうすると、非核の重武装国家というのは、恐らく今の国防費の3倍ぐらいいるわけで、短期的には5倍ぐらいいるわけで、それを選択するのか、それとも核兵器を持つのか、安くあげるのかというような、具体な選択肢しかないわけです。
これまでずっと言ってきた、頭がお花畑の人の世界では、無理なんです」。