「ウクライナ紛争というのは、本当に、米国覇権の終わりの始まり、その通りだと思います」〜岩上安身によるインタビュー第1124回 ゲスト 元外務省国際情報局長・孫崎享氏 2023.6.28

記事公開日:2023.7.2取材地: テキスト動画独自
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(文・IWJ編集部)

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 6月28日水曜日、午後4時すぎより、「ウクライナ紛争への深入りは『米国覇権の終わりの始まり』? 米国依存から離脱する動きがグローバルサウス諸国で急加速!!」と題して岩上安身による元外務省国際情報局長・孫崎享氏インタビューを、生中継フルオープンで配信した。

 IWJ事務所に現れた孫崎氏は、梅雨にもかかわらず、よく日焼けされて、大変お元気そうであった。岩上が「ガングロの孫崎先生、びっくりしました」というと、孫崎氏は「毎日皇居の周りを5キロ歩いて、調子が良くなるとジョギングもして」と述べ、と健康の秘訣を明かした。今年の7月で80歳になるということである。

 岩上も「ちょっと太ってしまって、メタボで糖尿病と言われてしまい、これから痩せようと思います」とダイエットを誓った。

 孫崎氏へのインタビュー直前、6月24日に、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創始者であるエフゲニー・プリゴジン氏が、ワグネル部隊を率いて、ロストフ・ナ・ドヌーにあるロシア南部軍管区司令部を含む重要な治安拠点を占拠し、部隊の一部がモスクワに向かって北上するという軍事クーデターが起こった。

 岩上は、冒頭、以下のように切り出した。

岩上「先週の土曜日から始まった、ロシアでのクーデター騒動『プリゴジンの乱』というべきもの、民間軍事会社ワグネルの部隊、いわばプリゴジン氏の私兵ですけれども、その私兵集団がドドドドドーっと、南部から首都モスクワをめざして進軍していると。

 これは容易ならざることになったと思われたんですけれども、わずか1日で白旗をあげるといいますか、ストップ。ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲裁により、ベラルーシにプリゴジン氏の身柄を預かるということになり、収束したと。

 本当に、『お騒がせ』だったんですけれども、そのお騒がせさわぎの中から、いろんなことが見えてきたという気がします」

 岩上安身は、ウクライナ紛争に米国が深入りしすぎ、西側諸国が「プリゴジンの乱」に関与していた可能性も出てきたと述べ、これは米国の覇権の「終わりの始まり」ではないか、と問いかけた。

岩上「米国の単独覇権維持のためにロシアを弱体化させ、中国も叩き、と。アメリカは『2正面作戦』ができる国だとずっと言ってきたわけですよね。これが、長いこと、(国家安全保障上の)ドクトリンだったわけですけど、それが今、保てなくなってる。

 どうも自分たちの覇権を強化するはずだったのが、泥沼化して。しかも、逆に『乱』を仕掛けたけれども、バフムートの前線から後方を撹乱しようと思ったことも空転した、と。

 これは、米国の覇権の『終わりの始まり』じゃないかという気がするんですね」

孫崎氏「いや、まったく。それが起こっていますね。アメリカの経済協力、これがどこに行ってるか、というのを見ると、もう、ウクライナ一極集中なんですよ。他の所へはほとんど行ってない。

 その間に何が起こってるかというと、中国がインフラであるとか、そういうところで発展途上国の方に、どんどんどんどん投資と外交をやっている。

 何が起こったかというと、一番典型的なことは、電気自動車。電気自動車は蓄電池がものすごく重要なわけですよね。蓄電池には、稀少金属、レアメタルが必要です。レアメタルを中国は全部持ってるわけですよね。ところが、海外の鉱山を全部押さえたんですよ。これが、ひとつの代表例なんですけれども。

 アメリカが、ある意味、意味のないウクライナ紛争をやっている。その間に、どんどんどんどん、中国に取られていって。典型的なのが、ここ一年ぐらいに、中東の図がすっかり変わりました。

 かつては、アメリカ―サウジ―イスラエルが、中東全部を、覆っていたわけですけれども。今はもう、サウジとイランとシリアが仲良くなって、そのうしろに中国とロシア、というね。

 だから、ウクライナ紛争というのは、本当に、『米国覇権の終わりの始まり』、その通りだと思います」

 岩上は、米国を代表する外交軍事評論誌『フォーリン・アフェアーズ』を例として持ち出し、さんざんウクライナ紛争を煽ってきた『フォーリン・アフェアーズ』さえも、とうとう、このウクライナ紛争は「ミッション・インポッシブル」だ、「お手上げ」だという論考を載せるようになった、と紹介した。

 岩上は、『フォーリン・アフェアーズ』の7月・8月号に掲載された「勝ち目のない戦争――ワシントンはウクライナで終戦を迎える必要がある」(6月5日発行)という記事をかいつまんで紹介した。

岩上「『ワシントンはウクライナで終戦を迎える必要があると』、この言い方がいいですね。ワシントンはこれ以上戦線を伸ばして、極端なことを言うと、ウクライナとNATOが突き進んでモスクワ占領まで行けば、本当の(ロシア)弱体化まで可能なわけですよね。プーチン政権を解体して。

 だけど、そんなばかなことを言ってるんじゃなくて。『もう、これは勝ち目がないからやめましょう』、と。『ミッション・インポッシブル』だという論文を載せるようになってきた。

 今、西側メディアは、特に日本のメディアは、後生大事に、アメリカのプロパガンダに全部、乗っかっているじゃないですか。かつてだったら、親米右派は乗るけど、左派は乗らなかった。それが今、左派・中道が全部のっかっているわけですよ。

 『テレビ朝日』、『TBS』、『朝日新聞』、まあ、言うまでもないという状態ですよね。本当に、『ロシアたたき』だけに奔走して、リアリズムで、事実を見るということをできなくなってる。これは、西側全体がそうですよね。

 アメリカは、それと抗うタッカー・カールソンみたいな人が出てきたり、スコット・リッターが出てきたり」

 タッカー・カールソン氏は、『FOXニュース』の看板番組から外されて、自分のツイッター番組を始めたが、その初回はなんと1億ビューを取った。岩上は、カールソンが言っていることはIWJが言ってきたこととほとんど同じだが、「日本のメディアではゼロに近い」と嘆いた。

岩上「何でしょうね。リベラルで仲良くやってきた人間たちから、まあ、手のひら返したように攻撃されてるんですけど。これは本当に、事態が、物事が見えないんだなぁと。なんでこれが見えないだろうと思って。

孫崎氏「記者だけじゃなくて、将来、大統領のところまで行かないとは思いますけれども、ロバート・ケネディ・ジュニア。彼も、『バイデン政権の外交政策の骨子は何か。戦争』という。これが出ているんですよね。だから、まさにアメリカは今、全力でウクライナ戦争を支援しているんだけれども、それと違う意見は必ず存在して、多くの人の目に見えるところで、それが起こっている。

 ところがね、日本ぐらいひどい国はないですね」

岩上「ないですね、本当に。これは、後に台湾有事が控えてて、『東アジア戦争がくるんだ、それは決定的なんだ』と。で、そのときには『絶対アメリカの力を借りなきゃいけないんだ』っていう論理なんですよ。間違いなくそのようになるから、『アメリカ様に守ってもらいたい』。

 いや、『守ってもらう』じゃなくて。アメリカは守ってくれないじゃないの。ウクライナに何一つ、自国の兵士を派兵してない。ポーランドにまでは行ってますよ。ポーランドに初めて米陸軍第五軍団(の前方展開司令部)が1万人ぐらい展開してるんですけれども。でも、自分の手は汚さないですよね、基本的に」

孫崎氏「非常に明確になってきてるのは、バイデン政権は、これ(ウクライナ紛争)をやろうというのがありますよね。で、大体、汚いことをやるとすると、戦争を含めて。下手人(実行犯)がアメリカじゃないんですよ。

 これが、バイデン政権のひとつの特徴ですね」

 岩上は、独露を結ぶノルドストリーム・パイプライン爆破事件では、米国メディアは、匿名の米政府高官らのリークをもとに、今や「ウクライナ」がやったと主張している、米政府も否定せず、ウクライナに責任を押しつけて終わりにしようとしていると指摘した。

岩上「あるいは、アメリカとウクライナが共同でやったんでしょう。そうしか考えられない。あのヌーランドが、『オッケー』を言った、という話もありますよね」

孫崎氏「その前に、バイデンが『俺がやる』『やるし、できる』と言っているんだから」

岩上「知らないわけはないし。ウクライナが暴走して、米軍には何も分からないなんて不可能ですよ。ウクライナにそんな技術ないですよ、はっきり言って。めちゃくちゃじゃないですか。

 ウクライナは今、破壊されてしまって、人材だってたくさん死んじゃってるのに。

 ウクライナ戦争が始まってすぐレーガン政権の顧問だった、保守派の論客が、『ワシントンは、ウクライナ人が最後の一人になるまでロシアと戦う』という、皮肉なタイトルの文章を書いている。

 つまり、これはアメリカが主体の戦争で、ウクライナは兵として使われて、最後のひとりまで、全滅するまでロシアと戦って。終わったら、ウクライナの負けだとして手を引くという話ですよね。

 (他方、『フォーリン・アフェアーズ』誌の論文は)ワシントンがもう、ロシアまでやるんじゃなくて、ウクライナで終戦を迎えろと。やめろと。

 浪費が激しすぎるんですよね。今、世界一、戦費を使ってるのはアメリカですよね。1位アメリカ、2位中国で、3位ウクライナなんですよ。勿論ウクライナの自主財源ではないですよね。借り入れと支援と、それから持ち込まれた軍備というのを計算すると3位なんですよね。

 それが、ほとんど消費されてしまって。早い話が、例えば防空網だって、パトリオットをキエフの周りに並べたけど、もう全部破壊されてるんですよね。だからいつでも(ロシア側は)首都攻撃できるんだけど、それをしないのは政治的に控えてるからだとプーチンは言ってるんです。

 こうした情報が、日本で出るかというと、全然、マスメディアは流さないんです。そういうことを伝えないメディアって本当に意味がないと思うんですけれども」

 インタビューはいよいよ「プリゴジンの乱」に入っていく。岩上安身は、プリゴジンやワグネルの存在を理解するためには、ロシア社会のことを知る必要がある、と切り込んだ。

岩上「6月24日に、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジンがプーチン政権に反乱を起こして、ワグネルはモスクワめざして北上、という話なんですけれども。

 ワグネルとはどういうものか。ソ連が崩壊した時代に、もう、わさわさ、こういうのができたんです。生で見てきました。

 新しいビジネスが立ち上がるじゃないですか。それを恐喝に行く『レケット』というマフィア達がいて。マフィアなんて短銃くらいしか持っていないと思ったら大間違いで。もう、守る方も重武装なんですよ。

 普通のオフィスビルを想像してほしいんですけども、モスクワ都心のビルの一階フロアに入ると、そこらじゅうに兵士が迷彩服でたむろしてるわけです。そこに、弾丸のベルトがあってバーっと回していくような重機関銃、あんなのを置いてる奴らがいっぱい、ゴロゴロいるわけです。民間のガードマンだと言ってるんですけれども。

 そこの社長といろいろ話して、とにかく官僚は賄賂を求めてくるし、マフィアは『みかじめよこせ』とか言ってくるし、下手すりゃ『株を全部よこせ』とか。ピストルを突きつけながらね。

 ヤクザはヤクザの方で、僕は話をたくさん聞いてますから、『どこでも何でも、俺らは自由に取れるぞ』って言うんですよ。だから(社長は)もう全力で、こういう形で守ってるんだと言ってたんですよ。

 そういう、このプリゴジンのような、ソ連崩壊後に、バーっと財を成した奴らを見てきたし、話してきたんですけど、僕が取材したある会社の社長は、その1ヶ月ぐらいあと、新聞に出てましたけれども、乗ってた車に爆弾仕掛けられて吹っ飛ばされて。爆殺されたと。(マフィアの)恐喝に応じなかったんでしょうね。

 だから(プリゴジン氏は)そういう修羅場を、潜ってきたような人で。『仁義なき戦い』が旧ソ連全土で起こっているような状態を想像してもらいたい。戦後、焼け跡に奪うものが、日本はそれほどなかったけど、何も戦争で壊れていない国の、ありとあらゆる資源とか建物とか不動産とか財産とかを巡って、争奪戦をやってきた中の勝ち残り組ですから。

 まあ、簡単に言えば、(プリゴジン氏は)『ヤクザの親分』みたいなものなんですよね。それが分からないと、彼の行動原理とか分からないと思うんですよ。軍人出身じゃないですし、エリート軍人でもないし。

 そういう人物と、対峙した側のプーチン政権の、厳しくしたり、寛容になったり、というのが分からないんじゃないかなと思って」

孫崎氏「私はウズベキスタン大使になった時にね、私の家の大家はそういう人だった。マフィア(の親分)」

岩上「それ、絶対安心ですよね」

孫崎氏「いやいやいや。だけど、それはウズベク系のマフィアじゃないわけ。抗争があって、結局殺された」

岩上「あ、その親分がね。前、その話聞いたことがありましたね。何系だったんですか?」

孫崎氏「えーと、コーカサスのどこかのほうです」

岩上「これ、民族間抗争にマフィアが絡んでくるからややこしいんですよね」

孫崎氏「だから下手すると、私も殺されてたかもしれない。そういう感じもあった」

岩上「本当は、それがウズベクのマフィアだったら、安全なんですよ」

孫崎氏「そうそう」

岩上「僕、コーカサスとか中央アジアに行ったときに、気に入られると、『お前、うちへ来い』と言って。食事をしたりすると、これ、チェチェンが特徴的だったんですけど、『もう、チェチェンの中でお前に手を出す奴はいない』というふうに言われましたね」

 インタビューでは、この後、「プリゴジンの乱」の顛末、そして、西側諸国の関与はなかったのかという疑問、NATOの大演習との関連などに踏み込んでいく。詳しくはぜひインタビュー全編を御覧ください。

*ソ連解体後の「無法地帯」となった旧ソ連諸国まで含めてレポートした、岩上安身の『あらかじめ裏切られた革命』は現在絶版になっていますが、日刊IWJガイドで少しずつ復刻連載をしています。ぜひそちらもお読みください。チェチェンの現地ルポも、所収されています。復刻連載の初回は以下になります。

  • <岩上安身『あらかじめ裏切られた革命』復刻連載(その1)>序文「ゴーリキーパークの世界精神」
  • ■ハイライト

    • 日時 2023年6月28日(水)16:00~18:00
    • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

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