「世界の経済成長の半分は中国プラスインドで支えている、G7サミットはもはや世界経済について議論する場所ではなくなった」~岩上安身によるインタビュー第1121回 ゲスト エコノミスト・田代秀敏氏 2023.5.25

記事公開日:2023.5.31取材地: テキスト動画独自
このエントリーをはてなブックマークに追加

(文・IWJ編集部)

※全編映像は会員登録すると、サポート会員の方は無期限で、一般会員の方は記事公開後の2ヶ月間、23/7/30まで全編コンテンツが御覧いただけます。→ ご登録はこちらから

 岩上安身は5月25日、G7広島サミットと、6月1日に迫った米デフォルト危機について、エコノミストの田代秀敏氏にインタビューを行った。

 日本政府はG7広島サミット開催にあたり、ロシアによるウクライナ侵略を背景に「法の支配に基づく国際秩序の堅持」「グローバル・サウスへの関与の強化」という「2つの視点」を掲げていた。

 しかし田代氏は、「G7サミットで、各国首脳はそれぞれ、自国の利益を保護するために議論するのであって、世界全体の利益のために議論しているように見えるのは『錯覚』だ」と指摘した。

 田代氏は、国際通貨基金(IMF)が公表している「購買力(PPP)換算国内総生産(GDP)の世界シェア」から作ったグラフを示し、G7諸国のGDP合計は2000年に新興・発展途上国のGDP合計に追い越され、2010年代後半には、新興・発展途上国の中のアジア諸国だけのGDP合計にも追い抜かれていることを明らかにした。

 さらに田代氏によると、今年2023年には、日本とアメリカのGDP合計が、中国1国に抜かれる「記念すべき年」になるとのこと。

 田代氏は、1980年代には、G7諸国全体の購買力平価で換算したGDP合計が世界全体に占める割合は、平均で50.9%だったため、G7サミットで世界全体の利益を考えて議論しているように錯覚されていたが、今回のサミットでは、経済的に台頭する新興・発展途上諸国から、G7諸国の利益を保護することが最大のテーマになったと指摘した。

 実際、政府が発表したG7広島サミットの「主要議題」の筆頭には、「対ロシア制裁、ウクライナ支援、『自由で開かれたインド太平洋(という名目の中国包囲網)』」といった「地域情勢」が掲げられていますが、「世界経済」という議題は設定されていません。

 田代氏は「去年は入っていたけど、今年はとうとう『世界経済』という議題がなくなったということは、もうあきらめたわけです」と述べ、次のように語った。サミットの場は、第1回目から世界経済について議論する場として設けられたのに、その命題を放棄してしまった、というのである。

 「世界最大の経済大国である中国を呼んでいなければ、世界経済を何とかするという議論をする意味がないわけじゃないですか。

 IMFが指摘している通り、現在、世界の経済成長の半分は、中国プラスインドで支えているわけです。その中国を呼ばないんだったら、それは世界経済を議論する場所ではないということです」

 また、田代氏はサミットの「2つの視点」のひとつ、「法の支配に基づく国際秩序の堅持」について、経済の視点からすると、アメリカ合衆国が主導して設立された、IMFや世界銀行などの国際機関にもとづく「アメリカ合衆国ドルを基軸とする国際金融システムや、それを土台とする世界経済秩序」を意味すると解説。そして、その「パックス・アメリカーナ」は、米国の圧倒的な経済力と軍事力が前提となっていたが、米国の経済力の衰退、銀行破綻リスク、米国債のデフォルト、アフガン戦争の敗北などによって、「失われつつある、あるいは、既に失われている」と指摘した。

 さらに「2つの視点」のもうひとつ、「グローバル・サウスへの関与の強化」について、田代氏は、「中国包囲網の形成の一環だ」と述べた。

 田代氏は、GDP世界シェアで急成長を続けるインドを、G7諸国の側に引き入れることができれば、中国を経済的に包囲できるという願望を込めて、インドのモディ首相を広島サミットに招待したのではないかと推測した。

 しかし、今回の広島サミットで招待された8か国のうち、オーストラリアと韓国を除く、インド、インドネシア、クック諸島、コモロ、ブラジル、ベトナムといったグローバル・サウスの国々は、パックスアメリカーナのダブルスタンダードに苦しめられてきた歴史を持っており、ウクライナ紛争に対して中立の立場をとり、対露制裁に参加していないなど、G7の目論見通りに行動していないと指摘した。

 実際、インドのモディ首相は、来日直前の『日本経済新聞』の単独インタビューに答え、「(民主主義と権威主義の二極ではなく)グローバル・サウスの一員として多様な声の架け橋となり、建設的で前向きな議論に貢献する」「インドは安全保障上のパートナーシップや同盟に属したことはない。その代わり、国益に基づき世界中の幅広い友人や志を同じくするパートナーと関わりを持つ」などと語り、伝統的な外交方針である「戦略的自律性」を貫く考えを示した。

 「クアッドが、本当に対中国のための軍事同盟になりうるなら、インドは参加していないでしょう。何のための、クアッド、なのでしょうか!?」

 また、ブラジルのルラ大統領は、サミット終了直後の記者会見で、ウクライナを支援するバイデン米大統領について、ロシアへの攻撃をけしかけていると批判。「ウクライナ問題はロシアと敵対するG7の枠組みでなく、国連で議論すべきだ」と訴えた。

  • はじめに~「ウクライナ支援での結束」即ち「即時停戦ではなく紛争の長期化」がテーマのG7広島サミット後の会見で「ウクライナ問題はロシアと敵対するG7の枠組みでなく、国連で議論すべきだ」と主張したブラジルのルラ大統領!「バイデン大統領がロシアへの攻撃をけしかけている」「和平を見出したいが、ノース(北=欧米日)はそれを実現しようとしない」と批判!! ゼレンスキー大統領も参加したセッションでも、ルラ大統領は「ヨーロッパ以外にも平和と安全の課題がある」と演説!(日刊IWJガイド、2023年5月24日)
    会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20230524#idx-1
    非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/52315#idx-1

 このルラ大統領の発言について田代氏は、「ここ(G7)で(戦争についての議論を)やると、国際法違反になっちゃうわけですよね。連合国憲章があるから、安全保障に関することは、そっちでやるっていう合意になってますよね。もともとG7は、経済問題を話すということで始まったはずだから、ここで扱うと国際法上、微妙なことになるはずなんだけど、なぜか日本の国際法の学者って、最近まったく沈黙しているので、(詳しいことは)わかりません」と述べた。

 その上で田代氏は、「(ブラジルのルラ大統領は)もともとは経済の議論をするというから来たのに、経済の話はしなくて、しかもそこにウクライナのゼレンスキー大統領がやって来て、また『武器をくれ、金をくれ』と。しかも、あろうことかゼレンスキー大統領は、ルラ大統領との個別首脳会談の約束をしたのに来なかったというのだから、すごい話ですよね」と述べた。

 さらに、インタビューで田代氏は、「G7共同声明は、自由貿易を否定し、世界経済の成長を阻害し、サプライチェーンを寸断し、経済分野における国家間協力を困難にするもの」だと批判した。

 詳しくは、ぜひインタビューのアーカイブを御覧ください。

■ハイライト

  • 日時 2023年5月25日(木)17:30~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

アーカイブの全編は、下記会員ページまたは単品購入より御覧になれます。

サポート会員 新規会員登録単品購入 550円 (会員以外)単品購入 55円 (一般会員) (一般会員の方は、ページ内「単品購入 55円」をもう一度クリック)

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です