IWJ代表の岩上安身です。
G7広島サミットの招待国、インドのモディ首相が、来日直前インタビューで「民主主義(G7中心)と権威主義(中露中心)の二極」のどちらにつくのか、という選択を拒否しました。
モディ首相は、「国益にもとづき世界中の幅広い友人や志を同じくするパートナーと関わりを持つ」と、G7とも中露とも外交関係を保つと表明しています。
19日から開催されているG7広島サミットには、メンバーの7か国以外にも、8か国(とウクライナのゼレンスキー大統領)と6つの国際機関の首脳が招待されています。
その招待国のひとつで、G20議長国であり、いわゆる「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国のリーダーとも目されているインドのモディ首相が、18日、インドの首都ニューデリーで『日本経済新聞』の単独記者会見に応じたと、19日付け『日本経済新聞』が報じました。
インドは「自由で開かれたインド太平洋」を標榜する、対中国封じ込めを念頭においた経済と安全保障の枠組み「クアッド」に参加する一方で、中国主導の経済枠組み、上海協力機構にも加盟しています。
『日本経済新聞』の記事は、モディ首相が「民主主義(IWJ注:G7中心)と権威主義(IWJ注:中露中心)の二極ではなく『グローバルサウスの一員として多様な声の架け橋となり、建設的で前向きな議論に貢献する』と述べた」と報じています。
『日本経済新聞』によると、モディ首相は「インドは安全保障上のパートナーシップや同盟に属したことはない。その代わり、国益に基づき世界中の幅広い友人や志を同じくするパートナーと関わりを持つ」と語ったとのことで、記事は、「伝統的な外交方針である『戦略的自律性』を貫く考えを改めて示した」と報じています。
- インドのモディ首相、G7・中ロ「両陣営と連携」 単独会見(日本経済新聞、2023年5月19日)
岸田文雄総理は、ウクライナ紛争を背景に、G7広島サミットの重要課題として、「法の支配に基づく国際秩序を守り抜くとのG7の強い意志を力強く世界に示す」「グローバル・サウスと呼ばれる国々への関与を強化する」と掲げています。
- G7広島サミットの重要課題(G7 HIROSHIMA 2023)
さらにサミット開催前日に行われたバイデン米大統領との日米首脳会談では、「中国をめぐる諸課題への対応に当たり、引き続き日米で緊密に連携していくことで一致」したばかりです。
- 日米首脳会談(外務省、2023年5月18日)
また、昨日のこの日刊IWJガイドでもお伝えしたように、米国はこのサミットの最重要議題を、「中国による経済的威圧への対抗」だと表明しています。
・はじめに~G7広島サミットの最重要議題は「中国による経済的威圧への対抗」!? エマニュエル駐日米国大使が「G7(サミット)では声明以上の行動を期待する」とツイート! 一方、中国外交部の汪文斌報道官は会見で「『経済的威圧』のレッテルが最もふさわしい国が米国。1980年代の『プラザ合意』の被害者である日本は、それを最も深く身をもって知っているはず」と指摘! 米国依存症の日本は米国からの「DV」は忘却!?(日刊IWJガイド、2023年5月19日)
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20230519#idx-1
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/52291#idx-1
モディ首相の発言は、G7メンバーの一方的な意思表明に、正面から「ノー」を突きつけた形です。
また、今回、ウクライナのゼレンスキー大統領が来日し、オンライン参加ではなく、21日に対面参加すると報じられ、ウクライナへの支援と、ロシアとの敵対的な関係を、対露制裁に加わっていないインドとブラジルに迫るであろうことが取り沙汰されています。
このモディ首相の、G7と中露と、どちらか一方につくことはない、という発言は、期せずして、ゼレンスキー大統領の要請をやんわり否定する前もっての「アンサー」ともなっています。
『日本経済新聞』の記事は、モディ首相が、「G7で『グローバルサウス』と呼ばれる新興・途上国の代表として『その声と懸念を増幅させ、彼らの優先事項が議題に含まれるよう提唱する』と明言した」と報じています。
G7広島サミットに続き、21日からは広島でクアッド首脳会談も開催される予定です。今後のモディ首相の言動が注目されます。
- クアッド、広島で21日に開催へ…バイデン大統領のオーストラリア訪問取りやめで(読売新聞、2023年5月17日)
エネルギー資源がなく、食料自給もできず、現代戦で戦争に至ったら、補給線を絶たれて「必敗」することが明らかな日本は、G7の一員でありつつ、中露をはじめ、エネルギー資源豊富な中東を含むグローバルサウスの国々とも手をつなぐ、インドの「戦略的自律性」を、見習うべきではないでしょうか。