2023年3月22日午後4時より、東京都千代田区の参議院議員会館にて、作家で元外交官の佐藤優氏と鈴木宗男参議院議員による「東京大地塾」が開催された。
テーマである「サウジアラビアとイランの外交正常化合意」と、「ICC(国際刑事裁判所)によるロシアのプーチン大統領への逮捕状発行」などについて、佐藤氏が講演を行い、その後、質疑応答が行われた。
冒頭、鈴木宗男氏は、岸田文雄総理のウクライナ訪問に触れ、次のように述べた。
「タイミングのいい大地塾になったなと。岸田総理がウクライナを電撃訪問されたということですね。また、その前にはインドにも行っておりますね。
ただ私は、せっかくインドに行って、ウクライナに行くならば、停戦についての話があんまり出てきませんね。岸田総理が、停戦に向けて大きなリーダーシップ、イニシアチブを、私は、発揮すべきだと思っていますし、してほしい。そう考える上で停戦の言葉があまり出てきていない。
バイデンの会談で、停戦について触れているとは思うんですけれども、しかし、もっと世界に向けてアピールした方がですね、私は、日本の国益にかなう、こう思っているんです。けれども、この点が聞こえてこないんですね」
佐藤氏は、講演の中で、「今年、私が一番驚いたニュースって、実は、習近平・プーチン会談とか、岸田さんのウクライナ訪問とかじゃないんだよね」と前置きすると、「ついこの前、3月10日、中国などの仲介で、イランとサウジアラビアが外交関係を正常化することに合意したというニュースを聞いて、私は、本当に飛び跳ねた。え、こんなことが起きるのか!? と」と述べて、手元に用意したニュースを読み上げた。
「2016年から断交していたイランとサウジアラビアは10日、外交関係を正常化することで合意した。両国の国営通信は報じた。両国の代表はこの日、北京で外交再開を盛り込んだ共同声明に署名したという。中東で、米国の影響力が低下する中、対立してきた地域大国の仲介を成功させた中国の存在感が大きくなることは確実だ。
両国の国営通信が報じた共同声明によると、声明には、イラン、サウジ、中国が署名。冒頭に、中国の習近平国家主席の崇高なイニシアチブに応え、と記し、中国側が仲介したことをうたっている」
その上で佐藤氏は、次のように語った。
「サウジアラビアはイスラム教スンニ派、イランはシーア派の大国だよね。イエメンの内戦をめぐって、フーシ派、これはイランが支援していた。これをめぐって対立してるよね。
また、2016年、サウジ国内で大規模な反政府デモが起きたんですよ。このデモの首謀者だったシーア派の指導者を死刑にしちゃったんだよね。サウジアラビアが。それでイランが怒って、外交関係の断絶に到った。
これは、宗教的な根っこがあるから、けっこう根深いのよ。
でも、今回、中国が大きな役割を果たして、2ヶ月以内に国交正常化することで合意した。しかもね、中国が向こうに出向いて行ったんじゃないんだよ。3月6日から10日、中国の首都、北京で、イランとサウジアラビアの代表者が協議した結果、外交関係正常化に至ったので、北京が中東和平の中心地になったというのは史上初。それだけ、中東におけるアメリカの影響力は目に見えて減退したということだよね」。
佐藤氏の分析の通り、イランとサウジアラビアの国交正常化についての合意により、中東への覇権的影響力が、従来の米国から中国へ移行した。これは何を意味するのだろうか。
日本は中東に石油を9割以上、依存している。この先、中国と中東の産油国との関係が密になり、同盟関係で結ばれるまでになる可能性も否定できない。
米国一国に依存、従属している日本が、たとえば『台湾有事』などをきっかけとして、中国と戦争状態に陥ったとすれば、中東の石油が手に入らず、戦争遂行はおろか、産業活動も、民間の暮らしの営みもすべてストップする事態に至ることは十分現実的だ。
岸田政権は、米国に追従して、中国とロシアをわざわざ敵視することに前のめりになっているように見える。自国の限界をわきまえ、「対米従属」一本やりの外交姿勢の修正が必要なのではないか、その点を、質疑応答で佐藤氏に意見を伺おうと考えたが、残念ながら、時間切れでかなわなかった。
次回の東京大地塾は4月26日の午後4時からの開催である。