2022年7月8日のお昼前、奈良市で参院選の応援演説中に安倍晋三元総理が銃撃された事件。安倍元総理が倒れこむ衝撃的な映像が瞬く間にテレビやネットで拡散され、夕方に「死亡」のニュース速報が流れると日本中に大きな衝撃が走った。
その日の夜、岩上安身は元外務省国際情報局長・孫崎享氏にインタビューを行い、孫崎氏はリアルタイムで事件の情報が入ってくる中、「報道がおかしい」と指摘していた。
逮捕された山上容疑者の犯行認否も明らかではない段階で、大手メディアは一律に「動機は政治的なものではなく、安倍元総理への不満」としていたことへの違和感だった。
あれから約1年後の2023年7月6日。岩上安身は東京都内のIWJ事務所で、改めて孫崎氏にインタビューを行い、当時の状況を振り返るとともに、今も残る多くの謎について意見をうかがった。
今号では、その7月6日のインタビューの、前号からの続きをお届けする。
孫崎氏は、ロシアのウクライナ侵攻直後のテレビ番組での、安倍元総理の発言に注目する。安倍元総理は、プーチン大統領が、ウクライナ東部2州に関して、かつてコソボ等の分離を軍事支援した西側の論理を使おうとしていると指摘。さらに、プーチン氏がNATOの東方拡大への不満から、「領土的野心からではなく、ロシアの防衛、安全確保から行動している」と述べていた。
加えて5月の英国の『エコノミスト』の取材で安倍氏は、ウクライナがNATO非加盟を約束し、東部2州の高度な自治権を約束していれば、「戦争回避は可能だった」とまで語ったのである。
孫崎氏は、こうした安倍元総理の一連の発言に対して、毎日新聞記者(世論調査室長兼論説委員の平田崇浩氏)が、「岸田文雄首相に背後から弓を引くに等しい、極めてロシア寄りの発言」であり、「岸田首相の周辺に、安倍元首相に『憤り』を感じている層が存在していた」と論評した点に注目する。
ここから孫崎氏は、「安倍氏を排除していい、という考え方を持ってる人が、岸田首相の周辺(の知米派)にいた」可能性を指摘。ノルドストリーム・パイプライン爆破事件との類似性をも踏まえながら、安倍元総理殺害の真相へ分け入っていく。
ここで岩上安身は、岸田内閣で権勢を誇る木原誠二官房副長官の妻が「元夫の不審死で警察の取り調べを受け」しかも「木原氏が捜査を止めた」という大スクープに着目した。
こうした岸田政権の不可解な人事も踏まえ、孫崎氏は「アメリカが不満を持っていて、行動を起こさなきゃならないという時の、受け皿になり得るんです、この人(木原官房副長官)は。そういう意味合いなんですよ」と、平田記者の記事と木原官房副長官の問題がはらむ重大な意味を指摘するのである。
孫崎氏は、安倍元総理の治療にあたった奈良県立医科大学付属病院の報告と、奈良県警による司法解剖の結果に食い違いがあることを指摘する。
その上で、安倍元総理のウクライナ紛争についての独自の見解が、米国が描く「極悪ロシアと戦う勇気あるウクライナ、支援する正義の西側」という単純化されたプロパガンダの構図に合わず、米国に不都合な存在を排除しようという力が日本国内にあるとの仮説から、安倍元首相の銃撃事件とジョン・F・ケネディ米大統領暗殺事件との共通項や、米大統領ですら動かすネオコンの恐ろしさなどについて、さまざまな考察を展開した。
そのような視点は、一般的になかなか理解されにくい。多くの人々は、権力がそのような悪意、グロテスクなものだと考えず(考えることをせず)、権力に寄り添おうとする。
岩上安身が「(日本の国民には)日本の権力や、アメリカに対する『素朴な信頼』があるのだろうか」と口にすると、孫崎氏は「(権力と)違う立場をとったら、自分はおかしくなるという確信ですよ。疑問を持てば『おかしい』にたどり着く。そうしたら今の政府と対峙する。対峙すると、自分の周辺で何か困ることが起こる、という感覚」と答え、「権力への信頼ではなく、得体の知れない怖さからくる思考停止ではないか」権力へ従う国民の心理について、自身の見解を述べた。
孫崎氏は、安倍元総理の銃撃事件を理解するには、ウクライナ問題がわからないといけないと述べて、「今回、もしも(犯人が)山上氏ではないなら、真相は一体どこにあるか。それを追及していくと最後には、日本というのは、こんなにだらしがない国なのか、っていうところにくる」と改めて指摘した。