バイデン政権下では、政権のプロパガンダが中心で、時折、正気に返ることもある、という程度だった『ニューヨーク・タイムズ』が、2025年3月29日付で、ウクライナ紛争に関する長大な暴露記事を発表しました。
これは、信用度がすっかり落ちてしまった米国の主要メディアにあって、きわめて珍しい、貴重で、重要な調査報道です。
この記事は、ウクライナ戦争における米国関与の秘史です。日本の主要メディアは、この重要な記事を無視、あるいは黙殺して、今に至っても何も伝えようとしていませんし、政治家も、官僚も、目をつぶり、耳をふさいでいる状態です。
この『ニューヨーク・タイムズ』の記事は、米軍が軍事情報の提供や作戦立案などの点で、ウクライナ軍の頭脳として、紛争の始まりからずっと主導してきたことを証拠立てるものです。
しかし、これまでの『ニューヨーク・タイムズ』の記事と同様、反ロシア・親NATOに「偏向」している部分が随所に見られますので、すべてを真にうけることはできません。
そういうポイントは、逐一、指摘し、検証しながら紹介していきます。
- The Partnership: The Secret History of the War in Ukraine(ニューヨーク・タイムズ、2025年3月29日)
IWJは、A4で56頁にも及ぶこの長大なスクープ記事を、5回に分けて仮訳して紹介します。
第1回は、我々が想像していた以上に、米軍が紛争当初から緊密にウクライナ軍と連携し、主導していた事実が、ウクライナ側の、恐ろしいほどの残酷さに目をつぶってきた事実とともに暴露されます。
その緊密さを、驚きとともに、ある欧州の情報機関の長官は、「米国はキル・チェーン(軍事用語で、敵を発見し、攻撃を決定し、実際に無力化するまでの、一連のプロセス(攻撃サイクル)を指す)の一部になっている」と表現しています。
以下から、第1回の仮訳となります。
「ウクライナ戦争における米国関与の秘史」 ― ニューヨーク・タイムズ
「ロシア軍がウクライナに侵攻してまもなく、2人のウクライナ軍将官が秘密任務のため、外交官を装ってキエフから旅立った。
彼らは、ドイツのヴィースバーデンにある米軍駐屯地でパートナーシップを結んだ。それ以降、米国はこの戦争に密接に関わることになった。
パートナーシップ~ウクライナ戦争の秘められた歴史
これは、ロシア侵略軍に対してウクライナが行った軍事作戦において、米国が遂行した秘密の役割に関する、語られざる物語である。
ウラジミール・プーチンの侵略軍が、ウクライナに進軍してから2ヶ月後の春の朝、所属不明の車列がキエフの街角に滑り込み、私服姿の中年男性2人を乗せた。
キエフを出発した車列(制服は着ていないが、重武装した英軍特殊部隊員が、配置されていた)は、ポーランド国境まで西に400マイル移動した。彼らは、外交パスポートで難なく国境を越えると、さらに進み、C-130貨物機がエンジンをかけたまま待機しているジェシュフ=ヤションカ空港(※注1)に到着した。
乗客は、ウクライナ軍のトップ将官達だった。目的地は、米陸軍欧州アフリカ司令部のあるヴィースバーデンのクレイ・カザーンだった。彼らの任務は、ウクライナ戦争で最も厳重に守られた秘密のひとつを築く手助けをすることだった。
その1人、ミハイロ・ザブロツキー中将は、駐屯地のトニー・バス講堂の巨大なメインホールを見下ろす通路まで案内されて、階段を上ったときのことを覚えている。戦争前そこは体育館で、全軍会議、陸軍バンドの演奏、カブスカウト(※注2)のパインウッド・ダービー(※注3)などに使われていた。
今、ザブロツキー中将は、間に合わせのブースが並ぶごみごみした建物で、同盟国の将校達を見下ろし、M777砲台と155ミリ砲弾を西側からウクライナへ初輸送する計画をまとめていた。
その後、彼は米陸軍の第18空挺軍団司令官、クリストファー・T・ドナヒュー中将のオフィスに案内され、パートナーシップを提案された。
その進展と内情は、米国と同盟国の当局者のごく一部にしか明らかにされなかったが、パートナーシップは、情報、戦略、計画、技術の分野にわたっていた。
バイデン政権は、ウクライナを救済し、脅威にさらされている第二次世界大戦後の秩序を防衛する必要があると考えていたが、このパートナーシップは、そのための秘密兵器となるだろう。
現在、その秩序は、ウクライナの領土防衛とともに、トランプ大統領がプーチン氏との和解を模索し、戦争終結を誓う中で、危うい状況におかれている。
ウクライナ人にとって、これは明るい兆しではない。
ソ連崩壊後の安全保障と覇権をめぐる大国間の争いの中で、新たに独立したウクライナは、中間に位置する国となり、その西側への傾倒は、モスクワにとってますます恐るべきものとなった。
交渉が始まった今、米大統領は、ウクライナが戦争を始めたのだと根拠もなく非難し(※注4)、鉱物資源の多くを放棄するよう圧力をかけ(※注5)、米国による具体的な安全保障の約束なしに、ウクライナに停戦合意を求めている。つまり、継続的平和の確証のない和平である。
トランプ氏はすでに、2022年春のあの日、ヴィースバーデンで締結されたパートナーシップの一部を縮小し始めている。
しかし、その歴史をたどれば、はるかに大きく、はるかに強力な敵に直面しながら、ウクライナ人が3年間の長い戦争を生き延びることができた理由をよりよく理解できる。またそれは、秘密の鍵穴を通して、戦争が今日の危険な状況に至った経緯を見ることでもある。
米国防総省は、驚くべき透明性をもって、ウクライナに供給された665億ドル相当の兵器の一覧を公開した。
その中には、最新の統計として、小火器の弾薬と手榴弾5億発以上、ジャベリン対装甲兵器1万発、スティンガー対空システム3000台、榴弾砲272門、戦車76両、高機動ロケット砲システム40基、Mi-17ヘリコプター20機、パトリオット防空砲3基が含まれている。
しかし、『ニューヨーク・タイムズ』の調査により、米国はこれまで考えられていたよりも、はるかに密接かつ広範囲に、この戦争に関わっていたことが明らかになった。
決定的な時期には、このパートナーシップがウクライナ軍の作戦の根幹となり、米国の集計によれば、この作戦でロシア軍兵士70万人以上が死亡または負傷した(ウクライナは、自国の死傷者数を43万5千人と発表している)(※注6)。
ヴィースバーデンの作戦司令センターでは、米国とウクライナの将校が、肩を並べてキエフの反攻作戦を計画した。米国の膨大な情報収集活動は、大局的な戦闘戦略を導くとともに、正確な標的情報を現場のウクライナ軍兵士に届けた。
ある欧州の情報機関の長官は、NATOの同僚達(米軍)がウクライナの作戦にいかに深く関わっていたかを知り、呆気にとられたと回想した。「彼ら(米軍)は今やキル・チェーン(※注7)の一部だ」と彼は語った。
このパートナーシップの基本的な考え方は、緊密な協力により、ウクライナ人は、最もあり得ない偉業を成し遂げることができるだろう、つまり侵攻するロシア人に壊滅的な打撃を与えることができるだろう、というものだった。
そして、戦争の最初の数段階で攻撃が次々と成功し(ウクライナ人の勇気と機敏さだけでなく、ロシアの無能さ(※注8)のためでもある)、この弱者の野望がますます手の届くところにあるように思われた。
この考え方を実証した初期の例は、ロシア軍の中でも特に恐れられている戦闘グループの1つ、第58統合軍(※注9)に対する作戦だった。
2022年半ば、ウクライナ軍は、米国の諜報活動と標的情報を利用して、ヘルソン地域の第58統合軍の本部にロケット弾の集中砲火を浴びせ、中にいた将官達とその幕僚達を殺害した。
(ロシア軍)軍本部は、何度も、何度も、別の場所に陣取ったが、その都度、米軍がそれを見つけ、ウクライナ軍が破壊した。
さらにウクライナ軍と米軍は、南部クリミア半島の港セヴァストポリに狙いを定めた。港ではロシアの黒海艦隊が、ウクライナ国内の標的に向けてミサイルを軍艦や潜水艦に積み込んでいた。
2022年、ウクライナ軍の反攻が最高潮だったとき、海上ドローン(※注10)の群れが、米中央情報局(CIA)の支援を受けて未明に港を攻撃し、数隻の軍艦に損害を与えた。その結果、ロシア軍は撤退を開始した。
しかし、最終的には、対立、恨み、責務の違いや議題の中で、パートナーシップは緊張し、戦争の方向性が変わった。
ウクライナ側は、米国側を横暴で支配的、典型的な保護主義的米国人と見なすことがあった。米国側は、ウクライナ側がなぜ良いアドバイスを素直に受け入れないのか、理解できないことがあった。
米国が慎重で達成可能な目標に焦点を当てているのに対し、ウクライナは常に大きな勝利、輝かしい賞品をつかもうとしているように(米国には)見えた。
一方、ウクライナは、米国が自分達の足を引っ張っていると思っていた。ウクライナは、『戦争に完全に勝つこと』を目指していた。米国は、その希望を共有しながらも、確実にしたかったのは『ウクライナが戦争に負けない』ということだった(※注11)。
ウクライナは、パートナーシップで、より大きな自由裁量権を獲得するにつれ、ますます自らの意図を秘密にした。彼らは、自分達が望む武器やその他の装備すべてを、米国が彼らに与えることができない、あるいは与えようとしないことに絶えず憤慨していた。
一方、米国は、不合理に思えるウクライナの要求と、圧倒的に劣勢な軍隊を強化するために必要な、政治的リスクの高い措置を、ウクライナ側が取りたがらないことに憤慨していた。
戦術レベルでは、(米国とウクライナの)パートナーシップは、勝利に次ぐ勝利をもたらした。
しかし、戦争の決定的瞬間とも言える2023年半ば、ウクライナ軍が最初の1年間の成功を受けて勝利の勢いをつけるために反転攻勢(※注12)を開始したとき、ヴィースバーデンで考案された戦略は、ウクライナの内政対立の犠牲になった。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領とウクライナ軍司令官(選挙の潜在的ライバルでもあったヴァレリー・サルジニーと)の対立、そして、ウクライナ軍司令官と彼の強情な部下の指揮官との対立だ。
ゼレンスキー氏が、部下の側についたとき、ウクライナ軍は、壊滅状態のバフムート市を奪還するため、徒労に終わる作戦に大量の人員と資源を投入した。数ヶ月のうちに、反転攻勢全体が不発に終わった。
このパートナーシップは、最も深い地政学的恐怖の下で行われた。
すなわち、パートナーシップが、軍事関与のレッドライン侵害であるとプーチン氏に見なされ、彼がしばしば振りかざしてきた核の脅しを実行するかもしれないという恐怖である。
パートナーシップの物語は、米国とその連合国が時としてそのレッドラインにいかに近づいたか、ますます悲惨になっていく出来事がいかに彼らをより危険な領域へと押し進めたか(一部の人は遅すぎたと言うが)、そして安全側に留まるための協定を、彼らがいかに慎重に考案したかを示している。
バイデン政権は、これまで禁止していた秘密作戦を度々承認してきた。米国の軍事顧問がキエフに派遣され、後に戦闘現場に近づくことを許可された。ロシアが併合したクリミアで、ヴィースバーデン駐在の米軍とCIA将校は、ウクライナによる攻撃作戦の実施計画に参加し、支援した。
最終的に、米軍、そしてCIAは、ロシア国内の奥深くをピンポイント攻撃する許可を得た。
ウクライナは、広い意味で、1960年代のベトナム、1980年代のアフガニスタン、そして30年後のシリアといった、長い歴史をもつ米ロ代理戦争の再来という性格をもっていた(※注13)。
またこれは、ウクライナを支援するだけでなく、将来起こるであろう、すべての戦争に備えて米軍を訓練する壮大な実験でもあったのだ(※注14)。
アフガニスタンでの対タリバン、対アルカイダ戦争、イラクとシリアでの対イスラム国戦争中、米軍は独自の地上作戦を実施し、現地パートナーの作戦を支援した。
対照的にウクライナでは、米軍は自軍の兵士を戦場に派遣することを許されず、遠隔地から支援しなければならなかった。
テロリスト集団に対して、磨きをかけた精密な標的設定は、世界最強の軍隊のひとつ(ロシア軍)との紛争で有効だろうか?
ウクライナの砲兵は、1300マイル(約2092キロメートル)離れた司令部にいる米軍将校から送られた座標に、ためらいなく榴弾砲を発射するだろうか?
「誰もいない、行け」と訴える姿なき米軍の声による情報にもとづいて、ウクライナの司令官は、敵陣の背後にある村に入るよう歩兵に命令するだろうか?
これらの質問への答えは――そして実際のところ、パートナーシップ全体の成否は、米国とウクライナの将校が、お互いをどれだけ信頼するかにかかっていただろう。
ザブロツキー将官は、ドナヒュー将官との最初の面会で、「私(ドナヒュー将官)は、絶対にあなたに嘘をつきません。もしあなた(ザブロツキー将官)が私に嘘をついたら、私達は終わりです」と言われたことを思い出した。「私もまったく同じ気持ちです」と、このウクライナ人将官は答えた。
第一部
●信頼の構築と殺人マシン
2022年2月~5月
2022年4月中旬、ヴィースバーデン会談の約2週間前、米軍とウクライナの海軍将校が、定例の情報共有電話会議を行っていたところ、レーダー画面に予期せぬものが映し出された。元米軍高官によると、「米国側は『ああ、あれは「モスクワ」だ!』と叫び、ウクライナ側は『うわー。ありがとう。さようなら』と叫んだ」という。
『モスクワ』は、ロシア黒海艦隊の旗艦だった。ウクライナ軍がそれを沈めたのだ(※注15)。
●情報源について
アダム・エントス(この記事の筆者)は、1年以上にわたる取材活動の中で、ウクライナ、米国、英国、その他多くのヨーロッパ諸国の現職および元職の政策立案者、米国防総省関係者、情報機関関係者、軍将校に300件以上のインタビューを実施した。
一部は公式発表に同意したものの、大半は内容が機密性の高い軍事・諜報活動についての議論のため、氏名を伏せるよう要請した。
黒海艦隊旗艦『モスクワ』の沈没は、目覚ましい勝利であり、ウクライナ軍の巧みな技術と、ロシア軍の無能さを露呈した。しかし、この出来事はまた、開戦後数週間におけるウクライナ・米国間の関係に一貫性がなかったことも映し出していた。
米軍にとっては、ウクライナから事前の警告すらなかったことへの怒り、そしてウクライナ軍がロシア海軍の戦艦に到達可能なミサイルを保有していたことへの驚きがあった。
そして、ロシアの軍事力の強力な象徴であるロシアの戦艦をウクライナが攻撃することは、バイデン政権の許可範囲にはなかったため、米軍はパニックに陥ったのだった。
一方、ウクライナ側には、根深い懐疑心があり、その独自の立場から言葉を発していた。
彼らの見方では、彼らの戦争は2014年に始まった。この年、プーチン大統領はクリミアを占領し、ウクライナ東部で分離主義勢力の反乱を扇動した(※注16)。バラク・オバマ大統領はこの占領を非難し、ロシアに制裁を課した。
しかし、米国の介入が本格的な侵攻を引き起こすことを恐れ、オバマ大統領は、ウクライナとの間に、非常に限定的な情報共有のみを許可し、防衛兵器の提供要請は拒否した。
「毛布や暗視ゴーグルは、たしかに重要だが、毛布だけでは戦争に勝てない」と、当時のウクライナ大統領ペトロ・O・ポロシェンコは不満を漏らした。
最終的にオバマ大統領は、こうした情報規制をいくらか緩和し、就任1期目のトランプ大統領は、それをさらに緩和するとともに、初の対戦車ミサイル(※注17)をウクライナに供与した。
そして、2022年2月24日のロシアによる全面侵攻を前にした不吉な数日間、バイデン政権はキエフ大使館を閉鎖し、すべての軍関係者を国外に撤退させた(CIA職員の小規模チームは滞在を許可された)。米軍高官は、「我々は『ロシアが来るぞ。じゃあな』と言ったのだ」と述懐した。ウクライナの認識も同じだった(※注18)
侵攻後、米軍将官達は支援を申し出たが、不信感の壁にぶつかった。「我々はロシアと戦っている。あなた方はそうではない。なぜ我々が、あなた方の言うことを聞かなければならないのか?」ウクライナ陸軍司令官、オレクサンドル・シルスキー大佐は、米軍との最初の会談でそう言った。
シルスキー将官は、すぐに考えを変えた。米軍は、ウクライナが決して得られないような戦場情報を提供できるのだ、と。
初期の頃は、ドナヒュー将官と数人の補佐官が、ほとんど電話だけで、ロシア軍の動向に関する情報を、シルスキー将官とその幕僚に渡すという状況だった。
しかし、この場あたり的な取り決めでさえ、ウクライナ軍内部のライバル感情を刺激し、シルスキー将官と、その上司であるヴァレリー・ザルジニー将軍との間の対立感情を刺激する結果となった。
ザルジニー将軍の支持者からみれば、シルスキー将官は、この時すでにこの関係を利用して優位に立とうとしていたのだ。
さらに事態を複雑にしていたのは、ザルジニー将軍と、米国側のカウンターパートである統合参謀本部の議長、マーク・A・ミリー大将とのぎくしゃくした関係だった。
電話会議の中で、ミリー大将は、ウクライナ側の装備要請に疑問を呈することもあった。ペンタゴンの自室に映し出された衛星情報にもとづいて、戦場での助言を与えることもあった。
すると気まずい沈黙が訪れ、ザルジニー将軍は会話を短く切り上げた。彼は、米国側からの電話を単に無視することもあった。
会話を続けるため、米国防総省は、手の込んだ電話連絡網を構築した。ミリーの補佐官が、カリフォルニア州兵司令官、デビッド・S・ボールドウィン少将に電話をかけ、少将はロサンゼルスの裕福な気球製造業者、イーゴリ・パステルナークに電話をかける。
パステルナークは、当時ウクライナ国防相だったオレクシー・レズニコフと同じリヴィウ(※注19)で育った。レズニコフはザルジニー将軍を探し出し、「あなたがミリーに腹を立てているのはわかっているが、彼に電話するべきだ」と告げたという(ボールドウィン少将の話)。
こうした寄せ集めの同盟が、次々に起こる一連の出来事の中で一体化し、パートナーシップへと発展していったのだ。
3月、キエフへの攻撃が停滞したことを受け、ロシア軍は野望と戦争計画を転換し、東部と南部に増派軍を投入した。米軍はこの兵站作戦に数ヶ月かかると予想していたが、実際に要したのは2週間半だった(※注20)。
連合軍が自らの目標設定を変えない限り、人員と火力で絶望的に劣るウクライナ軍は、戦争に敗北するだろうと、ドナヒュー将官と米陸軍欧州アフリカ軍司令官クリストファー・G・カヴォリ将官は結論づけた。
言い換えれば、連合軍は重攻撃兵器、すなわちM777 榴弾砲(※注21)の部隊と、発射する砲弾の提供を開始しなければならないだろうということだった。
バイデン政権はこれに先立ち、対空兵器と対戦車兵器の緊急輸送を手配していたが、M777は全く別物であり、大規模な地上戦支援への最初の大きな一歩であった。
ロイド・J・オースティン3世国防長官とミリー大将は、兵器の輸送とその使用方法のウクライナ軍への助言を、第18空挺軍団(※注22)に任せていた。ジョセフ・R・バイデン・ジュニア大統領が、M777の配備に署名すると、トニー・バス講堂(※注23)は、本格的な司令部となった。
ポーランド人の将官が、ドナヒュー将官の副官に就任した。英国人の将官が、かつてバスケットボールコートだった場所に作られた兵站拠点を管理することになり、カナダ人の将官が訓練を監督することになった。
講堂の地下は、いわゆる情報統合本部となり、ロシア軍の戦場における位置、動き、そして意図に関する情報を提供した。
情報当局者によると、そこには中央情報局(CIA)、国家安全保障局(NSA)、国防情報局(DIA)、国家地理空間情報局(NGIA)の職員に加え、連合軍の情報将校が集結していた。
第18空挺軍団は、ドラゴン軍団として知られている。新たな作戦は「タスクフォース・ドラゴン」と呼ばれることになった。これらをまとめるのに必要なのは、乗り気ではないウクライナ軍の最高司令部だけだった。
4月26日、ドイツのラムシュタイン空軍基地で行われた国際会議で、ミリー大将はレズニコフ氏とザルジニー将官代理をカヴォリ将官とドナヒュー将官に紹介した。
『ここにいるのが君達の仲間だ』とミリー大将は彼らに告げ、こう付け加えた。『君達は彼らと協力しなければならない。彼らは君達を助けてくれるだろう』。
信頼関係が築かれつつあった。レズニコフ氏はザルジニー将軍と話し合うことに同意した。レズニコフ氏はキエフに戻ると、こう言った。ヴィースバーデンへの『代表団を我々は編成した』。『こうして始まったのだ』。
(第2回)へ続く
(※注1)ジェシュフ=ヤションカ空港は、ポーランド南東部の都市ジェシュフ(Rzeszów)近郊にある国際空港。
(※注2)カブスカウト(Cub Scout)は、小学生くらいの子供達を対象としたスカウト団体。ボーイスカウトの初級段階。
(※注3)パインウッド・ダービー(Pinewood Derby)は、カブスカウトの伝統行事。子供達が木のブロック(通常は松)を使って自作した、小さな模型車でのレース大会のこと。各スカウトは、キット(木のブロック、車輪、ネジなど)を使って車を作り、削ったり、塗装したり、重りをつけてスピードを工夫したりする。その木製模型車を、傾斜のついたレールで、重力だけで滑らせて競走する。
(※注4)『ニューヨーク・タイムズ』は、「米大統領は、ウクライナが戦争を始めたのだと根拠もなく非難し」と述べているが、事実は、ロシア軍が侵攻した2022年2月24日よりはるか前、2014年のユーロ・マイダン・クーデターの時から、ウクライナは、すでに国内のロシア系住民に対して、ロシア語を公用語から外し、ロシア文化・教育を禁じるなどの制度的な差別・迫害と行うともに、「オデッサ事件」に代表されるネオナチら犯罪者による、ロシア語話者の無差別な殺害行為が横行し、ウクライナ国家によって容認された。
文中、ウクライナ側も、2014年からロシアとの戦争は始まっていた、という認識をもっていた、という記述の通りである。
この点で、『ニューヨーク・タイムズ』には根本的な部分で事実認識に重大な誤りがあり、その報道の根本姿勢は、変わらず「偏向」し続けたままである。
オバマ政権から第1次トランプ政権へと移行する期間で、可能な限り、この戦争の内実、特にウクライナ単独で戦っているのではなく、米軍を頂点としたNATOとの「連合軍」としてロシアと戦っていたのだという事実を示そうとしたのだと思われる。
(※注5)トランプ大統領は、ウクライナに天然鉱物資源をよこせと、鉱物資源協定へのサインを求めてきた。2025年4月30日、米国とウクライナは数ヶ月にわたる交渉の末、鉱物資源協定に調印した。
この協定により、米国はウクライナの鉱物・エネルギー資源の将来的な売却益をウクライナと分けあうことになる。
(※注6)両国の犠牲者数は、公式発表と、そうではない発表で、違いが大きい。より信頼できると思われるのは、ロシア軍よりもウクライナ軍の犠牲が大きい、という観測である。
一般に、戦争では、攻撃側(前進する側)の損失が守備側より大きくなる傾向がある。2022年2月~2023年にかけてはロシア軍の攻勢が多く、2023年中盤以降はウクライナ軍が反攻に出たため、特に2023年の攻勢失敗(ザポリージャ方面など)での損失が指摘されている。
OSINTグループ(Open Source Intelligence Group、Oryx、WarMapperなど)は、車両損失や前線変動を公開情報から分析し、衛星画像や映像から、ウクライナ側が特定地域で極めて高い損耗を被っている例(バフムート、アウディーイウカ、クレミンナなど)が多数、報告されている。
さらに、2024年8月から2025年4月26日までのウクライナ軍のクルスク州への侵攻とその失敗は、チェチェンのアフマト部隊に固い防衛線を築かれたことが敗因の一つになっている。ここでも、ウクライナ軍は攻勢する側となり、犠牲者を多く出したことが推定される。ロシア側の発表では、ウクライナ軍のクルスク州での犠牲者は、7万6000人を超える。
(※注7)キル・チェーン(the kill chain)とは、軍事用語で、敵を発見し、攻撃を決定し、実際に無力化するまでの、一連のプロセス(攻撃サイクル)を指す。具体的には、次の「F2T2EA」の6段階が代表的。
1.Find(発見):敵の位置や動きを探知する
2.Fix(位置特定):敵の正確な位置を把握する
3.Track(追跡):動きを監視し続ける
4.Target(目標設定):攻撃対象として選定する
5.Engage(攻撃)実際に攻撃を加える
6.Assess(戦果評価):攻撃の成果を評価する
(※注8)ロシアの無能さ。2014年以降、ウクライナ国内のロシア系国民への無差別殺戮が行われたが、ドンバスでは、この無法な暴力に対抗する自警団が組織されて、ナオナチではなく、ウクライナ軍が攻撃を加え、内戦に至った。その後、停戦合意が結ばれたが、これはNATOがウクライナ軍を強化するための時間稼ぎだった。停戦は続いていたが、ウクライナに欧米の兵器を持ち込み、ウクライナ軍を訓練するために時間を稼ごうとしたのである。このことは、停戦合意当時のドイツのメルケル首相自身が雑誌『ディー・ツァイト』のインタビューで証言している。
ロシア軍が無能というよりも、停戦中からNATOによる関与が始まっていた。この『ニューヨーク・タイムズ』の記事では、大枠において「ロシア軍が、落ち度のないウクライナに、突然、2022年2月24日に侵略を開始した」という西側で広く流布されたフェイクストーリー(プロパガンダ)の枠組みを壊さないように書かれている。すでに指摘した通り、根本的な部分で「不誠実」である。
そう考える時、「ロシアの無能」という不必要な侮辱は無意味かつ無理がある。このあとに出てくる米軍とウクライナ軍の連携も、突然、2024年2月24日以降に始まったわけではない。2014年以降、長い時間をかけて構築されたものなのである。
(※注9)第58統合軍は、ロシア陸軍の主要な野戦軍のひとつで、歩兵、戦車、砲兵、工兵、防空部隊など複数の兵科を組み合わせた「統合部隊(Combined Arms)」である。南部軍管区に所属し、北コーカサス地方のウラジカフカスを本部としている。
この部隊は、第一次(1994年〜1996年)、第二次(1999年〜2009年)のチェチェン紛争やグルジア戦争(2008年)、シリア内戦(2015年、2016年から2018年)などに派遣され、実戦経験が豊富で、部隊の攻撃力や残虐性が、他国から恐れられている。
(※注10)海上ドローン(maritime drones)は、遠隔操作または自律航行できる無人の小型ボート型ドローンのこと。爆薬、カメラ、センサーなどを搭載し、通常は敵艦への自爆攻撃に使われる。
(※注11)『ウクライナが戦争に負けない』。NATOの力を借りて、ロシア軍相手に、ウクライナ軍は完全に勝つということは、ありえない。ロシア軍がこの時点でまだ使っていない兵器や、兵力、極超音速ミサイル、最終的には、温存している核兵器も使用し得るという点が忘れられている。
ウクライナ軍は、米軍の視点から見ても、戦略的に無謀で、身の丈を忘れていることがわかる。これは、今に至っても、ゼレンスキー氏が、ロシア軍の占領地からの全面撤退を要求していることと無関係ではない。ロシアと妥協したら、ゼレンスキー氏は、こうした強硬派から殺される可能性がありうる。
ロシア側は、自らは核を保有しており、状況次第では、使用する覚悟があることを、早い段階から警告していた。バイデン大統領も「米軍・NATO軍は直接参戦しない。参戦すれば第3次世界大戦になる」とたびたび口にしていた。
ウクライナ軍は、当初、圧倒的に強力と見られたロシア軍相手に、優勢に勝てる可能性がなかったことで、NATO諸国に対して、もっと武器をよこせと要求し、米国の要求する「ロシアに負けない範囲」で、ロシア軍相手に持久戦に持ち込み、経済制裁とあわせ、ロシアを軍事力だけで敗北に導くのではなく、経済的にも疲弊させ、体制崩壊させるのが、日本も含む西側の目的となった。
ジェフリー・サックス教授の2025年2月19日の欧州議会での演説や、そこで引用されたランド研究所の論文からも、その青写真が明らかとなっている。ウクライナが「勝ちすぎて」、ロシアが「本気」を出して、核まで使われると、米国まで巻き込まれる。それは米国の本意ではなかった、ということである。
ランド研究所の論文の、論旨は、ロシアを敗北させることではなく、弱体化させることにあった。この青写真について、IWJは2022年8月22日時点で、仮訳している。
※米国の最も有力な軍事シンクタンクであるランド研究所による2019年のレポート『ロシアの拡張―有利な立場からの競争』には、現在進行中のウクライナ紛争の、米国の戦略シナリオが掲載されていた!? IWJは、全300ページに及ぶ報告書の抜粋仮訳を進めています!(日刊IWJガイド、2022年8月22日号)
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20220822#idx-3
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/51210#idx-3
※<検証! ランド研究所報告書>ウクライナ紛争はランド研究所の青写真通り!? 米国ランド研究所の衝撃的な報告書『ロシアの力を使い果たさせる―有利な立場からの競争(Extending Russia -Competing from Advantageous Ground)』の翻訳・検証シリーズ開始!(その1)サマリー(概要)の抜粋の仮訳!(日刊IWJガイド、2022年12月10日号)
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20221210#idx-4
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/51634#idx-4
※<検証! ランド研究所報告書>ウクライナ紛争はランド研究所の青写真通り!? 米国ランド研究所の衝撃的な報告書『ロシアの力を使い果たさせる―有利な立場からの競争(Extending Russia -Competing from Advantageous Ground)』の翻訳・検証シリーズ開始!(その2)「第3章経済的手段」の「手段1 石油輸出を妨げる」の全文仮訳(グラフ除く)!(日刊IWJガイド、2022年12月18日号)
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20221218#idx-2
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/51667#idx-2
※<検証! ランド研究所報告書>ウクライナ紛争はランド研究所の青写真通り!? 米国ランド研究所の衝撃的な報告書『ロシアの力を使い果たさせる―有利な立場からの競争(Extending Russia -Competing from Advantageous Ground)』の翻訳・検証シリーズ開始!(その3の前編)「第3章経済的手段」の「手段2 天然ガス輸出の抑制とパイプライン拡張の阻害」の全文仮訳(グラフ除く)!(日刊IWJガイド、2023年1月25日号)
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(※注12)ウクライナの反転攻勢について、IWJは多くの記事を発表している。たとえば、以下がある。
※日本の大手メディアは「反転攻勢の準備が整った」とゼレンスキー大統領の言葉をうのみにして見出しに掲げ、まるで翌日からでも大反転攻勢が開始されるかのごとく一斉に大報道!! 日本の主要マスコミの元ネタ『ウォール・ストリート・ジャーナル』のゼレンスキー大統領独占インタビューを、IWJは仮訳して日本の報道を検証! 他方、大統領選でゼレンスキー大統領のライバルになると目されていたウクライナのザルジニー司令官が重傷で職務遂行不可能との報道も! 米国では、ゼレンスキー大統領が50基欲しいと訴えるパトリオットミサイルシステムが、ロシアのキンジャールミサイルに2秒で破壊された実戦の映像が公開!(日刊IWJガイド、2023年6月5日)
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※ゼレンスキー大統領がおくればせながら、ウクライナ軍による反転攻勢が始まったことを認める! 4日に始まったウクライナ軍の反転攻勢は、ロシア軍の固い守りに阻まれ多くの損失を出すも、「レオパルト2」「ブラッドレー戦闘車」「フランス製シーザー自走榴弾砲」などNATO仕様の兵器が投入され、戦闘レベルがシフトアップ! プーチン大統領は「ウクライナ軍にはまだ攻撃的な潜在力がある」と慎重姿勢!(日刊IWJガイド、2023年6月11日)
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※【IWJ号外】ウクライナの反攻は不発に終わりタカ派の予測は再び外れる! ウクライナがロシア支配層内部の亀裂を利用し、西側諜報機関の支援によって、ワグネルトップのプリゴジンのクーデター未遂を煽った!? 2023.6.28
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/516898
※ポーランド参戦!? ウクライナ紛争は2国間紛争の段階を越えて多国間紛争の段階へ!? ウクライナの「反転攻勢」が手詰まりになり、ポーランドが「ウクライナ西部を占領するという下心」をついに表にあらわす!? ロシア外務省報道官は、ポーランドを煽る米国に対し、米国は「ポーランドが(ロシアに)攻撃される脅威を誇張し、(虚構の)シナリオを作り上げている」と非難! プーチン大統領は「これは非常に危険なゲーム」、「ポーランドの(旧ナチス・ドイツ領である)西部の土地がスターリンからの贈り物だったことをワルシャワの友人達は思い出すべきだ」と発言!(日刊IWJガイド、2023年8月11日)
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※プーチン大統領が「ウクライナ軍の反転攻勢は完全に失敗した」と表明! しかし英国防省は、「反転攻勢」は進んでおり、ロシア軍に多大な被害が出ているとの分析を発表! 日本の大手メディアは軒並みこの英国側の情報だけを垂れ流してロシア軍の劣勢を印象操作する!! 一方、ドイツの『ntv』では、オーストリア軍の大佐が、英国防省の情報分析を「被害を限定的に見せようとしている」と批判!「反転攻勢」が難航するウクライナ軍にとっては「今年の冬が特に厳しい」と指摘!!(日刊IWJガイド、2023年10月25日)
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非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/52878#idx-1
(※注13)米ロ代理戦争の再来。つまり、2022年2月24日に、ロシアとの戦争が始まったわけではなく、IWJは、最も短く見積もっても、2014年には戦争始まっていたと伝えてきた。
この『ニューヨーク・タイムズ』の記事では、「NATOの東方不拡大」という嘘の約束をした1990年2月9日ではなく、それ以前の、第2次大戦後、米ソの冷戦が始まって以来、「代理戦争」は行われており、冷戦後も米国は代理戦争を仕掛けていたということを指す。「代理戦争」を戦ってきたのに、途中、やめていた時期があるはずはない。この記事の矛盾点の一つである。
米国は、ずっとソ連を倒すだけでなく、民主化したロシアをも、弱体化し、従属国とすることをもくろんできた、というのが真実により近い。2014年の前の、2004年~2005年のオレンジ革命も、2008年のウクライナとジョージアのNATO加盟を認めるという公言も、そのための布石だった。
(※注14)今後、世界中で、「主権」を持つ国々をすべて制圧していくために、米軍自らは派兵せず、捨て駒を立てて、米軍は直接戦わない「代理戦争」に持ち込む、という戦略である。
米国は、「民主主義国」という言葉をしばしば用いるが、それは国内で選挙を行っている、というだけのことで、対外的には、主権を持つ他国と共存する「民主的」な国家ではない。米国はイスラエルを除けば、唯一の「主権」をもつ帝国でありたいと、独立建国以来、願っている。
「台湾有事」というスローガンで日本を中国と戦わせ使い捨てる戦略も、このウクライナ紛争地という実験が「成功」したら、次に、東アジアに移すはずだった。
ロシアは、あいにくつぶされなかったので、トランプ政権は、ウクライナ戦争という「プロジェクト」を終わらせようとしたが、ウクライナのゼレンスキー政権と、欧州諸国家は、承服せず、継続を望んでいる。
中国との「代理戦争」に注力するはずだったトランプ政権は、軍事分野よりまず、貿易・関税分野で攻勢をかけたが、レアアースの禁輸というカウンターをくらい、腰くだけとなっている。現状を打開するために、いつ、どのような状況で、日本の自衛隊を、ウクライナ軍の代わりにし、軍事的な「代理戦争」にもち込むか、外交的なパワーバランスの勝負となっているが、インドを中露に近づけさせてしまったのは、大きな失点だった。
(※注15)2022年4月13日の夕方、ウクライナ軍が、オデッサ沖の「モスクワ」をネプチューン対艦ミサイル2発で攻撃し撃沈。2022年4月14日未明~朝、ロシア国防省が「『モスクワ』で火災が発生、弾薬が爆発した」と発表。ロシア側は当初「原因不明の事故」と説明し、撃沈は認めなかった2022年4月14日夜になって、ロシア国防省が「モスクワが荒天の中、曳航中に沈没した」と公式発表した。
「モスクワ」は黒海艦隊の旗艦(司令艦)で、大規模対空防御能力と指揮通信能力を担っていた。「モスクワ」撃沈により、ロシア海軍の黒海における作戦行動(特にオデッサ上陸作戦構想)が大幅に制約された。これ以後、ロシアは、黒海西部に艦船を近づけることが難しくなり、黒海封鎖やミサイル攻撃(巡航ミサイル発射)に集中するようになった。
西側諸国は「ウクライナ軍が高度な攻撃作戦を遂行できる」と確信を深め、武器支援拡大の一因になったと言われる。特に、より強力な対艦ミサイルやレーダー支援が本格化したのは、「モスクワ」撃沈後のことである。
(※注16)「プーチン大統領はクリミアを占領し、ウクライナ東部で分離主義勢力の反乱を扇動した」。その前に、ウクライナ政府による、ウクライナ国民であるはずのロシア系住民の虐殺がある。戦争は、2014年に始まったという認識の方がより現実的で、米国人ジャーナリストの書いている2022年開戦という認識は、明確に間違いである。ガザでジェノサイドは行っていないと、ネタニヤフ政権は恥知らずにも公言しているが、西側は、ウクライナ国内でのロシア語話者へのジェノサイドを認めていない点で、シオニストと大差はない。
(※注17)第一次トランプ政権がウクライナに供与したのは、携行型の対戦車ミサイル、ジャベリン・ミサイルだった。実際の供与開始は、2018年春。初回供与は、ミサイル210発、発射装置37基。2019年の追加供与の内訳は非公開。
(※注18)実際には、ロシア軍を誘い込むべく、ドンバスへの砲撃を3.7倍にし、バイデン大統領は、必ずロシア軍がやってくると予言した。「予言」には仕掛けがあった。
ドネツク地域では、2022年2月18日から20日の間に、OSCE(欧州安全保障協力機構)は2158件の停戦違反を記録し、そのうち1100件が爆発を伴うものだった。これは、前回の報告期間の591件の約3.7倍になっている。
ルガンスク地域では、同期間に1073件の停戦違反が記録され、そのうち926件が爆発を伴うものだった。前回の報告期間では、975件の停戦違反が記録されており、若干の増加が見られる。
(※注19)ウクライナ民族主義の根拠地。お互いにきずなが強い。
(※注20)この部分、『ニューヨーク・タイムズ』は、さらっと書き流している。記者はロシア軍をまぬけ扱いしているが、この「反転攻勢」こそ、ウクライナ軍+NATOと、ロシア軍の決戦で、その準備段階から、戦闘まで大きな差があった。
この点を記事は、書いていない。IWJは、この反転攻勢がうまくいかないことを、ジョン・ミアシャイマーシカゴ大名誉教授の論文紹介などを通じて、しばしば指摘してきた。兵力の圧倒的差や砲弾数とその生産能力の差、二重、三重のロシア側の防衛線など、戦争遂行の条件や防衛戦術において、ロシア側が圧倒的に有利だったからである。
※【IWJ号外】ジョン・ミアシャイマー教授の9月3日付最新論文『負けるべくして負ける~2023年のウクライナの反攻』全文仮訳! 第1回「西側は消耗戦回避のためウクライナ軍に古典的な電撃作戦を実行することを望んだ」! 2023.9.5
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/518338
※【IWJ号外】ミアシャイマー教授の最新論文『負けるべくして負ける』仮訳! 第2回「マスメディアが伝えない『反転攻勢』の現実! ウクライナ軍の電撃戦略に対して深層防御戦略を採るロシア軍の優位性!!」 2023.9.6
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/518350
※【IWJ号外】ジョン・ミアシャイマー教授の9月3日付最新論文『負けるべくして負ける~2023年のウクライナの反転攻勢』全文仮訳! 第3回「反転攻勢」の幻想を打ち砕き悲惨な戦後まで予言! 2023.9.7
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/518364
(※注21)榴弾砲とは、砲弾を高い放物線(曲射)で発射できる大砲のこと。低い角度で撃つ直射(戦車砲や対戦車砲)とは異なり、遠くの敵や、遮蔽物(山や森、建物など)の裏にいる敵を砲撃するする目的で使われ、野戦砲撃、拠点攻撃、間接支援射撃などで使用される。
M777は、従来の榴弾砲(M198など)に比べほぼ半分の重さであるため、ヘリや航空機で空輸可能で、素早く展開・撤退できる。それに加えて、GPS誘導砲弾(M777榴弾砲から発射でき、ウクライナで使用されたのは、米国製のM982エクスカリバー砲弾)を使えば、数十km先の小さな目標(建物や陣地など)にも高精度で命中できる。デジタル火器管制システムによって、自動化された射撃計算・照準設定が可能であり、短時間で発射できる。熟練すれば毎分4~5発の連続射撃が可能である。
ウクライナには、主に米国を中心とした西側諸国から約190門以上のM777榴弾砲が供与され、M982エクスカリバーは、米国から、2023年4月時点で約6500発を供与された。通常砲弾については、2023年4月時点で、米国はウクライナに、約150万発供与している。
(※注22)第18空挺軍団は、米ノースカロライナ州フォート・リバティ(旧称:フォート・ブラッグ)に司令部のある精鋭部隊。これは、パラシュート降下や航空機で兵員・装備を迅速展開できる精鋭部隊で、有事には、米軍全体の複数師団をまとめて指揮できる「中核」として機能する。命令が下れば、96時間以内に世界中のどこへでも展開可能な体制を維持している。
(※注23)ヴィースバーデンの米陸軍欧州アフリカ司令部のある基地内の講堂のこと。

































