ロシア・ウクライナ紛争は、ロシア・欧州戦争へと移行しつつあるようです。
ロシア軍は、ウクラナ全土に及ぶ戦略的標的へのドローンと極超音速ミサイルの組み合わせによる異次元の精密攻撃を展開しています。ロシアの戦略転換の背景にはNATO、特にドイツの対ロシア強硬姿勢があると思われます。ドイツ軍の欧州最強軍隊計画と、ドイツ国防大臣の「必要であればドイツはロシア兵を殺すことを躊躇しない」という発言に、ロシア側が猛反発しました。
ロシアのラブロフ外相は「第3次世界大戦はすでに始まっている」、「欧州のエリートは皆ナチスである。ヨーロッパは完全に狂っている」と強く欧州を非難し、「ロシアの最優先の任務は、敵を打ち破ることだ! 歴史上初めて、ロシアは西側諸国全体と対決している!」と宣言しました。
IWJではすでに報じてきた通り、ロシアに潜入したウクライナ諜報部隊が、6月1日に「蜘蛛の巣(スパイダー・ウェブ)作戦」を行なって、ドローンでロシア空軍基地を攻撃し、戦略爆撃機を含む40機以上(ウクライナ保安庁の発表)を破壊してから以降、ロシアはウクライナで空爆による攻撃のギアを一段と上げています。これまでと一線を画す、猛攻撃ぶりです。
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ロシア軍が過去最多数のドローン728機とミサイル13発を使って大規模攻撃! 主要な標的はウクライナ西部! ポーランド国境付近にも! ロシア軍は戦術的にも攻撃能力をさらに高め、兵器増産能力も高める一方、ウクライナは防空能力も限界! 米国は防空の切り札であるパトリオットミサイルの備蓄が必要量の25%まで減少! 頻度と規模を拡大するロシア軍の飽和攻撃、そしてイラン・イスラエルの停戦が破れて戦争再開となった場合、もはや欧州・ウクライナ・イスラエルに供与するだけの防空ミサイルが足りず、増産も間にあわない!!(日刊IWJガイド2025.7.14号)
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東南4州の接触線上での地上戦だけではなく、ウクライナ全土の諸都市にある戦略的目標に対して、数百機のドローンで飽和攻撃をかけ、ウクライナのパトリオットシステムなどの防空システムを消費させきって、迎撃不能の極超音速ミサイルを標的に撃ち込むといった戦術的な攻撃が、連日のように行われています。
「ウクライナ劣勢/ロシア優勢」の情報を流したくない、日本の大手主要メディアではほとんど報じられていませんが、YouTubeの軍事関連アカウントでは、ロシアがウクライナで展開している圧倒的な攻撃を伝える動画が数多くアップされています。
『ミリタリー・ギア』は29日、「キエフでパトリオットが粉砕される―ロシアの極超音速ミサイルがNATOの盾を灰燼に帰す」と題して、「ロシアは、戦争中、最大規模かつ最も協調的な空爆を開始した。420機以上のドローンと、キンジャール極超音速ミサイルを含む20発の精密誘導ミサイルを投入し、キエフをはじめとする主要地域を壊滅的な攻撃で破壊した。多くの地区が炎に包まれ、重要インフラは瓦礫と化し、ウクライナの防空システムは圧倒された。モスクワは、この攻撃をロシア奥地への攻撃への報復と宣言した」と伝えています。
「スパイダー・ウェブ作戦」という冒険主義的な作戦は、ロシアの核能力を標的とするものであり、完全にロシアの怒りを買ってしまい、本気にさせてしまった、ということです。
『ミリタリー・ギア』は、「(パトリオットを含む)西側諸国の防衛システムは、止めることのできない(極超音速ミサイルである)キンジャールを阻止できるのだろうか?」と問いを投げかけていますが、動画を見れば、現在のロシアの新しい攻撃戦術を阻止できていないことは明白です。
- Patriot Crushed in Kyiv―Russian Hypersonic Missile Turns NATO’s Shield to Ashes(Military Gear、2025年7月29日)
『ミリタリーTV』は、ロシア軍が7月21日、「キエフ近郊で米国製パトリオット発射装置3基と、重要なAN/MPQ-65レーダーを破壊し、ウクライナの防空網に大きな打撃を与えた。ロシアはドローン群と強力なキンジャール極超音速ミサイルを用いて、西側諸国のシステムの脆弱性を露呈させ、戦場での有効性に疑問を投げかけた」と報じています。
- Breaking! Russia Destroys 3 US Patriot Launchers―Systems Keep Failing Against Missiles!(Military TV、2025年7月27日)
『APT』は7月28日、ロシア軍は壊滅的な電撃攻撃を行い、24時間でウクライナ軍1995人を殲滅し、最前線全域で武器16万6000個を破壊し、キエフにもドローンとミサイルで攻撃をかけたとする、ロシア国防省の発表を伝えました。「無人機施設、長距離ドローン管制センター、そして外国の傭兵拠点への攻撃が成功した」という内容です。
- ロシアの24時間電撃攻撃:ウクライナ軍1,995人死亡、武器16万6千個破壊、ドローンがキエフの住宅を襲う(APT、2025年7月29日)
ロシア軍の攻撃は、ウクライナ東南部4州の接触戦だけではなく、スーミ州、ハリコフ州、ドニプロペトロウシク州、西部フメリニツィキー州などにも及び、さらに北東部のウクライナ第2の都市ハリコフ、黒海に面する南部の港湾都市オデッサ、さらにはウクライナ民族主義者(ネオナチ・バンデラ主義者)の故地ともいえる、西部の都市リヴィウなどにも及んでいます。
オデッサとパヴログラードへの攻撃は、「無差別攻撃ではなく、ウクライナの物流ルート、防空システム、そして軍事生産施設の破壊を目的とした、綿密に計算された作戦」であり、「オデッサの空港、飛行場、国境検問所を含む16の精密攻撃目標が攻撃対象」となり、パヴログラードは「サプライチェーンと工業地帯が麻痺」した、と『ミリタリー・ギア』は、伝えています。
ロシア軍の高度な精密攻撃は、これまでの攻撃とは異なる次元に達しています。
- Odessa Airbase Leveled in Seconds―Cruise Missile Footage Reveals Brutal Reality!(Military Gear、2025年7月27日)
ロシア側が攻撃のギアを一段と上げた理由として、先述したように、「スパイダー・ウェブ作戦」があることは間違いありませんが、さらにその後の西側諸国の対応、特にドイツの強硬な対応も、理由のひとつとして加わったと思われます。
NATO加盟国は、6月のサミットで、2035年までに、防衛費をGDP5%まで増額すると表明しています。
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NATOサミットで加盟国は2035年までにGDP5%の防衛費増額へ! その増加資金は日本の防衛産業とAI技術へ!? マルク・ルッテNATO事務総長はトランプ大統領をNATOに引き留めるのに必死! 他方、トランプ政権は軍事費関連で日本に2つの要求を突き付けている! 日本核武装論のエルブリッジ・コルビー国防次官が暗躍! (日刊IWJガイド2025.6.27号)
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ドイツのメルツ首相は5月14日、首相就任演説で、増大するロシアの脅威に対処できるよう、通常戦力として欧州最強の軍隊へと軍を変革することが政府の最優先課題だと表明しました。
7月18日『BBC』のインタビューでは、「我々は大きな脅威を目の当たりにしている。その脅威とはロシアだ。そして、この脅威はウクライナだけに向けられたものではない。我々の平和、我々の自由、そして欧州の政治秩序に対する脅威なのだ」と語り、あたかもロシアからドイツに対して宣戦布告を受け、それに対して受けて立つ、とでも言っているかのような高ぶり具合です。
- ドイツは欧州最強の軍を構築する、メルツ首相が約束 -志願兵制を創設(ブルームバーグ、2025年5月14日)
- Germany’s Merz tells BBC Europe was free-riding on US(BBC、2025年7月18日)
ドイツのピストリウス国防相は、志願制の導入によって兵力を現行の18万人から26万人に拡大する方針を示しました。
- ドイツ、国防強化で志願兵制度を計画 期間6カ月(ロイター、2025年7月4日)
さらに、ピストリウス国防相は、14日に公開された『フィナンシャル・タイムズ』のインタビューで、ドイツ軍は、モスクワがNATO加盟国を攻撃した場合には、ロシア兵を殺害する用意があるとまで表明しました。ウクライナは、NATO加盟国ではありません。それでも、このタガが外れたようなイキリ具合はどうしたものでしょうか。
14日付『TASS』によると、ロシア大統領府の報道官ドミトリー・ペスコフ報道官は即日、ピストリウス国防相の発言を受け、「ドイツは再び危険な状況になりつつある」と警告しました。
ペスコフ報道官は、「ピストリウス氏がそのような発言をしたとは信じ難い」と述べつつ、「しかし、残念ながら、彼はそうしたのだ」とコメントしました。
- German defence minister calls on arms makers to deliver(Financial Times、2025年7月14日)
こうした状況を受けて、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は7月28日、モスクワの北東約100kmほどに位置する都市ソルネチノゴルスクで開催された「第11回テラ・サイエンティア全国教育青年フォーラム」に参加し、質疑応答を含めると1時間20分近い演説を行いました。
ラブロフ外相の演説からは、ロシア側が危機感を高めていることがよく伝わってきます。ウクライナによる組織的なテロ攻撃、NATO諸国の敵対的な態度を受け、欧州に対する深い失望と、今後「完全に狂った」欧州と対決していく覚悟を表明しています。
以下に、ラブロフ外相の演説と質疑応答を、抜粋でご紹介します。
<主要項目>
・第三次世界大戦は単に不可避であるだけでなく、既に新たな形態で進行中である。
・欧州にとってウクライナ問題は、西側がロシアに「戦略的敗北」を強いる政策だった(が、あてが外れた)。
・ドイツ国防相のボリス・ピストリウス氏「必要であれば、ドイツはロシア兵を殺すことを躊躇しない」。
・欧州はトランプ関税を甘んじて受けてでも、ロシアを打ち負かし、全滅戦争を続けたい。
・欧州のエリートは皆ナチスである。ナチズムはウクライナ社会において復活した。ヨーロッパは完全に狂っている。
・覇権を維持するため西側は、中東、ウクライナ、イランに続き、極東地域での戦争を計画している。
・BRICSとSCO(上海協力機構)は、新たな多極的な国際秩序の形成において、中心的な役割を果たしている。
・ロシアの最優先の任務は、敵を打ち破ることだ。歴史上初めて、ロシアは西側諸国全体と対決している。
・次は「インド太平洋」。これから10年間の世界安全保障システムは、容易なものではない。
・西側の約束は「すべて嘘だった」。
ラブロフ外相の演説の動画と文字おこしは、ロシア外務省のホームページで公開されています。
- Foreign Minister Sergey Lavrov’s remarks and answers to questions at 11th Terra Scientia National Educational Youth Forum, Solnechnogorsk(ロシア外務省、2025年7月28日)
セルゲイ・ラブロフ外務大臣の演説および質問への回答
―第11回テラ・サイエンティア全国教育青年フォーラム、ソルネチノゴルスク
<第三次世界大戦は単に不可避であるだけでなく、既に新たな形態で進行中である>
「多くの政治学者、研究者、専門家は、第三次世界大戦は単に不可避であるだけでなく、既に新たな形態で進行中であると真剣に主張しています。
その始まりは、1999年の西側のユーゴスラビアに対する侵略、イラクへの侵略、リビアの破壊、シリアへの攻撃です。これらの中東諸国は現在、混乱状態にあります。
イラク、シリア、リビアの領土の不可侵性 ――西側がウクライナの場合のみ、重視しているように見えるもの―― は、2011年のアラブの春において、深刻に損なわれました。これらの国々は、現在も非常に厳しい状況にあります。
現在、西側は隣の地域、すなわちガザ地区とパレスチナ領土(より広範な地域)に目を向けています。イスラム共和国イランに対する侵略行為が行われています」。
<欧州にとってウクライナ問題は、西側がロシアに「戦略的敗北」を強いる政策だった(が、あてが外れた)>
「欧州では、ウクライナ問題は、西側がロシアに『戦略的敗北』を強いる政策を象徴しています。彼らは、この計画を長年準備してきたことを隠そうとしません。
恥じることなく、すべての問題を解決するために策定されたミンスク合意(※2015年に結ばれたウクライナ東部の内戦の停戦と、ドンバスへ自治権を与えるという合意。実はウクライナに軍備を整えさせるための時間稼ぎだった)は、最初から実施されるつもりはなかったと公言しています。
プーチン大統領、当時のメルケル独首相、当時のフランスのオランド大統領、当時のウクライナのポロシェンコ大統領は、その合意のために17時間眠らずに働きました。
しかしその後、彼(プーチン大統領)とともに同じテーブルに着いた人々は、まったく実行するつもりはなかったと認めました。彼らは単に『紙に何かを書く』ことで、ウクライナがロシアとの戦争に備える時間稼ぎをし、武器を大量に供給するためだったのです」。
ラブロフ外相の指摘通り、当時ドイツ首相であったメルケル氏は、ミンスク合意が「時間稼ぎだった」と認めています。
メルケル氏は、2022年11月24日の『シュピーゲル』誌のインタビューで、「ウクライナはロシア軍に対する防衛力を増強するための時間稼ぎができた」と語っています。
- Das Gefuhl war ganz klar: Machtpolitisch bist du durch(Spiegel、2022年11月24日)
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「ロシアに対する欧米の戦争」は、すべて計画され、計算されたものだった! ドイツのメルケル前首相の「ミンスク合意はウクライナに時間を与えるため」発言に続き、ベアボック独外相が「我々はロシアに対して戦争をしている」と発言! ロシア外務省のザハロワ報道官が「あらかじめロシアに対する戦争が計画されていた」と反発!! 米ポンペオ元国務長官は「CIA長官時代、特殊部隊とともに何度もウクライナに行きウクライナ軍を訓練した」と暴露!!(日刊IWJガイド2023.1.29号)
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20230129#idx-4
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/51811#idx-4
「その同じ人達が今、キエフの顧客のために再び時間稼ぎをし、ウクライナにさらに武器を送り込むために、即時停戦と現状維持を要求しています。ヨーロッパ人が心底から『私達を打ち負かそう』としていることは、毎日確認されています。
ドイツの新首相フリードリッヒ・メルツ氏は、最近(彼が自分の発言を理解していたかどうかは定かではありませんが)、『ドイツは再びヨーロッパ最強の軍事大国にならなければならない』と発言しました。
ドイツは第一次世界大戦前と第二次世界大戦前に最強の軍事大国であり、その両方を引き起こしました。今、彼はドイツを再び『ヨーロッパの軍事大国』にしたいと考えているのです」。
<ドイツ国防相のボリス・ピストリウス氏「必要であれば、ドイツはロシア兵を殺すことを躊躇しない」>
「ドイツ国防相のボリス・ピストリウス氏は、『必要であれば、ドイツはロシア兵を殺すことを躊躇しない』と発言しました。欧州のエリート達は、このレトリックを、当然のこととして受け止めています。
これは何よりも、西側諸国が、多極化した世界の中で、単なる強国の一つにすぎないという事実を受け入れることができないことを反映しています。
西側諸国は、500年にもわたって享受してきた覇権を、放棄することはできないのです。すべての人に自分の意志を押し付け、現実的な懸念を無視しようとしている、今日のヨーロッパで特に顕著です」。
<欧州はトランプ関税を甘んじて受けてでも、ロシアを打ち負かし、全滅戦争を続けたい>
「先日、ドナルド・トランプ大統領は、欧州委員会委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエン氏と会談しました。その後、彼女は誇らしげに、欧州の製品は15%の関税で米国に輸出され、米国の製品は無関税で欧州に輸出されるという合意に達したと、嬉しそうに発表しました。
さらに、欧州は700億ドルの資金を投じて、主に液化天然ガスや核燃料などの米国のエネルギーを購入し、ロシアのエネルギーを完全に放棄することになりました。さらに、トランプ大統領が述べたように、6000億ドルの新規投資も行われます」
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