2015年5月12日と13日、「岩上安身による田代秀敏氏インタビュー 第1弾」を、前編と後編の2回に分けて、配信した。これは第1弾で、トランプ・ショックについての田代秀俊氏へのインタビューは、このあと第2弾へと続く。
米トランプ大統領の就任から、4月28日で100日が経過した。
世界を揺るがす「トランプ関税」は、一般的に高い支持率が示される、新政権就任後100日間の「ハネムーン期間」にも関わらず、トランプ政権の支持率の低下を招いた。
※トランプ大統領が、唐突に中国からの輸入品に対して最高145%の関税の引き上げを行うと発表したが、中国が断固として妥協しない姿勢を示すと、トランプ大統領は今度は一方的に引き下げると発言! 中国は「トランプ氏が折れ始めた兆し」と認識! この政策転換の背後には、トランプ氏支持率が、過去70年の歴代大統領の中で、一挙に最低の支持率となった事実がある! 民主党支持者からは「47番(第47代米大統領のトランプ氏のこと)がしてきたのは、残酷さと邪悪さだけだ」など強烈な批判!
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インタビュー前編で、田代氏は、「トランプ時代を生き延びるには」と題して、若き日のドナルド・トランプ氏を、関係者の証言にもとづいて忠実に描いた映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』から、キーポイントとなるエピソードを参照して、トランプ大統領という人物を分析した。
トランプ氏の世界観を、深く知ることはとても重要である。
トランプ氏は、最初の妻で、チェコスロバキア出身のファッションモデルだったイヴァナを口説く時、「人生には2種類の人間がいる。『殺し屋(キラー Killer)』と『敗北者(ルーザー Looser)』だ」と語った。
田代氏は、トランプ氏が「どうやったら、常に『キラー』の側にいられるか」を考えていると指摘し、次のように述べた。
「この『ルーザー』という言葉は、トランプが相手を罵倒する時、必ず使う言葉です。
パウエルFRB議長に対しても、『こいつはビッグ・ルーザーだ』って言いましたよね。
だから、『ルーザー』っていう言葉を使う時は、要するに『俺はこいつを「キル」する(殺す、打倒する)』と言っているわけです」。
続いて田代氏は、今年4月2日に、トランプ大統領が「相互関税」を課すことを発表した際に、ホワイトハウスが公表したファクトシートから、次の一文を引用して示した。
「今日の行動は、我が国が他国を扱うように我が国を扱うように、他国に対して求めるだけである。
これが、黄金時代のための、私達の黄金律だ」。
田代氏は、このトランプ大統領の言葉を、次のように解説した。
「要するに、他の国々、日本とか中国などに対して、『俺達がお前達を扱うように、お前達も俺達の国を扱え』ということを求めてるだけなんだと。『これが、黄金時代(ゴールデン・エイジ Golden Age)のための、私達の黄金律(ゴールデン・ルール Golden Rule)だ』と。
仰天しました。『ゴールデン・ルール』というのは、通常、アメリカで言えばキリスト教の『黄金律』、イエス・キリストが教えた(倫理的な行動指針)、『自分がその人からしてもらいたいと思うことを、あなたはその人にしなさい』という、『他者への接し方の基本原則』です。
これは、キリスト気取りですよ。(中略)
『俺達がお前達を扱うように、お前達も俺達の国を扱ってくれ』というのは、これはすごいことです。
世界中にはいろんな国があって、めちゃくちゃ貧しい国もあるわけですよ。そこにも、アメリカを『俺達がやるように』やり返せと言っている。できるわけないじゃないですか。それを、『やれ』と言っているわけですよ。
つまり、もはやアメリカは、世界のどの国に対しても、保護者でもなければ指導者でもない。対等のライバルなんだと。
同盟国も関係ないということを言っているわけです。
これが、ファクトシートの中に、はっきり書いてあるんです。永久保存される文書に出ちゃったんですよ。
これには仰天したけれど、なぜか日本のメディアは、1行も報じていない」。
トランプ大統領の描くこの世界には、「殺し屋(キラー )」と「敗北者(ルーザー)」の2種類しかいない、友人も、同志もなく、共存も、多極化もありえない、というものなのである。
さらに田代氏は、前述の映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』の中から、もう一つの重要なエピソードを指摘した。
若き日のトランプ氏は、悪名高き辣腕弁護士ロイ・コーンと出会い、「勝つための3つのルール」を叩き込まれる。
それが、「攻撃! 攻撃! 攻撃!」「何も承諾せず、すべて否定する」「常に勝利を宣言し、決して負けを認めない」というものだ。
これらがドナルド・トランプという人物の人生を貫いてきた哲学であり、現在のトランプ政権の哲学でもあるというのである。
また、田代氏は、ミシガン大学が長年行っている統計データの分析から、消費者の経済状態に対する信頼感を示す「消費者信頼感指数」が、トランプ大統領の就任から100日で、1970年代の2回の石油危機や、2008年の世界金融危機(いわゆるリーマン・ショック)、2010年から2012年の欧州債務危機、2020年から2023年の新型コロナパンデミックなどに匹敵する、急激な落ち込みを示していることを指摘した。
その上、1年後の物価上昇率の予想値(インフレ予想)は、トランプ就任後の100日間で、やはり世界金融危機や、欧州債務危機、新型コロナパンデミックの時と同程度まで、高くなっている。
米国に行く機会のない人でも、YouTubeなどで、米国への旅行者や米国在住の方が身近な日常を撮った動画を見ることができる。
ある動画では、匿名の旅行者が、スターバックスのようなチェーン店のテイクアウトのコーヒーを買って、「これが1杯3000円もします」とレポートしていた。
円安もあってのことだが、米国の物価上昇は、現在のこの水準で止まらず、もっと上昇してゆくと見られている。
田代氏は、「石油危機や金融危機は、不幸にして起きてしまったけど、トランプ大統領は経済危機を積極的に起こしている。アメリカ建国以来前例がない」と述べ、ホワイトハウスが、人為的に、米国に「不況+物価上昇=スタグフレーション」を起こしていることを指摘した。
さらに田代氏は、米国の関税と所得税の歴史について、詳しく紐解いた。
米連邦政府は、建国当初、所得税の徴税機能がなかった。各州は、それぞれ独立国家のような機能をもち、連邦政府はあくまで、独立した各州の集まりであり、所得税は、各州が徴収して、州の財源としていたからである。
そこで連邦政府は、海外からの輸入品に高い関税を課し、主たる財源としていた。
1913年に米連邦政府が恒久的に所得税の徴収を開始するまで、米国の関税率は、高い時で60%近くにまで達していた。
インタビューの後編では、田代氏は、トランプ大統領の理想とする「米国の金ピカ時代」とは、累進課税どころか、所得税さえなく、連邦政府の税収が関税しかなかった、第一次世界大戦前の時代であることを明らかにした。
トランプ大統領は、「米国が最も豊かだったのは、1870年から1913年。米国が関税国だった時だ。それから所得税国になった」と語っている。
トランプ大統領が「金ピカ時代」と呼ぶ1870年から1913年は、工業化の進展と物質的繁栄の一方、政財界の癒着や道徳的腐敗、疑獄事件が多発していた時代でもあった。
1913年までの「金ピカ時代」、その翌年の1914年から何が起こったか。第1次世界大戦である。
第1次世界大戦が勃発し、米軍を欧州の戦場へと派遣することになってはじめて、連邦政府は、巨額の戦費のために、所得税を徴集し、富裕層ほど税率が高くなる、累進課税も導入したのである。
トランプ大統領は、バイデン前大統領と自らを差別化して、「戦争をやめる」大統領であると盛んにアピールするが、それは彼が平和主義者なのではなく、戦争を契機に、連邦政府が所得税を徴集するようになったからである。
金持ちが、極限まで金持ちとなりうる、所得税のない、第1次大戦前の「金ピカ時代」の再現に向かって、トランプ大統領は、どうやら本気でひた走っているというわけである。
また、田代氏は、米国の有力シンクタンク「ピーターソン・インスティテュート」が発表した、米国が10%の関税をかけ続け、相手国から報復関税を受けた場合の、各国の経済的影響(GDPの落ち込み)を表したグラフを、パワポで示した。
グラフでは、米国への輸出依存度が高いメキシコやカナダの落ち込みが目立つが、米国自身も、2027年まで、急激に落ち込むことが予想されている。
米国のGDPは、2027年以降、徐々に回復するが、「2040年までに、累計1兆6880億ドル(約240兆円)減少する」と、試算されている。
田代氏は、「この10%のユニバーサル・タリフ(一律関税・共通関税)というのは、おそらくずっと残る」だろうとの見方を示した。
他方で田代氏は、現在の中国が「世界で唯一のフルセット型産業構造」の国であると指摘している。
国内にありとあらゆる産業がそろっている中国は、「やろうと思えば、すべてメイド・イン・チャイナの部品で、完成品を作ることができる、唯一の国」なのだ。他の国々は、米国や欧州、日本も含めて、サプライチェーンのどこかで、海外に依存し、自国内で完結することができない国々なのである。
田代氏は、中国は「生成AIから合成麻薬まで、すべて国内生産が可能」だと述べ、中国製の安価なフェンタニルが輸入できなくなると、末期ガン治療など、医療にも重大な影響が出ることを解説した。
さらに田代氏は、米国製の民製品だけでなく、米軍艦や戦闘機の重要部品として、中国製半導体が多数使われていることも指摘している。
これらの半導体は、消耗品だが、代替がきくものではない。田代氏は、「米中デカップリングが実現したら、米軍は『張子の虎』」になると断言した。
5月10日と11日、スイスのジュネーブで中国の経済政策担当の何立峰(ホー・リーフォン)副首相と貿易交渉を行なった米国のベッセント財務長官は、米国と中国が、相互の関税率を115%も引き下げることで合意したと発表し、「(米中の)どちら側もデカップリング(分断)を望んでいないという点で一致した」と述べた。
まさしく、田代氏の指摘が的中した、といえる。
※大騒ぎの果ての空騒ぎ! 米中が115%もの関税引き下げに合意! ベッセント米財務長官は「米中どちら側もデカップリングを望んでいないという点で一致した」と表明! 岩上安身によるインタビューで「米中のデカップリングは不可能」との見方を示したエコノミスト・田代秀敏氏の指摘が的中! 一方、田代氏は「相互関税の基本税率10%は今後も維持されるのではないか」とも! 関税10%で米国のGDPは「2040年までに累計1兆6880億ドル(約240兆円)減少」との試算も! 市場は目先の米中合意を歓迎して米ドル、米株価とも急上昇したが、今後の見通しは不透明!? 長期的には「米国売り」のトレンドが続く?(日刊IWJガイド、2025年5月13日)
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