2024年12月8日、シリアのアサド政権が崩壊した。(※1)
アサド政権の崩壊後、イスラエル軍はシリア全土を空爆し、シリアの軍事基地を破壊。さらにゴラン高原の非武装緩衝地帯を超えて、シリアに地上侵攻した。
ロシアによるウクライナへの軍事介入を非難した米国は、この国際法違反のイスラエルの電撃作戦には支持を表明している。
バイデン政権であろうと、トランプ政権であろうと、政権交代しようとも米国がイスラエルに一方的に肩入れする背景には、米国の全人口の25パーセントとされるキリスト教福音派(エヴァンジェリスト)(※2)の多大な影響がある。
岩上安身は東京都内のIWJ事務所にて、現代イスラム研究センター理事長・宮田律(みやた おさむ)氏へのインタビューを行い、2024年12月30日に初配信した。
現代イスラム政治の専門家である宮田氏は、中東情勢についても多くの著書を執筆されている。2024年4月には、ガザ紛争についての最新刊『ガザ紛争の正体~暴走するイスラエル極右思想と修正シオニズム』(平凡社新書)を上梓され、2025年1月16日には、新著『イスラエルの自滅~剣によって立つ者、必ず剣によって倒される』(光文社)が発売された。
宮田氏は、キリスト教福音派について、「イエスの再臨を待望する狂信的なキリスト教徒」「エルサレムにユダヤ人が集まれば集まるほど、キリストが暮らしていた頃のパレスチナに近づき、キリストの復活があると考え、イスラエルに絶大な支持を与える」「パレスチナで『ナクバ』(イスラエル建国時のパレスチナ人追放による難民化)が固定したのは、キリストの再臨を待望するという狂信的なキリスト教徒たちのエゴも重大な背景となっている」と指摘した。これについては、次回以降のインタビューで、詳しく解説していただく予定である。
この日のインタビューでは、イスラエルと米国のシオニスト達が、こうしたカルト宗教的な理由によって、「イランとの戦争」という「ハルマゲドン」に向かっているのではないか、という観点から、シリアのアサド政権崩壊前後の中東情勢を読み解いた。
12月10日付『ワシントン・ポスト』は、「ウクライナが、150機のドローンとそのオペレーターをシリアに派遣している」と報じた。日本ではほとんど報じられていないが、シリアのアサド政権を崩壊させた反政府組織は、自国が敗戦の危機に瀕しているウクライナのドローンで武装していたのである。(※3)
ウクライナが支援した反政府勢力のシリア解放機構(シャーム解放機構、HTS)は、イスラム原理主義(ジハード主義)のアルカイダ系組織・ヌスラ戦線が中心となって構成されている。米国を筆頭に、あれほどアルカイダを忌み嫌っていたはずが、米国とイスラエルの戦略にとって都合が良い場合には、何も非難しないのだ。
一方、アサド政権の崩壊を受けて、シリアの軍事基地を破壊し、シリア上空の防空力を排除したイスラエルは、イランの核施設を攻撃する可能性も報じられている。
宮田氏は「こういうイスラエルのシリア攻撃が、いかに酷いかということを伝えるメディアがない」と指摘した上で、次のように語った。
「イスラエルが次、何を狙っているかというと、イランへの攻撃を狙っていると思うんですよね。今回のシリアの政治変動では、アルカイダ系の武装集団にイスラエルが金を渡していたという話もある。今のシャーム解放機構は、基地が(イスラエル軍に)やられても、眺めているだけっていう連中で、別にシリアの基地を守ろうともしない」。
宮田氏は、「現在のシリアの政権を握った勢力が、イスラエルに対する戦争をやるとは思えない」と述べて、破壊されたシリアの軍事力が、イスラエルに対する抑止力になっていたと指摘した。
イスラエルが周辺諸国に戦線を拡大する理由について、宮田氏はシオニストによる「大イスラエル主義」(※4)という概念と、その地図を見せた。
「大イスラエル」の地図には、ヨルダンやレバノンだけでなく、シリアやイラク、サウジアラビアやクウェート、エジプト、トルコの一部までが含まれている。イスラエルが、まるで古代の神話のような「大イスラエル主義」を信奉してイランを攻撃するとなれば、その攻撃対象に核施設が含まれてくる可能性もある。
宮田氏は「イランの核施設は、ロシアが作っている。ロシアは、イスラエルによる破壊は認められないし、中東の足場であったシリアを失ったので、イランまで失いたくない。そして、イスラエルがやれば、アメリカが出てくる。プーチン大統領はその対抗策を考えるだろう。そうなったら直接的な軍事衝突もあり得ない話じゃない」と」語り、世界が「ユダヤ・イスラム」の全面核戦争に巻き込まれかねない展開に危機感を示した。
※「トランプは戦争をしない」は嘘! 米大統領がバイデンでもトランプでも、イスラエルのやることは全部支持! キリスト教に妥協したユダヤ教徒と、福音派の猛烈な支持を抜きには考えられず、イスラエルの利益を最大限に追求!~岩上安身によるインタビュー第1176回ゲスト 現代イスラム研究センター理事長・宮田律氏
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/526058
※パレスチナ人の人権を蹂躙する極右の国内治安相~12.23 浅野健一が選ぶ講師による「人権とメディア」連続講座~第1回 宮田律氏(現代イスラム研究センター理事長)「ガザ紛争の背景~台頭するイスラエル極右の世界観と米国のダブルスタンダード」 2023.12.23
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/520531