2025年7月25日、「岩上安身によるインタビュー第1200回ゲスト neutralitystudies.com主宰 京都大学大学院法学研究科・准教授パスカル・ロッタ博士(前編)」を、撮りおろし初配信した。
インタビューは、岩上安身が質問を日本語で行い、ロッタ博士には英語で答えていただき、日本語字幕を入れている。
前編は、主に以下のトピックスについて、質疑応答が行われた。
・YouTube番組「ニュートラリティ・スタディーズ」を始めたのは、ウクライナ紛争の真実を追求するためだった。
・独立であることは、中立であるために必要不可欠。
・貿易は戦争なしで問題を解決する。平和的な交流が相互の繁栄につながる。
・トランプ関税は機能しない。
・ウクライナ紛争の起点(その1)――2014年ユーロ・マイダン・クーデター。
・「いわれなき侵攻」というプロパガンダ。
・NATOの東方不拡大――条約がなくても「口頭での約束にも法的に拘束力がある」。
・ウクライナ紛争の起点(その2)――2007年ミュンヘン安全保障会議と2008年ブカレストサミット:ウクライナとジョージアをNATOに加盟させる動きにロシアが猛反発。
・ウクライナの民族問題と取り残されたロシア人問題――多民族・多言語国家として共存していく必要性。
<YouTube番組「ニュートラリティ・スタディーズ」を始めたのは、ウクライナ紛争の真実を追求するためだった>
冒頭、パスカル・ロッタ博士の経歴や、ロッタ博士が、ジェフリー・サックス教授など、世界中の有識者と対話を続けるYouTube番組、「ニュートラリティ・スタディーズ」の名称の由来について、うかがった。
ロッタ博士は、ウクライナ紛争が2022年に勃発する直前に、自分のYouTubeチャンネルを本格的に開始した。「2021年12月頃に、ロシアとの緊張が急激に高まっていった時、その理由を知りたいという強い思いがあった」と述べている。
ロッタ博士「ウクライナはすでに問題でしたが、当時はウクライナ戦争ではなく、ウクライナ紛争でした。私達は、それを紛争として議論していました。2021年12月頃には、すでに緊張が高まっていましたよね?
そして、その前から状況が加熱してきて、本当に、その理由が知りたかったんです。なぜ悪化するのか、知りたかった。
そして、その理由を教えてくれる最適な人は、その場にいた人、つまりジャック・マトロック氏にたどりつきました。
ジャック・マトロック氏は、ソビエト連邦最後のアメリカ大使でした。彼は今も存命で、現在95歳です。彼は当時、92歳でした。ジャック・マトロック氏は、以前テレビで講演していましたので、私は彼に質問をしたいと思ったのです。
私は『彼にメールを送って、私の小さなチャンネルで話してくれるかどうか聞いてみよう』と思ったんです。その当時、私のチャンネルは数百人の視聴者しかいなかったんですが。でも彼は『いいよ』と言ってくれて、それで彼にインタビューすることができました。
そうやって、私は、YouTubeを媒介にして、興味深い人々と話せることに気づき、インタビューを続けました。それは、知的な人々と話す機会を得たり、質問をしたりするのに非常に役立ちました」
<独立であることは、中立であるために必要不可欠>
岩上安身は、YouTubeなどで、ジェフリー・サックス教授やジョン・ミアシャイマー教授、スコット・リッター氏、ダグラス・マクレガー大佐らが積極的に発言し、それがAIの発達によって、世界各国の言語で視聴できるようになったため、「既存メディアのプロパガンダに穴をあけることができるようになった」と述べた。
ロッタ博士「問題は、主流メディアでは、言えることと言えないことについて、非常に明確な境界線があることです。特にヨーロッパ、特にドイツでは、言えることの領域が、ますます狭まっています。
幸いなことに、私達にはソーシャルメディアがあります。幸いなことに、私達には小規模なジャーナルがあり、あなたのような独立系ジャーナリストがいて、その領域の外で起こっていることに、光を当ててくれます。
そして、おもしろいことですが、学者達やほかの人達も、同じことができます。(中略)
私は、独立系ジャーナリストや学者達がすべきことは、その物語を突き崩すことだと考えています。彼らは『否、否、否』、このバブルの外で起こっていることがたくさんあると反論する。それが、私達の役割です」
ロッタ博士は、博士論文で第二次世界大戦中のスウェーデン、スペイン、スイスという3つの中立国と、日本との関係に焦点を当てた。「中立性」の研究が、研究の起点にある。
岩上「『ニュートラリティ』という言葉も、非常に素晴らしいと思うし、あと、インディペンデンスということも、とても大事だと思うんですね。
僕がやっているメディアは、『IWJ』と簡単に言っていますが、これは『インディペンデント・ウェブ・ジャーナル』なんです。
インディペンデントという名前をつけたのは、独立したメディアだよっていう意味と、もうひとつ、日本は自立していないんです。従属しているんです。アメリカに従属させられている、ジュニアパートナーでしかないんです、と。
でも、これは、ほとんどの日本人が理解していないわけですね。日常の中では、そう感じることがないから。官僚機構とか、上の方だけが従属していて、それを押し付けるので、日本政府を見ている限りは、そうは見えないわけですよ。
だから日本は、実は重要な外交とか、安全保障、セキュリティに関してとか、あるいは軍事という問題に関しても、自分でイニシアチブを取れない。そういうハードパワーの問題を、自分で解決できない。アメリカの言う通りになってしまう。
それで、昔は良かったかもしれない。アメリカがヘゲモン(覇権国)として非常に大きかった時代は、その中でコバンザメになっていれば良かったかもしれないけれども、もはや時代が違ってきて、中国が台頭し、アメリカが縮小していく過程で、日本はこのままコバンザメを続けていたら危ないという思いから、『インディペンデント・ウェブ・ジャーナル』という名前をつけたんですね。(後略)」
ロッタ博士「それはとても大事なポイントです。もし、もう1点付け加えるならば、中立性と独立性は密接に関連しています。なぜなら、中立であるためには、一定程度の独立性が不可欠であり、逆もまた真だからです。
私自身について言えば、私のチャンネルは『中立性研究(neutrality studies)』という名前です。私がやっているのは、中立性研究ですが、私自身は中立ではありません。私は、非常に強い意見を持っていますが、中立主義者です。大国の間でバランスを取る独立した場所が、もっとあれば良いと思います。
時々、みんなが私に言います。『パスカル、あなたは日本に住んでいるよね。日本は中立ではないでしょう。日本はアメリカの同盟国だ』と。
私は、彼らに答えます。『はい、まだ中立ではありません。しかし、日本は素晴らしい中立の場になりえます。アメリカと中国の間で、大国間バランスを調整できれば、日本は平和を維持する素晴らしい役割を果たせるでしょう』と。
しかし、優れた平和維持役には、一定の独立性が不可欠です。誰も完全に独立しているわけではありません。
私達は皆、他者を必要とし、すべては交渉です。しかし、軍事同盟内では、依存関係が非常に強くなります。
現在のヨーロッパの状況を見てください。ヨーロッパ諸国が(米国の)衛星国として利用されている様子は、日本よりもはるかに深刻です。
日本は、ヨーロッパよりも独立性がありますが、それでも限界があります。同盟は、依存関係を形成します」
<貿易は戦争なしで問題を解決する。平和的な交流が相互の繁栄につながる>
岩上安身は、「日本はエネルギー資源のない島国なのだから、平和的共存が必要だ」と述べた。
ロッタ博士は、第2次世界大戦中の、日本の主戦論者らの主張を紹介した。
当時、日本の人口は約6065万人だったが、主戦論者の多くが、このまま日本の人口が増えていき、2000年までに日本の人口が1億人に達するとすれば、食料が不足するから「私達は生き残れない」「日本は植民地が必要だ」「海外に進出する必要がある」などと主張して、戦争に踏み切った。
ロッタ博士「彼ら(主戦論者)は、『私達は死ぬだろう。誰もが死ぬだろう。私達は生き残れない』と主張していました。
わかりました。今、第2次世界大戦は終わり、日本は敗北しました。日本の人口は、1億2000万人になりましたが、日本は滅びなかった。なぜか?
なぜなら、私達は、貿易をしているから。貿易で、必要なものは手に入れられますし、そうすれば大丈夫です。
日本は、まったく問題ありません。私達は、戦争に行く理由として、馬鹿げた考えを抱くことがあります。貿易は、戦争なしで問題を解決します。平和的な交流が、相互の繁栄につながるような環境が必要です」
<トランプ関税は機能しない>
岩上安身は、米国のトランプ大統領が、ロシアに対してだけでなく、「ロシアと取引をしている国」にも二次関税をかけると言っている。つまり、中国とか、インドが狙いでしょう」と指摘し、「これは成功すると思うか?」と質問した。
- 日時 2025年7月16日(水)16:00~
- 場所 IWJ事務所(東京都港区)
ロッタ博士「いいえ、それは機能しないと思います。
米国は、第三国を脅迫するために、二次関税を使用した歴史があります。しかし、現在は、米国はこの脅迫を過剰に利用しており、中国に対して脅迫を続けています。
3ヶ月前、米国は、中国に対して『100%の関税を課す』と脅しました。すると中国は『いいでしょう。私達は、米国にレアアースを一切供給しない』と応じました。それで、米国はやめました。
なぜなら、彼らは理解したからです。『ああ! 私達は、中国からレアアースが必要だ。完全なデカップリングはできない』。
米国は第三国や小国を脅迫することはできますが、中国のような大国は、それに従う必要がありません。
もし、米国が日本に対して同じことをすれば、日本は怒るでしょう。そうでしょう?
怒らせる人が多ければ多いほど、構造的な力を弱めてしまいます。二次関税はうまくいきませんし、悪いアイディアです。
他の関税措置でも見られるように、米国、ドナルド・トランプ氏は、あっという間に撤回したり、あるいは単に忘れてしまう傾向があります。したがって、これはそのパターンの一部であると考えられます」
<ウクライナ紛争の起点(その1)――2014年ユーロ・マイダン・クーデター>
ウクライナ紛争は、2020年2月24日のロシア軍侵攻から始まった、と言われている。西側メディア、バイデン大統領を筆頭に、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長ら、影響力のある西側の政治家も、一斉にロシア軍のウクライナ侵攻を「いわれなき侵攻(Unprovoked War)」と呼んで非難した。
岩上「まず1つ目の質問ですけれども、ウクライナ紛争の起源はいつなのかと。
2014年のユーロ・マイダン革命。僕らは『レボリューション』という言葉使わないです。これは『クーデター』です。
その後に始まった、ロシア語話者、ロシア語スピーカーへの差別。(中略)
ウクライナ紛争の起点は、そこからなのか、その前からなのか。
それから8年間、この2014年からロシアの侵攻が始まるまで、2022年まで、8年間続いたわけです。その時、何をしていたかというと、ウクライナ軍、政府軍が、ドンバスとか、そういった自国内の国民ですよ、ロシア語スピーカーだって自国民なのに、無差別空爆とか、大砲で撃つ。それを行ってきたわけです。
これはジェノサイドであり、民族浄化ではないのか。(中略)
西側は『いわれなき侵攻』、『いわれなき』っていうのは、『理由なき侵攻』ということですね。つまり、『問題ないのに、突然侵攻した』と。(中略)
これがまったく嘘であることは、いくらでも論じられるんですけど。こういうのは、虚偽のプロパガンダではないだろうかと、私は思っているんですが。
3つの質問があるから、順番に言っていただいて構いませんが、ロッタさんのご見解を教えてください」。
ロッタ博士「ありがとうございます。とても良い質問ですね。
私は、『どこを始まりとすべきか』という問題については、2014年のマイダンクーデターが適切な起点だと、強く考えています。なぜなら、そこが大量の暴力が始まった所だからです。
ウクライナ国内、およびウクライナとロシアの間で、暴力や問題は、以前から存在していました。しかし、それらは主に政治的、そして、社会的なレベルでのものでした。彼らは、即座に暴力に走ったわけではありません。
しかし、2014年、マイダンで100人もの人々が死亡しました。
現在、ありがたいことに、イヴァン・カチャノフスキー(※)を含む、優れた研究によって、その人々が誰であったかがわかってきています。カナダ在住のウクライナ人学者である、イヴァン・カチャノフスキーによって、これらの人々は、ウクライナを欧州陣営に引きずり込もうとした勢力に攻撃を受けた人々であったことが、わかっています」
(※)カナダのオタワ大学のウクライナ系カナダ人政治学者、イヴァン・カチャノフスキー(Ivan Katchanovski)氏が、2023年6月21日に、1683年創業の出版社BRILL社が発行する雑誌『Russian Politics』(web版)に発表した論文「マイダン虐殺裁判と調査の暴露:ウクライナ・ロシア戦争と関係への影響」で、次の点を指摘している。Wikipedia日本語版には、「カチャノフスキー氏は、ロシア人」と書かれていたが、それはデマである。彼はウクライナ生まれ育ちの移民一世であり、カナダ生まれではなく、ロシア人でもない。
第1に、ユーロ・マイダン・クーデターによって、選挙で合法的に選出された親露派のヤヌコヴィッチ大統領の政権が転覆されて、親欧米派政権が樹立されたこと、その直後から、ロシア語話者の住民への差別と弾圧、ロシア語話者が多く住むドンバス地方での内戦、そして現在のウクライナ紛争に至る、一連の血なまぐさい「悲劇」の起点となったこと。この点は、IWJが繰り返し、報じ、論じてきた点とまったく重なる。
第2に、多くの証拠・証言と医学的・弾道学的検査は、100人を超える大虐殺の犯人は、マイダン支配下の建物に配置された複数のスナイパーだったことを明確に示していること。 このとき、野党指導者達が支援するデモ参加者達とウクライナ内務省傘下のベルクート特殊警察部隊の警官を含む100人以上が死亡した。
これまで、この大虐殺の犯人は、西側とクーデターに成功した「右派セクター」らから、ヤヌコヴィッチ政権だと決めつけられてきた。このため、特にデモ隊に向かって発砲したのは、当時のヤヌコヴィッチ政権下にあったベルクート特殊警察部隊の犯行であるというプロパガンダがバラまかれ、その言説への真摯な検証も、捜査も行われず、プロパガンダが「真実」であるかのように、ウクライナと西側諸国では定着して行った。
しかし、このときの大虐殺の被害者の中には、ベルクート特殊警察部隊の警官も含まれていた。
この点を、イヴァン・カチャノフスキー氏は次のように述べている。
「ウクライナと西側諸国の支配的なシナリオは、マイダンでのデモ隊の虐殺をヤヌコヴィッチ政権のせいだとし、警察官が殺害された事実をほとんど無視している。一部の例外を除き、西側とウクライナのメディアは、マイダンの虐殺の裁判と、マイダンが支配する建物内のスナイパー達に関する調査結果を報じなかった」
「一部の例外を除き、西側とウクライナのメディアは」と、カチャノフスキー氏は述べているが、IWJは2014年の事件当時(現在もそうだが)、まさにメインストリーム・メディアとは一線を画す「例外」的な報道を行っていた。
このスナイパー達が、イスラエル軍の兵士だったという目撃談があることを板垣雄三東大名誉教授の談話として、IWJはお伝えしている。
イヴァン・カチャノフスキー氏の実証によれば、明らかに、マイダンのデモ隊側が発砲し、この大虐殺の犯人だったことになる。
スナイパーの一部がイスラエル軍特殊部隊の兵士だったとすれば、米国のパイアット・ウクライナ大使(当時)とヌーランド国務次官補(当時)が、クーデターのシナリオを描いて、引き金はイスラエル軍特殊部隊の兵士に引かせたということになる。
スナイパーが、誰であったのかは、今後も検証されてゆくべきだろう。しかし、マイダンのデモ隊側から発砲があったことは、真実性が高いと思われる。
この結果、民衆の怒りはヤヌコヴィッチ政権に向かうことで、政権は崩壊し、クーデターは成功し、ロシアへ亡命したヤヌコヴィッチ氏に虐殺の罪をかぶせることができる、というわけである。その虐殺の濡れ衣を着せられたヤヌコヴィッチ氏を受け入れたロシアは、今に至るまで「悪党の国」扱いである。
これは、米国とイスラエルとウクライナの民族主義者らの連携による「偽旗虐殺事件」だったと言える。
ロッタ博士「しかし、その話は、いったん置いておきましょう。
その後、人々が死に始め、ドンバスが分離しました。そして、あなたがさっき言ったように、ドンバスへの攻撃が始まり、2014年から2022年の8年間で、1万4000人が死亡しました。その多くは、ウクライナ軍によって殺害されましたが、反撃などによっても死亡した人もいます。
多くの人が亡くなりました。そのため、ウクライナ戦争について話すならば、2014年は良い出発点です。
しかし、ウクライナは当然ながら、それ以前にも、内戦を含む紛争を抱えていました。そして、2022年に戦争が拡大しました。現在、私達が知っている規模と強度に、拡大したのです。
私が2022年にショックを受けた理由は、ロシアがそのようなことをするとは思わなかったからです。そんなことをすれば、ロシア自身も大きく傷つくと考えていました。私が話したことのあるロシア人のほとんどは、ウクライナに家族や友人がいます。
これは、ドイツとフランスのような、国境地域は相互に属しているといった2つの国です。彼らは継続的な交流を続けています。当然、それは痛みを伴います。ロシアもまた、自分自身を傷つけているのです。
ですから、私はこれが起こらないと思っていたし、ロシアは別の道を行こうとするだろうと考えていました。
その点では、私は間違っていました。ロシアの指導部は、今こそ軍事介入が必要だと決断したのです。
このくらいにしておきましょう。私は、歴史的な背景を考慮すると、2014年まで遡ることは、理にかなっていると思います。特に暴力の要因を考慮すると、なおさらです」
<「いわれなき侵攻」というプロパガンダ>
岩上「あれ(ロシアによるウクライナへの軍事介入)は『いわれなき侵攻』であるとか、『ロシアは新帝国を作るためにどんどん領土を拡大してる』といった、プロパガンダ(が広められ、定着している)…」
ロッタ博士「それは馬鹿げた物語です。
私はいつも、プロパガンダとナラティブを区別しています。プロパガンダとは、政治家や新聞などが特定の目的で広めようとする情報です。一方、ナラティブは、私達が自分自身に語り、世界を理解するための物語です。(中略)
西側、欧州や北米、日本にも、まったく異なる物語を創り出す人々がいます。彼らにとって、ロシアが拡大を目論み、大帝国を築こうとしているという物語は、彼らの行動を説明するために、非常に重要な要素となっています。
私達(ロッタ博士と岩上安身)は、ロシアがそのようなことを目指しているわけではないという点で、意見が一致していると思います。それはロシアの動機ではありません。
これは、現在進行中の二つの物語の間で繰り広げられている『物語の戦い』です。どのように世界を理解し、現実がどこにあるのか、それが根本的な問いですよね?『どちらが本物なのか』」
<NATOの東方不拡大――条約がなくても「口頭での約束にも法的に拘束力がある」>
岩上安身は、ソ連の初の大統領で、最後の大統領であるミハイル・ゴルバチョフ氏に、米国のベイカー国務長官らが東西ドイツ統合を認めさせる際に、「我々はNATOを1インチも東方拡大しない」と約束したことに言及した。
岩上「何回も、彼らは約束してるんですね。
でも、『そんな約束は条約じゃないから意味がない』とか(米国側が)言い出してるのが、最近の話ですよね。そしたら、もう、外交なんて成り立たないわけですよ」
ロッタ博士「それ(米国側の言い分)は間違っています。ハーグの国際司法裁判所(ICJ)の1974年の判決で、すでに、条約は必要ないことが明言されています。国際法のもとで、約束が有効であるために、条約は必要ありません。
もし、それぞれのトップの指導者達が、自分達の国が法的な拘束力を持つつもりで約束をしたら、ICJは、『国際法のもとで、その約束は法的な拘束力を持つ』と言っています。
なぜなら、国際外交は、交渉相手を信頼できるという事実にもとづいた信用に依拠しているからです。
つまり、法的に拘束力があるのは、条約に書かれた内容だけではなく、口頭での約束にも、法的に拘束力があるのです。その約束が、適切な人物によって明確な意図を持って行われた場合には。
そして、アメリカ人だけでなく、西ドイツ人も、ソビエト連邦に対して、NATOがもはや脅威ではなく、統一されたドイツがソビエト連邦に対して敵対的な立場を取らないと約束したことは、明確な意図でした。
ゴルバチョフは、そのように信じていました。だから彼は言いました。
『わかりました。あなた達は知っているでしょうが、第二次世界大戦後、ドイツは4つの大国によって占領されていました。フランス、イギリス、アメリカ、そしてソビエト連邦が、全期間にわたって占領していましたから』。
これら2つのドイツが再統一されるためには、4つの署名が必要でした。そして、ソビエト連邦は4つ目の署名において決定的な役割を果たしました。
マーガレット・サッチャーも、それは正しいと言いました。イギリスも非常に重要な役割を果たしました。
その件は、アメリカ人が対応にあたりました。その後、アメリカ人がソビエト連邦に対して、『安全を保証する』と、共同で約束しました。ゴルバチョフはそれを信じ、誰もが住むことができる統一された共通の家(欧州共通の家)を望んでいたからです。
後になって、残念ながらアメリカ人は、その約束を守るつもりはなかったことがわかりました。
ただし、全員ではありません。例えば(ロッタ博士が話を聞いた)ジャック・マトロックのような、その場にいた人々は、『私達も共通の家を築くつもりだった』と、本気で考えていたのです。
私は、たしかにベイカーも、そのように信じていたであろうと思っています。
しかし、アメリカには異なる考えを持つ人々がいて、彼らが1990年代に政治的な議論で勝ち、NATOが拡大されたのです。
しかし、そうではない人々も存在していました。ベイカーもそのことを意図していたと私は思います。ジャック・マトロックは、ゴルバチョフとの交渉の際、その言葉を本心から発したことは確信しています」
<ウクライナ紛争の起点(その2)――2007年ミュンヘン安全保障会議と2008年ブカレストサミット:ウクライナとジョージアをNATOに加盟させる動きにロシアが猛反発>
岩上安身は、クリントン政権が、約束を反故にし、1999年から段階的に東方拡大を押し進めてきたが、「特に2008年が重要だと思う」と、次のように質問した。
岩上「特に2008年、ここが、重要だと思うんです。
この前後には、オレンジ革命もあり、より危険な状態に、ウクライナがなったんですけれども、この時に(ロシア側は)『ウクライナは絶対にレッドラインだから、そこに手は出さないように』っていうことを(欧州側に)言っている。
それをまったく無視する形で、結局オレンジ革命では成就しなかったことを、その続きとして、2014年にクーデターによって、ひっくり返した。
僕はこういうストーリーだと思ってるんですけど、それはいかがでしょう」
ロッタ博士「2008年は非常に重要な年でした。なぜなら、その年は、NATOのブカレストサミットが開催され、NATOはウクライナとジョージアが次なる加盟国となるか、または加盟権が彼らに拡大されることを約束したからです。
これは、レッドラインでした。
重要な年なのですが、その前年の2007年には、毎年恒例のミュンヘン安全保障会議が開催されていました。プーチン氏はその場にいました。現在では、プーチン氏が安全保障会議に出席しているなんて、想像することはできませんよね。
しかし、当時は、少なくとも名目上は、ロシアも統合されていたので、プーチン氏はそこにいました。ご存知のように、当時はG7がロシアを含めてG8に拡大していた時代でした。
2007年のミュンヘン安全保障会議の場で、ウラジーミル・プーチンは、極めて重要な演説を行いました。彼は皆に、『私達を敵視するのはやめてください』と警告しました。
『ロシアを敵視するのをやめてください。もし、NATOが私達の国境にまで進出している状況になれば、私達は安全と安心を感じることができません。あなた達は、私達の安全保障上の利益を無視しています』と、強く訴えました。
それ以前からも、彼は常に『安全保障は共に築くしかない』と言い続けていました。『他者を犠牲にして、安全保障を築くことはできない』と。
ヨーロッパ人は、『それは真実ではない。悪いね』と無視しました。
これを無視したのは、アメリカ外交でした。2008年、ヨーロッパのメルケル(当時の独首相)とサルコジ(当時の仏大統領)は、ウクライナとジョージアに加盟拡大を約束することを望まなかったので、当時退任間近だったジョージ・W・ブッシュ大統領が、そうしたのです。
誰がそれを主張したのか。そして、ドイツ人とフランス人がその後屈服し、『わかった、約束しよう』と述べたのか。
ドイツ人は、自国の立場を主張するだけの独立性がなかったのです。
これは、単にロシア人にとっての『レッドライン』ではありませんでした。
それがレッドラインであることは、理解されていました。2009年に当時の駐ロシア米国大使、のちにCIA長官となったウィリアム・バーンズ氏が、『ニエット(nyet=否)はニエット(NO)を意味する』と記していた(※)からです」
(※)バーンズ大使は、モスクワからワシントンにこのメモを電報で送った。
ロッタ博士「これは、あらゆるレッドラインの中でも、最も赤いラインです。
そして、プーチン氏だけではありません。ロシアのあらゆる政治的指導者が、『ニエット(否)、ウクライナがNATOのメンバーになるなんて。これは致命的な脅威であり、私達にとって大きな脅威だ』と主張しています。『私達はそれを受け入れることはできない』と。
そして、米国と欧州は、それを無視しただけでなく、特に米国主導のもとで、『見ろ、ロシアはこれを受け入れなければならない。これは事実となる』と述べました」
ロッタ博士は、「私は今でも、2022年にロシアが攻撃を仕掛けたことは、間違っていたと考えています。また、今でも、その行為は国際法上違法だったと考えています」と述べた上で、「それは違法な行為でしたが、『いわれれなき攻撃(unprovoked attack)』ではありませんでした。きわめて挑発的な状況下での行為でした」と明言した。
<ウクライナの民族問題と取り残されたロシア人問題――多民族・多言語国家として共存していく必要性>
岩上安身は、ソ連邦を構成していた15の共和国に、取り残されたロシア人がおよそ3000万人おり、迫害を受けていることを指摘した。
ロッタ博士「ソビエト連邦の崩壊後も、ウクライナの状況は変わりませんでした。ただ、(権力内部の)構成や多数派と少数派のバランスが変化しただけでした。
ウクライナの悲劇のひとつは、ロシア語を話すウクライナ人(ロシア語話者)の大多数が、自分達をウクライナ人だと定義していた点にあります。
彼らは、ロシア語を話すウクライナ人(国民)ですが、(ウクライナ政府の)ウクライナ人ファースト主義、ウクライア人第一主義で失敗しました。彼らは、暴力が始まり、キエフでの政治的混乱が深刻化し、東部のロシア語を話す少数派が脅威を感じ始めた時になって初めて、ロシアの一部になりたいと考えました。
それらの人々の内には、実際に、言語権や教育権など、より多くの権利を獲得するために反乱を起こそうとした人々もいました。
2014年から2022年にかけて、ミンスク合意は、ドンバスをウクライナに留め、ウクライナの一部として再統合し、全員が平等な権利を得られるようにする目的で策定されました。
それがミンスク(合意)の根本的な考え方でした。ロシアは、その考え方の主な支持者でした。
理由は、さまざまでしたが、良い、非常に良い理由でした。要するに、ヨーロッパとアジアでは、多民族・多言語国家として共存していく必要があります。
残念ながら、それもまた、常に分裂が生じる場所でした。分裂は、外部からでも内部からでも生じうるもので、特にヨーロッパは常に分裂の脅威にさらされ、再び統合される可能性を抱えています。(中略)
国家は分裂しますが、良い知らせは、それらが再び統合されることです。欧州連合は、まさに偉大なる団結を築いた統合プロジェクトですが、現在の欧州はその点でひどく劣化しています」
パスカルさんのyoutube毎回見ていますが、ニュートラルで勉強になります。
コンピューター翻訳しているので若干聞きづらいところもありますが、理解できる範囲なので是非お勧めします。