2025年1月1日、岩上安身による評論家、元日経新聞・朝日新聞記者・塩原俊彦氏インタビュー第2回(2024年12月30日収録)を、撮りおろし初配信した。
塩原氏の著書『ウクライナ3.0~米国・NATOの代理戦争の裏側』(社会評論社、2022年)をはじめとする、一連のウクライナ関連書籍が、2024年度「岡倉天心記念賞」を受賞した。
前回、12月20日に初配信した第1回インタビューでは、「岡倉天心記念賞」の受賞について、話をうかがった。以下のURLから、ぜひ御覧いただきたい。
第2回インタビューでは、塩原氏が視聴者に「ぜひ伝えたいこと」として、ウクライナ情勢をめぐる「戦況」「経済」「和平」の3つの論点について、西側メディアではまったく報じられない真実を明らかにした。
「戦況」について、塩原氏は、「ウクライナ東部の要衝ポクロフスクに注目していた」と述べた。ポクロフスクの近郊ペスチャノエには、ウクライナ最大の無煙炭炭鉱があり、このコークス用石炭は、ウクライナの鉄鋼産業にとって不可欠なものであるため、もしこの炭鉱がロシア軍に占領されると、ウクライナ経済にも、火力発電にも、大打撃となるからである。
その上で塩原氏は、塩原氏が「ロシアで最も尊敬するジャーナリスト」だというユリア・ラティニナという女性記者が、『ノバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ』に書いた記事の内容を、「ウクライナの本当の戦況」として、次のように紹介した。
「(ペスチャノエの南東の)シェフチェンコに要塞があって、この要塞が、12月16日にロシア側によって占領された。
本来であれば、ウクライナ側は、このシェフチェンコとベスチャノエを防衛ラインとして守っていたのに、第155旅団というのが、この155旅団というのは、フランスでわざわざ訓練を受けた、言ってみれば精鋭部隊であるはずなのに、旅団ですからたぶん2000人規模の部隊だと思いますが、そのうちの約1000人くらいが脱走した。
そういうことがあって、シャフチェンコが16日に落ちて、ベスチャノエも、ロシア側に、戦わずして陥落したと言われている。
つまり、去年(2024年)の段階で、この最も重要だといわれるコークス用炭鉱が、ロシア側の手に落ちた」。
ところが、この重要な情報を、西側メディアはまったく報じていない。
さらに、ロシアやウクライナの経済状況についても、塩原氏は西側メディアの誤った分析を指摘した。
2024年12月に『フォーリン・アフェアーズ』は、「ロシア経済はプーチンの最大の弱点であり続ける」という記事を掲載し、インフレ率の上昇と経済制裁によって、ロシアのルーブルが下落し、国防費がロシアの予算を圧迫していると指摘した。
これに対して塩原氏は、2014年にロシアから米国に移住した、元ロシア財務次官でロシア銀行第一副総裁も務めたセルゲイ・アレクサーシェンコ氏が、ドミトリー・ネクラーソフ氏という人物との共著論文で、ルーブルでの銀行預金が「2022年1月から2024年9月までの間に、銀行預金はこのような短期間としては記録的な、53.8%の伸びを示した」ことから、「ロシア経済には不安定さを引き起こすような問題は存在しない」と結論付けたことを紹介した。
さらに、ロシアのGDPに占める政府債務残高の割合は、2024年時点で、20.8%。これは、米国の99%や、日本の200%超と比較しても、はるかに健全で、「財政赤字を賄うために国債を発行する余力が十分に残されている」と言える。
また、ロシアは旧ソ連時代から続く「国防発注制度」というものを、プーチン大統領が復活させたため、現在の戦時経済体制がうまくいっていることを、「ほとんどの人が知らない」と、塩原氏は指摘した。
インタビューの後半では、ウクライナの歴史から見たウクライナ語の成り立ちと、1989年のウクライナ独立以降のウクライナの言語政策の変遷と、「右派セクター」などウクライナ民族主義者(ネオナチ)との関係を塩原氏が解説し、ウクライナ国内の少数民族であるロシア語話者の人権をいかに守るか、という観点から、ウクライナ和平の困難さを論じた。