12月20日、岩上安身による評論家、元日経新聞・朝日新聞記者・塩原俊彦氏インタビューを初配信した。
塩原氏の著書『ウクライナ3.0~米国・NATOの代理戦争の裏側』(社会評論社、2022年)をはじめとする、一連のウクライナ関連書籍が、2024年度「岡倉天心記念賞」を受賞した。
「岡倉天心記念賞」は、近代欧米流帝国主義に抗して、「アジアは一つ」の理念のもと、東洋文化の再興に生涯をかけた国際的文人・岡倉天心の思想と理念を記念し、アジアの発展と地域協力・統合に関する卓越した学術啓蒙書に対して、年1回、厳正な審査委員会の審議を経て付与される栄誉ある賞。
『ウクライナ3.0~米国・NATOの代理戦争の裏側』は、ウクライナにスポットを当てながら、ウクライナ戦争の本質に迫った、塩原氏の著書『ウクライナ2.0』『プーチン3.0』に続く、ウクライナ3部作の第3弾である。
インタビュー冒頭では、この「岡倉天心記念賞」の受賞について、話をうかがった。
また、インタビューの前半では、10月24日に初配信した、岩上安身による塩原氏への4回目のインタビューで、塩原氏が言及した芦東山の『無刑録』について、詳しく聞きたいとの視聴者からのお便りをもとに、話をうかがった。
その中で塩原氏は、次のように語った。
「権力の問題というのは、罪と罰の問題。罪と罰の問題を考えるときに、キリスト教神学というのが、今まさにヘゲモニー問題を考える上での出発点のような、猛烈な影響力を持っている。
しかし、アジア的な考え方というのは、それとはまったく違う。
どちらが正しいとかという話ではなく、もう一つのアジア的なものの見方というものについて、本質的な理解を、少なくとも知る努力をしないと、キリスト教神学を批判するだけでは前に進まない。
もっと別な道というものがあり得るんだということを指し示した上で、お互いの違いをどうしていくのか、みたいなことになるんだと思う。
ただ、残念ながら、日本人も、もはやキリスト教神学的な、西洋的、あるいは西洋中心主義的なものの見方しか教えこまれないぐらい、ひどい状況になっている。
だからこそ、心してこういうものを理解するような努力をしなきゃいけない」。
さらにインタビュー前半では、シリアのアサド政権の崩壊を受けて、イスラエルがシリアを爆撃、地上侵攻している状況について、イスラエルとイランとの全面戦争の可能性や、それに対して、米国、ロシアや、サウジアラビアがどのように対応するか、といったことについて、塩原氏の見解をうかがった。
インタビューの後半では、ウクライナ和平について、塩原氏の分析をうかがった。
塩原氏は「知っている」ことと「信じること」、「信じることを通じて知ること」といった「知」の概念の違いについて、白川静氏の『字統』(平凡社、2007年)や、大澤真幸氏の『生成AI時代の言語論』(左右社、2024年)を引用して、解説した。
さらに塩原氏は、今年12月9日に最終回となった『ニューヨーク・タイムズ』での連載コラムで、ポール・クルーグマンが「エリートや政治家(米大統領)、金融システム、テクノロジー企業への信頼が失われた」と列挙していることを引用して、「『知』を支えるべき大元にある『信頼』そのものが揺らいでしまっていて、そういう意味ではまさに『知』そのものが揺らいでいる。逆に言えば、『無知』というものが広がっている、という時代に入った」と指摘した。
- My Last Column: Finding Hope in an Age of Resentment(The New York Times、2024年12月9日)
その上で塩原氏は「マスメディアへの信頼が失われている」例として、ドイツのアンゲラ・メルケル前首相が回想録『フリーダム』に書いた、2014年のウクライナで起きたユーロマイダン・クーデターのについての記述を取りあげた。
2014年2月21日、当時のヤヌコヴィッチ大統領は、ウクライナの極右ネオナチを含めた野党3党首との間で、ウクライナの今後の政治方針を定めた6項目の合意書に署名した。この合意の中の一つには、ヤヌコヴィッチ大統領が、2015年までの任期を残して、2014年12月までに大統領選挙を前倒しで実施することも含まれていた。
しかも、メルケル首相によると、このヤヌコヴィッチ大統領と野党との話し合いには、当時のドイツ、ポーランド、フランスの外相と、ロシア議会の人権委員も立ち会い、当時のオバマ米大統領と、ロシアのプーチン大統領も、この合意に賛成していた。
ところが、21日にヤヌコヴィッチ大統領が合意文書へ署名したにもかかわらず、マイダンの活動家が「明日(2月22日)の朝10時までに、ヤヌコヴィッチは権力を放棄しなければならない(しなければ射殺する)」と発言すると、野党3党首はこれを支持。ヤヌコヴィッチ大統領は、21日の夜のうちに、キエフ市外へ逃亡した。
塩原氏は「これだけの事実を知っている日本人が少なすぎる」と指摘し、次のように述べた。
「これのどこが、クーデターじゃないんですか?
メルケルのように、『こういうことがあったんだ』と、なんで真実を伝えないんですかね?
私は、誠実に学者として、そういう事実を本(自身の著書)で、すべて書いているわけですよ。
そういう事実を、隠蔽する、触れない、無視するっていうようなやつが、本当に多い」。
IWJは、「ユーロマイダン革命」と表現することはせず、当初のうちから「ユーロマイダン・クーデター」と表現してきた。
あの卑劣な暴力による政権打倒を呼ぶ呼称として、「革命」という言葉は似つかわしくないと判断してきたからである。
塩原氏の話をうかがって、理解者があらわれた、という気がした。