2024年10月16日、岩上安身は、ウクライナ問題に詳しい評論家で元日経新聞・朝日新聞記者の塩原俊彦氏への連続インタビューの第3回を行った。
塩原氏は、6月17日に、最新刊『帝国主義アメリカの野望~リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』(社会評論社)を上梓した。
このインタビューは、7月11日に配信した第1回インタビュー、9月2日に配信した第2回インタビューの続編である。
一連のインタビューは、塩原氏の著書『帝国主義アメリカの野望~リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』に沿って進められた。
10月16日の第3回インタビューは、「第1章 ウクライナ戦争とアメリカの帝国主義 ウクライナにとっての戦争の変質『自衛戦争』から『代理戦争』へ」と題して行われた。
塩原氏は「ここで私が一番言いたかったこと」として、「戦争に限らないが、変質しているにもかかわらず、その変質を認めずに、我田引水に自分の都合のいいように解釈する、という人がたくさんいるので、だまされないでほしい」と述べ、以下のように語った。
「ウクライナ戦争の始まりは、2022年2月24日。ロシア軍が全面的にウクライナに侵攻し、それに対する『自衛戦争』という側面を持っていたのは、事実ですね。
しかし、その『自衛戦争』が、ずっと今でも続いているのか、というと、実はそうではないんじゃないのか。その変質に気づかないと、いつまでたっても『「自衛戦争」なら何をやってもいい』という論理が通用してしまう。
一番わかりやすいのは、昨年2023年10月7日に、パレスチナがイスラエル側に奇襲をした、それに対する自衛として、イスラエル政府がガザ戦争を始めた。(しかし、その後も)ずっと『自衛戦争』をしている、と今でも考える人は、たぶんいないと思うんですね。(中略)
ウクライナについても、『自衛戦争』という最初の性格が変質し、『代理戦争』という形になっている。
同じ戦争でも変質している、という点を、よく理解していただきたい」。
その上で塩原氏は、以下のように続けた。
「『自衛戦争』から『代理戦争』へ、という変質は、ウクライナとロシア、あるいはアメリカとかNATO加盟国とかの関係だけではなくて、特にポーランドのような国で起きていて、しかしそういうことを、日本あるいは欧米のマスメディアは報道していない。
これは私の本にも書いていないんですけれども、自分の身の回りに、900万人とも言われているウクライナ人が、難民として、あるいは一部は移民として、ポーランド領にいる。最初は、まさに『自衛戦争』の犠牲者として入ってきた人達に対して、カトリック教徒の多いポーランドは、大歓迎をして、手厚く保護するというようなことをしてきたわけです。
しかしポーランド国民もばかじゃないから、さすがに2年半も経つと、最初の『自衛戦争』が、まさに『代理戦争』化していることに気づいて、ウクライナ人に対する非常に厳しい見方が、実は広がっている。
そういうことを、欧米や日本の人は知らない。
例えば、今年の7月1日から、ポーランドでは、ウクライナからやってきた難民に対する一時金の支払いを停止し、ウクライナ人を受け入れているアパートの所有者に対する補助金も、やめています。
あるいは、ポーランドの外相は、『ヨーロッパ中にいるウクライナ男性で、戦争に行くべき年齢の人に対する社会保障をやめろ』と、公言しています。
あるいは、ごく最近、ポーランドの国防長官は、『休日、週末になって、ウクライナからポーランドに若者がやってきて、5つ星ホテルに泊まり、どんちゃん騒ぎしていることを不愉快に思う』と、はっきり公言しています。
戦争の変質に伴って、人々の感情も、実は大きく変化をしていると言う現実があるにもかかわらず、『自衛戦争』だと言い続けたいアメリカ政府を初め、西側諸国はそういう事実をまったく報道しない。その結果、日本の人達も知らない」。
塩原氏は、「不都合なことは報道しない、言わない。だから知らない。これではおかしい」と、指摘した。
ウクライナ報道で「まったく瑕疵がないウクライナに、ロシアが一方的に侵略した」などと主張し、2014年以降ドンバス地方で行われてきた、ウクライナ政府によるロシア系住民への虐殺や弾圧を、過去に報じていたこともあったのに、ある日を境に「なかった」と嘘を平然とつく大手新聞やテレビなどの主要記者クラブメディアに対し、内部で働いている人々の神経や精神を疑いたくなる。
岩上安身が「普通の正常な人間だったら、頭の中で対立する情報がぶつかり合って、認知的不協和に陥ると思う」と批判すると、大新聞で記者をしていた経験のある塩原氏は「(マスメディア関係者は)人間として許せないことをやっている。まったく誠実さを感じさせない報道を、毎日流しているのが許せない」と、厳しく糾弾した。
一方、2022年2月24日に始まったウクライナ紛争は、2月28日には1回目の、3月には2回目の和平交渉が始められたが、3月31日に「ブチャの虐殺」が報じられ、4月9日には、キーウを訪れた英国のボリス・ジョンソン首相(当時)が、ウクライナへの軍事援助と融資を約束すると、ウクライナは一方的に和平交渉を打ち切った。
塩原氏は「ジョンソン首相の裏側にはバイデン米大統領がいて、『戦争を続けろ』ということを言った」と指摘した上で、「非常に重要なことは、(ジョンソン首相訪問後の)4月14日、15日にも和平交渉をしていたことがわかっている」と述べ、以下のように語った。
「和平のための動きは、続いていたんです。
別にボリス・ジョンソンが出向いて言って『(戦争を)続けろ』と説得した結果、すぐに和平が停止されたわけではなくて、その後1ヶ月ぐらいの間に、どういうふうな支援をするとか、いろんな話が煮詰まっていった結果として、和平交渉そのものが停止されたのは、5月以降だったと言われています。
そこが肝で、つまり『代理戦争』になるための地固めというのが、2022年の5月から6月ごろにかけて、一番進んだ時期で、それ以後は明らかに『代理戦争』になったと考えるのが、たぶん正しい」。
塩原氏は、『アメリカファースト、ロシア、アンド・ウクライナ』という論文(トランプ政権時に米国家安全保障会議事務局長兼主席補佐官を務めたキース・ケロッグ退役陸軍中将と、トランプ大統領の補佐官と米国家安全保障会議主席補佐官を務めたフレッド・フライツ氏の共著)に、「バイデン政権は2022年後半から、国内でのプーチン政権の弱体化と軍事的破壊という米国の政策目標を推進するために、ウクライナ軍を代理戦争に利用をし始めたのだ」と書かれていることを紹介した。
- America First, Russia, & Ukraine(AFPI、2024年4月11日)
そして、「どのように『代理戦争』になっていったか」ということについて、塩原氏は、次のように述べている。
「軍事的な面では、(ロイド・オースティン米国防長官によって設立された)ウクライナ防衛コンタクトグループというのが一番重要で、世界50ヶ国以上が参加していて、今でもウクライナに対する軍事支援の調整をしています。
これまでに1000億ドル(約15兆円)以上の武器、装備、訓練をウクライナに送り込んできた。まさに『代理戦争』をやっている、ということです」。
塩原氏は「要するにアメリカが、ウクライナ戦争を大統領選挙に利用する、あるいはアメリカ国内の軍産複合体のために利用する、特に軍事技術の発展のために利用する、という意味で、ウクライナに委託して『代理戦争』をさせている、ということが大事」だと指摘した。
後半の会員限定でのインタビュー部分では、塩原氏の著書に書かれていないこととして、トランプ氏が大統領になれば、「24時間(48時間と言う場合もある)以内にウクライナ戦争をやめさせる」と発言していることについて、その具体的な和平の方法について、塩原氏が検証した。
塩原氏は、トランプ氏の副大統領候補である共和党のJ.D.ヴァンス氏が、9月のインタビューで語ったこととして、次のように述べた。
「まず最初に、ロシア側は奪った土地を保持し、現在の戦線に沿って非武装地帯を設け、ウクライナ側はロシアの再侵攻を防ぐために厳重に要塞化する。
2番目が、ウクライナの残りは、独立した主権国家として残るが、ロシアはウクライナから中立の保証を得ることになる。
3番目が、ウクライナはNATOに加盟するわけでもなく、このような同盟機関に加盟するわけでもない。
と、いうのがおおよそのヴァンスの明らかにしたことで、私自身は、これでうまくいくかどうかわかりませんが、少なくとも、ウクライナ戦争を終結させる、非常に重要なきっかけにはなるんだろうなと(思います)」。
これについて、岩上安身は、「いいとか悪いとかという価値観を全部抜いて、好きとか嫌いとかも全部抜いて、現実、これ以上戦争を続けていても仕方がない、とリアリスティックに考えたら、これ以外にないんじゃないかなと思う」と応じた。
一方、ロシアのプーチン大統領は、2024年6月に、外務省幹部向けの講話で、ウクライナ和平をめぐる提案を明らかにしている。
塩原氏は、「マスメディアの報道で、適当に虫食いにされるのが嫌だから」と、プーチン氏の演説の原本から直接、何を語ったのかをまとめて、パワポで示し、詳しく解説を行った。
また、10月16日のウクライナ議会で報告された、ゼレンスキー氏の「勝利計画」についても、発表直前のインタビュー収録時での情報をもとに、塩原氏の見解をうかがった。
- 【同盟国も承認を渋る内容の「勝利計画」を、 ゼレンスキー氏がウクライナ議会で公表!】明らかにされた5項目は、これまで要求してきた「NATOへの早期加盟」「ロシア領内に対する長距離兵器の使用容認」「さらなる兵器の提供」の繰り返しと、その代償としての戦後のウクライナの地下資源の西側への売り渡し! NATOの米軍駐留負担のウクライナ兵による肩代わり!「秘密」の3項目は「ロシア領内の標的リストと、必要な兵器の種類と量の詳細」だと、ポドリャク大統領顧問が暴露! 一方ロシア軍は「クルスク地域のウクライナ軍戦線は、1ヶ月以内に崩壊する可能性がある」と発表!(『BBC』、2024年10月17日)
(日刊IWJガイド、2024年10月19日)
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20241019#idx-6
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/54021#idx-6
会員向けの後半部分で、塩原氏は、現在進行形の戦況の重要なポイントについて、こう予見的に語っている。
「余り日本のマスメディアが報道していないことで言うと、本当は、ポクロフスクの状況が非常に重要で、もうあと一歩で陥落、という事態となりそう」だと予測を述べ、「これが陥落すると、ウクライナ経済に与える影響は極めて大きい」と、塩原氏は指摘した。
塩原氏は、「(ポクロフスクは)石炭で有名なんですよ。(ウクライナは)石炭を採掘して製鉄して、それを輸出してきた。ポクロフスクの石炭工場を失うと、生産量は半分になり、輸出ができない。そうなると、もう支援頼みしかなくなる」と説明し、「日本の皆さんに注目してほしいのは、(ロシアによる)ポクロフスク占領が実現するかどうか。これが実現したら、ウクライナはほとんど負けと同じ」だと述べた。
このポクロフスクをめぐる戦況やその背景と影響については、IWJも独自に記事にして、10月19日の『日刊IWJガイド』で詳しくお伝えした。ぜひ以下の記事もご一読いただきたい。
- ウグレダル陥落後、ロシア軍がウクライナ東部の要衝ポクロフスクの目前に迫る! 評論家でウクライナ専門家の塩原俊彦氏は、岩上安身の最新インタビューでウクライナ鉄鋼産業の原動力である石炭の産地であるポクロフスクを失えば、軍事上も産業経済上でも、ウクライナは崩壊へ向かうと予測! ロシア軍が、北部・南部・東部と、前線の全体で、これまでにない速度で前進中!(日刊IWJガイド、2024年10月19日)
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20241019#idx-6
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/54021#idx-1