「クリミア半島が奪われることになれば100%と言っていいぐらい戦術核を使う可能性が高まる! これは確実です!」〜岩上安身によるインタビュー第1143回 ゲスト 評論家・塩原俊彦氏 2024.1.22

記事公開日:2024.1.24取材地: テキスト動画独自
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(文・IWJ編集部)

特集 ロシア、ウクライナ侵攻!!|特集 IWJが追う ウクライナ危機

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 岩上安身は1月22日に、元日本経済新聞記者、元朝日新聞モスクワ特派員で、元高知大学大学院准教授の、ロシア・ウクライナ研究の第一人者である評論家の塩原俊彦氏に、「ウクライナ戦争長期化の理由」について、録画収録でインタビューを行った。

 塩原氏はウクライナ戦争の、水面下での和平交渉については、「真実・実態を知ることはなかなか難しい」とした上で、事実関係として間違いなくあった、「和平に向けた、あるいは休戦協定のようなものに向けた動きとしてあったのにもかかわらず、うまくいかなかった2つの例」をあげた。

 そのひとつは、2022年2月28日にベラルーシで、3月末にイスタンブールで行われた和平協議である。

 塩原氏は、ロシアによるウクライナ侵攻から数日で、「ロシアは完全に負けた。プーチンの考えていた作戦は大失敗に終わった」と指摘し、次のように述べた。

 「この段階で戦争をやめてしまえば、今のような(ウクライナにとって)悲惨な状況を避けえたわけですけれども、ブチャの問題が出てきた(ブチャでロシア軍の仕業とされる虐殺が報じられた)ことによって、このせっかく生まれた、つまりウクライナが勝ち、ロシアが負けた状況の中で進もうとしていた和平協議というのが、潰れた」。

 2023年11月24日になって、きわめて重要な証言が出てきた。

 ウクライナのテレビ局『1+1』のインタビューで、この2022年のロシアとの2回の交渉で、ウクライナ代表団の団長を務めたダヴィド・アラハミヤ氏が、「ボリス・ジョンソン英首相(当時)がキーウを訪れ、4月9日にゼレンスキーと会談。ウクライナに対し、120台の装甲車と対艦システムという軍事援助と、世界銀行からの5億ドルの追加融資保証を約束し、『ともかく戦おう』と、助言した」と、証言したのである。

 塩原氏によると、このアラハミヤ氏は、ゼレンスキー大統領率いる「人民の奉仕者」派の党首だとのことで、以下のように語った。

 「このアラハミヤ氏という人が明らかにしてくれたので、はっきりわかったことがあって、それは要するに、当然、このジョンソンの後にはバイデンがいて、バイデンとジョンソンが(ウクライナのゼレンスキー政権に対して)『戦争を続けろ』と、『応援してやるから』と、約束したということが、少なくとも4月9日に明確な形になったということ。

 4月3日に、ゼレンスキーが(ブチャでのロシア軍の)ジェノサイドを主張したっていうのは、恐らくこの会談の前に連絡があって、『英米で協力して支援するから、戦争を続けろ』と言われたに違いないわけです」。

 さらに塩原氏は、ブチャの虐殺についても、次のように懐疑的な見方を示した。

 「そもそも、ロシア軍がブチャから完全に撤退したのは、3月30日のこと。

 その翌日に撮影されたビデオでは、アナトリー・フェドリュク市長は、市の奪還を喜びながら宣言していて、とても明るい顔をしてるわけですね。集団虐殺行為や、死体や殺害には、一切触れていません。

 ところが『ロイター』電によると、ブチャ市長は、4月3日、同じ日ですね、『ロシア軍が1ヶ月に及ぶ占領の間、意図的に市民を殺害した』と非難したと報じたと。

 つまり、このロシア軍が去ってから、4月3日までの間に、『本当はウクライナは勝っていたのに、何で戦争を続けるのか』ということを説得する、一番いい材料というのは、たぶんこの『ブチャの虐殺によって許しがたいことをされた』ということを材料に、『ロシアとの交渉なんか、そもそもできない』と言い出して、がんがん戦争にのめり込んでいくっていうのが、非常に自然な物語なんですね。

 私は、ブチャの虐殺があったかどうか知りませんが、物語として成立し得るようなことが、事実として一応あったということは、これで確認できるわけです」。

 さらに塩原氏は、和平が進まなかった「2度目」の例として、2022年11月に、米軍のトップに立つマーク・ミリー統合参謀本部議長が、和平協議の機が熟したことを示唆したにもかかわらず、バイデン米大統領がそれを無視したことを指摘した。

 塩原氏によると、ミリー氏は、11月9日に行われた講演で「ロシア軍は非常に苦しんでいる。指導者たちは本当にひどく傷ついている」と述べ、「だから、あなたは自分が強く、敵が弱いときに交渉したいと思うだろう。そして、政治的な解決策もあり得るだろう。私が言いたいのは…その可能性があるということだけだ」と、軍人としてはぎりぎりの発言をし、さらに16日の記者会見でも同じような発言をしたのです。

 塩原氏は、ミリー氏の発言について「政治的な解決策を、バイデンが取るべく努力するかどうかということを、本当は示唆している」と述べ、次のように語った。

 「しかし、その後どうなったかというと、バイデンは何もしなかった。

 これは2022年の話ですから、去年の6月4日以降のいわゆる『反攻(反転攻勢)』作戦というやつに期待をかけて、あくまで戦争を続けるという判断をし、せっかく米軍で一番偉いミリーさんがここまで言ったのに、これを無視したわけですね。

 これもまさに、バイデンが和平への道を閉ざしたという証拠になるわけです」。

 さらに塩原氏は、米国が「戦争を続けたい」理由についても、明確な見方を示した。

 2014年のユーロマイダン・クーデターを支援した米国で、直接関与していたのが、ヴィクトリア・ヌーランド国務次官(当時国務次官補)であった。

 塩原氏は、次のように語った。

 「親ロシア派といわれる、ヤヌコビッチ大統領(当時)を追い出すことには成功した。ナショナリストたちによる武力攻撃によって、ヤヌコビッチを追い出すことはできた。

 だけれども、このナショナリストたちは、ある意味で超過激なナショナリストで、ロシア系住民を本当に傷つける。殺戮をやる。

 それで、ロシア系住民の多くが住むクリミア半島では、住民投票に持ち込んで、ロシアへの併合ということになってしまった。

 ヴィクトリア・ヌーランドとしては、半分は成功したけど、半分はロシアにクリミアを取られちゃったということがある。アメリカとしては、ウクライナの東部およびクリミア半島を奪還するというのが悲願であり、ついでにロシアを弱体化させるということが長年の悲願であったわけです。

 しかし、ミンスク合意というのは、東部ドンバスの和平のための合意なわけです。この合意を実現されてしまうと、ロシアと再び戦争し、クリミア半島を取り戻したり、ドンバスを取り戻したりすることができなくなる。

 だから、ミンスク合意というのはできたんだけど、実際には時間を稼いで、その間に、つまり『ミンスク合意を守りますよ』と言いながら、(ウクライナは)アメリカからいろんな武器を支援してもらって、時機を見て戦争で東部ドンバスとクリミア半島を奪還したい、という風に思っていたんじゃないか。

 長くドイツ首相を務め、2014年に首相だったメルケルさんは、『2014年のミンスク合意はウクライナに時間を与えるための試みだった。ウクライナはより強くなるためにその時間を利用した』と、はっきり発言しているわけです。

  • ロシアに対する欧米の戦争」は、すべて計画され、計算されたものだった! ドイツのメルケル前首相の「ミンスク合意はウクライナに時間を与えるため」発言に続き、ベアボック独外相が「我々はロシアに対して戦争をしている」と発言! ロシア外務省のザハロワ報道官が「あらかじめロシアに対する戦争が計画されていた」と反発!! 米ポンペオ元国務長官は「CIA長官時代、特殊部隊とともに何度もウクライナに行きウクライナ軍を訓練した」と暴露!!(日刊IWJガイド、2023年1月29日)
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 ですから、アメリカはウクライナに武器を供与しつつ、強くさせて、やがてロシアと戦争をしたかったっていうのは、間違いない事実なわけです」。

 塩原氏は、2021年1月に大統領に就任したバイデン氏が、民間にいたヌーランド氏を国務次官に採用したことを指摘し、「ヤヌコビッチを追い出すことに成功したけど、クリミア半島を取られてしまったその張本人を、国務省次官に戻すことによって、自分の政権のうちに何とかしたい、戦争をしてもいいというシグナルを送った」との見方を示した。

 さらにインタビューで塩原氏は、ウクライナ戦争によって、世界中で安全保障のために、国防費の増額が当たり前になり、米国の軍需産業にとってプラスになったことも、米国が「戦争を続けたい」理由のひとつとして指摘した。

 また塩原氏は、バイデン大統領自身が「ウクライナ支援は国内投資」だと発言しているにもかかわらず、日本の大手メディアがすべて、ウクライナ支援を主張していることを、具体的な例をあげて指摘し、「要するにこの人たち(大手新聞各紙)は、ウクライナ支援ということ(の中身・本質)についてまったく知らない」と、日本の大手メディアの浅はかさを強く批判した。

 バイデン大統領の言う「ウクライナ支援は国内投資」とは、ウクライナを支援することで、米軍兵士が直接戦争に行かなくて済むということであり、米軍やNATOの旧式の兵器をウクライナに提供することで在庫一掃ができ、米軍やNATO軍は最新兵器に入れ替えができる、と言う意味である。また、そのことは、米国の兵器メーカーにとって、大変な需要増にもなります。それは、米国内の雇用増にもつながる。

 塩原氏は、「バイデン大統領が2024年の大統領選挙で民主党候補として戦うなら、国内投資であるウクライナ戦争をやめようとは思わない。大統領選の直前に、和平休戦協定を結ばせて、大統領選でプラス効果を狙うというのはあるかもしれませんが、少なくともこの半年間はあり得ない」「ゼレンスキーは、自分が権力を保持するためには、バイデンの言う通りするしかないわけですから、バイデンが『やれ』と言えば、やめたいと思うはずがない」「プーチンは主導権を握っているわけではないので、相手が長期化すると言うなら、長期化するしかない。今は困っていないので、出方を見守っている」と述べ、戦争が長期化するとの見方を示した。

 インタビューの最後に、岩上安身が、1月22日のこの日刊IWJガイドでお伝えした、元NATOヨーロッパ連合軍最高司令官で米空軍退役大将のフィリップ・ブリードラブ氏らが、クリミア半島のロシア軍やケルチ海峡橋(クリミア大橋)への攻撃を主張したという、米シンクタンク「ジェームスタウン財団」の元会長グレン E. ハワード氏による、1月17日付け米『ザ・ヒル』への寄稿について、塩原氏に見解をたずねた。

  • はじめに~米サリバン大統領補佐官らが「議会が数日以内にウクライナへの追加軍事援助を承認しなければ、ロシアは数週間、長くても数ヶ月で戦争に勝つ可能性がある」と警告! ドイツ連邦議会はウクライナへの巡航ミサイル供与を否決! しかしNATOは冷戦後最大規模の軍事演習を行うと発表! ロシア軍はウクライナ国内のフランス「傭兵」多数を殺害したと発表! 今後は外国の軍事顧問も「区別なく」攻撃する方針に変更か!? 米国と欧州は、戦争を好まない国民レベルと、対ロシア戦に積極姿勢を見せる国家もしくは超国家的なNATOレベルとで、分裂している! ウクライナ戦争第一幕の区切り!? そして第二幕の行方は!?
    (日刊IWJガイド、2024年1月22日)
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 これに対して塩原氏は「私は小泉何某みたいな軍事オタクではありませんから、軍事にかかわるようなことは言いたくない」と述べた上で、次のように答えた。

 「はっきり言えば、(ウクライナ軍とNATO軍が)クリミア半島にそういうことをすると、(ロシアからの)戦術核攻撃を誘発するのは、100%確実だと思います。

 お亡くなりになったキッシンジャーが(戦争の)初期の頃、2年ぐらい前に言っていましたけど、要するにロシアがウクライナに核攻撃したところで、西側は何もできないわけですよ。第3次世界大戦になるので。

 ロシアが戦術核で、キーウでもどこでも攻撃したら、西側はもちろん、批判・非難はできるけれども、少なくとも核兵器で反攻はできない。だから撃つ可能性は大いにあるわけですよ。

 そこまでに至るような攻撃って一体何かって考えると、それはもう、クリミア半島が奪われるなどということになったら、(ロシアが)100%と言っていいぐらい使う可能性が一段と高まる。これは確実です」。

 その上で塩原氏は、次のように憤りをあらわにした。

 「私がはっきり言っておきたいのは、本当に、何も知らないやつが偉そうなことを(マスメディアで)言うわけですよ。

 私は少なくとも、2014年からずっと、ウクライナ問題をはじめ、いろんなことを本にしてきました。私から見ると、何も知らない軍事オタクがテレビに出て、くだらないことを話して、それを日本国民が見て、そういうことを許している。

 その結果、どんどんどんどん戦争に近づいている。それを、誰も何も文句を言わないのかと」。

 塩原氏が、強い語調で自分がこの問題について第一人者であると自負するのは、それだけの実績あってのことである。この点は、間違いない。

 このインタビューは、1月23日に、撮りおろし初配信された。

■ハイライト

  • 日時 2024年1月22日(月)14:30~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

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