ウクライナ問題に詳しい評論家の塩原俊彦氏は、6月17日に、最新刊『帝国主義アメリカの野望~リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』(社会評論社)を上梓した。
このインタビューは、7月11日に配信した第1回目のインタビュー、9月2日に配信した第2回目のインタビュー、10月21日に配信した第3回目のインタビューの続編である。
4回目のインタビューでは、ウクライナのゼレンスキー氏が核保有を匂わす発言をしたことを取り上げた。
ゼレンスキー氏は、自身の「勝利計画」として、5つの項目を明らかにしているが、その中の「NATOへの加盟」について、10月17日にベルギーのブリュッセルで開催されたEU首脳会議で「NATOが自国を迅速に同盟に受け入れるか、あるいはウクライナが再び核保有国になるか、どちらかだ」とNATO加盟国を脅すかのような発言をした。
ゼレンスキー氏はこの発言の数時間後に、「NATO加盟以外に選択肢がないという意味でそう述べたに過ぎない」などと釈明し、「このニュースを広めないでほしい」と、記者会見で要望した。
結局、ゼレンスキー氏に言われた通りに、このゼレンスキー氏の「核保有」発言は、日本ではほとんど報じられていない。
これは、「失言」なのか、「本音」なのか、わからないような重大な発言であり、報じるのが当たり前である。それを、報じないことを選択した日本のテレビ・新聞には、ジャーナリズムとしての基本的な姿勢すら失われてしまったらしい、とあきれざるをえない。
ゼレンスキー氏の「勝利計画」について、「前回申し上げたように、『自衛戦争』から『代理戦争』になった結果として、もはやウクライナが勝つことなどあり得ない」と述べた塩原氏は、「『勝利計画』などという名前だって、極めておかしなものであって、馬鹿馬鹿しくて話にならない」とした上で、このゼレンスキー氏の「核保有」発言について、次のように語った。
「2022年の秋に、ロシアが突然、『ウクライナ側がダーティーボム(放射性物質を拡散する『汚い爆弾』)を落とそうとしているんじゃないか』と騒ぎ立てたことがあって、それはザポリージャ原発に絡む話として出てきたんです。
でも、西側では、『根拠はない』というふうに見られて、ウヤムヤになっているんです。
そういう経緯からすると、一番冷静に考えると、ロシアの専門家の人達が指摘している、『(ウクライナは)ダーティーボムだったらいつでも作れる』っていう、そういう話だと思うんです。
ただ、私がここで紹介しようと思ったのは、『ニュースを広めないでくれ』って言われたら、広めないという、そういう西側のマスメディアの姿勢をわかってほしいんですね。
(ゼレンスキー氏の発言を報じたドイツの)『ビルト』というメディアは、非常に慎重なことで知られているらしいんですけれども、そこがあえて、きちんと報道したというのは、非常に立派な態度です。
しかし、残念ながら、その他のところは、今でもまったく無視を決め込んでいるということ、そういう中に、西側に住んでいる人達は置かれているということに、気づいてほしいですね」。
これに対して岩上安身は、「嘘の報道を平気でたれ流す、大本営発表根性になっている記者クラブメディアによって、日本はどんどん間違っていく方向に行く。すごく怖いですね」と応じ、「何か、日本失敗のためのレッスンを、岸田政権の間にやったような気がする」と述べた。
このゼレンスキー氏の「勝利計画」と、「核保有」発言については、以下の『日刊IWJガイド』の記事を、ぜひご一読いただきたい。
- 【同盟国も承認を渋る内容の「勝利計画」を、 ゼレンスキー氏がウクライナ議会で公表!】明らかにされた5項目は、これまで要求してきた「NATOへの早期加盟」「ロシア領内に対する長距離兵器の使用容認」「さらなる兵器の提供」の繰り返しと、その代償としての戦後のウクライナの地下資源の西側への売り渡し! NATOの米軍駐留負担のウクライナ兵による肩代わり!「秘密」の3項目は「ロシア領内の標的リストと、必要な兵器の種類と量の詳細」だと、ポドリャク大統領顧問が暴露! 一方ロシア軍は「クルスク地域のウクライナ軍戦線は、1ヶ月以内に崩壊する可能性がある」と発表!(『BBC』、2024年10月17日)(日刊IWJガイド、2024年10月19日)
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20241019#idx-6
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/54021#idx-6
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はじめに~ウクライナのゼレンスキー大統領がEU首脳会議で「NATOが速やかにウクライナ加盟を受け入れるか、ウクライナが再び核保有国になるかのどちらかだ」と究極の恫喝! 数時間後に一転「我々は核兵器を作っているわけではない。お願いだ。発言を広めないでくれ」と釈明! ほとんどの西側メディアはこの問題発言を報じなかったが、ドイツの『ビルト』は、ゼレンスキー氏が9月のトランプ氏との会談でも「ウクライナが核兵器を保有し、その核兵器が、我々の防衛手段となるだろう」と語ったと指摘! しかもウクライナ高官は「数週間で(核爆弾を)入手できる」と裏付け証言! ロシアのプーチン大統領は「決して許さない」と表明!(日刊IWJガイド、2024年10月22日)
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20241022#idx-1
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/54034#idx-1
このあとインタビューは、この日のテーマである「第二部 大統領選挙をめぐる考察」に入った。
塩原氏は「(米大統領選が行われる)11月5日まで、米政府の全政策が、大統領選最優先で決められている」と指摘し、「今の(米国政治の)最重要課題は、中東での大混乱による、原油価格急騰後の米国内のガソリン価格の急上昇を、どう防ぐか」だと述べている。
塩原氏は、以下のように語った。
「私が強調したいのは、もう2年ぐらい前から、明らかにアメリカの外交政策というのは、大統領選挙を最優先にその政策がとられてきた、ということなんですね。
そういう視点から外交問題を見れば、その通りになっていると言ってもいいわけです。
今のバイデンにとって、どうすれば自分が大統領に再選できるか、というのが長く続いてきて、今は、カマラ・ハリスを、どうしたら大統領にすることができるか、という選択肢のもとに、外交政策を行なっている。
その証拠に、例えば、イランに対してイスラエルが報復する、と言われながら、今現在も、していないわけです。
それは明らかに、バイデンにとって、あるいはハリスにとって、11月5日以前にそんなことをされて、大混乱になることを、何としても避けなきゃいけない、ということで、説得に説得を重ねている結果であると。
もちろん、直近になってまた何かあるかもしれませんが、今までのところは(イスラエルはイランに報復攻撃を行っていない)。つまり、自分達が大統領選に勝つ、ということのためには、何でもするわけです。
そういう視点から、外交を見ていかないといけない。
それと同時に、対抗する、例えばイランにしても、(米国として)どう出るかという(判断をする)時に、米大統領選をにらんでいる。
実はイランに対して、バイデンはいろんな意味で優しい部分があったので、(イランは)トランプよりはましだと思っているから、彼らにしてみれば、ハリスが(大統領に)なった方がいいかな、というのがある。
本当でやる気になれば、(イランは)サウジアラビアの製油所を破壊するとか、いろんな妨害工作をして、原油価格をガンガン急騰させることもできるわけですよ。でも、それをやると、トランプが勝っちゃうから嫌だなというのがあって、そうはしないわけです」。
塩原氏は、「イランとイスラエル(の対立のエスカレート)で、中東での戦争が本格化すれば、石油価格に影響を及ぼし、米国内のガソリン価格の上昇にもつながる可能性が、非常に高くなる」と述べている。
一方で、塩原氏は、戦争によってイランの石油生産施設が混乱しても、そもそもイランの石油生産量は、OPEC諸国の増産でカバーできる程度であることや、電気自動車の普及などで、世界の石油需要が減速していることなどを指摘している。
その上で塩原氏は、「イランが猛反発すれば、やり方次第によっては、いくらでも世界に混乱を与えることはできて、原油価格の上昇もあり得る」と述べ、考えうるイスラエルによるイランへの報復攻撃のシナリオ、イランが攻撃を受けた場合、イスラエルと経済協定を結んでいる石油生産国(主にイスラムスンニ派の湾岸諸国)を攻撃する可能性などについて、検証した。
また、塩原氏は、イランの石油輸出の大部分が中国に輸出され、中国の原油輸入量の10~15%に相当すると推定されていることや、イランが最近、上海協力機構やBRICSに加盟したことを指摘しつつも、「中国は、中東からアフリカにかけて、一帯一路という戦略のもとに動いているので、イランだけに肩入れをするということは、100%あり得ない」と述べ、「今のところ中国は、静観することしかできない」との見方を示した。
こうしたことから塩原氏は、中東情勢について、「11月の大統領選が終わるまでは、そんなに大きなことにはならないだろう」との見解を示している。
会員限定公開となる後半部分では、米大統領選を展望し、トランプ候補に関する懸念を、塩原氏が指摘していった。
もともとは「ロバート・ケネディ・Jrがいいと思っていた」という塩原氏は、「トランプとバイデン、あるいはハリスを比べると、ウクライナ紛争をやめさせる、という意味では、どう考えてもトランプの方がいいに決まっている」と述べ、「しかも、アメリカのエスタブリッシュメントによる支配というものを、内部から揺さぶる、という意味では、トランプの破壊力に期待したい、ということがあって、トランプを支持していた」と述べた。
しかし、塩原氏は、トランプ氏自身が、今では「ロビイストに操られて、金儲けのために政策を曲げていったクレプトクラート(泥棒政治家)になってしまった」と指摘し、トランプの「腐敗」と、「貿易、関税」について、懸念する点をあげた。