激戦の地ドンバスまで足を運び、自分の目と耳で調査した「学者魂」の研究者に聞く! 第2次トランプ政権でウクライナ政策が見直される今だからこそ、日本も、2014年のユーロマイダン革命にまで立ち返って現在に至る経緯を検証する必要がある! 岩上安身によるインタビュー第1182回ゲスト 東京大学法学部・松里公孝教授 第1部・第3回

記事公開日:2025.1.31取材地: テキスト動画独自

(文・IWJ編集部)

特集 ロシア、ウクライナ侵攻!!|特集 IWJが追う ウクライナ危機

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 1月31日、岩上安身による東京大学法学部・松里公孝教授インタビュー第1部・第3回を撮りおろし初配信した。

 ロシア帝国史、ウクライナなど旧ソ連圏の現代政治が専門の松里教授は、2023年7月に、『ウクライナ動乱~ソ連解体から露ウ戦争まで』(ちくま新書)を上梓した。

 同書は、命がけのドンバス現地での調査と、100人を超える政治家・活動家へのインタビューにもとづき、ウクライナ、クリミア、ドンバスの現代史を深層分析。ユーロマイダン革命(クーデター)、クリミア併合、ドンバスの分離政権と戦争、ロシアの対ウクライナ開戦準備など、その知られざる実態を内側から徹底解明した、他に類を見ない貴重な一冊である。

 インタビューは、この松里教授の著書に沿って、連続シリーズで進めていく。

 インタビューの第1部・第1回では、ウクライナ紛争の現状について、松里教授に話をうかがった。

 また、インタビューの第1部・第2回では、「ソ連で発達した『多極共存的』な制度と分離紛争。ソ連の指導者達は『ソ連の体制が壊れるとすれば、民族問題から壊れる』と予感していた」というテーマで、松里教授に話をうかがった。

 インタビューの第1部・第3回では、冒頭、松里教授が翻訳した、ドネツク国立大学歴史学部のキリル・ヴァレリエヴィチ・チェルカシン准教授の論文『ドンバス2共和国の内政とそれらのロシアへの(再)統合の諸方策』について、話をうかがった。

 松里教授によると、チェルカシン准教授は、政治学の「投票地理学」(選挙での地域的な投票行動の分析)が専門家とのこと。ドンバスでアンチ・マイダン運動が起きた時に、先頭に立った人物で、住民投票を行って独立を宣言した際には、最初の議員の1人になった。

 「ドンバスの、ウクライナからの分離運動を、内側からずっと見ているので、見てきたことを書かないのは、もったいないんじゃないか」ということで、松里教授が、上海の華東師範大学にチェルカシン准教授を紹介したのだと述べ、この論文が書かれた経緯を次のように説明した。

 「中国で、ウクライナ危機に関する国際プロジェクトがあったんです。それにこの人が参加して、この論文を書いたんです。

 その書く条件というのが、『ロシア語では絶対に公表しない』ということだったんです。

 ロシア語で公表したら、この人はたぶん、困ったことになる。それは、何でも赤裸々に書いてあるからなんです。

 この人自身は、自分の確信として、『ドンバスがロシアに戻るのは当然』だと思っているんだけど、実際の分離運動の内部事情というのは、当然それは、ロシアにとっても、ドンバスの今の指導部にとっても、あまり知られたくないこともあるわけですね。そういうのも全部、赤裸々に書いてしまっているから、だからロシア語で発表するとまずいと。

 だけど、華東師範大学のプロジェクトリーダーは、中国語に翻訳されたその論文を読んで、『この内容は、あまりにも微妙である』と。

 検閲に引っかかったとかではないですが、プロジェクトリーダーの判断で、『中国語発表するのは、無理です』と。『でも、松里先生が日本語に訳して、あなたが日本で発表するんだったら、反対しません』と。

 それで、日本語に訳したんです」。

 松里教授は、「これ、お読みになれば、びっくりすると思いますよ」と述べ、さらに以下のように続けた。

 「よくある話はですね、『ドネツク人民共和国なんていうのは、ロシアがドンバスを併合するために、インチキで作った傀儡国家なんだから、要するに日本が作った満州国みたいなものだ』と。

 よくありますでしょう。でも、それだったら、ロシア語で出せるはずなんですよ、この人が書いたことは。

 でもやっぱり、それはなかなか表に出せないことが、いっぱいあるんですよ。

 それはもう、この先は申し上げませんけれども、IWJの読者の方々には、ぜひ読んでもらいたいと思いますね」。

 こうした事情から、この論文は、現在、世界中で日本語でしか読むことができない。英語でも、ロシア語でも、ウクライナ後でも、中国語でも読めないのである。

 この貴重な論文を、松里教授は、岩上安身に、「IWJのサイトで公表できるなら公表してください」と話され、岩上安身は快諾した。

 IWJでは、このドネツク国立大学のキリル・ヴァレリエヴィチ・チェルカシン准教授の論文『ドンバス2共和国の内政とそれらのロシアへの(再)統合の諸方策』の全文を、『IWJ号外』や、IWJサイトでの記事として出すべく、現在編集作業を進めている。

 インタビューでは、前回に続き、ウクライナ東部のロシアとウクライナの境界線の確定について、松里教授が歴史的な経緯を解説した。

 松里教授によると、クリミア半島と黒海周辺のヘルソン、ザポロージエなどは、もともと、クリミアにあった(トルコ系民族でイスラーム教徒のタタール人の)クリミア・ハン国や、遊牧民の土地だった。

 1783年に、エカテリーナ2世時代のロシア帝国が、オスマン帝国の支配下にあったクリミア・ハン国を併合し、「ノヴォロシア(新しいロシア)」という、新しい行政単位を導入した。

 この時に、それまでのオスマン帝国の支配下にあったムスリムの多くは、この地域から移住してしまった。このため、ロシア帝国は、ロシア人だけでなく、東欧からも、ユダヤ人、ドイツ人、セルビア人、クロアチア人などを移民として呼び込んだ。

 「この『ノヴォロシア』というのは、ロシア帝国の中では例外的に、非常にうまく内地化が進んだ」と述べた松里教授は、以下のように解説した。

 「この『ノヴォロシア』という言葉は、あくまで歴史的な言葉だったんですけれども、2014年にこの地域のウクライナからの分離運動をやった人達は、『ここは「ノヴォロシア」と呼ばれていたではないか』ということで、『そもそも自分達はウクライナじゃないんだ』と。

 『そもそもここを、この土地を獲得したのは、エカテリーナ2世じゃないか』と、『ポチョムキン元帥じゃないか』と、当時の18世紀のロシアの皇帝や高官の名前を出して、『ノヴォロシア運動』というふうに、自分達の名前をつけたわけです」。

 ロシア革命の際には、ソ連は15の構成共和国からなる連邦だったため、クリミアは、ウクライナを挟んで、ロシアの飛び地だった。

 一方、ドンバスを含めた、ウクライナ東部や南部は、ウクライナ共和国に含まれた。

 第2次世界大戦では、ナチスドイツがクリミアを占領。その際に、一部のクリミアタタールが、ドイツ軍に協力したということで、中央アジアに強制移住させられた。

 松里教授は、次のように語った。

 「ソ連の連邦制の仕組みだと、基幹民族(第1部・第2回参照)というのがなくなると、もはや自治共和国の資格を失うんです。

 これは前回お話ししましたけど、民族解放のために自治はあると。民族解放というのは、基幹民族の解放なのだと。

 それで、クリミアタタールが中央アジアに強制移住させられたものだから、(第2次大戦後に)クリミアは州に格落ちしたんです。

 それが最初の変化ですね。

 で、その次に、1954年に、フルシチョフ時代に、ロシアとウクライナが合同して300周年と。

 これは、古い話になりますけど、17世紀にコサックの反乱があったんですね。その時に、コサックがポーランド、当時はまだ(ウクライナは)ポーランド領ですから、ポーランドと戦うために、モスクワ国家と同盟したんですけど、それが1654年なんです。そこから300年記念ということで、1954年にそれを記念している。

 それをソ連の歴史学では、それがロシアとウクライナが合同した出来事だというふうに言うわけですね。

 それを記念するために、プレゼントと。ロシアのグッドウィルを示すために、ウクライナ共和国に(クリミアを)プレゼントということになったわけですね。

 だから、それが、クリミア人に大きなトラウマとして残っていた。民族比率で言えば、だいたい60%ぐらいがロシア人でしたから、『ロシア人の方が多数派のリージョンなのに、なんでウクライナに移されたんだ』ということで、トラウマとして残っていたんです。

 それが、ドンバスとは違う、大きな特徴ですね」。

 このあと、インタビューの後半では、ソ連末期に、ウクライナがソ連からの分離傾向を強める中で、ソ連に残りたいクリミアが、1991年に住民投票を実施し、有効投票の93.3%が、ソ連の連邦主体としてクリミア自治共和国の復活を支持。州から自治共和国へ格上げされたものの、1992年に憲法でウクライナへの帰属が明確化された経緯や、さらにその後の、クリミアのウクライナからの分離運動などについて、松里教授が詳しく解説した。

■ハイライト

  • 日時 2025年1月23日(木)18:00~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

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