11月26日にお届けした【IWJ号外】「スコット・リッター氏が警鐘、世界は核戦争の『崖っぷち』! 現実を認識できず、危機意識のない米英が『ふざけて』世界を核戦争に突き落とす!『私達は核戦争に「ノー」と言う必要がある』!」の後編をお届けします。
【IWJ号外】の前編は、ぜひ以下のURLからご一読ください。
米英から、ロシア国内へのミサイル攻撃を認められたウクライナは、11月19日、ロシア領内の標的に向けて、米国製のエイタクムス・ミサイル6発を発射。その翌日の20日には、英国製ストームシャドー・ミサイル12発を発射しました。
これに対してロシアは11月21日、ウクライナ領内の標的に向けて、新型の極超音速中距離弾道ミサイル「オレシュニク」を発射しました。
元国連大量破壊兵器廃棄特別委員会の主任査察官であったスコット・リッター氏は、このオレシュニクによる攻撃を受けた、ドニプロペトロフスクの軍事産業施設は、「ウクライナとNATO同盟国が短距離および中距離ミサイルの製造に使用していた地下製造施設を含めて、壊滅的な被害を受けた」と明らかにしています。
ロシアのプーチン大統領は、11月19日、改定された核ドクトリンに署名しました。これにより、「核保有国に支援された非核保有国による、いかなる攻撃も共同攻撃と見なす」ことになり、核による報復攻撃の敷居が下げられました。
リッター氏は、米・英・ウクライナによる長距離ミサイルでのロシア領土への攻撃が、ロシアの核攻撃を引き起こす可能性を、米国とその同盟国はおそらく認識していない、と指摘しています。
その根拠として、リッター氏は、11月20日に、ワシントンDCで開催された戦略国際問題研究所(CSIS)の核問題プロジェクト会議での、トーマス・ブキャナン少将による基調講演をあげています。ブキャナン少将は、核戦争計画に関わる米統合戦闘司令部の政策部長です。
講演の中でブキャナン少将は、核戦争に関しては「勝者は存在しない。誰も勝てない。核戦争に勝つことはできず、決して戦ってはならない」と断言する一方で、「もし核戦争をしなければならないなら、米国にとって最も受け入れやすい条件で行いたい」と、相反する考えを語っています。
リッター氏は、このブキャナン少将の発言から、「米国はロシアとの核の『応酬』を戦い、勝利できると信じている」「米国はロシアとの核戦争に勝利しつつ、ロシアとの核戦争が終わった後も、世界の他の国々が核戦争に突入するのを抑止するのに十分な戦略核能力を維持できると考えている」という、ブキャナン少将が抱く2つの観念を指摘しています。
しかし、リッター氏は、「ロシアが新たな核戦争ドクトリンを発表し、史上初めて戦略核搭載可能な弾道ミサイルを戦闘に使用することを(米国が)阻止できなかった」ことで「彼(ブキャナン少将)の計画は失敗した」と断言しています。
非核保有国を、「鉄砲玉」にし、その後ろにいて、強力な鉄砲や、その弾を提供するのが、米国の「代理戦争戦略」です。しかし、プーチン大統領が表明したロシアの新たな核ドクトリンと、既存のミサイル防衛システムでは迎撃不可能な、極超音速ミサイルは、前面に立つ「鉄砲玉」国家だけでなく、背後で支援し、操作する国家(核保有国)にも、同じ責任があるとして、最終的な局面では、両方に核攻撃を行うと表明して、この「代理戦争」戦略を、封じるものとなりました。
戦争当事国の背後にいて、直接、手を下さない限り、自国は安全圏にいられる、という米国のずる賢い戦略は通じなくなった、というわけです。この事実を、米国を含め、西側諸国が自覚できるかどうか、人類全体の命運は、その一点にかかっていると言っても過言ではありません。
以下に、スコット・リッター氏による「崖っぷち(On the Brink)」のIWJによる全文仮訳・粗訳の後編をお送りします。ぜひ、IWJ会員に登録して、全文をお読みください。
<核応酬(核戦争)の準備は整った>
米国とNATOは、1970年代に出現して、米国とそのヨーロッパの同盟国をパニックに陥れたSS-20に似たロシアの中距離ミサイルの脅威の再出現に取り組んでいる。
その一方で、ロシアは、ヨーロッパでINF兵器の再出現をうながした、まさにその行動にこたえて、ロシアによる核兵器使用の敷居を下げる新たな核ドクトリンを発表した、という事実がある。これが、すでに複雑な状況をさらに複雑にしている。
最初の核抑止ドクトリンは、2020年にロシアによって発表された。
2024年9月、ウクライナが米国製と英国製のミサイルを使用してロシア領土の標的を攻撃する権限を与えるかどうかについて、米国とNATO内で議論が行われている事態を受けて、プーチン大統領は国家安全保障会議に対し、新たな現実にもとづいて、2020年の核抑止ドクトリンの改定を提案するよう指示した。
改定された文書は、11月19日、ウクライナがロシア領土内の標的に向けて、米国製のエイタクムス・ミサイル6発を発射したその日に、プーチン大統領によって署名され、法律として発効した。
新たな核ドクトリンの採択を発表した後、クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、記者団から、ウクライナがエイタクムス・ミサイルを使ってロシアを攻撃した場合、核兵器による報復が引き起こされる可能性があるかどうかを問われた。
ペスコフ報道官は、この新ドクトリンの規定では、ロシアの主権と領土保全に重大な脅威をもたらす通常攻撃への報復として、核兵器の使用が認められている、と指摘した。
また、新ドクトリンの新しい文言では、核保有国に支援された国による攻撃は、ロシアに対する共同侵略に相当し、ロシアによる報復として核兵器を使用することを認めるものである、とも指摘した。
ロシアの新たな核ドクトリンが公表されて間もなく、ウクライナはエイタクムス・ミサイルを使ってロシア領を攻撃した。
翌日には、ウクライナはストームシャドー・ミサイルを使ってロシア領を攻撃した。
ロシアの新たな核ドクトリンのもとでは、これらの攻撃は、ロシアの核攻撃を引き起こす可能性があった。
ロシアの新たな核ドクトリンは、核兵器は「抑止手段」であり、ロシアによる核兵器の使用は「極端でやむを得ない手段」としてのみであると強調している。
同ドクトリンによれば、ロシアは「核の脅威を軽減し、核紛争を含む、軍事紛争の引き金となる可能性のある国家間関係の悪化を防ぐために、あらゆる必要な努力を払う」と明言している。
この核ドクトリンでは、核抑止力は「国家の主権と領土保全」を守り、潜在的な侵略者を抑止し、「軍事紛争の場合には、敵対行為の激化を防ぎ、ロシア連邦が受け入れ可能な条件で、これを阻止する」ことを目的としていると宣言されている。
ロシアは、現時点では核戦略攻撃を発動しないことを決定し、代わりに中間的な非核抑止手段として、新型オレシュニク・ミサイルの運用を導入することを選択した。
現時点での問題は、米国とその同盟国が、ロシア領土へのウクライナの攻撃を承認するという性急な行動が引き起こした危険を、認識しているかどうかだ。
残念ながら、答えは「おそらくそうではない」。
<トーマス・ブキャナン少将>
この点に関する証拠Aは、安全で、確実で、効果的で、信頼できる世界規模の戦闘能力によって戦略的攻撃(つまり、核戦争)を抑止し、指示があれば、紛争に勝利する準備を整える責任を負う統合戦闘司令部である米国戦略軍のJ5(戦略、計画、政策)計画および政策部長であるトーマス・ブキャナン(Thomas Buchanan)少将の発言である。
11月20日、ブキャナン少将は、ワシントンDCで開催された戦略国際問題研究所(CSIS)の核問題プロジェクト会議で基調講演を行い、大統領の指示を米国の核戦争計画の準備と実行に反映させる責任者としての経験を語った。
イベントの主催者は、聴衆にブキャナン少将を紹介する際に、彼の経歴を最大限に活用したが、これは表面的には米国の核戦争体制に対する自信の表れのように見える巧みな手法だった。主催者はまた、ロシアが新たな核戦略を発表した翌日に、トーマス少将が講演を行うのは、偶然の幸運だったと、注を加えた。
しかし、ブキャナン少将が話し始めると、すぐに、米国の核戦争ドクトリンを計画し、実行する責任者達が、自分達に求められている行動が何なのか、まったくわかっていないという現実を突きつけられて、そのような(楽観的な)認識は吹き飛ばされた。
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