2024年12月27日午後7時より、岩上安身による元外務省国際情報局長・孫崎享氏インタビューを、撮りおろし初配信した。
孫崎氏は、2025年1月28日に、新著『私とスパイの物語』(ワニブックス)を上梓する。同書は、英国のMI6、米国のCIA、イスラエルのモサド、旧ソ連のKGBなど、「日本で最もスパイと接触・交流した外交官」といわれる孫崎氏による、自伝的回想録である。
インタビューの前半では、1月20日に発足する第2次トランプ政権によるウクライナ和平など、今後の展望について、孫崎氏の見解をうかがった。
孫崎氏は、「ウクライナ問題の一番重要なことは、もはやウクライナは、ロシア軍をロシア国境まで押し返すことはできない。だから、戦争をやめることは、交渉による和平でしかできない」ことだと述べ、以下のように、バイデン政権に追随し続ける日本政府を批判した。
「世界中は今、交渉のことを考えて動き出しているわけです。
(バイデンではなく)トランプが、(ノートルダム大聖堂再開の式典に)フランスへ行って、マクロンが、トランプとゼレンスキーを会わせる。それから、トルコも和平のことをやる。
世界中の動きが、和平の方に行っている時に、まったく和平のことに、日本政府が関与せずに、一方にだけ軍事支援をしているというのは、これはもう、世界の笑いものですよ。
ここが、一番の肝心なところ」。
その上で孫崎氏は、「(退陣前にウクライナ支援を急増させるなど)結局、バイデン政権がおかしいことをやっているということの、(日本政府は)その先鋒になっている」と述べ、次のように続けた。
「今、世界中が、トランプとどうディール(取引き)するかということを考え始めている。もう、バイデン政権と仲良くすることはないんです。
ところが、日本の場合は、形式的に、バイデン政権がいるということを前提に、外交をやってるわけです。(中略)
トランプという人の非常に強い特色は、自分に近寄ってくる人間とは、仲良くする。自分と反対の方に行く人間は、切る。これ、明確なんです。
ところが、(日本政府が)今やっていることというのは、バイデン政権と協力するということを、一生懸命にやってる。(中略)
石破さん(石破茂総理)が外交をあまり知らないということであれば、外務省の人は、必死になってそっち側(次期トランプ政権)に持っていかなきゃいけないんですよ。今やらなきゃいけないのは、バイデンと仲良くすることじゃなくて、トランプを、これからの4年間をどうするかということが重要なんだから、シフトしなきゃいけないんですよ。そのシフトができない」。
さらに孫崎氏は、次のように指摘した。
「結局日本の場合、特にウクライナ問題というのは、もうほとんど最初から、しっかり情勢がどうなっているかということを学んで、そしてそれに対応するという姿勢が、日本政府にはまったくないんですよ。
それを言っていたのが、(故)安倍元首相だったんです。しかし、安倍元首相が何を言っていたかということを、まったくマスメディアは取り上げない。
元首相が、ウクライナ問題というものが、どういうような形で展開したのかということを、まったく報道しない日本ということは、逆に言うと、それだけウクライナ問題というものが、アメリカの動きと一体になってしまったからです。それの典型。
これまでにも、いろんなことがあったけれども、(マスメディアが)一方の事実だけ述べて、他の事実はまったく述べないというのは、このウクライナ問題で、一番激しくなった」。
故・安倍元総理は、2022年2月27日の『日曜報道The Prime』で、次のように語った。
「プーチンの意図はNATOの拡大、それがウクライナに拡大するという事は絶対に許さない、東部二州の論理でいえば、かつて(旧ユーゴスラビアから)ボスニア・ヘルツェゴビナやコソボが分離・独立した際には、西側が擁護したではないか、その西側の論理をプーチンが使おうとしているのではないかと思う」。
さらに安倍氏は、2022年5月に英『エコノミスト』のインタビューで、以下のように語っている。
「侵略前、彼らがウクライナを包囲していたとき、戦争を回避することは可能だったかもしれません。ゼレンスキーが、彼の国がNATOに加盟しないことを約束し、東部の二州に高度な自治権を与えることができた。おそらく、アメリカの指導者ならできたはずです」。
岩上安身は、2023年7月6日収録の孫崎氏へのインタビューで、安倍総理殺害事件とロシアによるウクライナへの軍事介入について、孫崎氏の見解を詳しくうかがった。ぜひあわせてご視聴いただきたい。
27日に初配信したインタビューで、孫崎氏は以下のように訴えた。
「世界中がどう動いているか。アメリカが今、どういう動いてるか。そして、フランスがどう動いてるか。
そこに共通するもの、中国がどうするか、トルコがどうするか、サウジがどうするかも含めて、すべての国は、もはやウクライナ一方だけ支援するということをやめて、和平というものがどういう形になるかということに、動き出した。
これに、日本はまったく関与していないというのは、おかしい。ここが、一番大きい問題だと思います」。
また、インタビューの後半では、シリアのアサド政権崩壊や、その後の情勢などについて、孫崎氏に詳しくうかがった。
孫崎氏は、「まず、シリアというものの位置付けだと思うんです」と述べ、以下のように解説した。
「今から2、3年前に、駐日シリア大使とお話ししたことがあるんですが、彼が非常に面白いことを言ったんですよ。
それは、『アラブ勢力がスエズ運河を超えて、外に、地中海の方に出られないようにしている。それがレバノンだ』と言った。
イスラエルがあって、アラブが地中海に出るときの押さえが、レバノンなんです。『そのためにレバノンがある』と言ったんです。
だから、(米国やイスラエルにとって)アラブ諸国が、地中海の方に出られないようにするのが、レバノンなんですね。
そういうことを、シリアの人が言ってた。だから、そういう役割が、レバノンやシリアにはあるんですよ。
それが、イスラエルとトルコの2ヶ国に取られてしまうと、ますますアラブ諸国が地中海の方に出る道が閉ざされる、という地理的な構図があるということを、彼が説明してくれたんです。
ということで言うと、今は、イスラエルが攻める、それからトルコが攻めるという形で、シリアというものが、なくなるような雰囲気なわけですね。
だけど、やっぱりアラブ諸国には、あそこを持つということが、彼らにとっての利益であるという共通観念があるんです。
ここで非常に大きい問題は、ガザ(での戦争)というものが起こったことから、アラブ諸国に非常に大きな変化が出てきたことがある思う。
それはどういうことかというと、アラブ諸国というのは、第1次中東戦争から始まって、第4次までずっと、イスラエルの建国から、彼らが受けたレッスン(教訓)は、『我々は、軍事的に戦っても負けるんだ』というもの。それが、アラブ社会の政治家の共通(認識)になったわけです。
ちょうど、日本で『アメリカと一緒にならなければだめだ』と政治家が思っているように、『イスラエルに盾突いたら、負ける』と。
『イスラエルと対決するという政策は、我々の取るべき政策ではない』ということが、(アラブ諸国の)みんなの共通の認識になったわけです。
そういう中で、ガザ戦争が起きて、変化したものが2つあって、1つは、戦えば勝てる可能性があるということ。
それからもう一つは、情報が、『BBC』であるとか、そういうメディアのコントロールじゃなくて、ネットですぐに出るようになった。だから、ガザの人達が、どういう苦しみに置かれてるかというのが、わかってきた。
そうすると、今、サウジの人間は、みんなそれ(ネットやSNS)を見ているわけです。だから、怒り、苦しんでいるというのを、わかっているから、湾岸諸国の人達、サウジの皇太子にしたって、パレスチナというものを無視して生きていくという方法が、彼らには取れないんです。
パレスチナを支援しないということになったら、国民が許さないというような状況になってきたから、これからシリア情勢がどうなるかはわからないけれども、あそこがアラブのものではなくなっていくという形、そして、イスラエルがシリア全部を支配していくという構図は、取れない。
今は、ロシアが戦争をしているので、(アサド政権を)支援ができない状況になって、今のような状況があるんだけれども、アラブ社会というのは、パレスチナというアラブ系の人間を支援しないでは、国内が持たないということだから、長期的に、必ず支援の方に行くんですよ。
その支援は、一番の中心はミサイルで、それが、イランであれ、イラクであれ、イエメンであれ、様々なところから、イスラエルを攻撃できるようになる。
だから、(イスラエルが)今のような形で、地上戦でどんどん拡大していったら、勝ち得だからと、トルコと一緒になってシリアを分配しようとするような形には、私は収まらないと思います」。
さらに孫崎氏は、「非常に大きな鍵を握るのは、イランの核兵器」だと述べ、「今、なぜイランが黙っているかと言えば、今イスラエルを攻撃すれば、核兵器で報復されるから。でも、イランが核兵器を持てるという状況ができてしまったら、今のような、イスラエルが圧倒的に軍事的な優位を保てるという構図は、もう崩れるんです」との見方を示した。