一橋大学名誉教授・鵜飼哲氏が、「ウクライナとパレスチナ──ヨーロッパからみたつながり方」と題して、両紛争の関係を読み解く講演を行った。2023年12月26日、東京都品川区の南部労政会館で、主催は戦争・治安・改憲NO!総行動実行委員会。
鵜飼氏は岩上安身によるインタビューでも、ウクライナ紛争に関してお話しいただいている。
講演冒頭で鵜飼氏は、イスラエルのガザ攻撃に、ウクライナ紛争が影響を与えたとの仮説を披露した。
「イスラエルが、ロシア=ウクライナ戦争に中立というか立場を決めないのが、ずっと不思議だった」「しかしここ数日考えるのは、仮に(ウクライナの)ドネツクやクリミアが事実上ロシア領になっていくとすると、これはイスラエルにとって、(パレスチナの)ヨルダン川西岸地区とガザ地区を領有する願ってもないチャンスだ。彼らのあの表情の裏にあったのはこれかと思った」。
鵜飼氏は、「(イスラエルは)ウクライナに勝ってほしいとは、全然思っていなかった。ウクライナの領土が力ずくで奪われる状況は、イスラエルに都合がいい。だから、イスラエルを支持してきた欧米諸国と立場を異にしてでも、ロシアとの等距離(外交)という選択をしてきたのではないか」と推理。
傍証として、「2週間ほど前にも、プーチンとネタニヤフは電話会談を行った」「そこでネタニヤフは、ロシアがパレスチナ寄りの立場を取ることに不平を言ったが、同時に、ロシア国籍の人質解放のために、(ロシアが)ハマスに口利きしたことに感謝した。こういう関係が2人の間にはある」と説明した。
その理由について、鵜飼氏は、以下のように解説した。
「ロシアはポグロム(ユダヤ人への歴史的な集団暴力・虐殺)の国で、反ユダヤ主義が強いが、プーチンは個人的事情もあって、親ユダヤである。彼の柔道の先生はユダヤ人で、その先生との出会いは自分の一生の中で大きなものだったと自伝に書いており、テルアビブのプーチンのアパルトマンで、その先生は亡くなった。
イスラエルからすると、ロシアの政治指導者で、プーチンより親ユダヤ的人物はほぼ望めない、例外的人物だ。こういうことから、イスラエルの立場が出てきたのでないか」。
他方、鵜飼氏は、「ウクライナも凄まじい反ユダヤ的歴史を持っている。イスラエル建国時の政治指導者は、労働党側も極右の側も、ほとんど例外なくウクライナの出身だ。ゴルダ・メイア(※IWJ注)もジャボチンスキー(※IWJ注)もそうだ。みな、凄まじい反ユダヤ主義の生まれ故郷から逃れ、パレスチナにユダヤ人国家を建設するという彼らなりの夢に賭けた」と強調した。
(※IWJ注)ゴルダ・メイア:
イスラエル第5代首相で、同国初の女性首相。
1898年、ロシアのキエフ(現ウクライナ領)で誕生。1906年、家族とともにポグロムの多発する貧しいウクライナから米国へ移民。師範学校卒業後、公立学校教師となる。
1915年、労働シオニスト機構に加盟。1921年夫とともにパレスチナに移住、公的機関などで勤務。
イスラエル独立後、1949年クネセト(国会)議員に初当選。労働大臣・外務大臣を歴任。1969年首相就任。1978年死去。
(※IWJ注)ジャボチンスキー:
ゼエヴ・ウラディーミル・ジャボチンスキーは、シオニストの指導者。
1880年、ロシア帝国領のオデッサ(現・ウクライナ領)で生まれる。
領土の拡大維持を重視する修正主義シオニズムの武装組織、エツェルを率いた。作家、詩人、翻訳家でもあった。
1940年ニューヨークで武装ユダヤ人の自衛キャンプ訪問中に死去。
さらに鵜飼氏は、次のように指摘した。
「ウクライナの反ユダヤ主義については、日本でも世界でも、親ロシア側も親ウクライナ側も、一面的な認識が横行した。
しかしイスラエルの『ハァレツ』のようなリベラル系の新聞には、詳しい記事が何回も載る。熱意が違い、本当はどうなんだと、徹底的に調べる姿勢がある。
『ハァレツ』には、イラン・パペ(※IWJ注)のようなイスラエルに批判的な歴史家や(ジャーナリストの)ギデオン・レヴィ(※IWJ注)らが、今も記事を書ける。同時にゴリゴリのシオニストの記事も載る」。
その上で、「ウクライナ戦争が新たに作り出した、歴史的、地政学的な条件が、今のイスラエル、パレスチナ、ガザの状況を規定している」と強調した。
(※IWJ注)イラン・パペ:
1954年生まれのイスラエルの歴史家、政治活動家。英国エクセター大学教授。
著書『パレスチナの民族浄化 イスラエル建国の暴力』で、イスラエル建国時の、パレスチナ人に対する民族浄化を糾弾。
訳者の早尾貴紀・東京経済大学教授に岩上安身がインタビューした。
- パレスチナ問題の基本構図とシオニズム神話の嘘~【シリーズ『パレスチナの民族浄化』を読む 総集編_1】2018年収録 岩上安身によるインタビュー ゲスト 東京経済大学 早尾貴紀教授(当時准教授)より
https://youtu.be/aLaui4g286s
- シオニストに軍国主義を教え込んだ英国の「罪」~【シリーズ『パレスチナの民族浄化』を読む 総集編_2】2018年収録 岩上安身によるインタビュー ゲスト 東京経済大学 早尾貴紀教授(当時准教授)より
https://youtu.be/LP4_wv4-Jxo
- イスラエルへの入植初期、シオニスト特殊部隊はパレスチナ人の村にスパイとして入り込み偵察、村を徹底破壊し、抵抗運動指導者は射殺していた!~【シリーズ『パレスチナの民族浄化』を読む 総集編_3】
https://youtu.be/FQBIsCHy3Wk
- 英国の撤退でシオニスト指導者ベングリオンが開始した「C計画」!「パレスチナ人政治指導者の殺害とユダヤ人に敵対行動をとるパレスチナ人の殺害」!~【シリーズ『パレスチナの民族浄化』を読む 総集編_4】
https://youtu.be/_layirJYD9w
- 人口3分の1のユダヤ人に国土の56%を与える分割案を決定した国連の不正義! 80%獲得を目指すシオニストは軍事力で侵攻と民族浄化を開始!~【シリーズ『パレスチナの民族浄化』を読む 総集編_5】
https://youtu.be/I7G_TVAQ5bQ
- 1947年の国連分割決議直後から始まったシオニスト・イスラエルによる計画的なパレスチナ民族浄化政策! 虐殺、脅迫、騙し、説得による先住民追放!~【シリーズ『パレスチナの民族浄化』を読む 総集編_6】
https://youtu.be/WxhdxmrcLZY
- イスラエルの蛮行の記録! 真夜中に住居に放火、爆発物を詰めた樽を住居に転がし路上に油を撒いて放火、パニックの住民をマシンガンで射殺、家屋は爆破!~【シリーズ『パレスチナの民族浄化』を読む 総集編_7】
https://youtu.be/4paaQsCr-Jg
(※IWJ注)ギデオン・レヴィ:
1953年生まれのイスラエルのジャーナリストで、『ハァレツ』に寄稿。イスラエル政府が推進するパレスチナ入植を批判。リベラルな主張で「ハマスの支援者」などの批判を受ける。
- 【第4弾! イスラエル人は占領によって平和に暮らすことが許されている!?】イスラエルでもっともリベラルな新聞『ハアレツ』のコラムニスト、ギデオン・レヴィ氏が、イスラエル国民の精神構造について講演で言及!(『Kumi@Kumi_japonesaの7日のXへのポスト』、2023年11月4日ほか)(日刊IWJガイド、2023.11.8日号)
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/52918#idx-9
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20231108#idx-9
鵜飼氏は続いて、本題の「ウクライナとパレスチナ──ヨーロッパからみたつながり方」について話を進めた。
「ロシア・ウクライナ戦争」に関しては、自明とされる「戦争のフレーム」を疑う重要性、例えば西側・欧米・EU・民主主義・人権等の概念が、等号では結ばれないと指摘した。
また、この戦争は「ヨーロッパの内戦」であり、「第一次世界大戦に遡る必要」を指摘。この点、中東も「第一次大戦が終わっていない地域だ」と、両者の接点を示した。
一方、「イスラエル・パレスチナ紛争」については、10月7日直前の情勢を、ハマスの声明等から分析。「ユダヤ教のスコット祭(秋祭り)終了後に、イスラエル軍がガザ一斉攻撃を開始する」との情報を得たハマスが、祭終了翌日にイスラエルに突入したと、経緯を説明した。
さらに、このハマスの判断の背景として、ガザ沖の海底天然ガス田の存在を指摘した。このガス田は、2023年10月に採掘開始が予定されていたという。しかし、開発権を巡り、パレスチナ自治政府、ハマス、米国、イスラエル、エジプトが複雑に絡む交渉や決裂があったというのである。
その他、紛争の裏にあると思われる、インドと欧州を結ぶ経済回廊構想や、イスラエル横断のパイプライン構想、さらにガザを通過する新運河(ベングリオン運河)構想など、イスラエルの様々な経済的思惑について指摘した。
- 【第1弾! 仰天! イスラエルのベングリオン運河計画! イスラエルの「自衛戦争」の目的は、ベングリオン運河の開通!?】(『トゥーキー』、2023年10月25日)(日刊IWJガイド、2023.11.4日号)
非会員版https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/52909#idx-6
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20231104#idx-6
詳しくは、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。