2025年6月4日、「岩上安身によるインタビュー第1193回ゲスト 元米陸軍大尉・軍事コンサルタント 飯柴智亮(いいしば ともあき)氏 第3回」を初配信した。
第1回、第2回インタビューは、以下のURLからご視聴いただきたい。
飯柴氏は、著書『2020年日本から米軍はいなくなる』(講談社、2014年、小峯隆生氏との共著)の中で、米国経済・財政の悪化によって米軍の日本からの全面撤退もあり得る、「最悪の事態を考えると、米軍は日本から全面撤退します」と指摘している。
岩上安身「『最悪の事態を考えると、米軍が日本から全面撤退する』というご指摘をされていたのは、(米国の)財政が悪化してしまって。今、地球上に(勢力圏を)パンパンに広げちゃったので。
やはり(米国内も貧富の差が拡大して)2極化してますし、財政を何とかしなきゃいけないし。
米国民の最大の関心事は『経済』で、民主主義をとるからには、この国民に言うことを聞かなきゃいけないですからね」
飯柴智亮氏「そういうことです。さっき言ったように、ポール何とかという政治家(元共和党連邦下院議員のロン・ポール氏。2010年に、民主党のバーニー・フランク下院議員と共同で、軍事支出の削減を訴える記事を執筆し、在外米軍の撤退を提案している)が極論したように、『全部引き揚げる』と。在日米軍だけじゃなくて。
そうすれば借金を返せる。借金を返すことが、黒字化することが、『米国の最優先任務なんだ』と、そういう極論を言う人もいましたから」
- Economic Crisis Shakes US Forces Overseas: The Price of Base Expansion in Okinawa and Guam(Asia-Pacific Journal、2011年2月28日)
岩上「実際、米国債は、AAAから格下げになりましたね」
飯柴「やっぱり、そうですよね」
岩上「だから金利が上がっちゃうじゃないですか。金利が上がるということは、インフレになる、止まらないってことですから。
すごいでしょう。今、アメリカのインフレって」
飯柴「ものすごいですね。高いですね。全部。
だから今、トランプ大統領は、(イーロン)マスクさんを雇って、DOGE(米政府効率化省)という省を作って、徹底的に無駄を省いたと。省いている最中だということなんですね」
岩上「でも、グローバルな軍事展開というための軍事費に比べると、削れるところって知れているわけで」
飯柴氏「たかが知れてますね。そうなんですよ。やっぱり。だって、在日米軍だけで4万4000人いますから。その人件費だけで考えても、ものすごいわけですから」
岩上安身は、米国とロシア、米国と中国の関係について、「G2(超大国である米中の2極体制)」のような構想は、米国側にはないのか、米国もどこまでも対立するのではなく、いっそ、中国やロシアと手を組んだほうが、米国自身にとっても利益が大きいのではないか、と問いかけた。
岩上「ロシアとね、仲良くしようというような口調のトランプさんじゃないですか。あの先に何があるのか。
ロシアと手を組んじゃったら揉めないな、とか。
あともっと言えば、中国を敵対視していますけど、ちょっと前にあったG2みたいな構想ですよね。中国と手を組んじゃおうか、と。
製造業を、もう一回(米国内に)全部戻すんだと言っても。
それこそ第2次大戦直後というのは、全世界の工業力の半分はアメリカが持っていたわけですよね。他(の国々)は、(第2次大戦によって)焼け野原ですから。
だけど、今は25%程度かな。もっと低くなっているかもしれないですよね。実際、工業力というのは、何から何までフルセットで持っている国じゃなくなっているわけじゃないですか。
何から何までハイテクから廉価品まで全部、刺繍までやる、縫い子さんまで持ってるのは中国しかないわけで、(中国が)世界での一番の工業力を持っているという。
その状態がいつまで継続できるかどうか、それはわかりませんけれども、(中国と)組んじゃった方がいいんじゃないかと。でも、(米中に)頭越しにやられたら、(日本は)どうなるんだ、というふうに思うんですよね。
そうする(中国と組む)と、すごく節約できるじゃないですか。アメリカは。じゃあ、(米中で)すみ分けしようかと。
例えが悪いかもしれないですけど、山口組は関西から生まれて、全国制覇をやったんだけれども、関東は制覇できないと。だったら、稲川会と仲良くしておこうと。というような同盟関係を作るみたいなね」
飯柴氏「おっしゃっていることはわかりました。それは確かに、理論上は正しかったし、みんな正しいと思ったし。正しいと思ったからこそ、オバマ大統領だと思うんですけど、G2を推奨したんですけど、自分は『100%失敗する』と思ってました。
なぜかというと、国際政治学を習った時に、自分がよく教えてもらった教授が米中の関係について言ってたのは、当時、だから、まだ90年代ですね。でも、その教授は、もう既に、中国が台頭して、米中対決になることを見抜いていて。
何て言ったかっていうと、『これはもうクリミナリー・クラッシュ(目も当てられないほどの破綻、とんでもなくひどい失敗、本来あるべき状態から逸脱した結果として生じた衝突)』だと。だから必然的に起こる、クリミナルっていう、つまり、避けられないもの、本質的なクラッシュだと。
その時に『クリミナリー・クラッシュ』という言葉を覚えたんですけども。
だからその、『クリミナリー・クラッシュ』する相手に対して、G2というのは無理があります。どっちかが間違っています。G2が正しいのか、『クリミナリー・クラッシュ』が正しいのか、どっちかわからないですけれども」
岩上「共存できる理論じゃないですよね」
飯柴氏「そういうことです。そのG2を推奨した人が正しいのか、『クリミナリー・クラッシュ』を推奨した人が正しいのか、歴史が証明しますけども、現時点ではやはり『クリミナリー・クラッシュ』が正しかったと思いますね」
岩上「冷戦時代に米ソは敵対していた、という言い方もできますけど、核の衝突をしなかったという意味で、敵対的共存みたいなことをしていたとも言えますよね。決定的な衝突はしなかった。クラッシュの、最後の局面にはならなかった。
(米中両国が)クラッシュされたら、間に入っている日本は、絶対クラッシュしちゃうんで、すごく大変なことになってしまう」
飯柴氏「『クリミナリー・クラッシュ』も、何もドンパチやるわけじゃなくて。さっき出たように、あらゆる面で、衝突が起きると。実際に起きています」
岩上安身は、冷戦時代に米ソは、核の衝突をしなかった、衝突の最終局面にはならなかったという意味で、「敵対的共存」をしていたとも言えるのではないか、そういう共存の仕方でもいいから、米中が共存することはできないのだろうかと問いかけた。
岩上「そうした時に、なんとか『敵対的』でもいいですから、共存ということができないのかっていう、地球のために」
飯柴氏「中国相手に、無理だと思いますね。ロシア相手には、できるかもしれません、というのが、自分の意見です。
特に今回、ジブチ(ジブチ共和国、紅海の出口に位置し、アデン湾につながるチョークポイント。仏軍、米軍、イタリア軍、中国軍、日本の自衛隊の基地がある)に行ったのは数ヶ月前なんですけれども。
(中国軍の)砦を見ても、その考えは確信に変わりましたね。あれはもう、ああいう砦を作るのは、共存する意思がある人間がやることじゃないですね。
もう完全に、中国の狙いは、今の『パックス・アメリカーナ』の現状を崩して、この現状を崩して、もう完全に、中華思想を基本とする世界を作り上げるのが彼らの思想である。国家戦略であると。
同時に、これも、同じ国際政治学の教授がおっしゃったんですけども、英語で言うとチャイナですけど。『チャイナというのは、もうそもそも(の意味が)世界の中心だ』と。中華人民共和国。『中』というのは、真ん中という意味ですから」
岩上安身は、異民族に支配されても中国は中国であり続けてきたタフな歴史があり、復元力があると述べ、飯柴氏は仮に中国共産党が解体したら、中国は分裂してしまうかもしれないと述べた。
インタビューは続いて、インド太平洋における米軍の戦略に入った。
海兵隊は、沖縄からグアムに下がり始めている。飯柴氏は、日本上空で中国空軍が制空権を持ったら「米軍は陸上兵力を絶対投入しません」と述べている。
岩上「『米軍は、空から攻撃される位置に陸上兵力及び海上兵力を置くことはない』と(飯柴氏は述べている)。そのように、日本から撤退する理由が書かれています。
そして、2つ目の理由が『スタンドオフ』。ちょっとお話しいただければな、と思うんですが」
飯柴氏「スタンドオフっていうのは、つまり、ボクシングで言うと、『見あう距離』ですね。当然、ボクシングのパンチの届く距離が、ミサイルの届く距離で、攻撃圏外というのは、パンチが届かない距離ですね」
岩上「相手のパンチが届かない距離に自分がいて、そして中に入り込んで、実は打つときは打つ、と」
飯柴氏「そうそう、そういうことです」
岩上「ステップインして、ステップアウト。その間合いですよね」
飯柴氏「そういうことですね。間合いですね。ですから、敵の兵器が届く距離、制空権、制海権を取られる距離の場所には、陸上兵力、海上兵力は置かないと。基本的に。
今でも、もちろん、届いちゃうんですけども、それ以上の報復能力があるので。今は『バランス・オブ・パワー』の理論で、ここに(韓国や日本に兵力を)置けているっていうことですね。
やってもいいけど、それ以上のあれ(報復)が来るよと。それと同時に見てますから、空から。衛星なので。ただし、均衡が破られた時、こっちの方が強くなって、ちょっと日本にいるのは危ないな、となった時には、アメリカは当然下がります」
岩上「実際にグアムまで下がり始めていて。この動きって、出たのは昨日今日じゃないですよね」
飯柴氏「そうです」
岩上「ずっと前から米軍は構想していましたし、これは沖縄に行くと、そういう現実がかなり目の前で見られるので、沖縄の人達は結構、研究してるんですよね。
本土の人達はわからない、というか、緊迫感がないというか、切迫感がないと言いますか。
沖縄から撤退して、グアムに下がっていくというような話を、もう大分前からやっているんですけど。そうなっていった時に、自分達はどうなるんだろうってこと。少し想像力を持つっていうのが、できていないかなっていう気がするんですよね。
『日本上空で、中国の空軍が制空権を持ってしまったら、米軍は陸上兵力絶対投入』できないですね」
飯柴氏「できないですね、ええ」
飯柴氏は、兵器体系をみても、日本はまず「米国ありき」で、米国製の兵器を主として用いており、在日米軍がいなくなった時、日本が単独で防衛できる兵器システムにはなっていないと指摘している。
インタビューでは、この後、飯柴氏が考える自衛隊の抜本的な改組や、「ヤマサクラ」などの自衛隊と米軍の合同机上演習、原発の防衛、中国の台湾戦略、ドローンなどを駆使した新しい戦争のあり方、米国から自立した国家戦略のない日本が、自力で安全保障と生存・自立を守れるのか、といったトピックスについて、話を聞いた。
最後に岩上安身は、飯柴氏に、憲法に緊急事態条項を導入することについて、意見を聞いた。
岩上「国家緊急権として、この自民党案の緊急事態条項というのは、入り口はあっても出口がないんです。
だから、ずっと、立法府の権力は停止、裁判権も停止、そして、すべて政令一つで、今までの法律を全部変えられる。
で、その政令って誰が出すんだ、ということを考えると、そんな(米国に)隷属した政府にできるのか?
三権分立がなくなっちゃうような状態で、そして仮に、そんな緊急事態が来て、戦争になる時には必要なんだ、という理屈を聞き入れるとしましょう。
そうだとしても、米国から自立した国家戦略というものを、誰も立てても、考えてもいないんですよ。
日本の安全保障というのを考えた時、生存・自立を守れるのかと。
米国の軍隊には、戦略があって、作戦があって、戦術があるし、それを合理的に話し合って決める合理的なシステムというのも、トレーニングされていますよね。
(日本には)ないんですよ、何にも。
だから、例えばさっきの軍略一つを考えるにしても、何も考えていなくて、それで、話し合う場である国会をなくしてしまった時に、大暴走するか、大沈没するかしかないんじゃないかなと。(中略)
僕は、100歩、1000歩譲って、大戦争に向かうために、一定程度の統制が必要ではないかと、仮に国家緊急権を受け入れるとしても、三権分立も何もない、出口もないという状態にして、合理的な軍略とか、立てられないですよ。
そんな状態で、(憲法に)国家緊急権、緊急事態条項だけ入れるということは、ものすごく怖いことじゃないかなと思うんですよ」
飯柴氏「日本って、外から見ていると、何でも、こういうつけ足しの文化があるので、後手後手でつけ足しという。
だから、本当に外から見ていて、心配になりますよね。(中略)
困りましたね。本当に。
まず言いたいのは、日本ってアメリカのマネするのが好きなんですよ。自分から見ていると、マネしなくてもいいところ(国家緊急権)をさんざんマネして、こういうマネしなきゃいけないところ(軍事を成り立たせるために、合理的な国家戦略や軍事戦略を、平時から積み上げていくこと)を全然マネしないということです。
岩上「地道な努力ですものね」
飯柴氏「本当にそうです。1日じゃできないので」
そう言って飯柴氏は、最後に深いため息を漏らした。