岸田内閣が2022年12月の「安保文3書」改定により、軍拡に大きく舵を切った背景に、米中対立の激化がある。
米国の有力な軍事シンクタンクであるランド研究所は、先にウクライナ紛争における、米国による代理戦争のシナリオを提示していた。2022年、今度は米中衝突のシナリオ『大国戦争の再発――米国と中国の間の体系的衝突のシナリオ(仮訳)』を発表した。それは日本が代理戦争に巻き込まれるシナリオに他ならない。
本記事では、このレポートの概要をIWJによる仮訳をご紹介する。
同レポートによれば、米中戦争は「台湾有事」のレベルをはるかに超える規模となり、ウクライナ紛争でさえ、米中衝突の1コマに過ぎないと思わせる苛烈なものとなる。
その時、日本列島全体が中国軍の攻撃対象となり、破壊的なミサイル攻撃が行われることが想定されているのである。
詳しくはぜひ、記事本文を御覧いただきたい!
「安保文3書」の背景に米中対立の激化! ウクライナ紛争のシナリオを示したランド研究所が、2022年、米中衝突のシナリオを発表!
ウクライナ紛争が継続する中、2022年12月16日に岸田内閣によって「安保文3書」が閣議決定された。その内容については下記記事で詳しくお伝えしているが、国会で審議することもなく、閣議決定で日本の安全保障の大枠を書き換えてしまう非常に慌ただしい動きの背景には、米中対立の激化があることは明白だ。
- 「反撃能力の保有」、NATO基準「GDP2%の防衛費」、「同志国」との連携、何よりも米国の属国であることを確定させる、米軍指揮下に自衛隊を組み込む「統合司令本部」の創設! 戦後日本の安全保障政策の「歴史的分岐点」となる「安保3文書」の改定を、岸田内閣は閣議決定だけで決めてしまう! 中国外交部は「根拠なく中国を貶めている、軍事力増強の口実を見つけるために『中国の脅威』を誇張することは、失敗する運命にある」と強く批判! 日本は「厳しさを増すわが国周辺の安全保障」だけではなく、ウクライナ紛争で顕在化してきた世界秩序構造変化を見据えた「代理戦争に巻き込まれない」「代理戦争をさせない」外交安全保障政策を進めるべき!
https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/51662#idx-1
ウクライナ紛争のシナリオを示したランド研究所の2019年のレポート『ロシアの力を使い果たさせる』は、まさに米国による代理戦争のシナリオである。IWJでは順次仮訳を進めているので、ぜひ御覧いただきたい。
なお、同レポートの原題にある「Extend」とは、範囲・領土を「拡張する」、勢力を「伸ばす、広げる」という意味が一般的である。しかし、この仮訳では、「extend」が持つ、相手に「全力を出させる」という意味を用いることにする。相手に「全力を出させる」ことから、文字通りロシアの軍事費の支出を増やし、国力を「疲弊させる」、経済的に「力を使い果たさせる」、という意味で仮訳する。
- <検証! ランド研究所報告書>ウクライナ紛争はランド研究所の青写真通り!? 米国ランド研究所の衝撃的な報告書『ロシアの力を使い果たさせる―有利な立場からの競争(Extending Russia -Competing from Advantageous Ground)』の翻訳・検証シリーズ開始!(その1)サマリー(概要)の抜粋の仮訳!(日刊IWJガイド、2022.12.10号)
https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/51634#idx-4
- <検証! ランド研究所報告書>ウクライナ紛争はランド研究所の青写真通り!? 米国ランド研究所の衝撃的な報告書『ロシアの力を使い果たさせる―有利な立場からの競争(Extending Russia -Competing from Advantageous Ground)』の翻訳・検証シリーズ開始!(その2)「第3章経済的手段」の「手段1 石油輸出を妨げる」の全文仮訳!(日刊IWJガイド2022.12.18号)
https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/51667#idx-2
- はじめに~<検証! ランド研究所報告書>ウクライナ紛争はランド研究所の青写真通り!? 米国ランド研究所の衝撃的な報告書『ロシアの力を使い果たさせる―有利な立場からの競争(Extending Russia -Competing from Advantageous Ground)』の翻訳・検証シリーズ開始!(その3の前編)「第3章経済的手段」の「手段2 天然ガス輸出の抑制とパイプライン拡張の阻害」の全文仮訳!(日刊IWJガイド2023.1.25号)
https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/51798#idx-1
- <検証! ランド研究所報告書>ウクライナ紛争は米国ランド研究所の青写真通り!? ランド研究所の衝撃的な報告書『ロシアの力を使い果たさせる―有利な立場からの競争(Extending Russia -Competing from Advantageous Ground)』の翻訳・検証シリーズ開始!(その3の後編)「第3章経済的手段」の「手段2 天然ガス輸出の抑制とパイプライン拡張の阻害」の全文仮訳!(日刊IWJガイド2023.2.8号)
https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/51852#idx-4
- 米国の最も有力な軍事シンクタンクであるランド研究所による2019年のレポート『ロシアの力を使い果たさせる―有利な立場からの競争』には、現在進行中のウクライナ紛争の、米国の戦略シナリオが掲載されていた!? IWJは、全300ページに及ぶ報告書の抜粋仮訳を進めています!(日刊IWJガイド、2022.8.22号)
https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/51210#idx-3
そのランド研究所が2022年、『大国戦争の再発――米国と中国の間の体系的衝突のシナリオ(仮訳、The Return of Great Power War ――Scenarios of Systemic Conflict Between the United States and China)』と題するレポートを公開している。ティモシー・R・ヒース、クリステン・ガンネス、トリスタン・フィナッツォによる連名報告となっている。
- Rand Corporation(2022)The Return of Great Power War――Scenarios of Systemic Conflict Between the United States and China『大国戦争の再発――米国と中国の間の体系的衝突のシナリオ)』
https://www.rand.org/pubs/research_reports/RRA830-1.html
▲Senior International/Defense Researcher(上級国際/防衛研究者)のティモシー・R・ヒース氏(ランド研究所のウェブサイトより)
米中戦争は「台湾有事」のレベルをはるかに超え、ウクライナ紛争さえ、米中衝突の1コマに過ぎないと思わせる!
レポートでは、中国と米国の間の体系的な衝突のありうるシナリオが示されている。
米中衝突は、低強度の慢性的な地域的戦争から高強度の戦争にエスカレートする可能性が高いこと、その衝突は海・陸・空だけではなく、サイバー空間と宇宙空間に及び、経済や民生の領域に及ぶ「多くの領域にまたがる米中両軍の連続的な関連性と地理的に分散した衝突」となり、数年から数十年長く続き、「一方が戦いを放棄し、他方への従属を認めたときにのみ終了可能」だとする。対等な共存はありえないと、最初から結論を決めてかかる絶望的なシナリオである。
もう少し詳しくみると、世界各地で、特に習近平政権が進めてきた「一帯一路」上の各地域や、インド太平洋・北極海までも、低強度の「米中代理戦争」が慢性的に起き、その戦闘は、国家対国家だけではなく、内乱、非政府組織による政権転覆なども含む。
▲「一帯一路」の地域。茶色は中国が主導するアジアインフラ投資銀行の加盟国。黒線は「一帯」(シルクロード経済ベルト)。青線は「一路」(21世紀海上シルクロード)。(Wikipedia、Lommes)
米中戦争は、「台湾有事」などというレベルをはるかに超えている。ウクライナ紛争でさえ、米中衝突の1コマに過ぎないのかと思わせる内容だ。
日本列島全体が中国軍の攻撃対象となり、破壊的なミサイル攻撃が! 岸田政権の動きは日本など同盟国動員をもくろむ米国内の動きとリンク!
こうした低強度戦争のエスカレーションを抑えることは困難であり、いずれ米中が直接対決する高強度戦争に発展し、その時には、「インド太平洋地域全体で中国の大規模なミサイル攻撃」が行われるだろうと、レポートは予告している。
「米国との戦争は、おそらくアジアにおける米国の重要な同盟国との戦争を伴うだろう。中国の指導者はおそらく、中国の近くに拠点を置き、中国の脆弱な海岸を脅かすことができる高性能の軍艦や航空機などの主要な米国の軍事資産を破壊するよう軍に指示するだろうからである。米国とその同盟国がもたらす危険の重大性から、これは他のすべての脅威の優先順位を著しく低下させることを意味する」(p.127)
レポートは、日本列島全体が中国軍の攻撃対象となり、破壊的なミサイル攻撃が行なわれる可能性があると指摘する。
「東南アジアの米国の同盟国やパートナー、例えばフィリピン、シンガポール、あるいはその他のパートナーも、同様の目標を念頭に置いている。いずれの場合も、中国の戦争目的は、戦域全体における米国の戦闘力の破壊を最優先とするものであろう。戦争に至るまで中国と日本との確執がエスカレートし続けた場合、中国は日本軍に対する大規模な攻撃を検討し、戦域における米国の最も有能な同盟国の1つを機能不全に陥れることもあり得るだろう。その結果、地域全体の米軍と同盟軍および施設に対する壊滅的な先制攻撃から始まる広範囲な戦争になる可能性がある」(p.135)
▲中国の対米防衛線である「第一列島線」(左の赤線)と「第二列島線」(右の赤線)は、いずれも日本を起点とする。(Wikipedia、DoD)
無理な防衛費増で、やみくもにミサイル配備を進めようとする岸田政権のあわただしい動きは、中国を打倒するために、日本をはじめとする同盟国を動員しようともくろむ米国内の動きと無関係なはずがない。
日本に強い影響力を行使する米国の思惑を知るためにも、IWJはランド研究所の『大国戦争の再来――米国と中国の間の体系的衝突のシナリオ』の仮訳を進めて、皆さんにご紹介していく。
世界の大部分での「低強度の衝突」と、最も破壊的な「高強度戦争」の2つのシナリオ!
ランド研究所のウェブサイトで示された概要の仮訳は、以下の通りである。
※本記事は「note」でも御覧いただけます。単品購入も可能です。
https://note.com/iwjnote/n/n185c203bf254