「ウクライナ紛争のエスカレーションの背景にあるのは米国によるウクライナへの武器供与!」 ~岩上安身によるインタビュー第1090回 ゲスト 国際政治学者・神奈川大学教授 羽場久美子氏 2022.8.16

記事公開日:2022.8.19取材地: テキスト動画独自
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(文・IWJ編集部)

8月16日、夜9時から「即時停戦を!『ウクライナ問題は少なくとも2004年と2014年の二つの革命から見ていく必要がある』ウクライナ紛争と米国の戦略 岩上安身による 国際政治学者・神奈川大学教授 羽場久美子氏インタビュー」を、中継した。羽場教授にはオンラインでお話しいただいた。

 羽場教授は、6月6日、「ロシアのウクライナ侵攻―武器供与でなく停戦を―アメリカの世界戦略、次は中国」と題する講演をされ、IWJが中継した。羽場教授は「現在のロシア・ウクライナ戦争の報道の中で、アメリカの話はほとんどされない」として、ウクライナ紛争の背後で大きな役割を果たしている米国に焦点をあてた。IWJの取材は以下にある。

 5月9日、ロシアとウクライナの停戦交渉が停滞する中、14人の歴史家らからなる「憂慮する日本の歴史家の会」が、声明「日本、韓国、そして世界の憂慮する市民はウクライナ戦争即時停戦をよびかける」を発表、即時停戦を求めた。羽場教授もその一人として、ウクライナ紛争の即時停戦を求めている。

 冒頭、羽場教授は、即時停戦はロシアによる占拠を事実上認めることになる、停戦によってさらに被害が拡大する可能性があるなどと、停戦に反対する声がある実態に触れ、停戦の意味が正確に理解されていない可能性に触れた。

羽場教授「ウクライナへのロシアの侵攻は、ご存知のように2月24日に始まったんですけれども、実はゼレンスキー自身が、2月25日には、停戦交渉を始めたいと言っていたんですね。ですから、ウクライナ側も実は最初の段階で停戦協議をやりたいという風に言っておりました。

 3月の末にもトルコが仲介して、ウクライナ・ロシアともに、ウクライナを中立化するということで合意しました。

 ところがその直後に、ブチャの事件が発覚しまして」

岩上「なんというタイミングだったんでしょうね」

羽場教授「はい。その結果、停戦というのは反故になってしまう訳です。

 よく、停戦をすると、現在のロシアの侵攻のままに終わってしまって、ウクライナ市民が犠牲になるのではないかという話もありますけれども、実際には停戦というのは、即時、その場で武器を置いて、可能であれば国連の中立軍が間の緩衝地帯に入って、お互いにもう戦闘ができないような状況をまず作り出す。

 それによって、そこから、どのような形で停戦の内容を決めていくかということを、可能であれば、国連のような場で公開しながら進めていくということなので。

 今色々なところで、もはや停戦に向けてやっていかないと、これ以上ウクライナの市民に犠牲を強いていいのか、あるいは、ウクライナの美しい国土を破壊し続けていいのかっていうような状況が起こってきています」。

 羽場教授は、国連のグテーレス事務総長が停戦に向けて活動を続けており、穀物輸出の問題では、アジアやアフリカなど国力の弱い国々で飢餓が発生しはじめていることなど、ウクライナ紛争が世界を揺るがしている状況を指摘し、「命を守るということが今、最も必要になってきている」と指摘した。

 羽場教授は、ウクライナ紛争がエスカレーションし、終わりが見えなくなっている背景には、米国によるウクライナへの武器供与という問題があると述べた。

羽場教授「この背景には、あまり言われておりませんが、アメリカの西ウクライナに対する武器供与ということがあります。

 ゼレンスキーは様々な国の議会でオンラインで演説しながら、武器を供与してくれと言い続けていますけれども、アメリカとヨーロッパ諸国、あるいはオーストラリアなども含めて、武器が次々に西ウクライナに流入してきています」

岩上「ロシアのような強大な国の軍隊が入ってきたんだから、やむなく、その時点から武器を支援し始めたんだと思い込んでる方々が凄く多いと思うんですけれども、まずそれが大きな誤りであり、マスメディアが触れようとしない背景であるということですよね。

 2014年のウクライナ革命というものを見なければいけないし、かなりその前から始まっていたんだと。武器供与もですね。

 それは同時に東部での紛争も、(2014年時点で)もう既に開始されていました」

羽場教授「おっしゃる通りです。2014年のあのマイダン革命の前から、かなりアメリカの関与が始まっていたということだと思います」。

 羽場教授は、ウクライナはドイツの2倍にも匹敵する巨大な国土を有してるが、一元的な国家ではなく、東部にはロシア系のウクライナ人が多数住み、西側には歴史的にハプスブルク家の影響下にあった反ロシア意識の強い人々が住んでおり、西ウクライナはポーランドや周辺国と結んでヨーロッパ意識が強い地域になっている、と解説した。民族的・歴史的な違いだけではなく、宗教的にも東部はロシア正教、西部はカトリックで、異なっている。

 羽場教授は、重要な鉱物資源などが豊富なのは東部地域であり、世界的なチョークポイントのひとつであるボスポラス海峡につながる黒海に面しているのは南部である、ということが、大きな問題となっていると、指摘した。

羽場教授「重要なのは、西側は、実は山がちの資源の少ない地域であって、東側のウクライナの方がドンバスと言われる重工業地帯があります」

岩上「炭鉱があり、初期から工業化されてきたのですね」

羽場教授「おっしゃる通りです。南側は黒海に面していて、非常に豊かな保養地でもあり、海運業が発達しているところでもあり。また、黒海の出口は、ボスポラス海峡につながる。『ボスポラスを抑えるものは世界を制覇する』と言われるように、ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸とアジア大陸の三つが重なるような重要な地域であるわけですね。(中略)

 まさに世界のチョークポイントと言われますけれども、三つの大陸を抑える地域であり、イギリスにとっても、あるいは現在のアメリカやNATOにとっても、ここをどこが抑えるかで、世界の勢力図が変わってくると言われるような重要な地域でもあります。

 なので、西側も、東側のこのクリミア半島や東ウクライナ南ウクライナをいかに抑えていくかということが重要になってくるんですね」。

 現在、ロシア軍は2014年に住民投票で併合したクリミアのほか、東部のルハンシク州と、ドネツク州のほとんど、そして南部ヘルソン州の多くを支配下に置いている。この段階で、東部と南部を抑えたい米国とNATOが、停戦に応じる可能性は低いというわけである。

 今回のウクライナ紛争の大きな原因は、NATOの東方拡大にあると、羽場教授は指摘している。

岩上「なぜ、アメリカがNATOの拡大を望むのかというところが、ポイントなんだと思うんですけれども。ロシアを封じ込めて、可能なら解体して、民主化したいと。

 民主化っていうとちょっと聞こえがいいんですけれども、アメリカにとって都合のいい国にしたいと言いますかね。

 ウクライナの方はもう独裁国家になってしまってますけれども、全然メディアは伝えません」

羽場教授「ウクライナが今自由と民主主義を守るという風に言っているのですけれども、難しいですよね。どれほど、(ウクライナが国家として)成熟して、EUに入れるかっていうと。今度EU加盟の手続きもしましたけれども、加盟には10年以上かかるんじゃないかと言われていますね」。

 岩上は、ソ連解体以後、エリツィン政権時代のロシアを取材したときの体験を語った。ソ連解体によって、当時のロシアではマフィア的なオリガルヒが暗躍し、公的財産を簒奪していくプロセスが始まっていたという。一般のロシア人が「奴らはグローバリストだ」と批判していたという。

 岩上は、すでに90年代初頭、西側の大きな資本にいいようにされ、食い物にされているという強い反感がロシア社会にあり、米国の思惑通り「西側」に融合できない状況があったと振り返った。

岩上「(ソ連解体の後)だんだんロシアでは、西側の大きな資本の言う通りにしていると、いいようにされてる、食い物にされている、という感情が強くなってきて。

 米国が思ったようには融合できないというような状態ができた。だから、アメリカはNATOの拡大を望むようになった、ということなんでしょうか」

羽場教授「NATOの拡大というのは、実は2004年前後ぐらいまでは、ロシアも含めてNATOの枠組みの中に入れるという考え方もあったんですね。ですから、ゴルバチョフがブッシュと冷戦の終焉を主張した時には、基本的には欧州共通の家ということで、ロシアを招き入れるというような枠組みもあった時期もあるんですけど。

 結果的には、東欧の国々が次々にNATOに入っていくなかで、ロシアに対抗してNATOを自分たちの国の砦にしていくという考え方が出てきたために、結果的にはロシアが弾き出されて、西側の砦を再編するという方向に移行していったという形になると思います」。

 羽場教授は2004年にほとんどの東欧の国々がNATOに入り、バルト三国も加盟し、2008年にはウクライナとジョージアもNATOに入れるということをNATOが決断していう過程で、ロシアの反発が非常に強くなったと解説した。

 ウクライナは「ロシアの柔らかい下腹」といわれるほど、ロシアにとって致命的に重要な地域だと言われている。そこをNATOに組み込んでいくことは、冷戦時代のキューバ危機の際に米国が受け止めた脅威以上の脅威をロシアに与えると、羽場教授は指摘した。

 インタビューでは、ウクライナという国の多様性、米国が戦闘の継続を求める理由、米国の狙い通りに運んでいる部分と、失敗している部分などについてお話しいただいた。

 まだ話題のつきないことから、羽場教授にはまた続けてお話をうかがうことになった。続編もぜひ、御覧いただきたい。

※写真は、2022.6.6羽場久美子教授(国際政治学者)講演会「ロシアのウクライナ侵攻:武器供与でなく停戦を」にてIWJ撮影。

■ハイライト

  • 日時 2022年8月16日(火)20:50~
  • 場所 Zoom + IWJ事務所(東京都港区)

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