2022年6月6日午後6時より、東京都杉並区の久我山会館ホールにて、戦争させない杉並1000人委員会の主催により、国際政治学者・羽場久美子氏の講演会「ロシアのウクライナ侵攻―武器供与でなく停戦を―アメリカの世界戦略、次は中国」が開催された。
講演冒頭、羽場氏は「現在のロシア・ウクライナ戦争の報道の中で、アメリカの話はほとんどされない」とし、このたびのロシア・ウクライナ戦争の背後にあるにもかかわらず、言及されることの少ない「アメリカ」にフォーカスした形で講演を進めた。
羽場氏は、「ロシア・ウクライナ戦争は、アメリカ、つまり、西側世界の立場を、軍事・経済・政治すべてにおいて有利にした」と述べた。
続けて羽場氏は次のように説明した。
「つまり、軍事面では、ウクライナへの武器供与により、現在、米国の軍事会社は、空前の利益を上げ、経済面では、ロシアへの経済制裁により、米国のシェールガスの売り上げが2~2.5倍に跳ね上がっている。
政治面では、欧州とのぎくしゃくした関係が修復されるなど、ロシア・ウクライナ戦争は、米国にとって非常に有利に働いている。
しかし、ロシアは逆に、軍事面でも、経済面でも、そしてソフトパワーの面でも、重要な役割を失いつつある。エネルギーは輸出できなくなり、軍事行動は徹底的に世界中から批判される。
そして、中国も、ロシアと結ぶことで、国際的な影響力を縮小しつつあると言われている。つまり、専制主義とか覇権主義が、このロシア・ウクライナ戦争により後退し、米国や欧州の立場が強化されつつあると言われている」
また、羽場教授はパワーポイントの資料の中で次のように記している。
「2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻以降、米国のウクライナへの支援金額は37億ドル(約5000億円)相当に達している。
武器に到っては、対戦車ミサイル1万2千基以上、弾薬は5千万発以上、携行式地対空ミサイル『スティンガー』1400基以上、そして、携行式多目的ミサイル『ジャベリン』5000基以上、自爆ドローン数百基がアメリカからウクライナに供与されている。(北國新聞、2022.4.8)」
こうした武器により、ロシア軍の戦車や兵士のみならず、ウクライナの建物やウクライナ兵士、そして市民の生活が破壊されるのである。
羽場氏は次のように訴えた。
「確かに、ロシアは渡ってはならない橋を渡りました。ウクライナに軍事侵攻し、キーウという首都まで侵攻していったということは、非常に大きな問題であると思いますが、では、数万基の破壊兵器で徹底的にロシア軍をやっつけてもいいのか?
そして今、ウクライナ国内でこれをやっているということを考えれば、ウクライナにおいても、大量の死者がそれによって出ていないとは限らないわけですね。
戦争、そしてその兵器というのは、『無差別』ですから、そこにいる人たちを全部殺していく。
これを数年続けてみて下さい。もうウクライナは立ち直れないですよね。この3か月間だけで、ウクライナの経済的損失はGDPの3倍と言われています。
それを、この1年、あるいは来年、再来年と続けていく中で、ウクライナは、実は、ウクライナは独立時、欧州の最貧国だったのですが、再び最貧国に逆戻りし、そして、立ち直れないほど潰されてしまう。
その大量破壊兵器が、西側の兵器はウクライナのものは何も破壊しないで、ロシアだけが潰している、ということはあり得ないですよね。
戦車を破壊するとき、あるいはロシアの大隊を破壊するとき、周り中の建物や民間の人々も巻き沿いになるわけで、それを知らないふりをするわけにはいかないと思います。
マスコミの責任も重いのではないかと思います」。
ロシアのウクライナ侵攻は、大きな過ちであることは当然であるが、アメリカのウクライナへの大量武器供与と戦争継続も許されるべきことではない。
バイデン大統領は「100%ロシアに責任がある」と発言したが、これは正しくない。どちらもすぐに戦闘を止めるべきであり、メディアは、ロシア側の問題点のみでなく、ウクライナ側、特に米国側の問題点も平等に報道するべきである。
羽場氏の講演は、「ミンスク停戦合意」や「NATOの変遷」など、多岐に渡る重要事項を総合的に扱ったものであった。記事では米国に関する事項に重点を置いたが、質疑応答など、羽場氏の講演の詳細については、ぜひ全編動画でご確認下さい。