2022年5月11日水曜日、この日、参議院で採決・成立が予定されていた経済安全保障推進法案に反対するデモ「#経済安保法案は戦争を呼び込む 連続アピール2Days」が参議院会館前で行われた。
経済安全保障推進法案とは、岸田政権の目玉政策の一つで、基幹インフラ14業種における安全確保、医療・半導体などのサプライチェーン強化、ハイテク分野での先端技術開発での官民協力、軍事技術に関わる特許の非公開など、4つの柱から構成される。
米国のトランプ前政権は、情報通信技術を巡り、中国との対立が激化、米国政府機関でファーウェイ社製など、中国製品の使用を禁止した。そんな中、日本ではコロナ禍におけるマスクの供給が滞り、半導体が不足するなどの事態が起きた。
こうしたことを背景に、経済活動をこれまで通り継続することができるよう対応を急ぐべきだとの意見が上がり、自民党の甘利明元幹事長が主導するかたちで、2020年頃から法制化を目指した。
2021年秋に岸田政権が誕生すると、その動きは一気に加速した。「経済安全保障担当相」を新設し、そのポストには甘利氏に近い小林鷹之氏が任命された。
デモの中で海渡雄一弁護士は、経済安全保障法案について「中国との敵対的な経済関係を作ってしまう可能性が高い」と指摘した上で、次のような見解を示した。
「アメリカ政府が作っている法律案は、中国のITを入れている企業と、政府の通商を断つとか、はっきり決めて作るわけですよ。(日本では)それをやったら大変なことになるから、それを隠してるわけです。
そういう中身であることを隠して、『外部に依存するような重要インフラシステムについては、一定の制限をかけていく』、こういうことを言って、『じゃ、どうするんですか?』(と聞くと)、『それはこれから決めます』ということになるんですね」
さらに海渡弁護士は、次のように自身の見解を裏付けた。
「参議院の参考人質疑の中で、坂本雅子さんという名古屋経済大学の先生が、極めて実証的に、具体的に、『これはアメリカの指示で行われている法制定なんだ』ということ、そしてアメリカがアメリカ企業に対してやったことを、日本でも同じようにやれと、要するにファーウェイ社とか、会社のシステムに使ってるのは全部止めさせろということをはっきり明示しています」
- 参議院内閣委員会(2022年4月21日、参議院)
岩上安身は2019年に、日本の産業の「空洞化」と「属国化」について、参考人として証言した坂本雅子名古屋経済大学名誉教授にインタビューを行っている。ぜひ御覧いただきたい。
経済安全保障推進法案はデモ中に、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、立憲民主党などの多数により可決・成立し、「法案」から「法」に変わった。
しかし、この法律に記されている何が「審査対象」で、何をすれば「罰則」にあたるのか、明確な線引きがされておらず、政令・省令で定められることになっているため、恣意的な運用が行われかねないと懸念する声もある。
2021年には、軍事転用可能な噴霧乾燥機を許可なしに輸出したとして、大川原化工機の幹部が警視庁公安部に逮捕された。しかし、検察が裁判の直線に起訴を取り下げるという異例の対応をし、冤罪であった可能性が極めて高いとされている。
経済安全保障推進法は、海外との経済対立を起こすだけでなく、国内での監視社会を助長し、大川原化工機事件と似た冤罪事件が増えるのではないかと指摘されている。