2022年9月23日午後8時より、岩上安身は国際政治学者・神奈川大学教授の羽場久美子氏に、8月16日に続く2回目のインタビューを行った。
- 「ウクライナ紛争のエスカレーションの背景にあるのは米国によるウクライナへの武器供与!」 ~岩上安身によるインタビュー第1090回 ゲスト 国際政治学者・神奈川大学教授 羽場久美子氏 2022.8.16
インタビューは、現状への危機感と停戦への強い祈りに満ちたものとなった。
冒頭、羽場久美子教授が、ポーランドのポズナンで開催された国際歴史学会の中の国際関係史学会に出席した話から始まった。ポズナンはドイツ国境に近い都市だが、ウクライナからの避難民の人たちが来ている都市だとのこと。
ところが、ロシア人には、ビザを発行しないので、すぐ近くにいながら、ロシア研究者が全然来られなかったという。
学会の中で、ロシアに対する非難が行われたとのこと。
さらに、次回の大会は、イスラエルで行われる予定だという。
羽場教授「イスラエルが3ヶ月前に、パレスチナにミサイル攻撃をして指導者が殺されたとか、一般人に被害があったということですから、一方で、ロシアを非難しながら、イスラエルで次回の学会を開催するというのはどうなんだろうなと。学会自体も、ウクライナ・ロシア戦争中で変化してきています」
羽場教授のこの発言を受けて岩上安身は、「イスラエルがナクバ(パレスチナ人の虐殺と土地の収奪)以降、やっていることは、民族浄化であると誰しも思っています。ウクライナ政府は、『土地は取り返す』と言いながら、『国民は取り返す』とは言いません。ウクライナ政府が攻撃してきたのは、ウクライナ国民の籍を持ったロシア語話者でした。これを考えると、これもパレスチナでイスラエルがやったような、民族浄化ではないかと思います」と応じた。
羽場教授「ポーランドで開かれた後、次にイスラエルというのは、驚いた研究者も多かったと思います」
米国やNATOも、この国際際関係史学会と、まったくスタンスは同じである。
ロシアのことは批判するが、イスラエルと同じようにロシア語話者を民族浄化してきたウクライナも、パレスチナ人を民族浄化しているイスラエルも、まったく批判せず、ダブルスタンダードを貫いている。
日本はもちろん、西側の大手メディアも、右へ倣えである。
このダブルスタンダードに、米国NATOや西側メディアの本質が現れているように思える。
前回のインタビューで、重要な点を岩上が振り返った。
「ウクライナは東西で発展の様相が異なり、東部が豊かで西部は貧しい。そして豊かな東部にほとんどロシア語話者が住んでいる。東西は折り合いがつかない」
羽場教授は「通常は西が豊かで東が貧しいと考えられるケースが多いですが、ウクライナの場合は逆で、ドンバス地方、ハルキウやドネツク方が、重工業が発達していて豊かです。ザポリージャの方までですね」
ウクライナの地域特性は、ウクライナ支援のあり方にも影響を与えている。
たとえば、ウクライナ西部のザパルカッチャ州は、東部や南部からの避難民(国内避難民)が押し寄せているが、支援の空白地帯になっている。
西部地域は経済発展が遅れ、道路や上下水道などインフラが整備されていないため、大きなトラックで支援物資を運搬することが難しいのだ。
- 【誰も助けに来ない】ウクライナの「辺境の地」に行ってみた(原貫太・フリーランス国際協力師のYouTubeチャンネル、2022年8月30日)
岩上安身は、ウクライナの国境のあり方そのものについて重要な指摘を行った。
「ソ連時代にフルシチョフが、ロシアとウクライナはソ連邦という一つの国の中にあるものですから、2つの国の国境は県境のようなものでしかなく、国境線をウクライナに移してロシア東部をウクライナへ編入したという経緯があります。その程度のもので変更されたものを『永遠の国境線』のように言うのはどうかしているとロシア側は言っています。
しかし、こうしたことはかき消されてしまいます。歴史的なことを踏まえないで、まるで今のウクライナが今の国境線のまま昔から、国民国家として存在していたかのような、幻想がふりまかれている」
羽場教授は、「ウクライナが一つの国あり続けたという方が短かった、少なかったと言えます。そもそも、ウクライナという言葉が、辺境とか、小地域という意味です。国民国家形成が現段階までできなかった地域と言えます」と応じた。
インタビューで話し合われたのは、主に、3月と5月に出された『憂慮する日本歴史家の会』の声明について、2050年には、中国とあわせて、世界経済のGDPの50%を占めると予想されているインドの国際秩序における重要性と、ウクライナ紛争でのしたたかな立ち回り、ウクライナ紛争の「長期戦」のロシア側のとらえ方の問題、制裁のブーメランがきつい欧州全般でのデモ頻発、台湾有事とウクライナ紛争の比較検討、原発を抱えた日本の安全保障問題など、多岐にわたった。
インタビュー中、いくつも興味深い視点や重要な論点があった。その中の一つに、羽場教授と岩上安身の指摘したインドの問題がある。
インドは、ロシアの南に位置し、中国、韓国、日本とともに、ロシアに近接する国家だ。3月と5月に声明を出した羽場教授も参加する『憂慮する日本歴史家の会』は、日本の外務省、中国外務省とともに、インドの大統領にも働きかけたという。
働きかけた当初のインド大使館の反応は、「情勢を見極めて」というものだったそうだが、最近、徐々に、変化がみられるということだ。
2050年までには、経済大国の中国に次いで、第2位に躍り出るインド。この両国で、世界経済の半分の富を産出するようになる。
このとき、国力に規定される世界のパワーバランスは、大きく変わっているだろうという見通しを、岩上は示した。
そして、興味深いのが、羽場教授の「ロシア、中国、インドが結ぶと世界経済のかなりの部分を占め、これに軍事力も入れると、欧米は太刀打ちできない」という評価だ。
羽場教授の「インドは早期に植民地になったので、反アングロサクソン・反米志向が強い」と指摘した。
エリザベス女王の死去に際して、王冠に使用されているインド産の世界最古と言われる「コイヌール」と呼ばれるダイヤの返却を求める運動がいち早く起きたのもインドだ。
- 「最古のダイヤモンド」返還を=英王冠に使用、ネット上で再燃―インド(毎日新聞、2022年9月17日)
クアッドにも入っていながら、中国とロシアが核となる上海条約機構にも参加し、ロシアや中国とも強い結びつきを持つ、インドの加わった、2050年の国際秩序のカラーは、現在の米国と欧州が中心のそれとは明らかに異なる。
日本は、こうした将来の国際秩序を想像しているのだろうか。