「集団的自衛権、原発、TPP。今なぜ、こんなバカなことが起こっているのか。このひどい状況は、真珠湾攻撃の前夜と類似している。そこで、なぜ、日本が真珠湾攻撃に至ったかを調べたのです」――。
このように語る孫崎亨氏に、岩上安身は、「指導者が嘘や詭弁の説明で国民の望まない政策に誘導し、マスコミはそれを検証せず、国民は信じるふりをして容認する。反対する者は弾圧。また、自分より大きな相手に『今なら勝てる』と思っていることや、戦争の規模を小さく見積もっている点も、真珠湾攻撃の時代とよく似ています」と応じた。
2015年8月3日、東京都内のIWJ事務所に、元外務省国際情報局長・孫崎享氏を迎えて、岩上安身がインタビューを行った。孫崎氏の最新刊『日米開戦の正体―なぜ真珠湾攻撃という道を歩んだのか』(祥伝社)を引用しながら、日露戦争から真珠湾攻撃までの日本の歴史を振り返り、現在の日本の姿と重ね合わせた。また、森島守人、伊藤博文、石橋湛山、若槻礼次郎など、時代の圧力に屈せず闘った人たちの名を挙げ、だまされない、あきらめない、黙らないことの重要性を確認していった。
孫崎氏は、「真珠湾攻撃の時、日本は1対10の差がある米国に、なぜ勝てると思ったのか、明確な答えがない。同様に今、日中の軍事バランスは、核兵器も含めて1対100の差がある。戦争にはなり得ないのに、(保守派は)それを認めようとしない」と語り、客観的データを排除して、自分に都合のよい情報を集めて納得する「認知的不協和」について説明。「役人の場合なら、安倍首相に反する考えは不都合になる。保身のために、原発、TPP、集団的自衛権を認めてしまう。残念ながら、上の地位に行けば行くほど客観的ではなくなる」と指摘した。
- 日時 2015年8月3日(月) 17:00 ~
- 場所 IWJ事務所(東京・六本木)
今の戦争法案は、2005年から布石を打っていた
岩上安身(以下、岩上)「孫崎さんの最新刊『日米開戦の正体』は、IWJ書店では、あっという間に20冊売れてしまいました。追加販売分にサインをお願いしたところ、『より強く、より正しかるべきであったと自責の念に堪えない。森島守人。軍と斗った人物』と書かれました。この人は、どういう方だったんですか」
孫崎享氏(以下、孫崎・敬称略)「外務省は、1931年頃から軍に牛耳られて、外交がほとんどできなくなった。だが、外務省の役人の森島は、満州事変の発端となる柳条湖事件の時、軍と対峙した。そんな彼が、戦後、自責の念にかられて述べた言葉がこれです」
岩上「なるほど。それぞれの時代に、がんばっていた人はいたんですね。ところで、孫崎さんとは、2009年3月に『日米同盟の正体』を読んで、すぐ取材に行って以来のご縁です」
孫崎「その本は、まさに集団的自衛権のことを書いています。2005年10月、日本とアメリカは『日米同盟:未来のための変革と再編』に合意しました。米国の戦略のために自衛隊を使う路線が決まった。そのために日本の法整備をする、という内容が含まれています」
岩上「本来なら条約改定に等しい話を、2プラス2(外相・防衛相同士)で決めてしまった。ガイドラインだから、国会も通りません」
孫崎「このガイドラインには、自衛隊を海外で使うことも、秘密保護法、機雷除去、後方支援も全部含まれていたが、どの新聞も解説をしなかった。だから、私は『日米同盟の正体』を書いたんです」
岩上「自衛隊が米国の2軍になって使われる、憲法改正に及ぶと、いち早く警鐘を鳴らした。中国の台頭で、日本は米国の楯や鉄砲玉になること、オフショアバランシング、核武装の話もされていましたね」
保守派が野党にやらせる手口
孫崎「多くの人は、米国が日本の核装備を危惧していると思っているが、ジョン・マケインなどは日本に核装備をさせたがっていますよ。米国は1970年代までは日本を信用せず、核武装に反対だった。ところが、今や日本は完全に米国の奴隷になり下がってしまった。だから、今は日本に核を持たせて、中国や北朝鮮を攻撃させようとしています。
当然、日本も中国も北朝鮮も戦場になるが、米国だけは無傷です。同じ構図がヨーロッパでもありました。1980年代に、NATOが中距離ミサイル・パーシング2の配備を決めたが、有事の際はソ連と共倒れになることに、ドイツが気づいたんです」
岩上「ところが、こういう問題は多くの人になかなか理解されない。民主党政権になっても変わらず、むしろ、尖閣諸島での漁船衝突事件、石原都知事のヘリテージ財団での尖閣購入発言、野田政権での尖閣国有化と(中国との関係悪化が)続いた」
孫崎「これは、保守派が野党にやらせる手口です。TPPも、尖閣も、原発再稼働も、民主党の時に着手させている。政権が変わってからが本番になる」
岩上「大飯原発の再稼働の時は抗議デモがすごかったが、民主党政権の脱原発の閣議決定が、米国の横やりで消えるなど、いろんな圧力がありました。アーミテージ、ジョセフ・ナイ、キッシンジャーまで来日して、野田首相に釘を刺して行った。こんなことが繰り返されて、2014年7月、安倍政権で集団的自衛権の行使容認が閣議決定され、今年(2015年)、安保法案の成立まで来てしまいました」
孫崎「オバマは軍事化のブレーキにはなるが、次の政権が共和党になったら確実に加速します。ジェフ・ブッシュは、『次の政権では同盟国をいかに使うかが重要』とツイッターに書いています。野田政権にしたように、比較的警戒されないオバマ政権で枠組みを作らせるのです」
イデオロギーにとらわれ、経済的利益を逃す日本
岩上「米国に、安倍政権のようなのが台頭して、世界は猛烈な戦火にまみれるかもしれない。また、ロシア、中国がどんどん外交的な手を打っており、AIIBにはイスラエルまで参加してしまった。ところが、日本だけがわかっていない。自滅の道です。AIIBを否定していた米国は、参加締め切り後に態度をコロっと変えて、儲かるなら中国と組もうとしています」
孫崎「IMFと世銀がAIIBと組んでしまう。結局、日本だけが外されて、その危険を国民も気づかず、有識者も指摘しない。昔、通産省OBが商人国家論を説いた。イデオロギーにとらわれずに、経済的利益で判断して行動すればいい、と。ところが今、日本ほどイデオロギーに絡まって、経済的利益の判断ができなくなった国はありませんよ」
岩上「そのイデオロギーも、安倍内閣の閣僚は、ほとんど日本会議のメンバーなので復古主義そのもの。今、問題視されている自民党の武藤貴也衆議院議員の発言などはメチャクチャです。基本的人権の完全否定と、日本の核武装を主張している。
米国の専門家たち、ミアシャイマー、ケネス・ウォルツ、クリストファー・レインなどは、米国はオフショアバランシングで、日本を核武装させて核戦争をやらせろと言っている。その一方で、日本脅威論も堂々と述べている。つまり、米中で話し合ってうまくやっていけるなら、日本のケーキを分け合って食べちゃおうぜ、と。そうできなければ、米国は日本を鉄砲玉に使って中国を攻撃させる。挙げ句、復興事業で自分たちが儲かるという話でしょう」
日本の知的水準もメディアのレベルも低下
孫崎「インド系のザカリアという米国人は『日本はヘッジだ』と言っている。基本的に、米国と中国は戦争をしない。金融、貿易で手を取り合う。ただ、中国がおかしな動きをしたら、日本を対峙させてヘッジ(危険回避)しようということです。米国も、昔は警戒して変な発言は控えたが、今は遠慮がない。日本は言いなりだと思っているから」
岩上「米国はすべて盗聴して、使い勝手のいい人間を日本の首相に選ぶ。とにかく、今の日本の知的レベルも、メディアもひどいものです」
孫崎「NYタイムズのマーティン・ファクラー元支局長は、『日本のメディアは、安倍政権が、官庁、検察、警察が、何をしたかだけ伝える。国民が何を考えているかは、一切報道しない』と言っていました。それは、NHKを見れば明らかですね」
岩上「今、これだけ大きな話題になっているSEALDsや、学者の会など、安保法案に反対する国民の動きは完全に無視して、情報操作をするNHKは本当にひどい。先日のNHKへの抗議デモも、もちろん伝えていません。
ファクラー氏は、ペンタゴンと人民解放軍は西太平洋で(覇権を)分けようと話しているよ、と言っていました。米国は金がないので、アジアから去る時は日本に核武装をさせて、監視下において限定戦争をさせるつもりだ、と」
「戦いは尖閣諸島周辺だけ」と言うネトウヨのおかしさ
岩上「先日、国会で山本太郎議員が、弾道ミサイルが原発に落ちた場合の対応を質問したら、安倍総理は、何も考えていないと答えた。安倍政権は、安保法制の根拠に中国や北朝鮮の脅威を強調しているのに、原発への攻撃には、避難策も何もないと言う」
孫崎「ミサイル防衛なんて、できないんです。そういう議論は米ソの時代からあった。秒速数キロのミサイルに当てるなんて無理だから、発射する場所をピンポイントで攻撃する。また、政治や社会の中心地域への攻撃は範囲が広すぎて防げない。北朝鮮には300発くらい日本向けのノドンがある。日本は、米国へ向かう前のテポドンを撃ち落とす役目だというが、そうなれば北朝鮮はノドンで日本に反撃する。日本の安全保障関係者は、その不合理性を誰も言わない。ひどい国です」
岩上「鋭い質問をした山本議員に、ホリエモンが、池田信夫の話を持ち出して、『ミサイルを市街地に撃ち込めば数万人を殺して済むので、原発を攻撃するはずがない』と中傷した。アホですね。なぜ、原発or市街地なのか。同時攻撃はいくらでもできるのに」
孫崎「私は『日米開戦の正体』で、日本は1対10の差がある米国に、なぜ勝てると思ったのか、明確な答えがないと書いた。今、日中の軍事バランスは、核兵器も含めて1対100の差があります。戦争にはなり得ないのに、それを認めようとしない」
岩上「ネトウヨは、戦争は尖閣諸島の周辺だけになる、と言う。その上、原発への攻撃は国際法違反だから、相手はしてこないと信じている。あれだけ、中国や北朝鮮を非人道的な国家だと非難しながら、都合の良いことです。原発を絶対に狙わないでいてくれるなら、そんな良い国はないから、仲良くできるだろうに。米国の戦略家たちは、現実に中国本土まで攻めることは無理だから、エアシーバトルで日本列島を戦場にする、と明言しています。皆さん、日本が戦場になることを踏まえておいてください」
今は真珠湾攻撃の前夜と似ている
岩上「それでは、なぜ、日米開戦は避けられなかったか、という本題に入ります。真珠湾攻撃の前から、張作霖爆殺、柳条湖事件、5.15事件など、いろいろな事件が続いていました。
今の安倍政権のやり方は、真珠湾攻撃を決定した時と同じです。指導者が嘘や詭弁の説明で国民の望まない政策に誘導し、マスコミはそれを検証せず、国民は信じるふりをして容認。反対する者は弾圧する。集団的自衛権、原発、TPPにも共通しています」
孫崎「今のひどい状況は、真珠湾攻撃の前夜と類似しています。そこで、なぜ、日本が真珠湾攻撃に至ったかを調べたのです」
岩上「自分より大きな相手に『今なら勝てる』と思っていること、戦争の規模を小さく見積もっている点も、真珠湾攻撃の時代とよく似ています」
現代の「君側の奸(くんそくのかん)=悪い家臣」
パーシング2配備によるソ連とドイツ滅亡計画に気づいたドイツの若者たちがミサイル配備反対デモをやっていたのを当時のニュース映像で覚えている。但し、当時の私は滅亡計画まで理解できなかった。この当時流行ったネーナの『ロックバルーンは99』という曲は、パーシング2配備によるソ連とドイツ滅亡計画に気づいたドイツの若者たちからヒットし世界中でヒットした曲だった。
孫崎さんと岩上さんの対談を2度3度、拝聴しました。
そのなかで,孫崎が,安倍さんが演説するから自民党を支持するものがいるのであって,
それが他の閣僚であればそうはいかないというお話をされていました。
確かに安倍総理は時代を映す鏡でもあります。ただし全てでなく。
なぜ安倍総理が支持されるのかを、少し考えて見ます。
安倍総理の姿をみていると大都市の企業の役員をどこか思わせます。
多忙でニュースを短時間しか見ない人には、すらりとして、いつも服装に気を使い、断定的に自己主張するのは、頼もしく感じられても不思議ありません。
原発を世界各地に「積極的平和主義」のもとセールスに飛び回る。
そういう姿に、主に都市に住む自民党支持者は、ねたみの裏返しで「憧れ」、幻想的な「寄らば大樹の陰」を期待し、今ある生活は現政権の見返りだとさえ思い込む。
アベノミクスは、ないよりまし。
ふだん読む新聞は、岩上さんがよく名前を挙げる2紙、 ないしそのデジタル版
食べ物ガイドで高くて行けない場所でも会社なら会食はしている、組織の伝達は上位下達で徹底し、仲間で固めたとはいえ「外部」の意見も聞く。
海外それもアメリカにも行くが、交渉なぞほどとおく,ほとんど事前にきまっていてよりも顔つなぎ
広告代理店が考えつきそうな、覚えやすく分かりやすい政策実行の勢いのある言葉がどんどんと出る。
東シナ海や南シナ海の「脅威」は上海など海岸沿岸にある中国企業を普段意識している人には、油田や島開発の話は理屈より感情面で揺さぶられるのではないでしょう。こうした姿は、「会社人間」の固い支持を受けやすいのではないか、自分の労働の延長に政治を見てしまう。それも多忙ゆえに。
アメリカに本社がある米国籍の役員が何人もいて、会社は日本本社であり米国企業の子会社でもある。たえず企業の損益と自分の事業の進捗と成果、上司の評価、自社株の動向に気が張っている。
中国、それに韓国国籍の人は会社にはほとんどいない、企業も自分も中国・韓国には競合していてむき出しの対抗心もある。
一方、対米従属的でみずからを「社畜」と自己蔑称するほど会社従属的である。仕事で自分の意見など滅相も無い、仕事に忠誠を誓い、どこかの部署で一緒だった仲間が過労で倒れた話は、「美しく散っていくことへの幻想」を置き換える
大学や学生時代は遠い昔のこと。会社には、「左翼」どころか「批判勢力」もいない。
「白を黒と言う」のは当たり前。
社会を政治的に批判した経験もなく、そのような本も読んだことはない。
忙しいので、お金の使い道は海外旅行、高級外車、高級住宅。
そういう「会社人間」、独身ないし少人数の家族で経済最優先の人々が安倍さん支持、それも熱烈な支持者であり、少なからぬネット右翼がそのなかにいると思います。
それでも、自民党、いくらなんでもそれはまずいよ、という人が少しづつ「不支持」にまわってきているのが現状でしょうか。