没落する日米と急速に台頭する中国 安倍政権はいつまで「従米路線」を続けるのか?~岩上安身によるインタビュー 第531回 ゲスト ニューヨーク・タイムズ東京支局長 マーティン・ファクラー氏 2015.4.23

記事公開日:2015.4.25取材地: テキスト動画独自
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(IWJ・平山茂樹/IWJ・原佑介)

※4月26日テキストを追加しました!

 集団的自衛権行使容認、辺野古新基地建設、TPP、歴史認識、AIIB——。安倍総理は4月26日から訪米し、オバマ大統領と日米首脳会談を行う他、米議会上下両院合同会議で演説を行うが、これらの懸案事項について、日米両国の間で協議が行われると思われる。

 2012年末の政権発足以来、日米同盟を何よりも最優先し、「従米路線」を堅持してきた安倍総理。今回の訪米も、「主人」である米国に対し、与えられた課題をいかに達成したかということを、「報告」しに行くだけのことに過ぎない。

 元外務省国際情報局長の孫崎享氏との共著『崖っぷち国家 日本の決断』を発表したニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラー氏は、民主党による政権交代が行われた2009年以来、日本に滞在し、日本の政治を取材し続けてきた。

 そんなファクラー氏の目に、現在の安倍政権の「暴走」と、それを許す大手メディアの屈従ぶりは、どう映るのだろうか。ファクラー氏は、2015年4月23日(木)、3時間にもおよぶ岩上安身のインタビューに応じ、特に昨今の歴史修正主義の問題について、「世界では通用しない」と語った。

 ファクラー氏は他にも、米国の知日派、いわゆる「ジャパン・ハンドラー」の実態を紹介。リチャード・アーミテージ元国務副長官や、マイケル・グリーンCSIS(戦略国際問題研究所)副理事長らは、日本の従軍慰安婦問題を決して許すことはないだろう、と語った。

■イントロ

  • 日時 2015年4月23日(木) 16:00~
  • 場所 IWJ事務所(東京・六本木)

日本の歴史修正主義、「世界では通用しない」

岩上安身(以下、岩上)「本日は、ニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラーさんをお招きしました。ファクラーさんとは、民主党による政権交代後、金融庁での亀井静香大臣のオープン会見でお会いしたことがあります」

マーティン・ファクラー氏(以下、ファクラー・敬称略)「我々は、別に記者クラブの会見に出る必要はないのです。記者クラブ問題は、国内メディアの問題です。雑誌や新しいネットメディアの記者が会見に出ることができないのは、一種の差別ですよね。

 20年前、30年前の日本のメディア風景と、今の日本のメディアは、何も変わっていません。これは、世界的に見て、とてもおかしいことです。これから、日本も変わっていくのではないか。ですから、岩上さんの活躍に期待しています。

 3.11の後、メディアに対する国民の不信感が高まりましたね。多くの方にとって、メディアが読者側に立っているのではなく、権力側に立っている、ということが露呈したのではないでしょうか。インターネット上には多様な意見が溢れているので、これはチャンスですね」

岩上「4月26日、安倍総理が訪米し、議会で演説を行います。いろんなことがここに重なりあっていると思います。訪米する安倍総理を、TPPや集団的自衛権などに関して、米国のパワーエリートはどのように評価するのでしょうか?」

ファクラー「安倍総理は、日本の立場を上げようとしています。その時に各国が知りたいのは、日本がどういう国か、ということ。一人前の大人としての態度が取れるかどうか。そういうことを、世界中の国々が見ているのです。日本が今、求められているのは、品格があって、信頼の置ける国であることです」

岩上「日本は、米国の属国です。日本の官僚組織には、トップは米国に存在するんだ、ということを勘づいている人たちがいました。これでは、ひとつの国としては終わりではないでしょうか。

 ジャパン・ハンドラーの大ボスのような人物で、リチャード・アーミテージという人がいますね。彼が、『女性が一人でも悲しむような経験をしていれば、それは認められない』と、従軍慰安婦問題で自民党に釘をさしました。

 すると、自民党の議員は戸惑いました。そして、産経新聞は反論しました。ジャパン・ハンドラーと、自民党の右寄りの政治家の間にも、これほどの乖離があるのですね」

ファクラー「昨年(2014年)の朝日新聞の誤報問題以後、日本国内では、『慰安婦はいなかった』というような論調になってしまいました。吉田清治と朝日新聞が、慰安婦を捏造した、ということになってしまった。しかし、これは世界では通用しません。

 海外では何も変わっていないのに、そういうこと自体が、日本国内では報道されません。日本が、知的にガラパゴス化してしまっています。もはや、NHKなどは、慰安婦問題を報じなくなってしまいました。これは、非常に大きな問題です。

 アーミテージ氏もマイケル・グリーン氏も、従軍慰安婦問題は重要だと思っています。『軍が強制連行をしなかったから、強制性はない』などという議論は、世界中で通用しません。

 日本にとっても、もったいないことだと思います。日本がちゃんと、『悪いことをした』と認めれば、他国のことにもモノを言えるようになります。『慰安婦はいなかった』という子どもっぽい議論のせいで、日本の良い部分が帳消しになってしまいます」

TPPについて、日本では社会的な議論が足りない

岩上「TPPについてはいかがですか」

ファクラー「中国に対し、日本と米国が手を組む、という側面が大きいですよね。明らかに、中国に対応するための経済ブロックだと思います。日本が、米国のこうした戦略に積極的役割をはたすのかどうか、ということが重要です。

 私が感じるのは、TPPに関する社会的な議論がほとんどない、ということです。TPPが本当に必要か、日本は将来的にどういうビジョンを描くのか。国の仕組みそのものが問われています」

岩上「しかし、TPPは秘密交渉なのです」

ファクラー「TPPにしろ集団的自衛権にしろ、一般の人にはよく分からない用語ですよね。国民を騙そうとする意図が感じられます。今の権力者は、社会的な議論が起きてほしくないから、こういう言葉を使っているのだと思います」

AIIBで台頭する中国経済 米国の新たな戦略とは?

岩上「安倍政権は、日本を平和主義的な国家から、米国の軍事的下請け国家へと変えようとしています。しかし、米国も一枚岩ではないと思います。この点について、米国はどのくらい命令しているのでしょうか」

ファクラー「日本に対しての期待は大きいですし、日米関係を見ると、ずっと一部の人間が管理し続けていますよね。窓口は、外務省、防衛省、一部の議員と、ジャパン・ハンドラーたち。しかし、ワシントンに行けば、議員の考えにはいろいろと多様性があります。

 日本は戦後、平和憲法がありながら米軍基地を抱えるという、矛盾を抱えてきました。今の平和憲法を守る国になるか、米国と対等な同盟国になるか。そういう選択肢が示されていますが、メディアは伝えません」

岩上「AIIBなど、中国が台頭しています。世界の覇権は、G7からG20に移りました。これに伴い、日米関係はどう変化し、日本はどうなるのでしょうか?また、オバマ以後の米国はどう変わるのでしょうか?」

ファクラー「中国がますます強くなっていくのであれば、米国は自国の利益を最優先で考えます。中国と米国の競争を見ると、冷戦にはなっていません。人材の交流も非常に大きいですし、中国が敵である、と思っている米国人は少ないと思います。

 そうなると日本は、自分たちの立場を冷静に考えなければいけません。『ニクソン・ショック』が将来、再びあり得ないとは言えません。中国は米国で、平和的メッセージを載せた英字新聞を出したりしています。

 安倍総理がなぜ米国議会に呼ばれたかというと、この半年くらい、中国のサイバー攻撃が激しくて、少し米国が中国に冷たくなっているからです。日本が米国の同盟国であるメッセージを発し続けているので、そのことが評価されたのだと思います。

 AIIBに米国が参加しないのは間違いだと思います。米国はAIIBに関して失敗しました。超大国の傲慢さが出ていると思います。しかし、米国はいつか反省して気がつくと思います。その時、日本が自分で判断できるかどうか、ということが重要です。

 日本には、ほとんどシンクタンクがない状態です。せいぜい、日本財団くらいですよね。米国のいいところは、多種多様なシンクタンクがあって、政策のアイデアを出す競争をしていることです」

韓国に「コリア・ハンドラー」はいない

岩上「ご著書の中で、日本における海兵隊の規模縮小を訴えている政治家もいる、とおっしゃっていますね」

ファクラー「普天間の辺野古移設が実現しなければ、根本的なところから考えなおしましょう、という言い方をしました。超党派で幅広い議員たちです。  別に、日本に米軍基地があってもいいんですけど、日本人はそのことをまったく議論しませんよね。せめて、『これ、おかしいよね』と、議論したほうがいいですよね」

岩上「合理的でなければ、基地の撤去を求める、という風にならなければならないですよね」

ファクラー「韓国は、もっと上手いですよ。韓国には、『コリア・ハンドラー』はいません。韓国の議員は、よくワシントンに来ていますよ。日本も、全て官僚に任せるのではなくて、国民ひとりひとりが議論したほうがいいですよ」

進展する日米の「安保一体化」

ファクラー「日本の外交政策で一番成功しているのは『JET』。ジャパン・イングリッシュ・ティーチャーズ。米国だけでもJETは20年以上の歴史があり、みんな日本に関心を持っていて、これが日米関係の強いつながりになっています」

岩上「日本は米国にとって以前ほど必要でなくなった。属国でなく、平等な立場の同盟国になることをワシントンは望んでいる、とファクラーさんは言います。しかし、日米間の『安保一体化』が進んでいます。防衛省庁舎の地下に米軍が常駐する方向で検討されているのです。

 『リンク16』など、米軍の情報提供がなければ自衛隊は何もできない状態です。キャンプ座間には米第1軍団前方司令部が移転し同居しています。結婚もしていないのに(笑)。そして安倍総理が発表したのが中国封じ込め『セキュリティダイヤモンド構想』です」

ファクラー「日本が必死であると感じます。日米は自分で中国に抵抗できないけど、米国などと一緒であれば対抗できる、と。中国台頭に対して必死に考えていると感じるが、米国は2〜3年も経てば考えが変わります。流動的な世界で、米国は相対的に衰退しています。日本は『プランB』も持っておいた方がいいのでは」

岩上「ファクラーさんは、米ソの関係と米中の関係はまったく異なると言っていますが」

ファクラー「単純に冷戦時代には戻りません。中国という新しい経済大国の時代が到来しています。日本も、融通を効かせたほうがいいのではないでしょうか」

岩上「米国は中国にフレンドリーな感情がある、ということですが」

ファクラー「日本は『欧米』を一緒にしますが、米国は中国に対し、ヨーロッパのような帝国主義的な手段を取りませんでした。米国には中国系米国人もいっぱいいます。中国は指導者が賢い。AIIBでも冷静で、優秀です。やはり5000年の歴史がまだ生きていて、古い知恵が活きています」

岩上「日本は暴力的な脱亜入欧をしたために、今、中国が台頭してくると、一度傷つけた立場だけあって不安もあるのでしょう」 

米国は日本の核をどうするのか

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