60年安保闘争再び 重なりあう1960年と2015年――日本会議に「借り」を作った自民党の正体に迫る~岩上安身によるインタビュー 第563回 ゲスト 法政大学教授・山口二郎氏 2015.7.18

記事公開日:2015.7.20取材地: テキスト動画独自
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(平山茂樹)

 「2015年の今、行われている安保法制への反対行動は、60年安保闘争の再現である」――。

 7月15日、集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案が、自民・公明の与党により、衆議院の特別委員会で強行採決、翌日16日に本会議で可決された。これで審議の場は、参議院に移されたことになる。

 この7月15日から3日間、安全保障関連法案に反対する学生団体SEALDsは、国会前で抗議の声をあげ続けた。15日には10万人もの市民が集まり、「安倍は辞めろ!」「民主主義って何だ!」といったコールを響かせた。

 このSEALDsによる抗議行動に2回にわたって参加し、スピーチを行ったのが、政治学が専門の法政大学教授・山口二郎氏である。山口氏は6月26日の抗議行動で、「安倍が自由を滅ぼすか、我々が安倍を倒すかの闘いだ」と参加者に向けて訴えかけた。

 山口氏がSEALDsの抗議行動に見出すのが、60年安保闘争の際に国会を包囲した学生たちの姿である。1960年、当時の岸信介政権は、日米安全保障条約の改正を企図し、衆議院を通過させることに成功したが、国民世論の圧倒的な反対の声を前に、退陣に追い込まれた。岸元総理の孫にあたる安倍総理による「暴走」に対しても、SEALDsら学生の力によって食い止められるのではないかと山口氏は見ているのである。

 自民党の一強状態が続き、全体主義の風潮が瀰漫しつつある現在、私たち市民はどのようにして抵抗を組織すべきなのか。岩上安身が話を聞いた。

■イントロ

  • 山口二郎氏(法政大学教授、北海道大学名誉教授、政治学)
  • 日時 2015年7月18日(土)16:00〜17:00
  • 場所 法政大学一口坂校舎(東京都千代田区)

満州事変が起きた1930年代と似通ってきている現在の日本

岩上安身(以下、岩上)「本日は法政大学教授の山口二郎先生にお話をうかがいます。山口先生は、国会前でスピーチを2回行っていますよね。その際、『安倍が自由を滅ぼすか、我々が安倍を倒すのかの戦いだ!』とお話になりました。つまり、我々が岐路に立っているという認識を示されている、ということだと思います」

山口二郎氏(以下、山口・敬称略)「今年(2015年)はちょうど、戦後70年という節目の年です。戦後民主主義について考えようという際、憲法について考えることが出発点となります。その日本国憲法のユニークな点は、第1章の『天皇』と第2章の『戦争の放棄』です。日本は、日本国憲法において、天皇制を残す代わりに戦争の放棄を宣言しました。

 現在の天皇制は象徴天皇制であり、戦前とは違うものです。日本国憲法第2章の『戦争の放棄』は、第2次世界大戦後の国際秩序の柱となっています。そのことは、天皇陛下ご自身もよく理解されています。今年の年頭の所感で、天皇陛下が満州事変に触れたことに、そのことがあらわれているように思います。

 今の日本を見ていると、1930年代とよく似ています。満州事変以降、報道の自由と学問の自由が政府によって抑えこまれていき、戦争を支持させるように世論が動員されていきました。昨今の歴史修正主義的な動きは、これと通底したものです」

全体主義支配のエッセンスを体現する安倍政権

岩上「改めて、ジョージ・オーウェルを読む必要がある、ということですが、これはどういうことでしょうか」

山口「全体主義支配のエッセンスを、オーウェルは見抜いていました。それが、言葉の意味の管理です。『1984』の中で、権力の側は、『戦争は平和である』『自由は隷属である』『無知は力である』という新語法(ニュースピーク)を国民に刷り込んでいきました。

 為政者は、自らの権力を正当化するために、過去の歴史に手を突っ込んでいじろうとする。そうすることでストーリーを作れば、権力の側は未来永劫にわたり続いていく。こうした図式を、オーウェルはすでに見抜いていたわけです」

岩上「安全保障関連法案について、維新案が国会の中で提出されました。これは、個別的自衛権を強化する、というような内容でした。この維新案について、多くの有識者の間で、賛成・反対の議論が行われました。これに関して、山口先生はどのようにご覧になっていますか」

山口「合憲だというのなら、わざわざああいった法律を作る必要はなかったのではないでしょうか」

岩上「学習院大学の青井未帆先生によると、自衛隊は米軍と同居中で、調整メカニズムに米軍の司令官が常駐する仕組みになっている、ということです。こうなると、日本の中枢神経が空っぽになって、文官による統制が取れず、米軍の自由裁量ですべて決まってしまうのではないでしょうか」

山口「これまでは、憲法9条があったからこそ、米国の要求に対して線引きをすることができました。しかし、今回の安全保障関連法案で憲法9条を事実上骨抜きにすることは、米国の言いなりになりますよ、ということを自ら宣言することを意味します」

御用メディアと化したNHK、そして「言論の自由」をめぐるダブルスタンダード

岩上「政府、自民党によるメディアへの圧力として、古賀茂明さんの例がありました」

山口「ひどい誤報があって、総務省がチェックするということは理屈としてはありうると思います。しかし、自民党の部会がチェックするというのはおかしなことです」

岩上「NHKは、採決の日の審議の模様を中継しませんでした」

山口「賛成するにしても反対するにしても、国民にとって貴重な判断材料です。NHKはどうなっているのか、と思いますね」

岩上「百田尚樹さんが『沖縄の2紙をつぶせ』と発言しました。他方で、松井一郎大阪府知事は『百田さんに言論の自由がある』と言っています」

山口「言論の自由には責任が伴います。しかし、例えば普天間の状況については、デマを流し放題です。百田氏に、言論の自由を言う資格はありません」

権力から学問の府へ向けられる激しい攻撃 人文社会系を廃止する国は先進国として恥ずかしい

岩上「国立大学から人文社会系の学問を追放してしまおう、という方針を文科省が出していますね」

山口「文学や哲学、歴史学、政治学といった金にならない学問はいらない、ということですね。これは信じがたい蛮行です。焚書坑儒と同じです。

 東大、それから京大の山極総長はしっかりしているので大丈夫だと思いますが、それ以外の大学は心もとないですね。なぜ、ナショナリズムを高らかに主張する人々が、そういうことをするのでしょうか。理解に苦しみます」

岩上「櫻井よし子氏、百田尚樹氏、花田紀凱氏が鼎談をし、『クマラスワミ報告が撤回されないようなら、国連を脱退しろ』とまで発言しています」

山口「ホロコースト否定で雑誌をつぶした人物が、いまだ言論界にのさばっているのは、問題だと思いますね。国際社会は、日本をまともな文明国だと見ていないフシがあります。ドイツではネオナチが徹底して糾弾されていますが、日本では野放し状態です。そうした中で、日本の右翼が甘やかされてきたという側面があります」

岩上「安倍総理がまったくの嘘を言えてしまうのはなぜでしょうか」

山口「これは安倍晋三という人物のパーソナルな問題だと思います。非常に幼児的で、自己愛が強い。詩人の石原吉郎が書いていますが、実戦の経験が少ないことに劣等感を持っている人物ではないでしょうか。

 教科書検定についてですが、関東大震災における朝鮮人虐殺について、『はっきりしたことは分からない』と書け、と。実証主義を政治的な道具として利用しているということですね。事実があるにも関わらず、両論併記によって戦争という『森』を隠す、という手法です」

1960年と2015年――60年安保闘争と重なる安保法制反対運動

山口「日本の戦後政治は、1960年が転換点でした。安倍晋三の祖父である岸信介は憲法改正の一里塚として、安保条約の改正を図りました。衆議院は通過しましたが、国民の激しい抵抗により、岸内閣は退陣に追い込まれました。

 丸山眞男先生は、60年安保の時に先頭に立って民主主義を擁護しました。我々学者は、2015年の今日、丸山先生のような役割を果たすべきであると思うんですね。

 日本的平和主義というものが、1960年以降に定着しました。自分を守るために自衛隊を持つのであるから、海外で武力行使をしたり、集団的自衛権を行使したりしてはいけない、ということですね。ですから、専守防衛と自衛隊の保持はコインの裏表の関係にあるわけです。

 政治家の側が、9条を変えて軍隊を持ちたい、と考えた。それに対して、市民と学者が、それでは駄目だ、と抵抗した。そうした中で、日本の平和主義は生まれたわけですね。

 私とすれば、2015年の安全保障関連法案への反対は、第2の安保闘争であると考えています。他方、自民党は、本土の矛盾を沖縄に押し付けてきました。安保法制と辺野古を遮二無二進めているのは、安倍政権の弱さのあらわれだと思います」

日本の政治はなぜ劣化したのか~独裁を防ぐシステムとしての派閥の役割

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