「自国が攻められたとき」という自衛権のハードルを下げ、戦争に突入した日本 水島朝穂・早大教授が岩上安身のインタビューで政府案・維新案を「違憲」と徹底批判!岩上安身によるインタビュー 第559回 ゲスト 水島朝穂氏 2015.7.12

記事公開日:2015.7.13取材地: テキスト動画独自
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(佐々木隼也)

 「私は今、命を賭けて発言している」——。早稲田大学教授の水島朝穂氏は何度も強調した。

 「自国が武力攻撃されていない」にも関わらず、自衛隊を他国に派遣、武力行使が可能となる安保法制を、安倍政権は強行採決という形で成就させようとしている。2015年7月12日に岩上安身のインタビューの応えた水島教授は、「この法案が通ったら『人間の存立危機』になる」と警告を発した。

 戦前、「パリ不戦条約」によって自衛権の行使は「自国が攻撃された時」にのみ許され、戦争は違法とされた。そこで大日本帝国の山本五十六は自衛権行使の「三要件」に「在留邦人の保護」を加えた。これにより、満州鉄道周辺に居住する日本人を救うという名目のもと、「やむを得ず」軍隊を「派遣」したのが上海事変であり、満州事変である。戦争は「違法」なので「事変」と言い換え、派兵ではなく「派遣」と呼ばれた。

 やがてこの自衛権の拡大解釈は、「帝国の存立の危機」「帝国の自存自衛のため」として、日本を太平洋戦争に突っ込ませた。「当時は『事変』で今は『事態』です」と、現在の安倍政権と重ね合わせた水島教授は、「自衛権というのは『自国が攻められた時』という原則を崩した時に、こちらから出かけて行くハードルを下げた時に、悲劇的な結果となる。歴史から学ぶべきだ」と警鐘を鳴らした。

 水島氏によれば、安倍政権による自衛権の拡大解釈の動きは、彼らが多用する「切れ目のない」という言葉に端的に見てとれるという。安保法制懇の報告書に8回、昨年7月1日の閣議決定に4回登場するこの言葉は、英語で「シームレス」という米軍用語だ。これは、軍の決定を政治が邪魔をしない、そして政治部門の決定を軍が円滑に実施する、この間を「切れ目なく」行えるようにすることを意味する。

 つまり、米軍が自衛隊を「下請け部隊」として作戦で運用する際に、閣議決定や国会というハードルを取り除くために、今の安倍政権は動いているという指摘だ。事実、6月に成立した防衛省設置法改正案で、制服組(自衛官)の権限が強化され、日米ガイドラインに盛り込まれた「調整プログラム」により、自衛隊と米軍が集団的自衛権の行使を判断した際には、それが切れ目なく内閣の決定に反映されるようになった。

 安倍総理の野心と、米軍の戦略上の必要性から、安倍政権は「政府解釈」によって、憲法9条の首を落とそうとしている。

 水島教授は、安倍政権がその達成のために「根拠」として持ち出した「砂川判決」や「昭和47年見解」の嘘と矛盾を詳細に指摘。さらに、政府案の対案として維新の党が提出した「独自案」についても、数々の根拠を提示しながら、「集団的自衛権の行使を認めるものであり、違憲だ」と断じた。

 安倍政権は7月15日に衆院特別委員会で、16日には衆院本会議での強行採決を目指している。

※7月16日には、維新案を「合憲」と太鼓判を押す小林節氏も緊急インタビュー予定!【配信Chはこちらから!】

■ハイライト

  • 水島朝穂氏(早稲田大学法学学術院教授、憲法学)
  • 日時 2015年7月12日(日)11:00〜
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

「トモダチ作戦」は日米ガイドラインの「試用」だった

※以下、@IWJ_ch1 によるインタビューの実況ツイートをリライト・加筆して掲載します。

岩上安身「維新案に対して最も早く批判の論評を出された水島教授。他方で憲法学者の小林節氏は合憲のお墨付きを与えました。維新案をめぐる早慶戦の様相を呈しています。その話をおうかがいする前に、そもそも政府案の問題、根本となる『7.1閣議決定』の問題についてお聞きします」

水島朝穂氏「今回の問題を社会現象として見た時、世界史の転換点でこういう事が起きる。かつての安保闘争がそうでした。

 あの時も強行採決だった。何十万人もの人々が国会を取り囲み、その外側では『戦争に巻き込まれる』などと学者や知識人、俳優までもが声を上げていた。安倍総理の祖父・岸信介は『国会の回りは騒ぎになっているが、甲子園では野球を見ている人がいる』と言ったが、まったく違っていました」

岩上「そもそもこの閣議決定(集団的自衛権の行使容認)は『第3次アーミテージレポート』で要請されていたことですね」

水島「私はかつて毎日新聞が外務省官僚の声として、『トモダチ作戦』は米軍の上陸演習だ、と伝えたことを紹介したら非難囂々でした。

 しかしこの作戦は、イラク派遣を率いた番匠幸一郎陸将が東日本大震災が起きるや横田基地に常駐し、自衛隊と米軍の調整にあたったものでした。当時私はこれを、「日米防衛協力の指針」(ガイドライン) に基づく日米調整メカニズムの、災害における全面的な『試用』である、と指摘しました( http://www.asaho.com/jpn/bkno/2011/0509.html …)が、その直感は間違っていなかったと思います」

岩上「政府の自衛権行使の『新三要件』は『日本と密接な関係にある他国が武力攻撃され』た場合とあります」

水島氏「要は仲の良い国、つまり同盟国のため。ヤクザの『出入り』と同じです。この国は仲が良いから助けるが、この国は仲が良くないから助けない、という主観が入る。国際法上のバランスが失われます。

 国連憲章51条、米国とイギリスが修正案で『自衛権(セルフ・ディフェンス)』に『集団的(コレクティブ)』という言葉を入れて曖昧にした。しかし国連安保理が動いたら止めなければならないとなっています。それは個別的自衛権の濫用を防ぐため。この51条をみな拡大解釈しています」

自衛権の拡大解釈で、悲劇的な戦争に突き進んだ日本

水島氏「自衛権とは『わが国が武力攻撃された時』のみ発動できる。これは外形的事実。領空、領海、領地に侵入されるわけですから、誰が見ても客観的に武力攻撃だと認めることができる。

 しかし政府案の『存立危機事態』は非常に抽象的。同様にかつて山本五十六がパリ不戦条約で認められた自衛権について、『在留邦人の保護』を入れ、戦争ではなく事変としました。

 山本五十六は海軍大臣官房編『軍艦外務令解説』で『自衛権ヲ行使シ得ル条件』は、『(1)国家又ハ其ノ国民ニ対シ、急迫セル危害アルコト。』と記し、上海事変と満州事変がその例だとしています。従来の政府解釈による三要件(①我が国に対する急迫不正の侵害があること)と似ています(※)。

(※)政府案はこれをさらに、『密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある(存立危機事態)』という非常に曖昧な表現にしている。

 太平洋戦争の時も『帝国の存立危機だ』『帝国の自存自衛の戦い』としました。自衛権というのは『自国が攻められた時』という原則を崩した時に、こちらから出かけて行くハードルを下げた時に、悲劇的な結果となる。歴史から学ぶべきです」

米軍と自衛隊による決定を「切れ目なく(シームレス)」政治に反映させよ!

水島氏「『戦争法案』という言葉は『いわゆる』という枕詞を付けて言うべきです。なぜなら彼らは戦争をやろうとは思っていないから。パリ不戦条約で戦争は違法ですから。でも自衛権を出来る限り緩和させようという議論は出てきています。

 『切れ目のない』という言葉が安保法制懇の報告書に8回、閣議決定で4回出てきます。これは英語で『シームレス』という米軍用語。軍の決定を政治が邪魔をしない、そして政治部門の決定を軍が円滑に実施する、この間を『切れ目なく』行えるようにする、という意味です。その際に、閣議決定や議会のハードルがすべて邪魔なのです。

 今年6月に成立した防衛省設置法改正案では、制服組(自衛官)の判断が切れ目なく(障害なく)決定に反映されるようになりました。

 戦前は力を持った軍部が議員に『だまれ!』と乱暴な恫喝を行っていました。これまでの自民党だったら専門的に研究している憲法学者が『違憲』と言ったら『重く受け止めます』と言って守らない(笑)というのが通常でした。

 しかし安倍総理や高村総裁は『重く受け止めます』とも言わず『憲法学者ではなく最高裁が判断』などと発言しています」

岩上「山本五十六は昔の人で、当時の日本は好き勝手できたんだというイメージがあるが、当時も自衛権行使のためには要件に縛られ、理屈をこね、国際社会の目を気にする必要があったんですね。だから違法である『戦争』を『事変』と言い換えた」

水島氏「当時は『事変』で今は『事態』です」

砂川判決は決して「自衛隊が外に出ていく集団的自衛権が合憲」とは言っていない!

岩上「自民党が根拠としてすがる砂川判決についてご見解をお聞かせください」

水島氏「当時の米軍基地は結構いい加減な作りで、抗議をしていたらフェンスがぺたっと倒れた。『やったぞ』とばかりに数メートル敷地内に入ってわーっとやって戻った、というだけの事件です。それで懲役1年は重いと地裁は無罪にし、そのために基地は違憲とひねり出した。

 高裁でしっかり調べれば罰金数千円くらいで済んだだろう。しかしマッカーサーが大慌てで当時の外務大臣(岸内閣)や田中耕太郎最高裁長官・裁判長と会って最高裁に跳躍上告させた。『米軍駐留は違憲』という言葉をとにかく排除したかったのです。

 それで最高裁は、『自国の存立を全うするために必要な自衛の措置をとりうるのは当然。日本を守る駐留米軍は違憲ではない』、つまり個別的自衛権でカバーしきれない所を米軍が補う、というロジックで違憲ではない、としました。決して、自衛隊が外に出ていく集団的自衛権が合憲とは言っていないのです。

 高村正彦副総裁は『憲法に集団的自衛権行使は認められない、とは書かれていない』などと発言しました。これでは、日本国憲法に『徴兵制は認められない』とはっきり書いてないから徴兵制は可能、と言っているのと同じ理屈です」

「昭和47年見解」を集団的自衛権の根拠にすると自衛隊が違憲になってしまう!?

岩上「もう一つ、安倍政権が根拠とする『昭和47年見解』の欺瞞について見解をお聞かせください」

水島氏「この文章を見て、『集団的自衛権は合憲だ』という結論を出したら、中学生レベルの国語の問題でも『×』になりますね。

 そもそもこれは『自衛隊が合憲である』、という論を補強するために使われてきた極めて完成度の高い文章です。それは『自衛隊は集団的自衛権を行使しないから合憲なんだ』という理屈として、耐久性が高かったものです。自衛隊を合憲とするために、『もちろん集団的自衛権は違憲だ』と結論付ける必要があったのです。

 だから長谷部恭男氏などは『自衛隊の合憲解釈の法的安定性を欠く』と言っている。この意味は、今回の法案で自衛隊を『他衛隊』にしてしまうことで、この『昭和47年見解』で補強された合憲解釈が無効になってしまう、自衛隊が違憲になってしまう、ということなのです」

麻生太郎氏の「ナチスの手口」発言は「クーデターができる」と言っているようなもの

水島氏「麻生太郎氏の『ナチスの手口を学んだらどうか』発言。冤罪で全権受任法を通したナチス。麻生氏は手法ではなく手口と発言しました。つまり悪いことだと認識しているのです。例えば争乱、新幹線爆破など非常事態が起こった時に、軍隊はクーデターができると言っているというようなものです」

「7.1閣議決定」は憲法9条の首を落とす「憲法介錯」だ!

岩上「そして今日の本題である『7.1閣議決定』は『憲法介錯だ』という問題。憲法学者・木村草太氏などは【限定して集団的自衛権を認めたもので、個別的自衛権で対処できるものを、あえて集団的自衛権と呼んでいるだけだからさほど心配しなくても良い】と主張しています。

 さらに木村氏は、【在日米軍基地への攻撃に対する自衛隊の反撃について。米軍への攻撃だから集団的自衛権行使とも説明できる】【閣議決定は、日本の防衛以外に軍事活動はしないという憲法の枠組みを超えてはいない】などとも主張。水島先生は『これは誤りだ』、と断じていますね」

水島氏「国連憲章は自国の憲法に従うべしとしている。日本は国連憲章に加盟しているが集団的自衛権は憲法で認めていない。他国防衛のために自衛隊を使えないという歯止めを、わが国の政府はずっととってきました。つまり個別的と集団的は重ならない。二者択一なのです。

 わが国が自衛権行使を合憲としているのは『自国への武力攻撃』があった時。閣議決定は『他国への武力攻撃』を認めている。この2つは重ならない。これまで『重なるのか?』という質問主意書に政府は、『個別的自衛権と集団的自衛権は自国への武力攻撃に対処するものであるかどうかという点において、明確に区別される』と回答、重ならないという姿勢を貫いてきたのです」

維新の対案提出は安倍政権にとって「出来すぎたタイミング」

岩上「7月8日、維新の党は平和安全整備法案・国際平和協力支援法案の2法案を国会に提出。その後、政府案から抜け落ちている尖閣諸島など離島防衛のための領域警備法案を維新・民主共同で提出。これを多くの人がどう考えたら良いのかと右往左往しています」

水島氏「領域警備法案の共同提出について。長谷部氏など憲法学者3人が『違憲』と断じた時に潮目が変わった。与党は圧倒的不利になりました。この時、やっぱり橋下徹氏が登場し、安倍総理と会談。落とし所を模索したのでしょう。いくら与党が多数でも、野党が中央公聴会に応じないと採決できないですから。

 6月22日に安倍総理は戦後最長の会期延長を打ち出し、採決への意欲を示した。その段階での対案提起というのは、まさに『出来すぎのタイミング』。対案というのは審議をしましょう、という話です。これまでは廃案にすべしという議論だったのですから。これは橋下さんのタイミングでしょう」

民主・維新の「領域警備法案」共同提出は喜劇

岩上「領域警備法案の中身について。そもそも国際法上『領海侵犯』という概念は存在しないと水島先生は指摘されていますね。これは驚きです」

水島氏「そもそも領域警備法案というのは、海保にとってはけしからん介入であり、これまではどちらかと言えば極右的な勢力が提出していた。民主党は反省すべきです。

 国際法上、領海には沿岸国の主権が及ぶが、他方、船舶には公海自由の原則があり、すべての国の船舶は他国の領海内であっても無害通航が認められています。日本の公船も他国の領海を航行しているんです。外国公船に軍艦が出て行ったら戦争になる。だから海上保安庁で対応可能です」

日本の挑発が中国軍部の養分に

水島氏「戦犯石原都知事のヘリテージ財団での尖閣購入発言。棚上げにしていたものに、日本がちょっかいを出した。つまり海上自衛隊が海上保安庁を乗り越えたいという特殊な思想の人たちの主張なのです。それを民主党が出し、安倍総理に蹴られるというのですから、悲劇であり、喜劇です。

 さらにこれは中国にとっても良い話なんです。中国で声が大きいのは陸軍。そんななか、中国海軍が一番喜んだのが尖閣問題。焦った空軍が言い出したのが防衛識別圏。どんどん予算が通るようになりました。南沙諸島でも日本が進出するから、と国内で煽っている。日本が挑発する度に養分になるのです」

集団的自衛権を認めている維新案は「違憲」!?

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  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    水島朝穂・早大教授が岩上安身のインタビューで政府案・維新案を「違憲」と徹底批判! http://iwj.co.jp/wj/open/archives/252583 … @iwakamiyasumi
    「私は今、命を賭けて発言している」この言葉通り、日本人の「命」について懸命に語る水島氏。今こそ聴かなくてはならない。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/620707054550953984

  2. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    水島朝穂・早大教授「太平洋戦争の時も『帝国の存立危機だ』『帝国の自存自衛の戦い』としました。自衛権というのは『自国が攻められた時』という原則を崩した時に、こちらから出かけて行くハードルを下げた時に、悲劇的な結果となる。歴史から学ぶべきです」
    https://iwj.co.jp/wj/open/archives/252583 … @iwakamiyasumi
    https://twitter.com/55kurosuke/status/1062329751610699777

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