「集団的自衛権を行使できる体制をつくれば米国が日本を助けるとの考えは、あまりにも無邪気だ」〜上智大・中野晃一教授が指摘、「日米安保の裏読み」でSEALDsサロンが白熱 2015.7.18

記事公開日:2015.7.27取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田)

※7月27日テキストを追加しました!

 「もし、米国が日米安保体制での日本の片務性を指摘して、集団的自衛権の行使容認が必要だと迫っているのなら、『では、米国内にも自衛隊の基地を用意してくれ』という反論が、本当に対等な関係なら可能なはずだ」──。

 中野晃一氏は、このように指摘した。安全保障関連法案の廃案を強く求める学生組織、SEALDs(シールズ)は、2015年7月18日、東京・原宿のVACANTにて、「サロン」とネーミングした、一般の大学生も参加する勉強会を、上智大学教授の中野晃一氏をゲストに迎えて開催した。3回目のこの日、サロン第2部のテーマは「安保法制 a.k.a. 戦争法案」。初回がvol.0のため、vol.2が3回目となる。

 SEALDsといえば、国会前などで連日のように「安保法案反対」を叫ぶ20代のメンバーらの姿が印象的だが、彼・彼女らは「法案=違憲」で思考を止めてしまうことを是としていない。安保の問題を深掘りすることを通じて、日本社会に広がっている諸問題の源泉を突き詰めようとしているのだ。

 この日、若者らの疑問考えと向き合った中野氏は、「集団的自衛権行使の理由とされる『米国の地位の揺らぎ』は、実は1970年代から言われている」と指摘し、その時から今までの、日本の平和外交の歩みを振り返りつつ、日本が対米追随路線を歩むことになった経緯について、平易に説明していった。

 中野氏からは、「対米追随」が目的化した集団的自衛権行使は、安倍晋三首相がアピールする「抑止力の向上」には直結しないなど、安保をめぐる現政権の意識の低さを懸念する言及もあり、海上自衛隊が南シナ海にパトロールに出る想定については、こんな警告がなされた。

 「中国側には、自衛隊の船がふらふらとケンカを売りにきたようにも映る。『(日本が)どの程度の反撃をするのか、軽く試してみよう』という気が起こらないとも限らない」

 中野氏は、「安倍首相は、米国が描くビジョンについていけばいいと考えているのだろうが、集団的自衛権を行使できる体制をつくれば、米国が日本を必ず助けてくれるとの考え方は、あまりにも無邪気だ」と釘を刺した。

記事目次

■ハイライト

  • (第1部のワークショップ「現場(デモ)に足を運ぶということ」は録画に含まれません)
  • LIVE UCD
  • 安全保障法案に関する告知CM/学生安全保障プレゼン
  • 講演 中野晃一氏(上智大学教授、政治学)
  • トークセッション SEALDs×中野晃一氏「安保法制 a.k.a. 戦争法案」
  • 日時 2015年7月18日(土)19:00〜
  • 場所 VACANT(東京都渋谷区)
  • 主催 SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)

安保法制「米議会との先約」はおかしい

 中野氏の講義に先立ち、SEALDsの林田光弘氏(明治学院大学)がスピーチした。

 「僕らは安保法案を、立憲主義と民主主義に反している、という立場から否定している。ただ、その立場で反対して終わりでは、この法案の裏側に何があるかが見えてこない」

 林田氏は、7月13日の衆院平和安全法制特別委員会で、同志社大学学長の村田晃嗣氏が、この法案を違憲視している学者ばかりではないと主張した件で、「彼は『多くの安保の専門家は、今回の法案にかなり肯定的な回答をしている』と言っているが、今回の法案については、専門家でもおかしいと思うのではないか」と疑問を述べ、次のように訴えた。

 「日本という国のあり方を、大きく変える法律をつくることを、安倍首相が国内ではなく、米国の議会で先に宣言している点について、若者はもっと怒っていい。政府が勝手に『積極的平和主義』へと歩んでいくことを、僕らは認めていいのか。どういう国になるのかを選ぶのは国民であって、安倍首相ではない」

「日本の武装が進めば進むほど、世界は平和になる」!? 「積極的平和主義」に定義なし

 ゲストスピーカーの中野氏は、若い世代の集まりに馴染むカジュアルな装いで登壇した。

 「今日は、安保法案の中身の細かな説明ではなく、どういう事情で、この法案が国会に提出されるまでになったのかを話そうと思う」

 中野氏はまず、「国際協調主義に基づく積極的平和主義」との表現を取り上げ、「これは、政府・与党が、外交安全保障の一連の転換を説明する際に使っている」とし、こう力説した。

 「『国際協調主義』は単なる枕ことばで、意味はない。一方の『積極的平和主義』も、『シームレス』や『切れ目がない』という言葉とセットで使われることが多いが、実は、これも定義がない」

 「積極的平和主義」については、唯一、目に留まったのは、安倍首相のブレーンで国際大学学長の北岡伸一氏が新聞に書いた、「積極的平和主義は消極的平和主義の逆である」の一文だった、と中野氏は語る。

 「『消極的平和主義とは、日本の非武装が進めば進むほど、世界は平和になる』ともあり、では、積極的平和主義とは、日本の武装が進めば進むほど、世界は平和になるという考え方なのかと、推察するほかなかった」

大平正芳政権の「国際協調主義」を高評価

 中野氏は、集団的自衛権の行使が可能になれば、自衛隊は米軍と一体化する以上、それでも日本が「平和主義」を標榜するには、米国が「平和主義」に徹していなければならない、との正論を口にした。「しかし、米国は(第二次世界大戦後も)戦争を重ねており、そういう国と軍事的に一体化したら『平和主義』など守れるわけがない。つまり、『積極的平和主義』は、国民に対するごまかしであり、政府・与党には、まるで誠意が感じられない」と怒りをにじませた。

 そして、集団的自衛権行使の理由に挙げられる、「米国の地位が相対的に低下しているため、日本は軍事面で米国を助けねばならない」という言説について、「これは、1970年代前半から言われ続けてきたこと」と指摘。その証拠に、1971年の2つのニクソンショック(べトナム戦争などによる財政悪化が背景の、ニクソン米大統領訪中発表とドルショック)は、当時、アメリカの国力低下の象徴のように解釈されていた、と紹介した。

 1970年代の日本は、高度経済成長を謳歌していた。だが、国外ではイラン革命や旧ソ連のアフガニスタンへの武力介入が起き、いずれも、米国の地位低下が背景とされた。それを受け、自国の安全のみを考えるのではなく、国際秩序の維持に向け、積極的参加を日本に求める声が日増しに高まっていったのである。

 これが反映された政策が、大平正芳政権時代の、経済協力や文化外交といった、非軍事面での平和外交を最大限に生かすことに力点を置いた、「総合安全保障戦略」である。中野氏は、「大平首相が掲げた『国際協調主義』が、真の『国際協調主義』。そのベースにあるのは、非軍事で脅威を減じようという発想だった。たとえ、政府間の関係が悪くても、民間交流を大事にすれば成果は上がる、と信じるもので、日米の2国間だけの関係ではなく、アジアを含む多国間での関係を重視するのもポイントだ」と解説した。

 その後、中曽根政権になっても、日本の国際協調主義に大きな変化はなかった、と中野氏は指摘する。

 「中曽根氏は改憲論者のタカ派だった。それでも全体では(護憲の)タガが嵌まっており、大平政権時代との違いは、日米関係を強める点ぐらいだった」

政権ブレーンとしての北岡伸一氏の存在

 そして、1980年代のバブル期。米ソ冷戦の終焉は、そのバブル期に起きた。米国と旧ソ連に疲弊の色が見えるようになったのが特徴で、旧ソ連は息も絶え絶えだったが、米国も、レーガン大統領時代に大きく積み上がった、貿易と財政の「双子の赤字」にあえいでいた。

 これを受けて米国は、日本を「タダ乗り」と叩くようになるのだが、中野氏は、「日米安保条約にタダ乗り(=片務性)の面はない」と言い切る。

 「安倍首相の祖父である岸信介は、総理大臣時代に、安保条約の片務性を解消しようとして努力した。まず、日本は国内で、米軍基地を提供している。沖縄県民の多大な犠牲の下に、日米安保は成り立っている。挙句の果てに、日本は米軍に思いやり予算もつけた。今の日米安保で、米国が日本の片務性を指摘し、それで集団的自衛権の行使容認が必要だと迫っているのなら、『それなら米国内にも、自衛隊の基地を用意してくれ』とか、『だったら、米軍は日本から出ていけ』という反論が、本当に対等な関係なら可能なはずだ」

 中野氏は、「そうならないのは、米国を相手に、まともな論争を行おうとする気概がまるでない人たちが、今なお、日本の政権を担っているから」と嘆きつつ、当時の小沢一郎氏について触れた。

 「自民党にいた小沢氏は最右派とされていて、『普通の国』を提唱したことで有名だ。『解釈改憲をすればいい』と最初に口にしたのは小沢氏だった。『能動的平和主義』という言葉も、彼が最初に使った。そのブレーンには、やはり北岡伸一氏がいた」

「国際協調」から「対米追随」へ──転換は橋本政権、確立は小泉政権

 ただし、小沢氏の言った『解釈改憲』は今のものとは微妙に違い、あくまでも、国連を中心にした平和維持活動への日本の積極的協力を意味していた。バブル期ならではの良好な財政状況のせいか、自衛隊とは別に「国連待機軍」を創設するプランすら持ち上がっていたという。

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