【IWJブログ】明らかとなった集団的自衛権行使容認論者の「腹の中」~安倍総理の最側近・北岡伸一氏の詭弁 2013.11.19

記事公開日:2013.11.19 テキスト動画
このエントリーをはてなブックマークに追加

 秘密保護法が制定されかねない直前だからこそ注目! 秘密保護法は、米国に盲従して戦争するための国内の体制づくりのための法律。だから本丸の集団的自衛権行使容認の議論とあわせて知らなくてはならない。

 11月12日(火)、外国特派員協会で、国際大学学長の北岡伸一氏と、元内閣官房副長官補の柳澤協二氏の記者会見が行われた。北岡氏は現在、安倍総理の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)で副座長を務め、集団的自衛権の行使容認に向けた報告書作成の取りまとめを行っている。他方、内閣官房副長官補としてイラク戦争への自衛隊派遣を統括した経験を持つ柳澤氏は、各地での講演などで集団的自衛権行使容認に疑問を投げかけている。

 この日の会見は、集団的自衛権行使の推進派と慎重派による会見である。期せずして、集団的自衛権行使容認派の論理、腹の中をよく知ることができる。

■動画全編はこちらからご覧いただけます

 なお、ひたすら盲従していこうとする米国隷属の本山はどこか? ずばり「外務省である!」と指摘したのは、内閣法制局元長官の阪田雅裕氏。北岡氏を含む安保法制懇を一刀両断に批判! その重要証言を含めたインタビューの模様は、メルマガ「岩上安身のIWJ特報」で!

■動画全編はこちらからご覧いただけます

※以下、実況ツイートをリライトしたものを掲載します。

冒頭発言:北岡伸一氏

北岡伸一氏「日本がより積極的に平和維持のために拡大するということは、自然なトレンドだと思っています。安保法制懇の最初の会合で、安倍総理は『日本は国際的な枠組みの中で、より積極的に平和に貢献すべきだ』と述べました。

 集団的自衛権行使の真の課題についてお話します。まず、南スーダンにおける自衛隊の問題です。自衛隊は現在もルワンダ兵の隣に滞在しているのですが、もし日本の自衛隊が誰か抵抗分子に攻撃を受けたら、ルワンダ兵が助けてくれるわけです。

 しかし、もしルワンダ兵が攻撃を受けたら、我々(の自衛隊)は彼らを助けにいくことができません。これは非常に奇妙なことです。ルワンダは平和維持で国際社会に貢献しています。しかし、我々大国である日本は、彼らを助けられないのです。

 なぜか。それは、日本では集団的自衛権の行使が禁止されているからです。これが理由です。

 北朝鮮による韓国への攻撃があった場合、米軍は米韓安全保障条約にしたがってその地域に入ります。その場合、アメリカの戦艦が北朝鮮に攻撃される可能性があるわけですが、日本の自衛隊は彼らを救助しに行くことができないのです。

 第9条では、国際紛争を解決する手段として日本は武力を行使できないと規定しています。これは、国連憲章と同じもので、その本質は、国際紛争は武力ではなく平和的に解決すべきということです。

 しかし、この条項をよく見てみると、国際紛争というのは、日本と他国の間の紛争を意味しているのです。日本が関与する紛争ということです。これが自然に拡張できる再解釈です。このプロセスは、まず最初に、国際連盟協定の体系の中で始まりました。

 具体的には、1928年のケロッグ=ブリアン協定において、戦争を国際外交の道具や紛争の解決としては使ってはならないと定められました。ですから、第9条で規定された国際紛争というのは、日本と他国の紛争と解釈されるべきなのです。

 よって、南スーダンの紛争に適用すべきではありません。これは日本と他国の紛争ではないからです。国連の枠組みの中で解決すべき紛争です。ですから、これに第9条第1項を適用して、その結果武力を使えないとする理由がないのです」

 早くも北岡氏の詭弁が炸裂する。自分は喧嘩をしてはならない。しかし他人の喧嘩は買って構わない。自分の喧嘩ではないから武力行使もOK。いったい、どんな理屈なのだ!?

北岡氏「もう一つ申し上げておきたいことは、第9条第1項で禁止しているのは『武力の行使』ですが、たとえば、南スーダンの平和維持活動で必要とされているのは『武器の使用』です。国際法では、『武力の行使』と『武器の使用』は、まったく異なる概念です」

 恐るべき北岡節。詭弁のオンパレードである。「火器の使用」と、「火力の行使」は別物、と言っているようなもの。

北岡氏「憲法第9条2項では、陸海空軍その他の戦力を持たないと規定しています。しかし、50年以上前に内閣法制局は解釈を変更して、日本は最低限の自衛権を持つことができるとしています。なぜなら、それはどの国にも与えられた自然の権利だからです。

 最低限の軍事力を持つことは合憲だというのが、内閣法制局の解釈です。しかし、彼らはもう一つ付け加えています。それは、最低限の軍事力には個別的自衛権を含むが、集団的自衛権を含まないというものです。

 集団的自衛権というのは、中小規模国が協力し合って自国を守るというコンセプト。小国は個別的自衛権だけでは自国を守れません。ですから、信頼できる国と協力して、他の大国からの攻撃を防ぎ、自国の独立と安全保障を維持することができます。

 信頼できるパートナーと手を組めば、他国からの挑発や攻撃を防ぐことができるのです。これは『抑止力』です。内閣法制局による解釈は、この抑止力という概念を配慮していません。他国と協力することで、紛争の可能性を下げることができるのです」

 北岡氏はコラテラル・ダメージ(巻き添え被害)という概念を理解していない。米国の行う戦争につき従って戦場の兵士は命を落とし、国力を疲弊させる。時として一般市民が怨みを買った相手国から、報復を受けるかもしれない。そうした巻き添え被害には、何の配慮もない。

北岡氏「集団的自衛権は個別的自衛権よりも危険だという概念は間違っていると私は思います。集団的自衛権の欠如によって、日本と米国は隣国での状況に対してすら一つのチームになれません。隣国での緊張の高まりに準備するためにももっと手を組む必要がある」

 朝鮮戦争やベトナム戦争や対テロ戦争の際、米国と一つのチームになっていたら、日本は手痛いダメージを被っていたのではないか。

冒頭発言:柳澤協二氏

 引き続き、柳澤協二氏がスピーチ。

柳澤氏「私の最大の疑問は、安倍政権の安全保障戦略が何を目指しているのか分からないということです。色々なメディアの方からも同じ質問を受けてますが、『私も分からない』と答えています。

 歴史的に振り返ってみると、日米安保体制は、当然ながら、戦後日本の安全保障の基礎であったし、今日もそうであると思います。しかしそれは根本的に2つの矛盾を抱えたものでした。

 1つは、平和主義を掲げた憲法との矛盾です。2つ目は、安全保障についてアメリカに依存しているということが、日本の自立を妨げているのではないかという、ナショナリスティックな観点からの批判です。

 私の現時点での結論を申し上げれば、安倍総理は憲法の平和主義の条項の解釈を修正することによって、この2つの矛盾を同時に解決しようとしているのではないか、ということです。

 今までの自民党政権は、憲法を守りながらアメリカの軍事的要求に応えていく。それによって憲法との矛盾を回避し、アメリカにとって有益な同盟国であり続けることによって、第2の大国としての自尊心を満足させ、この矛盾を回避してきました。

 冷戦期には、日本はソ連軍との最前線にいたわけですから、日本自身を守るということと、ソ連海軍が太平洋に進出する経路を塞ぐということで、アメリカの太平洋戦略に貢献してきたと思います。

 冷戦が終わると、日本の防衛だけでなく、世界的な秩序の維持に協力するという目的がでてきました。そこで自民党政権は、アメリカの軍事行動と一体化しないということを条件として、そういう協力が憲法に違反しないという論理を作り出したわけです。

 自衛隊のイラク派遣は、戦闘任務ではありませんでしたが、『ブーツオンザグラウンド』を実現したものとしてアメリカからは高く評価されました。その中でブッシュ政権は、日本に対してもっと大きな貢献を求めていました。それが、集団的自衛権の行使です。

 2008年に大統領が代わると、アメリカの対テロ戦争からの撤退が始まります。アメリカのアジア回帰という基本戦略の目的は、中国との経済関係の強化による米国経済の復興、それから中国の覇権がアジアで成立することを防ぐための軍事的均衡の維持です」

 日本に独自戦略があるとは思えない。あるのはひたすらの米国追随だけである。そしてすがりつく先の米国が大きな矛盾を抱えており、その矛盾が日本に反映されている。

 11月18日にインタビューしたトーマス・カトウ氏。中国から米国への輸出の68%は多国籍企業の対日投資による製品。欧米のグローバル資本にとって、投資先である中国は「世界の工場として、輸出先である世界の消費市場として不可欠である。

 日本が過剰に中国を敵対視することで、日本は投資先としても輸出先としても中国という世界一の市場を失うだろう。現に、尖閣問題が悪化し、反日デモが吹き荒れてから、日本車の売れ行きは半減し、その分、欧米車が売れ行きを伸ばした。

柳澤氏「したがってアメリカは、中国を敵であると定義することはできません。同時に、現在はアメリカ優位である軍事的均衡が中国に侵食されないよう、日本と周辺諸国との対立が軍事的衝突に発展することを深く懸念しています」

 ブレーキをかける一方で日本に対中ナショナリズムをけしかけてきたのは米国でもある。

柳澤氏「従って安倍総理の中国に対する強硬な姿勢は、アメリカの懸念を呼び起こすものです。その安倍総理が、中国の軍事力増大を最大の理由として集団的自衛権の行使容認をするというのは、アメリカの対中戦略と一致するものではないでしょう。

 集団的自衛権行使の目的には3つあると思います。1つは、アメリカの軍事的プレゼンスの補完。2つ目は、オーストラリアやインドとともにNATO型の中間防衛体制を作ること。3つ目は日本主導の対中国包囲網を作ること。しかしいずれも現実味がない。

 尖閣で中国と対立することを理由にあげる方もいますが、尖閣の防衛とは日本防衛の問題なので、集団的自衛権とは関係ありません。アジア諸国が日本に対して求めているのは、海洋管理の能力の向上や海洋情報の提供だと思います。

 いずれにしろ、今議論されている集団的自衛権行使容認の問題には、アメリカの具体的なニーズがまったく反映されていないのではないかと思います。

 同時に安倍政権の特徴は歴史認識の見直しに熱心なことです。アメリカからの自立というモチベーションが非常に強く含まれているのではないか、それがアメリカとの認識のギャップを将来大きくするのではないか。それが私の最大の懸念です」

 歴史認識の書き換えによる戦前・戦中の日本の侵略・植民地主義の美化は、日米の離反だけでなく、当然のことながら、アジアにおける日本の孤立をも招く。中国包囲網どころか、一転して日本包囲網が生まれる可能性がある。

質疑応答

 続けて、質疑応答。

ブルームバーグ記者「北岡教授に。集団的自衛権に関して、メディアの世論調査によると、現時点において国民は反対しているように見えます。国民の意識を変えるには何が必要ですか」

北岡氏「現時点では国民の間であまり人気がありません。世論に従うことが政治家の責任なのではありません。消費税引き上げもそうです。消費税増税への(国民の)支持は低いものでしたが、徐々に上がって来ました。

 もし国民に『集団的自衛権の行使を支持するかどうか』と尋ねれば、支持する人は高くはないでしょうが、もし『隣国の軍隊を助けられるよう平和維持活動を拡大すべきか、あるいは米国とより協力をするべきかどうか』と尋ねれば、支持は非常に高くなります」

インドネシア人ジャーナリスト「私個人は、日本が自国や他国の防衛をするために、第9条の改憲に賛成なのですが、なぜ日本人が9条を変更したくないのか、その背後にある考えを理解できないのですが」

北岡氏「柳澤氏は、なぜ安倍総理が第9条の解釈を変更したがっているのか理解できないとおっしゃいましたが、とても簡単な理由です。我々の安全保障の環境が非常に悪化しているからです。

 10年前には(北朝鮮の)ミサイル実験や核実験が成功することはありませんでした。しかし今では、フィリピン近海にミサイルを撃ち込むことに成功しています。中国の軍事費は4倍になりましたが、日本の軍事費はほとんど変わらないか若干減少しています。

 安倍総理の考えは極めてシンプルです。核やミサイルの脅威、中国の増大する(軍事)活動に対して、我が国をより安全にするためです。米軍が(フィリピンの)スービック(湾)から撤退したら、中国はスプラトリー(南紗)諸島に入ってきました。

 柳澤氏には、何か代替案はあるのかとお聞きしたい。長期的には中国がますます強大になっていくことを我々は十分理解しています。我々から挑発するという意図はまったくありません。我々は防衛能力を強化しようとしているのです。非常にシンプルです。

 なぜ我々は軍事予算を、過去10年、30年と同じ水準にしなければならないのでしょう。彼らが拡大しているのにです。これ以上長い間同じ水準にしたら、彼らは軍事予算を減らすでしょうか。軍事拡張を止めるでしょうか。そうは思いません。

 私はもともと歴史学者で、大日本帝国軍の専門家です。帝国軍は、中国やロシアに弱点を見出して、そこに拡張していきました。これが、軍事的メンタリティーの典型例です。世界のいたるところで、歴史のいたるところで、そのようなことが起こるのです。

 誤解していただきたくないのですが、米国が中国と紛争を起こしたくないように、我々も紛争など起こしたくありません。むしろ、いかなる紛争も平和的に解決するという、国際法上の重要なドクトリン、重要な原則を維持しようとしているのです。

 武力による現状維持に対抗するという課題を無視することはできません。南シナ海の状況に無関心でいるわけにはいかないのです。中国を威嚇するためではなく、自国を守るために協力し、海洋安全保障へのコミットメントを強化するためなのです」

柳澤氏「どうして日本を守らないのかということですが、私は、日本は十分守れると思っています。それは、基本的にはアメリカ軍ではなく自衛隊の役割だと思っています。

 冷戦時代の日本の防衛力というのは、極東ソ連軍の奇襲的な攻撃に対して、アメリカ軍の支援なしに一ヶ月間日本を守るというコンセプトでできあがっていました。ですから、その力があれば、尖閣という島を守ることは十分可能であると私は思います。

 アジア地域にどれだけ軍事的な支援ができるかといえば、私は疑問です。海上自衛隊の戦闘艦艇は50隻しかいません。そのうち運用可能なのは2分の1。さらに3分の1はソマリア沖で海賊対策。だから日本周辺の海域を常時守ることができるのは10隻くらい」

 日本を守るのは、米国ではなく第一義的に自衛隊である、という柳澤氏の認識は正しい。実際、2005年の「日米同盟~未来のための変革と再編」という2+2の文書には「島嶼部に侵攻された場合、守るのは第一義的に自衛隊である」と記されている。

 この点は外務大臣時代の岡田氏、前原氏に私が質問し、はっきりと「第一義的に自衛隊が出動し、守る」と回答を得ている。

 北岡氏の言う通り中国の軍事力の拡大が真に脅威であるなら、米国の求めに応じてソマリアなぞに艦船を持っていってる場合だろうか。集団的自衛権にうつつを抜かしている場合だろうか。集団的自衛権などに頼らず、個別的自衛権で自国を守ることに専念すべきである。

柳澤氏「それをさらにアジア諸国との防衛協力にまで広げるとすれば、おそらく船の数をさらに倍くらいに増やさなければなりません。しかし日本にそのような財政的余力はないという意味で、そのような目標は非現実的だろうと思います」

北岡氏「彼の言うことは理解できないのです。冷戦時代には、日本がソ連の侵攻から北海道を守ることができたのは、わずか一ヶ月間でした。その後は米国のサポートを期待していたわけです。そのためには、非常に強い米国の日本に対するコミットメントが必要です。

 ロシアに対して北海道を守るための自衛力を、どうやって尖閣を守るために使えるというのか。尖閣は海にあり、北海道は陸地です。まったく異なる能力が必要です。なぜ我々は東南アジアに船を提供する力がないと彼は言うのでしょう。

 米国との関係を深めることは、必ずしも船を提供するということではありません。情報の共有を含め、手を組んで助け合うということ。おかしなことがあれば声を上げ国際会議の場で討議する。古くなった海上保安庁の軍艦を他国に提供することもあるでしょう。

 最後の疑問は、今でも自衛隊だけで日本を守れるとおっしゃった点です。10年後には、中国の軍事予算は今日の4倍になっているかもしれません。それでも日本は自国の防衛能力を増やさず、米国との提携を強化せずに、十分に自国を守れるのでしょうか」

柳澤氏「北岡先生のおっしゃることは大変良く理解できますけれども、そういうことであれば集団的自衛権という論理がなくても十分可能だと思います。

 中国のライジング(台頭)に対抗していっても、10年は持つかもしれない。しかし30年持つんだろうか、50年持つんだろうか、ということを考えると、もっと持続可能なオルタナティブ(代替案)を考えるべきというのが私の意見です」

イタリア人記者「北岡先生に。イタリアの視点からですが、イタリアの憲法第11条には、基本的に日本の憲法9条と同じことが書かれています。しかし、イラクやセルビア、リビアを自国の戦闘機で爆撃し、イタリア軍は今なおアフガニスタンに駐留しています。

 我々は後になって、作戦の大半が役に立たず非生産的で、時には国益にすら反していたと気付きました。日本における制約が、ひどい結果となりうる外国軍のオペレーションに強く関与することを避けるという意味で、国益に供するとは思いませんか」

北岡氏「明らかにしておきたいのは、私は集団的自衛権の行使を支持しているわけではありません。集団的自衛権行使を可能にすることを支持しているのです。緊急時に内閣総理大臣が集団的自衛権行使を決定できるということ。これがなくては何もできないからです」

 え。では、権利は保有するが行使せずの現状と変わらないではないか。北岡氏の詭弁には、本当に絶句させられる。

北岡氏「私は日本の憲法はイタリアの憲法と同じだとは思いません。イタリアには憲法9条第2項(陸海空軍その他の戦力の不保持)の規定がありません。ですから、(イタリア軍は)そういうことをしたのです。

 我々のケースはいかなる場合でも集団的自衛権の行使を許されていないということ。だからそれを可能にすることでトップが慎重に考慮することができるようになります。集団的自衛権を行使できれば、国益にも供するでしょう。慎重さが極めて重要なのは当然。

 共産党の国会議員とテレビ番組で議論したとき、彼は私に『米国は常に戦をしようとしている。常に日本に圧力をかけてきて、内閣総理大臣はいつもイエスと言っている』と言いましたがそれは冷戦時代の日本の外交の典型的なステレオタイプな理解というもの。

 外交の歴史を見ますと、日本がいかに米国の要求に抵抗してきたかわかります。もし安倍さんやその他の首相が米国からの不当な要求に不用意に従えば、彼は間違いなく力を失うでしょう。選挙で選ばれなくなるのは明らかです」

 おお、どこかで聞いたような詭弁である。日本の外交は、米国に精いっぱい抵抗し、米国の言いなりにならないできた歴史である、という。孫崎享氏が『戦後史の正体』で喝破した日本政府の戦後史をひっくり返して「抵抗史」であったかのように言いつのる詭弁。柳澤氏が言う通り、経済面では抵抗が試みられたが(通貨摩擦の際の通産官僚など)、しかし軍事上は、抵抗などまったく試みられてこなかった、というのが真実。

北岡氏「総理大臣として最も大事なのは、政権を維持することです。いくぶん皮肉に聞こえるかもしれませんが、現実として彼らは何が何でも政権を維持しようとします。ですから、彼らは危険な状況に入っていくことはないでしょう」

ドイツ人フリーランス記者「北岡さん、明確にしたいのですが、もし中国からフィリピンに対して軍事的脅威があるとしたら、どうなるのですか。日本は武力を使ってフィリピンを中国から守るのですか。

 安倍総理が戦闘機に乗っている写真があります。その写真は、安倍氏が軍隊に誇りをもっていることを示しています。自国の威信を高める道具として軍隊を考えるというのは正しい姿勢だとお考えでしょうか」

北岡氏「安倍総理が歴史修正の問題にどの程度強くコミットしているのか、私には分かりません。ただ、政権を握って以降はその方向に行くのは控えています」

 質問の答えになっていないのだが。

北岡氏「第一に経済政策を積極的にやること、第二に現実的な安全保障政策をやっていくことで、韓国のリーダーによる常軌を逸した言動にもかかわらず、彼が野党時代に見せていた立場を取ることは自制しています。リーダーの政策は言葉ではなく行動で判断すべき。

 ですから私は、安倍総理が国を右傾化させようとしているとは思っていません。もしそうであれば、私は断固反対します。私は個人的には、トップリーダーが靖国を参拝することに反対です。

 隣国からの反応、特に韓国は非常に奇妙だと思います。昨年GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の締結を取り消すということがありました。当時はまだ首相ではなかったパク・クネ氏の反対によって、キャンセルされてしまいました。

 中国の侵攻に対して日本はフィリピンを助けようとすべきかどうか。状況によりますが、もし中国が全力でフィリピンを攻撃するようなことがあれば、その場合は我々が効果的にフィリピンを助けることはできませんので、そういうことはしないでしょう」

 なんなんだ、さんざんはぐらかしておいて。フィリピンは助けないのか。しかもそれを北岡氏がなぜ判断するのか。

北岡氏「もし漸進的アプローチを取るなら、議論に始まり、外交交渉、国際司法裁判所や国際海洋法裁判所の活動、その他たくさんのやり方があります。フィリピンは賢いことに、この係争を国連海洋法裁判所の仲裁に持ち込みました。それが一つのやり方です。

 私が言いたいのは、日本は軍事力だけで自国を守ろうとしてはいないということです。それは不可能です。むしろ、より多くのソフトパワーに頼ろうとしているのです。その核となるのは、国際法です。

 強調すべきは、集団的自衛権行使の否定によって、軍事について自衛隊のリーダーは米軍のリーダーと緊密な協議ができないことがあるということです。なぜなら、それが集団的自衛権行使につながりうるからです」

 さすがに嘘も甚だしい、と言わざるを得ない。自衛隊は米軍とべったり。航空自衛隊の司令部は、厚木の米軍基地内に引っ越して「同棲」してしまい、陸上自衛隊の司令部も、座間の米軍基地内で「同棲中」である。

北岡氏「隣国における我々のゴールはシンプルです。米国と日本の軍隊を一つの有効なチームにすることです。しかし、それは中国への挑発とはまったく違います。中国との対立は避けようとしています」

 だから、それが軍事的属国化ではないか。中国の脅威を強調しつつ、別の場所で自衛隊を使う。例えばシリアで、例えばイランで。

北岡氏「ともかくこの問題を進める努力を止めることによって、中国が軍事予算を減らし、核兵器を放棄するのであれば、集団的自衛権の議論を止めても良いとは思いますが、そんなことはあり得ないでしょう」

 では集団的自衛権行使容認すれば、中国が軍事予算を減らし、核兵器を放棄するのか? そんなことこそ、ありえない。

柳澤氏「今の北岡先生のポイントで、政治的には日米の議論は制約されるかもしれませんが、軍事的には、私の経験したところ、日米のインター・オペラビリティー(軍同士の相互連携能力)はおそらく世界最高の関係にあると思います」

 日本人が大変心配していることの1つに、今までの自民党政権は、経済問題では米国に反対はしてきましたが、米国が行う武力行使について日本政府が反対したことは一度もありません。そこで米国の言いなりになるのではないかという国民の心配がある。

 もう一つ、安倍政権だから心配だという部分もあるのだと思います。確かに安倍さんは歴史問題などについては慎重な態度でありますけれども、しかし過去の戦争の侵略性についてはまだ承認していないという状況です」

 いやいや、歴史問題を口にするなと、さんざん米国から言われ渋々最近は発言を控えているだけで、腹の中は違うことは、誰もが知っている。

柳澤氏「政治リーダーが強い理念を持っていて、抑止力や軍事力を大きく信頼する状況というのは、たとえばブッシュ政権の時のアメリカ、イラク戦争のような経験を見てきているわけです。政治リーダーの理念の強さと武力への信奉の結びつきは非常に危険でしょう」

日本人フリーランス記者「日本や米国の著名な専門家の中には、集団的自衛に加わるために憲法を改正する必要はないという人もいます。そのような意見に同意しますか」

北岡氏「3月11日の東日本大震災のケースでは、当時の菅総理の近くには一人も軍服の人がいませんでした。そのため総理官邸では自衛隊との連絡が非常に難航しました。ですから、私は菅総理に近しかった元将校の方に、自衛隊と効果的に連絡を取るよう言いました。

 トップリーダーを支援する中に軍人が誰もいないというような国が、主要国の中で他にあるでしょうか。ないと思います。ですから、現在の非軍事的な場所から、効果的なレベルへと引き上げなければなりません。

 公式上の答えは『日本が憲法を改正すべきか、解釈を変更すべきかどうかは、日本国民と日本政府が決めること』です。それが公式的なラインです。適切なラインでしょう。

ウォールストリート・ジャーナル記者「北岡先生、自衛隊は今回のフィリピンでの災害に実際に派遣されるとお考えですか。フィリピンでも東日本大震災のように日米二国が互いに協力し合うべきだと思いますか」

北岡氏「私は自衛隊の派遣はあると確信していますが、具体的な証拠があるわけではありません」

柳澤氏「災害救助については、アメリカも含めて、日本も積極的に加わって東南アジア諸国との共同訓練も実施しています」

ビデオニュース記者(神保哲生氏)「もし日本が集団的自衛権を行使できるようになると、日本の防衛力はどのようにして強化されるのでしょうか。集団的自衛権を行使できれば、日本はより安全になるのでしょうか」

北岡氏「すでに申し上げたと思いますが、日米は、今はまだ一つのチームとして統合されていません。今なお二つの別のチームです。最近中国の外交官にランチに誘われたのですが、彼女は日本が軍事予算を増額したことを批判しました。1%弱の控えめな増額なのに」

 なぜ、主権国家の軍隊が、同盟国とはいえ、他国の軍隊と一つのチームにならなきゃいけないのか。軍を他国の主権の下に預ける気か。軍は他国に対して不信が前提。一次的な「同盟」はありえても、恒久的に一つのチームになること自体がおかしい。まるで詐欺師の口上。

北岡氏「彼女に『あなたの国は二ケタの増額を約30年も続けているのに、この程度の控えめな増額をどうして批判できるのか』と聞いたところ、彼女は『あなたは新しい進路に変更していますが、私たちはずっと同じ道を進んでいます』と言ったのです(笑)

 このような馬鹿げた議論に気をとめることはないのですが、軍事力を強化するにはたくさんの方法があります。一つは軍事予算を拡大することですが、財政的な制約があるためあまりできません」

 だったら、ソマリアから艦船を引き上げよ。米国の言いなりになっていないで。

北岡氏「我々の(軍事)組織をより効果的にするということがあります。今なお自衛隊の大部分は北海道に駐留しています。ロシアの侵攻に準備するためですが、今ではもう起こりえないことです。移転するのにも非常にスローなのです」

 なぜ、一民間人の大学教授が、まるで自分が自衛隊を率いているかのようにのたまうのか。北岡氏は大元帥か。米国がバックについていなくて、ここまで上からもの言うことができるわけと誰でも気がつく。

北岡氏「軍事の本質というのは一つは『予測不可能性』です。二つ目は『技術の急速な変化』です。10年前には北朝鮮がミサイルに搭載できる核兵器を開発できると思っていた人はほとんどいませんでした。それがまもなく現実のものになろうとしています。

 日露戦争を振り返ってみますと、そのわずか36年後のパールハーバと比べるならば、太平洋戦争で日本を破壊したような飛行機や、我々の海路を破壊したような潜水艦は、1905年にはまだ存在していませんでした。軍事においては、変化はとても急速です。

 ですから、私の狙いは、日本の防衛能力を、多くの意味で不自然で過度な制約から解放することです。緊急時における集団的自衛権も含めた能力を活用することができるようにするためにです」

 集団的自衛権こそ、不自然で過度な制約だろう。しかも「私の狙い」とは、いったい北岡氏は何様なのか。

北岡氏「集団的自衛権行使の解釈を変更したとしてもそれだけでは他国に参加することはできません。自衛隊法やPKO法を改正しなければなりません。そしてすべてを慎重に検討した後、内閣総理大臣が決定することになります。これは多くの段階の始まりの一つです」

 911以降の、米国の永続的な戦争体制を彷彿とさせる発言。終わりなき永続戦争の始まり。

北岡氏「インドネシアの方がアジアからの懸念というものがあるというお話をされましたがどのような懸念なのかを明確にしていただきたいと思います。どのようにして、日本が他の国を侵攻しようというのでしょうか。インドネシアの人々は懸念を感じるのでしょうか」

柳澤氏「日本の防衛が、軍事技術の進化とか環境の変化によって危険にさらされているということであるとすれば、日本有事に対する日本自身の防衛力をどうするかという問題であって、日本が集団的自衛権を行使しなければできないというものではありません」

司会者「北岡先生に。『武力の行使』は『武器の使用』とは異なるとお話されましたが、どういう意味なのか教えてください」

北岡氏「武力の行使とは、『武装攻撃』と同義です。武装攻撃とは、国家による他国への組織的かつ継続的な行動という意味です。大規模な攻撃です。他方、武器の使用とは、自国の防衛を含めた武器の使用です。この概念の違いは、国際的にも共有されています」

司会者「柳澤さんに。日本は最近になってようやく、核兵器は非人道的であるとする国連の決議を支持しました。これは、日本が米国による核の傘を採用していることと矛盾しないのでしょうか」

柳澤氏「日本が今まで核の廃絶に非常に消極的な姿勢を取っていたのは、やはり米国の核の傘を期待していたからだと思いますが、しかし、今の米中関係を考えた場合、お互いに核を撃ちあうような選択肢はもう誰もあるとは思っていない時代になったんだと思います。

 ですから今、日本があらためて取るべき立場は、核のポテンシャルを持つことを夢見て原発政策を考えていた人たちがいましたけれど、核の不拡散こそが日本の最大の利益であるという認識をしっかりと持っておく必要があると思います」

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

「【IWJブログ】明らかとなった集団的自衛権行使容認論者の「腹の中」~安倍総理の最側近・北岡伸一氏の詭弁」への3件のフィードバック

  1. 岩上休め より:

    北岡伸一はユニオニスト、柳澤協二はナショナリストと分類すると分かりやすいと思います。北アイルランドではありませんが、何だか似ています。

  2. モンパリ より:

    北岡さんは頭のよさは認める.ただ言葉の選び方が粗雑で,非常に好戦的な人のようである.柳澤氏の自衛隊対ソ1ヶ月戦略を批判しているが,頭のいい北岡さんにしては大失敗.ナチスドイツのパリ侵攻は約1か月,その後も例えばイラク戦争は首都攻撃まで一ヵ月.戦略を組み立て戦争する交戦期間を1か月を想定するのは自衛を習う初歩の初歩ではないか.

  3. 二反田 真人 より:

    日本が米国追従なのは、戦後から変わる事なく続いている。今更何を言っても変わる事は、なかろう。自国で防衛する気概のない国は、大国の属国として生きるしかないのだ。
     言ってみれば、唐が米に変わっただけの事である。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です