「日本は日米同盟を自己目的化している」イラク戦争時の自衛隊派遣責任者、自省を込めて語る~岩上安身による緊急インタビュー 第298回 ゲスト 元内閣官房副長官補・柳澤協二氏 2013.4.10

記事公開日:2013.4.10取材地: テキスト動画独自
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特集 中東集団的自衛権日米地位協定
※全文文字起こしを掲載しました(2013年10月21日)
※2021年5月4日 フル公開としました。

 日本政府は9日未明、市ヶ谷の防衛省敷地内に、地対空誘導パトリオット「PAC3」を配備した。北朝鮮のミサイル発射に備えた措置だと見られるが、現在のところ、韓国国防総省がミサイル発射の時期について「10日の可能性が高い」と発表するのみで、北朝鮮側は発射に向けた兆候を示していない。岩上安身のインタビューに対して柳澤協二氏は「北朝鮮に戦争をする気があるかどうかというと、必ずしもそうではない」と分析。北朝鮮側には戦争をするだけの物資面での余裕はなく、外交的な解決の道を探っているはずだ、と語った。また、自身が派遣から撤退にまで関わった自衛隊のイラク派遣について、「官僚機構が日米同盟だけを前提に政策を作ってきた」と述懐。「日米同盟のために日本があるのではなく、日本の安全のためにこそ日米同盟がある。現状では、日米同盟が自己目的化してしまっている」と語った。

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 元内閣官房副長官補、安全保障危機担当補でもある柳澤氏は、まず、北朝鮮の思惑、日米韓の対応などから話をした。「現状、北朝鮮のミサイルは、基本的にどこに飛んでくるか不明なので、防衛省内に配備することは、あり得る。今回の騒ぎも、北朝鮮が行なった2006年7月5日(スカッド、ノドン、テポドン2号の弾道ミサイル7発が日本海に向けて発射された)のパターンに似ている。スカッドで在韓米軍、ノドンで在日米軍をたたく。そして新しいミサイルでハワイ、グアムの米軍を狙う戦略だ。しかし、北朝鮮には、戦争をするだけの物資、武力的余裕はない。アメリカは、核武装を放棄しないと、首脳会談には応じない。一方、北朝鮮は、自国が核保有国であることを前提に、首脳会談を認めさせようという意図があり、そのための政治的な示威行為ではないか。しかし、アメリカは、その交渉には乗らずに、挑発を続けるはず。そうなると、金正恩の側に、次の打つ手があるのか疑問だ」などと意見を述べた。

 続けて、岩上が「現在、米韓合同軍事演習が行われていて、演習というよりは、武力による威嚇と言われている」と話すと、柳澤氏は「特に、新政権になった韓国は、強い姿勢を取らないと国内をまとめられないこともある。映像で見たが、北朝鮮の軍事力は、70年前のノルマンディー上陸作戦並みで、脅威にならない。また、テポドンがアメリカ本土に到達するといっても、アメリカが先制攻撃することは、背後のロシア、中国との関係もあり、考えられない。それに、アメリカは、イラク、アフガンで受けたダメージから、まだ立ち直っていない」と述べた。

 「だが、3.11で、原発の危険性が暴かれてしまった。(日本のウィークポイントが)北朝鮮にもわかってしまった」と岩上は続けた。柳澤氏は「もし、北朝鮮がミサイルを仕掛けるとしたら、相手の反撃力を考えて、三沢、横田基地をたたく。その際、米軍は一時的に退却するだろう。しかし、3.11の発災を通じて、原子炉は電源喪失でメルトダウンしてしまうことがわかった。それまでは、原子炉格納容器をめがけて、200発のノドンを集中しなければダメだと言われていたが、原発周辺に通常の弾頭を打ち込んで、電源喪失させればいい、とわかってしまった。だから、原発が54基も海岸線にある日本は、脆弱性が強くて戦争ができない。私は、戦争は政治を超えることはできない、と思っている。北朝鮮の目的が、今の体制の維持である限り、戦争に打って出るとは考えにくい。核武装抑止力を肯定する有識者もいるが、北朝鮮を見ていると、メンテナンスが行きとどいていない。やはり核は、廃絶されるべきだ」と持論を展開した。

 岩上が「PAC3とMD配備(ミサイル防衛システム)は、17方面をカバーするらしいが、原発がむきざらしになるところもある」と訊ねると、柳澤氏は「日本全土はもちろんカバーできない。それよりも、示威的で政治的なメッセージの方が重要だ。もちろん、最悪の事態をどう想定するかは難しい。アメリカは核武装をする国を増やしたくない。北朝鮮は、それを認めさせ、体制を維持したい。しかし、その緊張感が延々とは続かない。北朝鮮の核技術は進歩し、アメリカへの脅威は増すだろうが、国を維持し続けることもままならない」と話した。岩上は『統合エア・シー・バトル構想の背景と目的』(2011年11月 海幹校)という論文を示し、それに話題を移した。

 岩上は、アジア太平洋に外交の中心を移すようになったアメリカに呼応して、韓国、日本の空・海軍と米軍が一緒になって北朝鮮、中国と戦う統合エア・シー・バトルについて説明した。そして、その根拠になっている日米合同演習『ヤマサクラ』見積書を見せながら、日本全土を戦場にする作戦を立てていることを指摘した。柳澤氏は「ヤマサクラ演習には参加したことがあるが、そのつど、リスク・シナリオを立てて、シミュレーションで実施する図上演習だ。朝鮮半島のことを考えたり、住民の疎開のシナリオを考えたりした。各方面隊の幕僚の能力を高めようという目的で、あまり現実味があるものではない。そのシナリオの背景にあるのが、アメリカのエア・シーバトルということだ」と応じた。

 続けて、「昨年、5月、野田政権が米軍と自衛隊のRMC(ロールズ・ミッション・ケイパビリティ)組み直しの作業を行なった。その時の朝日新聞に、「アメリカ軍の事務方が、沖縄米軍はミサイル3発で全滅、と発言した」と書いてあった。これまでは、先制攻撃、局地戦ができることを抑止力と言っていた。軍が近くにいるということは、お互いにインセンティブを高めあう。それは、背後により大きな兵力、最後には、核という前提だったが、それではお互い全滅してしまうので、今では現実味がなくなっている。それで、仮想敵国のアウトレンジから、ミサイル、空軍、原潜などで攻撃するヒットエンドラン攻撃を考えはじめた。その際に、オスプレイに兵力を積んで中国に乗り込むということはあり得ない。まず、制空権と制海権を取ることが常識であり、陸軍が、のこのこと上陸することはない。沖縄も、そういう視点からみると近すぎると、米軍は考えている」と話した。

 また、柳澤氏は「集団的自衛権について、現在の議論は、政治的意図が説明されていない。小泉純一郎元首相は『アメリカしかない』と言った。ところで、ドイツは『大義がない』として、アフガニスタンには派兵したが、イラクには出していない。同じアメリカの同盟国でありながら、日本と違う対応をしている。エア・シー・バトルにしても、日米の軍事的、政治的シナリオにも、大きな違いがあるにもかかわらず、日米同盟だけを、前提としてしまっている」と述べた。

 「今の安倍政権の復古的な色彩は危うい。アメリカは、中国と日本の戦争を危惧している。日本と中国は、お互いのアイデンティティを認め合わないといけない。日米安保を破棄することは、最後の目標ではなく、スタートになる。長年、官僚機構が、日米同盟だけで政策体系を作ってきた。今も、シンクタンクなどでは多国間協調という話も出ている。しかし、政府から出てくるのは、日米同盟一辺倒の話ばかりだ。これから少しずつ、その硬直した考えを変えるような提言をしていきたいと思っている」と語った。【IWJテキストスタッフ・関根/奥松】

―― 以下、全文文字起こし ――

岩上安身「みなさん、おはようございます。ジャーナリストの岩上安身です。昨日、急な話ですが、市ヶ谷の防衛省と、それから習志野にPac3が配備されるというニュースが流れました。

 過去にも北朝鮮のミサイル、人工衛星の打ち上げなどで、何度か警戒しなければならないという発表が政府から出て、マスコミの報道が流れるということはありました。実際にPac3が配備されるということもありました。

 しかし、昨日の場合は、何が何だか分かりません。Pac3は配備する。しかし、どんなことが北朝鮮側にあったのか。こうした点についてまったく詳しい発表がありません。

 ですから、これは何かの実験なのか、それとも、3月11日から米軍と韓国軍が合同の演習を行ない、これに挑発された北朝鮮側はたいへん激烈な反応をしましており、そうしたことと何か関係があるのか。もしや、これは実戦に関わる配備なのか。あるいは、これまでがそうであったように、ある種の政治的なブラフ、脅しであるのか。わからないことだらけなのです。

 そこで、本日はまた急遽ではありますが、おなじみ、元官房副長官補。もうすっかりIWJでおなじみになりました。柳沢協二さんにお話を伺いたいと思います。柳沢さん、おはようございます。よろしくお願いします」

柳沢協二氏「おはようございます」

岩上「本当は、実はもう柳沢さんにこちらのご本。これは柳沢さんが最近書かれました『検証 官邸のイラク戦争』イラク戦争を、これはアメリカ手動の戦争ではありますが、日本も深くかかわり、アメリカ側を支持し、協力してきた戦争でもあります。

 このイラク戦争から10年経ちましたが、これを官邸内でトップに立って、政府を取り仕切ってきたと。そういう役割をお務めになっていらっしゃったわけです。官邸内の安全保障危機管理担当の官房副長官補、小泉政権から麻生政権まで4代仕えて、この重責を担っておられました。

 イラク戦争に関しては、責任立場のある方がしっかり本気で検証するということがこれまでなされていない。日本政府が行なった検証というのは、A4のペーパーでたった4枚ですよね。ひどく薄っぺらなものです。この大変な大きな政治的な決断というものに対して、何も検証することがないと。とても残念な政府を私たちは持っているなという気がしていたのですが、柳沢さんの非常にしっかりした検証の本を読んで、官僚ではあるが、色々な人としての苦悩というものも織り交ぜながらのご本。色々私も考えさせられることもありました。

 この本を軸に、実は緊急インタビューをしようと思っていたところに、昨日のあのような出来事がありました。ですので、これはいい機会だと思い、今日はこの2つの議題を行きつ戻りつしながらということになるかもしれませんが、お話を願いたいなと思っております。

 まず、冒頭申し上げました。北朝鮮になにかの兆候があり、なんの説明もなくPac3を移動する。これは、どういうことなのでしょうか?」

柳沢「その局面だけに絞って言えば、実は昨日、みんなの党の浅尾慶一郎さんからも電話を頂いて、『今日これから国会で質問に立つのだけど、どういうことなのだろうね』という同じご質問を頂きました。

 1つは、自衛隊法82条の3のミサイルの迎撃措置の発令というのは、それをあまり声高に言うことによって、かえって相手の反応をエスカレートさせないように、という配慮は1つある。しかしながら、もうその情報ソースによれば、もう撃てる構えになってきている。昨日の段階では燃料も注入されているという情報がありました」

岩上「これは、そうしますと、北朝鮮で起きたことの何に反応したかというと、一部報じられましたが、米韓の合同演習が起こって、そして合同演習によって、これまでも演習はあったとは思いますが、今回の演習はかなり北朝鮮に対しては、危機的、もしくは挑発的なものであって、それに引きずり出される。あるいは、挑発を受けて立った形で、北朝鮮側が、朝鮮戦争の休戦をやめると。だから、戦争状態に突入だという発言をした。

 これは政治的な発言、ブラフなのかもしれませんが、そのあと、なにかミサイルを日本海側に移動させたと。こういうことが一部流れました。これが事実であり、そのミサイルというものが在日米軍基地を狙うというようなこと。あるいは市ヶ谷にも配備したのですから、首都圏上空および防衛省を守るということなのかもしれませんが、こういうことなのでしょうか?」

柳沢「だから、基本的にどこに飛んでくるか分からないわけですね。そういうときに、どこに配備するかは、実は非常に悩ましいことで、やはり、もし万一被害が遭った時に、甚大なところという意味で、首都圏を守っておかなければいけないということと、それから相手がいろんなミサイル、射程の違うミサイルを複数撃ってくるということを前提にすれば、1つはグアムに飛んでく経路をたぶん引っ張ってみれば、どのへんでしょうね、おそらく西日本とか、西日本と首都圏の中間ぐらいを超える。ハワイに飛んでいくとすれば、東北地方を越えて行くという、その辺が常識的に考えられます。

 前回のケースで言えば、南西諸島、沖縄の方面です。そういうところを、どこに飛ぶか分からないけれども、1つ可能性がありそうなところに配備するということはありうるのですが、私は今回はむしろそれを、その情報を聞いてすごく安心したと言うと変なのですが、2006年7月5日と同じパターンなんです。

 あの時も、経路を公表せずに北朝鮮は、あれはまさに軍事演習ですから、スカッドとノドンと、それから失敗しましたが、当時テポドン2と言われたと思うのですが、新型のミサイルを取り混ぜて7発撃っているわけです。

 これはもう、私はかねてから、私の意見として言っていたのは、スカッドで在韓米軍を叩く、ノドンで在日米軍を叩く、そして、新型ミサイルでグアムなりハワイの米軍を叩く、という米軍に対する同時制圧能力があるという、そういうデモンストレーションであるということだと思っていました。

 だから、今回もミサイルだけ取って言えば、限りなくそのパターンに近いのではないかと思うのですが、ただ、だからどっちの方向に向けて撃つかというのが、非常に分からないだけに、前回はどっちかというと、沿海州のほうに向けて撃ってましたよね。沿海州の沖合に向けて撃ってた。

 今回も、被害を出さないように撃つとすれば、ノドンとスカッドはそちらのほうに。あの時も日本海側のキテリョン(旗対嶺)(※)という演習場から撃っていましたが、ただ新型ミサイルはいずれにしてもどこか太平洋に落ちるか、北極海に落ちるかということになるはずなので、それを何も通報せずにやるということ自体、ものすごく乱暴なことなんです。

(※)旗対嶺(キッテリョン、キテリョン)は、朝鮮民主主義人民共和国江原道安辺郡にある地名。同郡の東南部、通川郡との境界をなす山岳部に旗対峰(キテボン/기대봉、1056m)という山があり、その傍らにある標高702mの鞍部が、もともと旗対嶺と呼ばれる地点である。しかし一般に「旗対嶺」は、この安辺・通川両郡の境をなす山岳部付近一帯にあるミサイル発射基地群を指す用法で知られている。旗対嶺のミサイル基地は、2006年7月に行われた北朝鮮のミサイル発射実験でノドンミサイルが打ち上げられた場所と推測されている。(goo wikipediaより)

 その前に、じゃあそれは米韓演習に触発されたということはあるのですが、さらにもう1つ辿っていけば、今回について、私はやっぱり北朝鮮が金正恩体制になってから、12月にミサイルをやってます。核実験もやったんでしたっけ。それで、当時言われていたのは、ミサイルは南に向けて撃ったけれども、あれを北に向けて撃てばアメリカ本土を狙う意図があるのではないかということ。

 それから、核実験は非常に爆発の規模は小さかったのですが、それだけ、つまり核の小型化が進んでいるのではないかという、そういう状況のなかでの、今度はどっちかというと、米韓合同演習は、あの時期、定期的なものではあるのですが、その意味では、今度、アメリカ・韓国側の北朝鮮に対する、むしろリアクションという側面はあったのであろうと」

岩上「前回の北朝鮮のミサイル実験、それから核実験。これに対するリアクションとして、今回の米韓合同演習が行われたという側面もあるということですか?」

柳沢「韓国に対する延坪島の攻撃だとか、哨戒艦の撃沈とかいうこともやってますから、そういうものに対する一定の抑止力にしようという意図は、米韓側にはあったんだろうと思います。だから、どっちかというと、北朝鮮に関して言えば、私は、アメリカ・韓国が主導して情勢を煽ってるというよりは、むしろ去年以来の北朝鮮の動きのほうがむしろ主な要因としてあるのであろうと思います。

 そこで、2006年のときは、ミサイルの数発の実験、さっき申し上げたように、標的を同時に制圧するんだというメッセージを出したのだと思うのですが、今回はそれに加えて、その平壌の外国大使館からの退避とか、ソウルからの退避だとか、あるいは予備役に実弾を渡すとか、そういう。それからさっき、岩上さんがおっしゃっていた休戦協定はもうなくなったということを言っている」

岩上「南北の38度線、あそこでの南北間の電話連絡。あれも遮断したと。切ったと」

柳沢「そうですね。開城工業団地も、あれも南北融和の象徴の側面があった。あれも止めてますから」

岩上「そうですね。出て行けみたいなことになってる」

柳沢「ええ。だからすごく心理的にはエスカレートしてるんですね。2006年とくらべて。やることは同じかもしれませんが、それをどう見るかということが一番大きなテーマなんだと思います。

 では、まず端的に言って、北朝鮮は戦争をする気があるのかと。あるいは、アメリカが戦争をする気があるのだろうかということからすると、私は2つの面でそれはないと思っています。

 1つは、物理的な準備の問題があります。やはり戦争というのはそう簡単にできるものではないので、相当な物資を必要とするし、軍隊も動員しなければいけない。あるいは、移動させなければいけない。陣地も作るとか、いろんな準備行為が必要ですが、そういうものが北朝鮮の側には、今ないわけです。

 それからアメリカの側も基本的にはイージス艦は出してるけれど、あるいは、爆撃機をグアムに持ってくるとか、そういう動きはありますが、それ以上に大きな動員体制をとっているわけでもない。そういうお互いの軍事的な準備という面で、いま戦争をしようという意図は両方にはないのだろうと。両方ともに」

岩上「その準備は、とりわけ今お話になった事例はどれも地上戦、陸上戦の準備というような感じがしました。ただ、ミサイルや、あるいは例えば、空爆というようなこと、あるいは海での潜水艦も含めた海戦とか、こういうことに関してだとどうなのでしょうか?」

柳沢「それもそんなに大きな動きはないと私は思います、新聞の報道の限りではそんなに目立った変化はないと見てます。確かに、ミサイルを撃ち込むところから始めて、報復を受けますから、ミサイルを本気で撃ってくるということは、そういう地上戦まで含めた、まずミサイルがあって、次に航空戦があって、制空権の獲得の戦争があって、それから地上戦という。

 それが一般的な流れ。それはまあ、韓国が陸続きですから、小規模な部隊を送り込むとか、その程度の破壊工作はあるかもしれませんが、いずれにしても本格的な戦争の準備をしているという感じはしないというのがひとつ。

 もうひとつは、政治的な要素です。アメリカとしてみれば、これはむしろそっちのほうが私は深刻だと思っているのですが、アメリカの立場は、北朝鮮が核の放棄に向かって、歩み出さなければ交渉には応じないと言う立場。北朝鮮のほうはそうではなくて、自分はもうすでに核を持ってるんだと。核保有国であることを認めるということがアメリカと交渉に入る前提だと、こう言ってるわけですね。

 全く前提が矛盾してるわけです。そういうなかで、挑発がエスカレートしているということに一番不安を覚えるのは、それはだから、これでミサイルを撃つのは撃つかもしれない。撃つという意味は、とうぜん海に向けて撃つわけですが」

岩上「それはやっぱり脅しとしてやるんですね?着弾をさせるのではなくて」

柳沢「脅して、さらに多少、陸上でもちょっかいを出すことはやるかもしれませんが、そこで大規模の反撃の口実を与えるようなことはやらない。そういう範囲でやったときに、たぶんアメリカは引き続き交渉には乗らずに、むしろ制裁を強化する。

 つまり、シカトし続けるんだろうと思います。そうしたときに、北朝鮮の側に、金正恩の側に次に打つ手があるのかということです。それらは、別に金正恩の考えてることを心配してもしょうがないけれど、非常に性急なんですね。彼がリーダーになってからの動きが。どんどんカードを使ってしまっている。どんどんカードを切ってもアメリカが乗ってくれない。そのなかでの今回の動きということだと思うんです。だから、これをやってしまったらば、あとは戦争というカードしかないとすれば、戦争をやったら、もう北朝鮮なんかはアメリカ・韓国の敵ではないですから。

 つまり、体制が維持できないということになるわけなので、そこはだから切りたくても切れない。本当に手詰まりになるわけですね。そのなかで、次に何をしたらいいのか。あるいは体制がそのまま崩壊してもらっても困るわけですし、そういう心配を私はしているのですが」

岩上「なるほど。はい。今回の米韓演習というのは、これまでの合同演習とやや次元の異なるものだったというふうに聞いたことがあります。例えば、北朝鮮側がここまでが自分の水域だと言っているもの。それから、これは国連軍と朝鮮戦争をしてましたから、国連軍が、自分たちはここが国境というか」

柳沢「ええ。北方限界線ですね」

岩上「北方限界線。ここのあいだに、どっちもそれぞれが主張する部分があるわけですね。そこに島が幾つか。確か5つある。こういう海域で演習、着弾ということは、領土に撃ち込まれたというふうに解釈するわけですから、それは激しい反応になると。

 それに対して、今度の演習でもし攻撃があるようなことがあれば、延坪島のときのような砲撃があれば、直ちに北朝鮮国内に、本当に国内に撃ち込む、攻撃を行なうということを言って行なったというふうに聞いています。だから、かなりもう演習というよりは実戦一歩手前の挑発という」

柳沢「ええ。武力による威嚇ですよ。それはね」

岩上「今、僕が言ったのは、うる覚えのお話なのですが、だいたいこの演習のストーリーとか、規模、目的、肉薄の度合いというのは間違っていないのでしょうか?こんなものなのですか?」

柳沢「その具体的な中身は私もフォローしてないから分からないけれど、この時期やってる演習。毎年、この時期には演習をしてる。韓国のほうも新政権になって、もう一度あの延坪島を一方的に砲撃されたり、哨戒艦を撃沈されるようなことがあれば、もう政権が持たないですから、それはそれなりに強い姿勢を取らざるをえないのだろうと思います。

 そういうなかで、もちろん、エスカレートして本気の衝突になる恐れは当然あるのですが、まさにそれをちらつかせて相手をやらせないようにするのが武力による威嚇ですから。お互いにそういうところを、そういうカードを切りあってるという状況。

 だから、非常に危険ない状況ではあるが、しかしもっと大きな文脈で考えると、政治的にも軍事的にも、韓国のほうがはるかに準備が整っていると私は思うのですが」

岩上「韓国のほうがよほど北朝鮮に比べれば、戦争を行なうための臨戦態勢が出来てるということですか?」

柳沢「臨戦態勢そのものというより、国民の意識とかそういう面では、もちろんああいう国というか、日本みたいな国ですから、いきなりというわけにはいかないが、ただレディネス(※)の部分とか、あるいは燃料断薬の備蓄の部分とか、そういうところ。あるいは訓練の練度とか、そういう面でははるかに米韓のほうが圧倒的に優位ですから。

(※)レディネス【readiness】 子供の心身が発達し、学習する際の基礎条件となる一定の知識・経験・身体などができあがっている状態。(goo辞書より)

 映像で北朝鮮が、これは米韓演習に対する対抗措置だと思いますが、上陸用舟艇で上陸してくるシーンが朝鮮のテレビで流されていた。なんかあれは、映像を解析すると、同じ上陸用舟艇を映像の操作で複数に見せるようにしているという。そこは、仮にそれがもともと複数あろうが、あのタイプの戦争であれば、私は全く心配してないというか。

 あれって第2次大戦のノルマンディー上陸作戦の70年前の戦争ですよ。あのパターンは。ああいう攻め方をしてくると言えば、それはもう自衛隊だって十分に対応できるし、そもそも制空権、制海権がないところで、あんな海の上で剥き出しの形で兵力が上がってくるようなことをすれば、もうミサイルの餌食ですから、ああいうものは私は全く怖いとは思わないのですが、やっぱりミサイルですね」

岩上「そうですね。結局のところ、例えば、米韓が、今のお話だと、まだまだ武力を使った政治なんだというふうにおっしゃられているように聞こえます。武力をちらつかせた政治である限り、どこまで行っても政治であって、実戦は起こらないということなのですが、米韓合同演習はこれまでになく相手に肉薄したものになったという背景には、北朝鮮が、あるいは、日本に届くミサイルを開発したというレベルから核実験を行なって、相当な小型化が、この間お会いした時には、まだまだできてないのではないかと言いつつも、手の届くところにはもちろん来ていると。

 そのうえで、テポドンが米本土に届き得るのではないかと。アメリカという国は、自分の本土が一角でも攻撃されるという話になると、とてつもない反応を示しますよね。本当に激烈な反応をします。ハワイを真珠湾を日本が攻撃したあと、どれだけそのインパクトに対して何百倍ぐらいのお返しをしたか。そして、それをずっとパールハーバーを忘れるなと言い続けている。そして同時多発テロということに関しても、これは直接的に関係があったとはいえないイラクまで」

柳沢「イラクまで行ってしまったわけですからね」

岩上「そうですよね。破壊し尽くすというものすごい反応を示します。だまって指を加えてるわけではないだろうと。だから、もしかしたらテポドンで届くということであるなら、もう先制攻撃辞さずと。

 要するに、一切傷を負わないで、MDなんていう、落ちるか落ちないか分かんないようなもので迎撃するというのではなく、アメリカは専守防衛ではないから、先制攻撃辞さずで、その旗を降ろしてませんから、自分が最初に手を出してもいいんだと言い切ってる国ですから、だから本当に朝鮮戦争というのは、北朝鮮から始まるんではなくて、もういいから、うちから攻撃して、粉々にするから、という少なくともアメリカの本土にはミサイルはどんなことがあっても撃ち込ませないという姿勢で、戦略が転換した。戦術が転換したということはあるのではないかという、こういうふうな見方もあるのですが、この点はいかがでしょう?」

柳沢「それは、もちろんアメリカは、実際にアメリカにミサイルが飛んでくれば、そうすると思いますよ。だけど、今。いや、確かにアメリカ本土に届く核ミサイルというのはもうアメリカにとって政治的なレッドラインを超えてるんだと思いますね。だけど、それをじゃあ先制的にサージカルストライクと言ってますが」

岩上「サージカルストライク」

柳沢「外科的手術ということで、相手の核施設を攻撃するような、イスラエルが昔、イラクとかシリアとか、今言われているイランの核施設を攻撃するような」

岩上「オシラクの。攻撃しましたね」

柳沢「ええ。じゃあ、それはアメリカがいま先制攻撃でやるというオプションがあるかというと、それは僕はないと思ってます。今のところはね」

岩上「ない?」

柳沢「というのは、それだけでは済まないから。つまり、すぐに中国、ロシアとの関係を考えなければいけない。それをやった場合には、当然、報復として日本とか韓国、同盟国に相手のミサイルも飛んでくるわけですから」

岩上「飛んできますね」

柳沢「もうひとつは、やはりその結果の、まだイラク、それからアフガン。アフガンにはまだ兵力もいますし、そのダメージから、アメリカはまだ立ち直ってないですから、今はとてもそういうことはやれないというのが、アメリカの現状だろうと思います。

 ただ、それにもかかわらず、本土に撃ち込まれれば、それはもうなりふり構わずやるとは思いますが、今はそういう局面ではないと思います」

岩上「なるほど。でも、そのエスカレーションまで、あと一歩というところで留まるから瀬戸際戦略なんでしょうが、あと一歩というところがずっと続くとなると、今度はそういうものが読み切られてしまって、弛緩してしまう。

 あと一歩というのは意外に一瞬に乗り越えてしまう可能性が」

柳沢「だから、問題は北朝鮮なんですよ。北朝鮮がどこまで耐えられるかなんですね。逆に。ずっとこのままアメリカにシカトし続けられて、どこまで我慢出来るかという。だけど、先に手を出せば、自分のところがメタメタになることは目に見えてるわけですから。

 そこで、本当に北朝鮮の次のカードが読めないというのが、今回の問題を通しての一番大きな当面の懸念事項ということではないかと私は思います。

 まあ、アメリカのほうはさすがにここでイラクのような行動は取れないのですから、もっとも休戦協定を破棄されれば、実はイラク攻撃も、10年前の湾岸戦争のときの決議をアメリカは引っ張ってきて、戦争の正当性を言ったのですが、あるいは朝鮮戦争の決議は195何年ですから、あの時は、要するにあれで国連軍が出来てるというのは、北朝鮮が侵略したというふうに国連が認定してるわけで、それを一方的に北朝鮮が破棄すれば、アメリカは戦争の大義名分を得ることになるんですね」

岩上「これは、本当に正式な手続きとして、休戦は破棄したということで解釈されるのですか?」

柳沢「それは、もちろん口ではそう言ってる。実際に休戦を破棄するというのは攻撃してくるということですよね」

岩上「なるほど。なんらかの形で、外交官同士が公文書を施行するというような手続きを取った上での破棄なんですか?」

柳沢「文書手続きというか、それはしてないと思いますよ」

岩上「アナウンスをしたという時点で、でもこれはしたとみなすと。例えばアメリカがやる気満々なら」

柳沢「満々ならば、みなしてしまうかもしれない」

岩上「ああ、じゃああれはあれで、言ってはいけないことを言ったことではありますよね」

柳沢「つまり、そこまでカード切ってしまって、次どうするんだろうねということなんですよね」

岩上「これは戦争が仮に起こる。起こらないで欲しいという願いも込めて柳沢さんはおっしゃられてると思います。仮に起こるということになると、同時多発的に、まずミサイルが撃たれるということだと思うんですね。

 日本は、すぐには作戦とかには参加してない。だけれども、僕らが懸念してるのは、日本側に在日米軍基地があります。そうしたところにまず雨あられと降ってくるだろうと。これは多くの方が言ってらっしゃる。

 雨あられと降ってくるものが、三沢、横田、横須賀、岩国、沖縄。こういったところを破壊するのではないかと。破壊し尽くすのではないかと。そのとき、米軍はいったん退避する。これは、相手が中国の時でもそうですが、米軍は初戦、とにかく退避するということが重要であると。

 傷をそのまま大きくしておかないということと同時に、北朝鮮側を攻めるということは、同時に行われるんだろうと思いますが、この時に、日本側の受けるダメージはどの程度のものになるのか。そして、重要なことは、2006年、2007年。つまり、柳沢さんが官邸の中にいて、官房副長官補として、北朝鮮のミサイル危機等に対処していた時期と決定的に違うのは、今は3.11を我々は経験したということですね。

 かつても、テロだなんだがあっても大丈夫と言われても、まったく大丈夫な代物ではない。建屋に直撃されなくても、周辺施設を破壊したら、完全に全電源喪失になって、おそらくミサイルレベル、あるいは空襲とか砲撃でも、粉々になってしまって、回復不能。そしてあっという間に、全電源喪失からメルトダウンが起きると。

 これはもう避けがたいと。北朝鮮自身が最近、日本は原発ひとつにミサイルでもなんでも撃ち込めば、広島型原爆の380発の放射性物質とか、もっといったかもしれない。もっと大きな数字だったかもしれませんが、とてつもない放射性物質が拡散する。大爆発して拡散し、そして日本という国は永久に地上から消し去ることができると、こう言ったと。

 これまでは、そういうこと聞いても、ひとつはリアリティがなかったというのもあるのですが、原発を維持してるんですよね。原発を維持しながら、このような状況にどんどん前のめりに入っていってる。このことがものすごく気になってるわけです。

 まだ世の中の人。原発に関心がある人、あるいは脱原発、反原発を言ってる人。頭のなかに戦争のリスクがまだうまく入ってこないです。戦争の問題を考えてる人。それはどちらかと言うと右寄りで、いざ攻撃されたら徹底的に戦える日本にしようと思ってる人。あるいは、反戦を考えてる人。戦争ではない外交的手段での解決をずっと考えてる人。こちらの方々、どちらとも話してるのですが、原発のリアリティを同時に考えてない。

 考えている人が非常に少ない。もうでも、これはリアルに考えなければいけないタイミングだと思うんです。どうなりますか?」

柳沢「前にもお話したかもしれませんが、ノドンで原発を破壊するのに、ノドンの命中精度を考えると、200基持ってる全部のノドンを1カ所に打ち込んでようやく当たるかどうかというレベルだろうと私は思っているというお話をしてましたが、それはあくまでも原子炉建屋の天井を破るために必要な数を言ったので。

 今回の3.11の教訓は、まさにおっしゃるように、周辺の施設が破壊されれば、もちろん通常弾頭ですよ。通常弾頭のノドンで破壊されれば、それでメルトダウンが起きて甚大な被害が出るということ。あるいは、ミサイルでなくたって、誰か上がってきて、電源を止めればいいという、それが最大の教訓なんですね。

 それは、もちろんだから、戦争ということになれば、そういう戦い方もあるのですが、問題は原発を叩いたところで、もちろんこちらの反撃力はインタクトに残ってる。それはやはり、軍事的にどっちを優先するのかということを考えた時に、やはり相手の反撃力を、さっきおっしゃったように、三沢とか横須賀とか、そういうところを潰すほうが先なんだと思います。それは、通常弾頭であれば、相当な数がやっぱり必要ですから、それはだから、おっしゃったように、そういう状況になれば、米軍はいったん引くと思いますよ。

 それは、軍事的には決して間違った行動ではなくて、いっぺん引いて、アウトレンジからまた相手を攻撃するということしかないと思うんですね。ただ、そうなることが分かり切ってるシナリオなので、それをあえて北朝鮮がやるだろうかということがどうしても私は解せない。理解できないんですね。理解を超えたことをする人なのかもしれないが」

岩上「つまり、もう戦争が始まったら、勝敗ははっきりしてますよね。結局、両側に多大な損耗ということはあるかもしれませんが。でも、結局は米韓軍のほうが北朝鮮よりも強いということは明らかだと思うんです。中国が本格的に介入し、北朝鮮を守るために、全面戦争辞さずと言った時は、また意味が違ってきて、中国軍対米軍ということになりますから、これはもう桁違いになってますが」

柳沢「それはもう米中にとって一番やりたくないシナリオだと思いますよ」

岩上「ですよね。それが、まったく世の中にこれから先もないかどうか別の問題として、これは北朝鮮だけを見たら、完全に敗北に終わる。完全に敗北に終わるとき、あの国は別に民主主義国家でありませんから、金体制を守るためにやってるわけです。最後の最後、やけくその、どうせならば、死なばもろとも。とりわけ怨恨というものが日本に対して残ってるわけですよね。

 そのことを国是に、我が国を植民地にしたと。恨みがあるということを言ってるところですから、最後の最後、日本というものを消し去るという意味で、原発に叩き込むということが絶対にないと言えるのか。軍事的合理性でいえば、米軍基地を叩くことが先だということと、最後の最後、相手をとにかく痛めつけて自分も滅びたいというのであれば、そういう非合理な行動に出ることはないのか」

柳沢「私は、だから戦争というのは政治を超えることは出来ないのだと思ってるんです。政治的な動機なり、目的を超えた戦争というのは、もちろんコントロールできなくなって一部分でそういうことは起こり得るかもしれないけれど、今その目的が北朝鮮の体制の維持である限りは、戦争というカードはありえない。政治的な目的からして、ありえないということは言えるのだろうと思います。

 では、やけくそになってどうするかという話は、私はやけくそで戦争をしたというのは、もちろん旧日本がアメリカとの戦争に乗り出したのは、あれはやけくそとは言いながら、客観的にはやけくそかもしれないけど、このまま行ったら石油に備蓄が底をついて、石油があるうちにひとつ叩いて、それを有利な条件で早期に休戦に持ち込んで、というそういうシナリオがあったわけですね。

 では、だから北朝鮮のほうも、そういうシナリオがあるならば、戦線拡大してくるだろうと思うけれど、今そういうシナリオは、ちょっと描けない」

岩上「例えば、今言ったように、日本とかあるいは韓国とかというところに原発というところにも撃ち込んで、あるいはソウルのど真ん中、銀座のど真ん中に撃ち込んで、そして日本国民、韓国国民の一般の人たちは、恐怖と怒りと、だけれども、同時にこんな戦争やめてくれ、かんべんしてくれという思いになりますよね。

 そういうふうに戦争を支持しない感情が高まる。反戦気分が高まる。いきなり銀座をやられて、反戦気分よりも、もう粉々にしろという怒りのほうが」

柳沢「うん、怒りのほうが大きくなると思いますね。特に日本はそうなると思いますよ」

岩上「ですよね。ただ、原発を攻撃された時には、これはあと残り何基やられたら、おわってしまうわけですよね。日本列島もう住むところがなくなってしまう。それは、どうなのですか?」

柳沢「そうなのだけど、それは、私は原発のリスクというのは、仮にここで原発ぜんぶ運転を止めても、使用済み核燃料がそこにまだ残ってるわけですから」

岩上「そうです。そこの問題です」

柳沢「まだ数十年、そこの処理の見通しが全くたってないわけですから。それは今、原発をやめるかどうかにはかかわらず、そのリスクは残ってるわけです。だから、そこに対応しようとしたら、とにかく2重、3重に電源を確保する方法を考えるしか方法はないだろうと思うけれど、そういう意味では、なんらかの方法はたぶんあるのだろうと。そこがそういう事態に備えることも当然必要なのですが」

岩上「まあ、人生というのは本当に思いがけないリスクの連続で、国も同じだと思うのですが、原発を防護するというのはどう考えてもそう簡単なことではないと。僕は、福島第1原発の構内に入った時に、地震で倒れた鉄塔を目の当たりにしましたが、いともあっさりと、貧弱に倒れてしまうわけですよ。

 そして、あらゆる電源とか剥き出しに配線されあって設備ができあがっていて、建屋だけでぜんぶ完結してるわけじゃない。あのまわりじゅうに色んなものがそれこそ本当に剥き出しで出ているんですね。これはもう、その辺り一帯を破壊したら、もうお手上げ。免震重要棟が吹っ飛んだらもう何にもできない。そういうものなんだなとつくづく思い知らされました。非常に貧弱で、脆弱で、海辺に建ってますから、目標にもなりやすい。

 これは戦争に向かないなと。もう日本が戦争できる国家にするという方向に、今、自民党政権はなっていってます。改憲をしよう。それから、石原さんは軍事国家にするんだと、もうはっきり口に出して言ってます。

 軍事国家にするというのは、戦争というのはどうしても起こりうることかもしれませんが、せめて核自殺装置である原発54基ぜんぶ撤去して、使用済み核燃料を大至急抜いてからにしてくれないかと。致命的な弱点を身体に身にまといながら、ケンカに乗り出すって、自殺行為ではないかと」

柳沢「そこは、そういうことだと思います。まさに、自爆装置を身体に巻きつけながら、ケンカするようなことになるので、だからそういう意味でも、日本は戦争の出来ない国なんですね。つまり、脆弱性が大きすぎるわけです。もうひとつは、戦争となれば、当然お互いにダメージは受けるわけで、ではそのダメージをどこまで許容出来るかという問題もあるので、北朝鮮の脅しが多少とも現実性を帯びて受け取られるのは、それは北朝鮮は金正恩さえ残れば、あとはみんな死んでもいいのだという国だとみんなが思ってるからですね。

 その代わり、だけど、東京の銀座の真ん中にひとつ通常弾頭のノドンが落ちて10人死んだら、日本は手を上げるだろうという意識があるからですよね。ニューヨーク、ワシントンも同じですよ。だから、ニューヨーク、ワシントンと北朝鮮と、天秤にかけて、どっちが重いんですかというところが、その価値の非対称性があるから、北朝鮮の核が脅威感を持ちうるんだと思いますね。

 それはもう、底に対する論理は本当に北朝鮮がまじめに、あくまでも体制の維持というものを追求する、そういうシナリオで動いてくれる以外にないですね。それはもう、突然なにかやりだしたら、それはもうまったくテロリストと一緒ですから。だから、それはそれなりの防ぎ方をしなければいけない」

岩上「であれば、例えば体制が違う、思想が違う、成り立ちが違う国家かもしれないが、そういう国家は地球上にいくらでもある。お互い違いを認めて、共存すればいいではないかという考えもあるはずです。たとえば、中国とアメリカは」

柳沢「だから、問題は核を持つことなんですよ」

岩上「アメリカがもっと承認をすることによって、わかったと。体制保証、認めるよと。そして査察を受け入れよと。核だけは手放せと。こういう形で外交的な解決というのは、この期に及んで、だいぶ悪化してしまいましたが、ありえるのでしょうか?」

柳沢「だから、それを北朝鮮は狙ってるんだと思いますよ。だから、その時に、もう核がここまで来ちゃったから、核は手放さないよということがどこまで通じるか。これはイランの話にも繋がってくわけですし、アメリカのほうで今心配されているのは、韓国と日本の核武装ですよね。そっちにも繋がっていく。

 やっぱりアメリカは、それはもう核を持つ国が増えることは、アメリカにとっても中国にとっても、それは自分たちの核の独占が崩れるという意味でも、好ましくない。

 最近、読んでる本で、核の拡散のほうが平和になるという議論がずっとアメリカにあって、ケネス・ウォルツという人がそれを言っているのですが、核兵器を持つことによって、通常戦力をうんと小さくすることが、同じ効果を得るために通常兵力を減らすことが出来るから、偶発的な戦争の可能性は少なくなるし、そしてその核を持つことによって、より行動が慎重になるという。

 それが、では今回の北朝鮮に関して当たってるのかどうかというと、私は半分当たってると思うのは、たしかに通常戦力、相当な規模は持ってるけれども、全くメンテが行き届いてないわけですね。その意味で、今回、北朝鮮がやってることも、予備役に鉄砲の弾を配るとか、ミサイルを動かすとかいうのは、一番金のかからないことをやってるわけです。相手に言って。

 そういう意味では、核を持つことによって北朝鮮はある程度慎重にならざるをえないが、そこを慎重になったよと言ったら、核を持ってカードにして使う意味がないから、挑発的にやって来るけれども、そんなに大きなことは出来ないという側面、そういう意味では当たってるけど、しかし、現実に北朝鮮が核を持ったことを考えれば、それはやっぱり核が広がったほうが世界のためにいいんだとは、やはり言えない。

 というのが、常識的に私はそう思ってるんです。もうちょっとそこは精緻に議論していかなければいけないけれども。我々の目指す世界はやはり核のない世界なんだと思うんです。それを今、増やさない、核保有国に対して、どうするのか。核保有国は、イラクの場合はその疑いだけで体制を転覆させて、戦争をしてアメリカが結果的に痛い目にあってるわけですが、それに対して、世界がどう向き合っていくのかというのが、大きく言えば、今一番問われてることなんだと思いますね」

岩上「なるほどね。ちょっと確認なんですが、技術的なことでも申し訳ない。Pac3というのは、これはPac3だけではないですね。ミサイル防衛システムというものは、2段階になっていて、最終的に、今計画されている配備。これは相当お金がかかるのですが、何兆とお金をかけて、全配備を終わったとしても、私の聞くところ、17方面ぐらいに配備されて、首都圏とか関西圏、あるいは福岡のような人口密集地、それから基地付近はカバーするけれど、日本列島の至るところ、地方は、剥き出しの状態になるというふうに聞いております。これは間違いないですか?」

柳沢「それは、全部はカバーできないですから。ただ、それは、そういうところを攻撃されても、比較的ダメージが少ないという意味で。私はミサイル防衛システムを持つこと自体は、撃ってきて本当に日本を、さっきの原発の話はありますが」

岩上「このカバーしてない地域こそ、人の過疎な地方で、日本中にいま原発はありますから、原発の置いてある立地点だけれども、ミサイル防衛が行き届いてないところというのは多数あるわけでしょう?」

柳沢「そこは、置き方の問題もあるし、そこは、数を揃えればいいではないかという話にもなりうるのだけど、そういうことが相手に対する、相手をディスウェイドする、そういうことをやっても無駄だよというメッセージを、ミサイルで撃ってきても撃ち落すから、我々は怖くないよというメッセージを出す意味では有効で、私は元々あれは政治的な兵器だと思っているので。

 当たるか当たらないかというのはやってみなければ分からないけれども、あんまり相手がそれをきにしてくれればいいのであって、元々抑止力ってそういうものですが、そういう意味ではミサイルに対しては、それがダメだったらミサイル基地を叩きに行くしかないわけなんで」

岩上「そうですよね。そうすると先制攻撃ということなんですよね。ミサイルディフェンスは技術的に、あれは本当に落とせるんですか?」

柳沢「落とせるような飛び方をしてくれば落とせるということしかないと思います」

岩上「ことしかない」

柳沢「100%はありえない。けれども、相当な確率で落とせるということを相手が信じてくれて、こっちも信じてるしかないという」

岩上「相手が信じてくれなければ仕方がない。向こうが実験日を教えてくれて、軌道がはっきり分かっているようなになると、もう戦争です。ドタバタです。ドタバタの時に、もう分からないように、しかも特にランダムに、同時多発に撃ち込んだ時、綺麗に軌道をピタッと」

柳沢「それは無理です。それは。つまり、1発2発は守れるけど、200発いっぺんに撃ち落とせるかって、それはもう絶対無理です」

岩上「絶対無理ですね」

柳沢「それはそういうものなんですよ。それは相手が攻撃してくるときは、それは先に手を出す奴に、それだけの優位があるわけですから、まったく被害を受けないということはありえないですね。

 ただ、その代わり、被害を受けたら、その倍にしてお返ししてやるぞというのが抑止力と言われるものの本質で、それは依然として、北朝鮮の核に関する限りは、アメリカの核抑止力というのは、まあまだ機能してると私は思うんですけれども」

岩上「なるほど。では整理しますと、一番ありうるシナリオは、理性が働いて、挑発はあれども、今の膠着状態が続いていくと。アメリカは結局、核を持った北朝鮮に対処しない。でも北朝鮮はそれを譲る気もなく、核を開発して、体制承認しろと。ここはもう譲り合えない。だから、ずっと膠着が続くと。膠着が続いていくうちに、時間が経つと突然、米本土に届くミサイルが開発されうると。それはまずいから、その前の段階で潰したいというアメリカの圧力がより強まると。

 そうすると、どこかでそういうことが起こりえるかもしれないと。起こり得た時には、しかしミサイルを撃つとしたら1発2発飛んでくのではなくて、何百発かいっぺんに撃つでしょうから、そうすると、どれかは、基地だけではなくて、原発に当たってしまうかもしれない。これはかなり、怖いシナリオは、足していくとありうるなと」

柳沢「はい。それはもちろんそうです。だから、最悪の事態をどう想定するかというのは、すごく難しいんですね。だから、特に自然災害のほうは、今まで100年見てたのを、今度は1000年見なきゃいけないということに。あるいは、何万年かに渡って、地震の痕跡を今探す作業を今してますね。

 それはそれで、自然災害のほうは、計算ができるけれども、人間の意志というのは計算ができない、これから合理的になるのではなくて、そもそも今回のこういう緊張感が高まってる背景に何があるかといえば、アメリカと交渉して自分の体勢の安全性を高めたいという北朝鮮の意図があり、アメリカのほうは、核保有国が増えることは認められないという、そういう政治的な立場があって、そこの食い違いのまま来てるわけですね。

 確かにおっしゃるように、時間をかければアメリカに対する直接の脅威というのは現実化していくという問題がある。しかし、かたや制裁がさらに厳しくなってくれば、むしろその理由で北朝鮮自身の体制が維持できないという、そういう弱みがあるわけですね。だから、そこは、今すぐどうこうではないけど、この先、あと何年ぐらいこんな状況が続けられるんだろうかというところが、主に北朝鮮の要因が大きいと思います」

岩上「つまり、こういう膠着状態も無限に続かないから、やっぱりどこかで何らかの形で破綻でするんですよね。息切れがしたりとか。それが、そんな長い時間かからないでしょ。何十年このまま続く」

柳沢「何十年ではないですね。本当に実感としてなんとも分からんが、長くて数年だろうと思うんですね。これで、アメリカにシカトされて、金正恩の正当性がますます揺らぐわけですね。一方で。制裁を受けて国民の生活はますます苦しくなるという流れのなかで、本当にどこまでこの路線を北朝鮮が続けられるかどうか。アメリカのほうが、実際にミサイルが自分のところに飛んでくる以外には、何もしなければいいわけですから。それは、時の利はむしろ北朝鮮にとって不利でいく。そのプロセスで何が起きるかになるわけですね」

岩上「なるほどね。今ずっと北朝鮮の話をしていました。しかし、実はアメリカ軍とか、日本の自衛隊、あるいは防衛省も含めて、実は中国のことをすごく意識していると。ここにこういうものがあります。

 統合エアシーバトル(※)の構想と背景と目的。これは海幹校戦略研究という本からなんですね。2011年12月です。つまり3.11以降です。海幹校というのは海上自衛隊幹部学校ということですね。

(※)エア・シーバトル 別名:空海戦闘、空海作戦 英語:AirSea Battle とは、米国が対中軍事戦略として掲げる、空軍および海軍の軍事力増強、および、両軍の連携・共同作戦。産経新聞などが伝えるところによると、2011年半ばに米国国防長官の交代人事が発表されて以降、米国では軍事力を増強させつつある中国を意識し、エア・シーバトルを新たな基本戦略に据えているという。(Weblio辞書より)

 だから、かなり軍事のトップエリートがこれらを考えてる。この統合エアシーバトルということが、どういう作戦なのか。これはアメリカが去年から『Pivot to Asia』ということを言ってます。アジア太平洋に戦略の中心を置くんだと。足場を持って行くんだと。

 そこで、統合エアシーというわけですから、海上の戦略と、空軍ですね。いったい運用をして戦うんだと。戦う相手は誰か。これは、日本と韓国軍を一緒になって、中国、あるいは北朝鮮と戦うことをイメージしている。これ、ハンナン人民共和国というところと、北朝鮮を」

柳沢「赤旗(※)」

(※)赤旗 1928年に創刊された日本共産党中央機関紙。ただし,第2次大戦前は一般に〈せっき〉と呼ばれた。なお,これに先だって1923年4~6月に同名の雑誌が刊行されている。これは,1922年創立の第1次日本共産党の党員,山川均,市川正一らによって出された日本共産党合法理論機関誌である。機関紙《赤旗(せつき)》は,28年2月1日に謄写印刷で創刊され,月2回刊,定価5銭で,完全な非合法新聞として刊行されつづけたが,相次ぐ官憲の弾圧によって35年に停刊した。

岩上「これは赤旗が『山桜』(※)のがなんか流出したんですね。別に赤旗ひとつが取ったのではなくて、色々なところで手に入ります。この日本列島の中から、このような形で上陸をしてくると。若狭湾あたりが大変なんですよ。

(※)山桜隊(ヤマザクラ) 神風特別攻撃隊の初出撃は1944年10月21日で、大和隊・敷島隊・朝日隊・山桜隊の計24機が出撃したが、同日は悪天候などに阻まれてほぼ全機が帰還したものの、大和隊隊長・久納好孚中尉が未帰還となった。(Weblio辞書)

 それで、これが『山桜』の作戦見積書。これも2011年の3.11を過ぎてますよね。非常に詳細です。これはもうすでに軍事演習が行われたんだと思うのですが、こんなような『わが任務に重大な影響をおよぼす敵の可能行動』これは他にもたくさん上陸地点があって、日本列島のどこでどんなふうに迎え撃つかっていうようなものなんですが。

 例えばここを来て、ここに上陸して。若狭湾ですよ。これを迎え撃って戦うと。もちろん原発も守ろうともするのでしょうけれど、相手も上がってきて、そこでドッグファイトをする。このあたりずっと一帯、原発があります。たいへんなことなんだなと。

 こういうことがどうやら日本全土を戦場になるんだと。日清、日露以来、日本は太平洋戦争の末期だけ、空襲を受けました。そして、沖縄だけが地上戦の戦場になったけれども、ずっと日本って人の国で戦争をしてたんですよね。

 特に朝鮮半島を中心に。だけど、これが中国の側からみたものだと思うのですが、サポートゾーンとなっていて、こっち側がディプッションゾーンと破壊ゾーン。日本列島よりも後ろをバックアップするようなテニアンとかグアムとか、そういうものを破壊すると思うのですが、そしてバトルゾーンって日本列島全部なんですよね。

 つまり、この味方の、そしてどちらかと言うと、上位にあるくらい、我々の自衛隊や、あるいは防衛省がすべて作戦計画を考えて、全部というよりはほとんどアメリカに合わせてるわけですよね。アメリカの考え方ではここをバトルゾーンにするんだと。雨あられと、これは中国のことも含めてですよ」

柳沢「これは、エアシーバトルですか?」

岩上「これは『山桜』のなかの資料」

柳沢「『山桜』のなかの全体状況ですね」

岩上「こういう『山桜』というようなことも、統合エアシーバトルという概念も、ちょっと私詳しいわけではないから、ぜひお聞きしようと思っていたんですけれども、統合エアシーバトルというものはなんであって、『山桜』はその演習のうちの一個でしょうけれど、いったいどういうシナリオが考えられているのか。

 僕らがざっくり調べた中では、もし中国と本格的に、尖閣の問題などが激化していけば、戦争になってしまうかもしれない。多くの人は、あの岩礁で、海戦でもやってくれる。空中戦でもやってくれると。

 すごく戦争ファンがいっぱいいるのですよ。夕刊フジなどを読んでる人が、毎日毎日、戦争がこういうふうに戦われる。日本軍は勝てる。どんちゃんどんちゃんと、昔の戦争大好き新聞状態になっているのですが、これはプロレスみたいな話で、観客席に」

柳沢「まあ、話としては面白いですからね」

岩上「ええ。観客席にいるんですね。我が方は戦場にならない。我が生活圏が戦場にならない話しなんですよ。しかし、今日の戦争が果たして、決闘やれ、日本海海戦のように、対馬海峡で出会って、そこで一大決戦が行われて、我が方が勝利に終わるなんていう、国民が生活している生活圏を巻き込まない戦争になりうるのでしょうか?

 それはいくらなんでも、素人の私が考えても、湾岸戦争以降、どうなのだろうと。冷戦崩壊以降、まずあるのは、戦争になった途端、ロケットミサイルの雨あられが後方地域、お互いの生活圏に撃ち込まれて、完全に破壊されたところから空戦、空爆、そして陸上部隊が出て行くというような展開ではないですか。だから、それを考えたら、そんなことありえないだろうと思うのです。

 ということは、尖閣でもエスカレーションすれば、尖閣領域限定で、この島を取りましょうゲームなんて考えられなくて、いったん大きな戦闘になれば、まずは先ほど北朝鮮の話でずっとシュミレートしていたように、中国側も在日米軍に叩きこんでくると。そして、それをアメリカは一回退避して、損耗を減らして、再上陸して、日本を奪還して、そしてその基地を取って、攻撃をかけていくと。

 これは実は鳩山政権が成立してすぐ後、カート・キャンベルさんが来て、こういうシナリオに沿ったことを説明し、だからこそ奪還作戦するために、沖縄の滑走路が、嘉手納と那覇だけではなく」

柳沢「辺野古と」

岩上「辺野古がほしいのだというような説明をしたということがウィキリークスに出たというわけです。3本あれば奪還できる。2本だと奪還できないと。ほんとかよというふうに正直思いますが、でもそんな話がまことしやかに言われるわけです。

 こういうことを、アメリカが考えているということを、一般の日本国民はほぼ誰も知りません。どうなのでしょうか?実際に僕らはこれに巻き込まれることになるとなると、何度も言っていますが、原発リスクがここに重なります。日本全土がこんなぐちゃぐちゃな戦場になるのであれば、どれか一発は壊されるでしょう。大変なことになってしまうと思うのですけどね」

柳沢「まず『山桜』演習というのは私も何度か参加しましたが、頭上演習ですから。あれは、その時々の情勢の流行りに応じて、色んなシナリオを採用するのです。いっときは周辺事態が色々言われていた頃は朝鮮半島シナリオがどう波及してくるかというようなことを考えたこともありましたし、それから、911のテロのあとは、そういう武装工作員的なシナリオを考えたり、あるいは、国民保護法を作ったあとには、大規模な住民の疎開をやるようなシナリオを考えてみたり、それは何をエンディングしたいかによって、それに合わせたシナリオを作るという側面が非常に大きい。

 それから、各陸上自衛隊の場合の5つの大きな方面隊があるわけで、北海道から東北、それから東部というのは関東甲信越。それから、近畿、四国、九州でそれぞれが主役になるようなシナリオを考えるのですね。だから、私はどこに敵が上陸してくるかというようなことを本気で考えてるというよりは、そういうことを想定することによって、その方面隊の幕僚の能力を高めるというのが主な目的なので、ひとつ、あまりそこに私はナーバスになる必要はないと思っています」

岩上「ここをポイントが選ばれた。これは実はワンオブゼムで、挙げたところがたまたま強調されてるところなのですが、実際にはたくさんのところで、こういうふうにたくさんポイントがあります」

柳沢「ええ、そうなんです。どこか中銀になるところは選ぶけれど、他の全隊を暇にさせておくわけにいかないので。どちらかというと、私は正直言って、その前提となるシナリオというのは、あまり現実性がないと、前から思っていました。だから、その『山桜』という陸上自衛隊とアメリカの陸軍の頭上演習ですが、その想定自身はそんなに現実にいまそれが起こりそうだから、ということでやってるわけではないということを、まず私の印象としてはそういうことです。

 ですが、一方で、周辺事態や、911テロなど色々な流行りがありますと。その時の流れによってシナリオが選択されるということを申し上げて、その時に、今の中国の話です。今、おそらく中国との関係が大きなテーマになっているはずなので、そこでそれを背景として採用されるシナリオ。シナリオの背景にあるのは、アメリカのエアサシーバトルコンセプトなんだと思うんです。

 これは、私は、それがあまり出てないので、よく分からないのですが、当時これを策定したシンクタンクの人の話も聞いたけれど、ひとつは中国の力が相当アメリカ軍を接近させない。中国の力が強くなっている。当然、沖縄の基地がミサイルの標的になることはもう織り込み済みで、したがって、より遠くから、アメリカが1歩引く形で、より遠くから海空の機動力とか、より遠方に投射できる戦力を持って、ようすれば先に相手の主要な基地を叩こうという、そういう構想なんです。これは、極めてアメリカにとって都合のいいシナリオであるし、まず中国の戦闘能力を早い段階で無力化するということを前提にしてますから」

岩上「都合のいいとは、どういう意味ですか?わりと楽観的なシナリオという意味ですか?」

柳沢「アメリカが勝つという前提で」

岩上「なるほど」

柳沢「組まれてるし、当然、そういうものなのですが。作戦構想というのは」

岩上「そうですよね。負ける気でやってんだったら」

柳沢「これは、だから非常に戦術レベルの、要は戦争が起きた時に部隊の使い方、そのコンセプトをどういうことで意思統一してやっていくかという。それに兵器開発をどう合わせていくかという、そういう構想なんですね。

 これは、極論すれば、中国の沿岸から奥地まで、全銃身を同時に叩くような、そんなことを考えて、しかもそれは日本から発進するのではなく、グアムとかオーストラリアとか、そういうところから攻撃できるようにしようというのが、アメリカの兵力構成のための目標なんですね」

岩上「攻撃をするのは、何で主に攻撃するのですか?ミサイルですか?」

柳沢「飛行機とミサイルが主体。あるいは潜水艦も入ってくると思いますが、ようはミサイルで遠距離から撃つ。そのプラットフォームとして、もう少し遠いところから飛行機や海軍の船が」

岩上「近づいて」

柳沢「行くということですね」

岩上「そして、海上戦力が出来るだけ近いところまで行ってから発射して」

柳沢「それだけ近いけれど、今までよりももっと遠い。相手の攻撃レンジから離れたところ、アウトレンジから攻撃できるようにしようと」

岩上「これが日本の国防を語る上で、日本というものを当事者としてみると、たいへん大きな変化になる。今まで中国を相手にしている時には、日本にある在日米軍で足りて、前方展開兵力と。前方展開をしていて、これが圧力にもなったと、

 この間まで言ってました。鳩山政権の頃、色々大臣とかの記者会見に出て、質問しても、前方に、この沖縄にあることが、近くにあることが、グアムでは遠いのだと。これは森本さんとかも言っていたことです」

柳沢「そうです。ですが、今アメリカは沖縄では近すぎるのだと」

岩上「沖縄では近すぎる。だから、完全に言ってたことが破綻してると思うのです。これはテレビでも森本さんと一緒になったことがあるのですが、抑止力になると言うけれど、そもそもそんな攻撃力として、例えば海兵隊がいきなり出ることはないうえに、近すぎて話にならない。

 これは、元々、撤兵するというか、後ろに下がるということをずっと言ってました。これは、想像がついていたわけですね。しかも、それがもう明らかになった。だから、日本に在日米軍を置いておくとやられてしまうので、後ろに下がる。それでも、中国のミサイルはグアムのアンダーセンまで届くんですよね。

 だから、テニアンまでは下がっておかないといけないという。ということは、日本の置かれている位置はどうなってしまうのですか?最初に叩きに来る。そうすると、北朝鮮の下りと繰り返しのようになりますが、中国は、北朝鮮のようにクレイジーではないと言ったって、冷静に本気の超大国同士の戦争として展開した場合、日本に対しては、我々はどうなってしまうのですか?」

柳沢「だから、それはちょうど去年の5月に野田政権が新しい米軍と自衛隊のRMC(※)と言ってますロールズ、ミッションズ、ケーパビリティーズの見直しの作業をすると言ってる。その時の話で朝日新聞に載ってたのは、アメリカ側の事務方の出席者は、沖縄の海兵隊なんかミサイル3発で全滅してしまうのだという危機感を持っていたという報道があって、なるほどと思いましたが、まさにそういうものを依然として抑止力だと言っている。

(※)新しい米軍と自衛隊のRMC 渡辺防衛副大臣とカーター米国防副長官との会談の概要 渡辺副大臣とカーター副長官は、日米同盟を深化・強化させ、変化していく地域と世界の安全保障環境に見合った役割、任務、能力(RMC)に重点を置いた新たな道を開くため、本年4月27日の「2+2」における合意事項を着実に実施していくことで一致した。(防衛省・自衛隊ホームページより)

 確かに、近くにいるというのは、前にもお話したかもしれませんが、近くにいるということはお互いに攻撃のインセンティブを高めるわけですね。たとえば、冷戦時代、北方領土にソ連軍がいて、自衛隊が対岸の北海道にいて、大砲を撃てば届く距離だったわけです。16キロぐらいですから。

 それは、先に手を出したほうが得なわけです。その局地戦においては、必ず勝つわけです。ですが、なぜそれができないのか。それは、やったらもっと背後にもっと大きな兵力がいて、本格的に、最後は核ミサイルまで飛んでくるというのが、そういう恐れがあったから抑止力として働いていたわけですね。

 だから、いまふたつの意味で、近いことはインセンティブになるのになぜ塞がれてたか、それは核の打ち合いに至るエスカレーションの恐怖があった。では、今中国とアメリカで、核ミサイルを撃ちあってお互いを滅ぼしたらどうなるのでしょうか、ということになる。それはできっこないわけですね。

 そうすると、そのエスカレーションのシナリオが崩れてるわけです。そうすると、近くにいるということは、それが不利になってくるわけで、もうひとつは、まさにエアシーバトルなんですが、エアシーとは、つまり空軍と海軍とミサイルの良いところと言うと語弊がありますが、良いところは、ヒットエンドランができる。相手を叩くだけ叩いて、こちらは損害がないように戦えるわけですね。

 そこにノコノコと海兵隊をオスプレイに積んで中国に行ったら、それは大変なことになりますよね。そういう戦争は、たぶんしようがないのだろうということですよね。だから、そういうふうに、もうまったくこれは政治的な意図を別としても、米中の戦略的な利益、構想が変わってきてる。

 では、そこで日本に何が求められるかといえば、これはたぶんまだはっきりしてないのだと思うのです。アメリカ自身が」

岩上「そうなのですか?」

柳沢「もちろん海上自衛隊と航空自衛隊は、アメリカとも緊密に訓練もしていますし、おそらく日本の周辺の海域をアメリカの船が動きやすいように守ってやるとか、あるいは、在日米軍基地、基地に限らずですが、日本に向かってくる相手の空軍機を撃ち落とすとか、そういう海空はミッションがかなりはっきりしているのだけど、陸上自衛隊のミッションというのははっきりしないんですね。

 では、その時に、いま海兵隊と一緒に上陸訓練などをテニアンでやっていますが」

岩上「どこへ上陸することをイメージしてるんですか?」

柳沢「尖閣であり、南西諸島のどこかということなのでしょうけれど、それは常識的に、まさに北朝鮮の例でさっき申し上げたように、まず制空権、制海権ですよ」

岩上「そうですよね」

柳沢「それがないところで、陸上兵力だけがトコトコヘリコプターやあんな小舟に乗って動くなんてことは、軍事的にはありえないんですね。それはもう、島を占領すれば、そこに爆弾を落とせば全滅するわけですから、そういう選択肢がほんとうにあるのかと。アメリカは、そんなとこに引きずり込まれるのは、嫌だと。

 だから、さっきおっしゃっていた戦争の好きな人たちの視点で一番抜けているのは、誰がやるのですか?ということです。それは自衛隊だろと言うわけ。では、自衛隊がそこで犠牲が当然出るわけですから、どの程度の犠牲まで耐えるのですか?ということが問題になるわけですね。

 僕はイラクの時に、自衛隊は誰も亡くならずに済んですごく良かった。ですから、こっちから鉄砲を撃つことがなかったのでよかったのだけど、いったい何人の犠牲まで耐えられるのだろうということを考えてしまうわけです。それは、主権の問題というのはあらゆる犠牲を払って、と口で言うのは簡単だが、あらゆる犠牲を払うということは、言ってる本人も行くってことなの?という話になるわけだけど、いや、そこは自衛隊と海上保安庁の仕事ですよ、と。そのために給料をもらってるんだからって。ちょっと待ってくれということですね。

 それは、では給料のためにやるのだったら、給料いらないから退職しますといえば、それまでの話。そうすると、守るべき主体がはっきりしないわけですね。そこが一番いまの戦争論に欠けてるところ。現実性を感じられないところが、そこがポイントだろうと思うのですが」

岩上「今言ったように、いったい米軍は何を出来るのか。そもそも米軍は何を維持してるのか。それから、日本はいったいなにが出来るのか。日本は米軍と別の、独自に自分の国防のために、米軍とは関係なく、色々な国防のために必要なことを考えるのかということですよね。

 アメリカは一回引いてしまえばいいですよ。引いてしまって、国土が海自に帰して、我々は米軍基地をそこにもう一度持てるのであれば、日本の領土にやってくるでしょう。でも、日本は日本の国民の生活とか、粉々になって、そして守るべきものもないということになりますよね。それを守るわけだから」

柳沢「そこは、難しいのは、やっぱり本気で戦争するとなれば、そこは覚悟せざるをえないのですね。それは。本当に。だからある日突然、東京が攻められれば、それはもう、犠牲が多いからやめましょうとは言えない。ただ、問題は尖閣にそれだけの価値があるかということですね」

岩上「東京を火の海にすることと、尖閣で意地のつっぱり合いをすることと」

柳沢「そこは、それだけではなくて、日本だってカードはあるのだけど、中国がレアアースを止めますとか、日本からものを買わないとか、そういう色んな手立てがあるわけですね。それを我々は水平エスカレーションと呼んでいるのですが。さっきの核の撃ち合いまで行く垂直エスカレーションラダーではなく、水平に広がっていく色んな手立てで相手に嫌がらせをするというのが、これからの政治的な戦争というか、戦争的な政治というのか。

 それにどこまで、何人死ぬまでというのは、ちょっと極端な言い方かもしれませんが、どこまで日本は耐えられるのですか?レアアースを止められて、ビジネスマンが拘束されましたよね。そういうことを中国がやってきそうな手立てをいろいろ考えて、それが実は最悪のシナリオなんだろうと思うんです。

 そこのところを無視して、それはとりあえず、1回の開戦というか、バトルで勝つことは当然可能なのですが、勝ってどうするのだ?ということですね。それで戦争が終わるわけではないのでね。そういう全体のシナリオを考えなければいけないということだと思います。

 それから、少しさっきミサイル防衛の話も出て、これは5月号の、もう発売されていますが『世界』という雑誌のなかで、私が集団的自衛権の問題に対する批判を書いたのですが、たとえば今回の北朝鮮がやろうとしていることも、アメリカと韓国と日本と同時に叩こうとするわけですね。本気で戦争をするならば。

 アメリカに飛んでいくミサイルを日本が落とさないと同盟が壊れるって、そんな問題ではない。日本は日本に飛んでくるものを落とすので精一杯だし、だいいちアメリカに飛んでくミサイルを、計算して後から撃つわけですから、追いつくわけないんですよ。物理的に不可能なシナリオ。

 それから、公海上で米韓が攻撃された時に守ってやるという話だって、それは日本の近くでアメリカの船が攻撃されるというのは、それはもう日本有事そのもの」

岩上「そうですよね」

柳沢「ですから」

岩上「自分たちも攻撃されてますよね」

柳沢「なぜ、わざわざそういう無理な想定を引っ張りだして集団的自衛権をやらなければいけないのか。それがぜんぜん見えないところに、今非常に、議論としても私は雑だと思うし、その政治的な意図が全く説明されないところが、非常に大きな危うさを感じます」

岩上「どういう政治的意図でやっていると思いますか?ひとつひとつの話は、防衛に関する話は雑な話が多すぎるんですよ。たとえば、普天間のことでも、そこに海兵隊がいたら、さっき言ったミサイル3発でやられてしまうのだと。だから、彼らは下がると言ってる。下がると言ってるのに辺野古に基地を作れと。アメリカも間違いなく言ってるのですよ。そして、日本も作るのだと言ってる。

 何のために、どうして必要なのという説明が、どう考えてもわからない。しかもそこにオスプレイ。オスプレイはさきほども言ったように、極東有事、本当に戦争になったときに、役に立たないでしょうと。ミサイルの撃ち合いの時に、戦闘能力のないヘリコプターをバラバラ飛ばしてる場合ではないだろうと思うのですよ。それらが最優先で、バカ高い金をかけて入れる。日本側も入れる。これは外務省主導で、防衛省は、難色を示したという。

 つまり、戦争に使う目的が何位も分からないのに買い入れてる。なんでこんなくだらないことが延々続いてるのか。そのへんはどうなのでしょう?」

柳沢「だから、この話に繋がるんですが。結局、アメリカとの同盟というもの以外に思考の軸がないからだというのが私の結論なのです。これは当時、小泉総理がアメリカの戦争を支持するという。さらに自衛隊を出して、戦後復興にも関与していったのだけど、他の選択肢もあるわけですよね。当然ありうるなかで、どうしてそういうことになったかというと、結局、日米同盟を維持していかなければ、いざという時守ってもらえないと小泉さんがそう言ってますよ。

 国連とどうやって同盟が組めるのですか?と。アメリカしかないでしょうと。それはそれで間違ってはいないし、本音として正直だと思うのだけれど、いや、それしかなかったところに実は一番大きな問題があって。

 私は官邸に言ったのは、自衛隊がもうサマワに行ってからなのですが、その後、起きてきたいろんなことを書かせて頂いてるのですが、常任理事国に入ろうとしたと。しかし、かたや一緒になろうとしていたドイツは、イラク戦争に反対したということを大きな売り物にしていたわけですね。

 日本はイラクに自衛隊を出して、戦後復興に貢献しているというのを売り物にしてる」

岩上「ドイツはイラク戦争に反対した。それだけ政治的に自立した、自らの主張を持つ大国なのだということを」

柳沢「言っています。一方で、アフガニスタンには出してるわけです。アフガニスタンには、これでドイツの戦後の抑制的な防衛政策は911で終わりを告げたのだということで、アフガニスタンには出した。

 今それで往生していますが。実は。だけど、イラクは大義がないから支持しないという姿勢だったわけです。カナダもアフガニスタンには出しているけど、イラクには出していない。なぜそういう同じアメリカの同盟国でありながら、それは北朝鮮の脅威があったからと、当時、私は思っていましたし、だからアメリカにくっついて常任理事国になって、国際的なパワーを持つことが必要なんだというのが、私が支持していた理由なんです。ということが、書いてありますが。

 だけど、それってその後、常任理事国入りもダメになったし、それから安倍政権の時には、集団的自衛権と日本版NSCが出てきて、かつてない良好な同盟関係というものを制度化しようとしてたわけですね。

 ところが、その流れってなんだと言ったら、ブーツ・オン・ザ・グラウンドで軍事的なリスクをグローバルに共有するという流れであったわけですね。それは日米同盟を良好に保つという発想のなかで、そこまで行き着いたわけですよ。

 その後、アメリカはイラクから引いてしまう。じゃあ、今何をしたらいいんですか?ということが分からなくなってしまっている。もう明らかに、さっきのエアシーバトルにしても、中国との付き合い方にしても、日本とアメリカの間にすごく戦略的なポジションの違いがありますよね。そこを無視して、とにかくアメリカとの同盟だけに依拠しようとしていったら、日本のカードってものすごく限定されますよね。

 ということに思い至ったというのが、全体のあらすじなんです」

岩上「ちょっとお聞きしたいことがいろいろあります。まず、このイラク戦争にアメリカがやろうとした時、そして、その前段階として911があった。そしてアメリカが激昂し、テロ対策、対策とは言いませんね。対テロ戦争と言って、オサマ・ビン・ラディン率いるアルカイダ、そしてアルカイダが潜んでいるところがアフガニスタンのタリバン。オマールが匿っていると言った。だから、叩くのだと。

 本当だったら警察行動なのですよね。つまり、犯罪があった。犯罪があったのだから、その首謀者であるビン・ラディンを拘束、殺害する。その組織を一網打尽にする警察行動が、なぜか戦争になり、アフガニスタンという国家を相手に戦争を始めると。本当はこれ論理飛躍してるのに、当時は、国際社会は付き従いました」

柳沢「国連も認めてしまったわけですね」

岩上「ですね。この時点においては、この時点とイラクとは明らかに次元の違う話だと思うのですが、あの時点では、政府の中枢にいて、柳沢さんはどのようにお考えになり、どのように自分を納得させてお仕事をやられたのでしょうか?」

柳沢「あの頃、私はまだ防衛研究所だったと思うのですが、防衛庁のほうだったかな。とにかく大変なことが起きたわけで、アメリカがもう地球規模でそういうテロの芽を根絶するという戦いに、これから入っていくのだという。それは、私は日本は同じような脅威に当面晒されてはいないと思ったのです。島国だし。外国人が入ってくるやつをチェックすれば、水際でなんとかなると思っていたし。

 けれど、そういう元を断つことも非常に重要なので、それはアメリカがそういうことをやって、私は当時アメリカが負けると思っていませんでしたから。アメリカは万能だと思っていたので、それはそれで、911のような脅威に対して、当然の対応だと思って、私は指示をしていたわけですね」

岩上「アメリカが負けると思っていなかったというのは、アフガニスタンにある国家を粉々にするという意味ではなく、アフガニスタンに潜むアルカイダと、それをかばっているタリバンを叩けば、アフガニスタンに平和が訪れる。アフガニスタンの国民からも、あるいは他の政治勢力からも感謝される。こんなようなシナリオをイメージしていたということですか?」

柳沢「そうですね。だから、そこら辺はもう、アメリカのシナリオをそのまま受け入れる前提で、受け入れた上で考えていました。当時の防衛官僚も、外務官僚もみんなそうだったのではないかと思いますよ」

岩上「アフガニスタンと僕は聞いた時に、僕はソ連の終わりの頃、取材してたせいもありますが、アフガニスタンの帰還兵がボロボロになっていたり、79年のソ連のアフガン侵攻によって、ソ連という国がものすごく疲弊してしまいました。

 あれは、民間の生活を見てても、その影響がそこかしこに出てたんですね。アフガニスタンというのはなんていうところだと。帝国の墓場だなと。歴史を見ると、大英帝国もそこに踏み入れて、結局、叩き出されるんですね。

 アメリカがアフガニスタンに手を出した。アメリカの終わりの始まりだなと、実はこう僕は思っていたんです。しょせん。ところがかなりのスピードで平らげました。アフガニスタンの初戦勝利。だから、やっぱり桁違いなアメリカの力なんだなと思いました。だから、入り方が逆で、僕はアフガニスタンは手強いぞと思ってたんです。

 ところが、1カ月後には、その認識を改めました。僕はトライバルエリアにまで行きましたので、最初のミサイル着弾の話があるときに、脱出して来ましたから、現地で取材しておりました」

柳沢「そうですか」

岩上「外務省に怒られながら。行かないでくださいよと言っても、そうはいかないよねと言って、あのトライバルエリアにずっといたんです。僕の泊まってるホテルのすぐ近くに、もう散発的ですが、ロケット弾が着弾したりとか、そういうことも起こってました。でも、意気軒昂なんですよ。本当に。パシュトゥン人という人たちは。

 だから、これは簡単に屈する気はないのではないかなと。でも、圧倒的な火力の前に、それにひれ伏すのかなと思っていたんです。そしたら、僕の間違いだと思っていたのですが、その後もずっと今日も続いてるんですよ」

柳沢「そうですね」

岩上「今日も続いてるというのはどういうことだと。つまり、負けたのでしょう。アメリカは」

柳沢「昔、日本軍が中国で戦線拡大していったのと同じ側面があって、首都さえ取って中央政府を作れば済む国ではなかったんですね。イラクについても同じ間違いを犯しています。イラクのほうがずっと国として組織されていたから、アフガニスタンよりももっと簡単だと思っていたに相違ないので、たしかにあそこは、なんて言うか。どうしようもないところですね。本当に」

岩上「これはブッシュが、日本のようにするのだということを言ってました。日本はあっさりとアメリカに付き従う国に変わっていったのですが、イラクは変わろうともしなかった。アフガニスタンもそうでした。これは、やはり彼らは屈従しようとしない。イラクなんて粉々になったあと、親アメリカの政府が立った。その政府も裁判権を渡さないという対応でしたよね」

柳沢「ええ、そうです。あれはすごいですよね。日本政府で、いま地位協定が問題になってるのは、まさにそこですからね」

岩上「そうですよね。これを日本人が何年間もいつまでも占領してるなと。地位協定なんてもう止めてくれと。治外法権なんて考えられないと。それから、自由に、好きなように好きなだけアメリカの基地に、アメリカにいてもらう必要はないということを言えない。未だに。

 というのは、結局、これは同盟とは言わなくて、追従なのではないかと。だから、とても、このアフガン、イラクの示した彼らは本当に物分かりの悪い、我々が考えている世界と同じ人達にはならない人たちだけど」

柳沢「一種の文明の衝突であり、自己アイデンティティの衝突ですからね。ですから、日本のさっきの憲法の議論、戦争の議論をしていくとすれば、根底にあるのは、日本のアイデンティティだと思うのですね。

 日本というのはどういう国で、どのような世界を望ましいと思っていて、そのためにどのような基準で軍隊、外交を使っていこうとしてるのかということが、はっきり示されなければいけない。そのアイデンティティが結局、アメリカに従う国という以外のアイデンティティがないというところ。そこが一番深刻ですよね」

岩上「深刻です。つまり、アメリカの掲げた計画が、日本とアメリカの利益が異なるわけですから、同じ人間ではなくて」

柳沢「そうそう。異なって当然なんです」

岩上「異なって当然ですよね。地政学的にも別のポジションにありますから。アメリカは非常に遠く離れてヒット・アンド・アウェイができるかも知れない。中国や朝鮮半島に。だけど、我々はすぐそばにいて、ヒット・アンド・アウェイにはならない。もう相手のショートパンチの届く範囲内から一歩も出られないわけですよね。ステップアウトできない。

 そうすると、そこは戦場になる。僕たちには僕たちの違う戦略が、違う政治があるはずなのだけど、アメリカにいいようにくっついていくということを続けていていいのかということを、本気でお考えになり始めたと。

 これは、先ほどおっしゃったアフガニスタンが始まった時、あるいはイラクが始まった時、その戦略が正しいと思って、支持していたということでありましたが、どの辺りから、アメリカに、ただただ唯々諾々と従っていくということは、日本にとってそれは、国際社会における日本の地位を向上されることにも役立つはずだと信じていたからこそ、つまりリターンがあるからこそ付き従ったと。

 そのリターンがなかった。国連常任理事国にもならなかった。その他、その他考えて、あれ?と。考えてみると、必ずしも日本にとっていいことばかりではない。約束は果たされない。なんか、ただ使い捨てで利用されているだけではないか。こういう思いもなくはない。そういうことが、しかし柳沢さんの気持ちを本当に変えるきっかけになったのでしょうか?

 それとも何か他の面で、アメリカに付き従ってるだけでは、日本の国益の追求にはならないと思うどこか転換点があったのかどうか?」

柳沢「何かひとつの転換点ということはないです。それは、仕事の面ではすごく私は苦労したし、それは今でも誇りに思っているのですが、やっぱり外務省の、私の年次の若い人たちが、アメリカに行ってちょこちょこっと話してくると。それが総理にちょこちょこっと報告されると。それが方針になって降りてきて、私はそのために、国会の根回しをやらなければいけなくなる。法律を書かなければいけなくなると、これは一体なんだろうという。そんなことがあったり。

 あるいは、イラクの自衛隊が、さっきの何人死ぬまでもつんだろうかと、すごく心配してました。それは自衛隊のためにも心配してたんですね。ところが、ここにも書いたのですが、いや、一人怪我したら帰ってこないと、内閣が潰れるよという話で。それは軍隊の使い方として、任務を達成するかどうかが大事なので、そんな程度のいい加減な気持ちで出してたとすれば、これはやっぱり違うのではないかとか。

 いろんな政治家とのやり取りのなかで、その後のいろんな、イラクから自衛隊が引いたら、今度はアフガニスタンに出さなければいけないねと本気で考えてる政治家もいましたから。いったい、そういう努力が今どう出てきてるの?と考えたときに、まったく何にも日本の経験として蓄積されてない。アメリカに対する貸しとしても認識されていない」

岩上「そうですよね。ここ腹立たしいですよね」

柳沢「あまり僕は腹は立たないけれど、つまり、同盟のために日本があるのではなく、日本の安全のために同盟があるのだから。では、日本の安全のために他のものがあってもいいわけですね。そういう同盟が自己目的化してしまって、同盟しか目に入ってないというのが、自分自身の反省点として出てきてるわけですね。

 その沖縄基地問題なんかを、辞めてからずっと見てますと、まさに私の後輩の官僚みなさまが、やっぱり同じループのなかで、それはそれでいいので、そこから抜け出すのはものすごいエネルギーがいるし、また知的なエネルギーも必要なのですね。その意味で、半分横着してるのだと思うけれど。ただそれだけでは」

岩上「子分をやってるほうが、考えないで、親分にくっついて、あとはなんにも考えないでくっついて行くほうがいいと」

柳沢「そのほうが楽ですよね。だけど、さっきおっしゃったように、すごく安全保障、防衛に関しては政府の説明が雑だよねと、こうおっしゃる。どこからその雑さがきてるかと言ったら、やっぱり自分の頭で考えてないからだと思うんですね。アメリカが抑止力だと言えば抑止力だと。滑走路が3つ必要だと言えば3つ必要だと言うと。

 それはだけど、そこは自衛隊がやるから、アメリカはいなくていいよと、なぜ言えないのだということですよね、そこは」

岩上「ええ。アメリカはもうちょっとでも傷付くのが嫌だから下がるわけですよね。そんなところに、日本はその戦場から逃げられないのだから、そこで自衛隊が踏ん張る以外にないわけですから、自衛隊のためにあるというならまだしも、なんで沖縄の県民が嫌がっているのに、そこまでやるのかという話ですよね。馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない」

柳沢「なんていうか、そこは自分で戦略構想が立てられないんですね」

岩上「日本という国が?」

柳沢「だから、中国が大きくなってきたのと、どう向き合おうかって、アメリカはアメリカなりのエアシーバトルから始まって、オバマの対等なパートナーだという」

岩上「G2で」

柳沢「それからTPPもあるし。そういう形で握手しながら警戒しながら付き合いをしている。では、日本は中国とどう付き合っていくの?というところが、まずやっぱりアメリカでしょうという話になってしまって、まずアメリカはいいけど、次は?というと、なんにも出てこないというところが」

岩上「ここで、僕、年来のすごい大きな懸念があるんです。今言ったように、これは対ソ連とのときの封じ込め戦略と、ジョージ・ケナン(※)が言っていたように封じ込め戦略のときとぜんぜん違いますよね。中国に対しては。アメリカは、アメリカ人というのは投資というのを重要に思います。

(※)ジョージ・フロスト・ケナン(英: George Frost Kennan、1904年2月16日 – 2005年3月17日)は、アメリカ合衆国の外交官、政治学者、歴史家。1940年代から1950年代末にかけての外交政策立案者で、ソ連の封じ込めを柱とするアメリカの冷戦政策を計画したことで知られる。プリンストン高等研究所名誉教授を務めた。ピューリツァー賞を受賞した。探検家で作家の大叔父も、同姓同名のジョージ・ケナン(1845年 – 1924年)である。

 中国に投資してます。アメリカはやっぱり金持ちが牛耳ってる国です。この投資が滅茶苦茶になるような、そういう無謀な戦争を絶対させないで」

柳沢「日本だって同じですよね。それはね」

岩上「投資してますよね。ところが、日本人は日本の投資家のための保護のために、自国の、たとえば軍事力を使いうるかと。そんなこと少しも考えていない。できないわけでしょう。アメリカは中国に投資していて、今まさに柳沢さんがおっしゃったように、仲良くしようということ。自分たちが落ちていく経済を中国というところに投資しながらも、付き合うことで、あるいは中国の市場を使うことで、生きながらえようとも思っている。一方で思っていながらも、戦争が起こったときの準備もしている。硬軟両刀じゃないですか。

 その時、日本と中国が仲良くしようとしたときに、すごい妨害がありました。東アジア共同体を作るというのはバッツリ切って、そしてTPPという日本にとって経済的なメリットなんてほとんど考えられないようなものに引きずり込もうとしてる。

 これはある意味、軍事ブロックみたいなもの。日本は思考停止、思考停止、アメリカにくっついて行くというときに、結局、アメリカにとっての日本の利用価値は、いざという時に、中国とのすぐ近くにある懐のすぐそばにある脇腹を狙う鉄砲玉に使うという手にしか見えないのですよ。捨て駒にされてしまうのではないか。

 戦略的に自分たちが捨て駒にされるということを、可能性があるということを防衛関係者が真剣に気づかれたりしていらっしゃるのでしょうか?」

柳沢「捨て駒にされるというほど露骨な形にはならないと思いますが、冷戦時代にあった日本の議論は、日米安保によってアメリカの戦争に巻き込まれるではないかという議論。今は、逆にアメリカが、日本と中国の戦争に巻き込まれることを心配してるわけでしょう。

 だから、そういうなかで、別にアメリカは、私は付き合うアメリカ人はそんな悪いやつではないし、アメリカは別に嫌いな国じゃないけれど、さっき申し上げたように、イラク、アフガンほどではないけれど、日本と中国だって、過去の歴史も含めて、アイデンティティの問題ですよ。もう今、中国は経済的にうまくやっていくのが、それはもう依存はないけど、政治的にも軍事的にも大国になった中国に、ちゃんと日本なりの気遣いをしろよということを彼らは思っているわけですね。

 日本は、今や自分は経済的にも抜かれちゃって、このまま行ったらジリ貧になっていく。だけど、そこは何とかしたいという、そういうアイデンティティがあるわけ。つまり、だからお互いのアイデンティティのギャップを認め合わないと、当然、その歴史認識だって違ってくるし、その時に、今の例えば安倍政権が、今そう露骨には言ってないが、憲法を改正して出してこようとしている国家像って、いわゆる自虐的歴史観の見直しみたいな。

 結局、非常に復古主義的な、昔日本がやっていた姿が日本のアイデンティティを、そこに求めようとしているとすれば、それは僕は大きな間違いだと思うし、まさにそこを、日本ってどういう国でありたいの?というところを、また一から議論し直していいんだと思います」

岩上「そうですよね。その時に、1つのあり方が戦前回帰だと。それもあり方でしょうということを認めるとしましょう。それは、早い話が大日本帝国を作るのだと。大日本帝国を作る。欽定憲法を復活される。天皇は神聖だと。天皇神聖不可侵で、天皇の大権のもと、国会とかその他の機関というのは、一段下にあるような国にするのだと。基本的人権を制約するのだと。日本は国民ではなくて、臣民になる。もう1回、再皇民化だということでもいいです。

 彼らがそう望むというなら。でも、それならそれで、明治から1945年まであった大日本帝国というのは、曲がりなりにも主権国家で、どこかに従属しているような国ではなく、主体として動いていたと思うんですね。これはもちろん、この国の振る舞いが許せないという人たちがたくさんいるのは了解してます。

 そのうえで言っているのですが、今、安倍さんがやってることは、ものすごいアメリカへのへつらいだと思いますし、アメリカの一部の戦略家、アーミテージ(※)のような人や、ヘリテージだとか、マイケル・グリーン(※)とか、こういうような人たちに、ありがとうございます、ありがとうございますと言って、彼らがオーダー出してきます。本当にうるさいぐらいに、命令口調で。そのオーダーを次々、次々、タスクをクリアして、原発は推進しろ、TPPに入れ、そして集団的自衛権は容認しろ、そして、憲法改正しろ、そしてシェールガス入れ。そのために20兆の金をよこせと。

(※)
アーミテージ 米国の政治家・軍人。ベトナム戦争に従軍の後、国防省情報部員などを経て政界入り。レーガン政権では国防次官補などを歴任。知日派として日米外交に大きな役割を果たした。以後も共和党の重鎮として活躍し、ブッシュ政権では国務副長官に就任するが、イラク戦争に反対して辞任した。(コトバンクより)

マイケル・ジョナサン・グリーン(Michael Jonathan Green, 1961年 – )は、アメリカ合衆国の政治学者。専門は東アジアの政治外交、特に日本の安全保障政策。現在はジョージタウン大学外交政策学部准教授、戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問・日本部長。知日派のアメリカ要人として知られるリチャード・アーミテージらがまとめた日米同盟強化を提唱する超党派の政策提言「アーミテージ・レポート(2000年)」、「第二次アーミテージレポート(2007年)」にも執筆者として加わっている。(Weblio辞書より)

 もう言われるままにこなしてるんですよ。それって、一見マッチョな大日本帝国が戻ってくるんですが、実はアメリカの子分、アメリカの徹底的に言いなりの舎弟になると。ただのポチ。ただの保護国。

 アメリカの戦略家、たとえばブレジンスキー(※)なんかも、あるいはブレジンスキーは日本に対してクールですが、日本に対してとても同情的だったり、共感的なチャルマーズ・ジョンソン(※)のような人も、はっきりと普通に保護国と書いてます。だから、要するに、属国ということを言われてるわけです」

(※)ズビグネフ・カジミエシュ・ブレジンスキー(Zbigniew Kazimierz Brzeziński, 1928年3月28日 – )は、アメリカ在住の政治学者。カーター政権時の国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたことで知られる。 ポーランド出身。カナダ育ち。1958年にアメリカ市民権を取得。(Weblio辞書より)

(※)チャルマーズ・ジョンソン アリゾナ州フェニックス生まれ。カリフォルニア大学バークレー校で博士号取得。カリフォルニア大学バークレー校、カリフォルニア大学サンディエゴ校教授を経て、民間シンクタンクJapan Policy Research Institute(日本政策研究所)の所長を務めた。元中央情報局顧問。タカ派の論客だったが反軍主義に転向。

 2010年5月6日付けロサンゼルス・タイムズ読者欄に「新たな沖縄での闘い」と題して、普天間基地代替施設移設問題に関し“米国は傲慢ぶりをやめて、普天間(のアメリカ海兵隊部隊)を米本土に戻すべきだ”とする主張を投稿。「私は憶病な鳩山由紀夫首相よりも、傲慢な米政府を非難する。基地を維持することに取り憑かれ、受け入れ国のことを顧みない」と指摘し、「普天間の返還とともに、米国は沖縄の人々に対して65年間もの辛抱に感謝すべきだ」と述べている。(Weblio辞書より)

柳沢「そう。プロテクト・レイト(※)ということですね」

(※)プロテクトレイト(protectorate) 保護領、保護国。(Weblio辞書より)

岩上「ですね。その属国、保護国とはっきり言われてるのに、あたかも国内で、我々はそうでないかのように振舞ってる。茶番もいいところです。こんな無様な茶番は止めてくれと僕は言いたいんですね。

 大日本帝国属国。つまり、アメリカの巨大な帝国の、実はインチキな、国民に対してだけ、ごまかしの効くなんかの王様の国。だけれども、実際、中身は完全な属国になっていくと。こんなの。TPPなんて入ったら、まずその度合がひどくなると思うんですよ。やることなること精神分裂症みたいな」

柳沢「関税主権の放棄ですからね。つまり」

岩上「そうですよね。このようなことが、ISDもそうです。ISDもアメリカの企業が気に食わないから、日本の制度をことごとく訴えていって、そして日本の国内の裁判所ではなくて、世銀の仲裁センターから、はい、日本政府、賠償金を払え、と。こんなふうになって、事実上、アメリカの植民地、アメリカの経済的な植民地になっていってしまう。

 そんなものをなんで受け入れて主権の強化みたいなことを言ってるのか分からないんですよね。この点に関しては、戦略家として戦略を考えうる立場として、考えてこられた立場として、国家が、アメリカから自立して、アメリカの思惑とは関係ないところで、自分たちの自国の主権、あるいは国益を追求するべきなんだと考え始められたというふうに柳沢さんはおっしゃっていますが、今向かっている、菅、野田、安倍と来ている。同じようなことをやってるんです。安倍政権はもっとひどいですが、この方向ってただの属国の強化。偽装主権国家に向かっているのではないですか?」

柳沢「もし、そのアイデンティティを戦前に戻すとすれば、それは、第2次大戦というか、戦争をもう一度見直してどこが間違っていたか、しっかり検証しなければいけないでしょうねということがひとつ。あれを、あの戦争は正しかったのだと言いながら、戦前の日本を目指していくとすれば、それはもう世界のなかで孤立するしかなくなるので、そこにまず大きな矛盾があるのだろうと思います。

 それから、戦後の歴史のなかで言えば、冷戦の時代は、これは選択したわけですね。軽武装で経済、アメリカもそれを促したわけだし、アメリカに守ってもらいながら、日本は経済復興に専念して、世界第2位の経済大国になってきましたと。

 それが、アメリカの力が相対的に弱まっていくなかで、色々構造改革の議論とか、資本の自由化の議論が出てきて、まさにそれは今の金融資本がこれだけ大きくなって、多国籍化していってることの当然の帰結という側面があって、その延長線上にTPPがあり、郵政民営化もその延長線上にあったわけですが、そこのところで一点、その国際金融資本の動きをみれば、合わせざるをえないところがあると思うのですが、それは万能薬ではないわけですね。

 それはそれで、認識しながらやっていくか、万能薬だと思って、これでバラ色の未来を描くとしたら、そこはもう明らかに間違いだし、そこで自立性は保てなくなるわけだし、やはり、僕はもう、極端に言えば、日本はどういう国になりたいかというときに、ブータンモデルがひとつあるでしょうと。しかしああはなれませんと。では、アメリカモデルがあるよねと。世界中、どこでも軍事力を使ってやっていくねと。それもできないよねと。では日本というのは所詮、2番手か3番手。中程度の国なんだよねと。

 そしたら、そのなかで何を以って自分の価値を高めて行くかといえば、もちろん、それは自分の国をまともに守れないということはないだろうから、必要な防衛力は持つとして、外に向かって働きかけるものは、やはり平和に解決するルールを提示するとか、色々日本独自の価値観が世界の標準になっていくような、そういう道を見出していかないといけないということだと思うのですね。そういう作業がまったくなされないまま、冷戦時代の変な成功体験があって」

岩上「追随していけば豊かになったという。追随が戦略といえるかどうか分かりませんが」

柳沢「実はその後バブルの崩壊とか、色々痛い目にも遭ってるのですが」

岩上「でも、まだ追随することによって、アメリカの場合は、追随させることによって、日本と韓国を従属させることによって、FTAやTPPに巻き込んで、そしてその国の富を吸い上げ、かつ、経済的な支配をより強化しようと。

 実際、韓国なんかは、ごく少数の財閥をみると、その少数の財閥の株主構成は外資だらけですよ。そして、金融機関なんかも、ハナ銀行(※)というのが一番ひどかったと思いますが、78%外資です。もうそれは民族資本ではないですよね。

(※)ハナ銀行(ハナぎんこう)は、大韓民国に所在する銀行。1971年に韓国投資金融として設立され、1991年に銀行へ転換し、現在の名称となった。本店はソウル特別市に置く。(Weblio辞書)

 国のそういう資本が外資に乗っ取られてしまったら、その国というのはコントロールされてしまうわけですよね。日本は民族資本を守ってきた。守って育ててきて、主権国家として明治テイクオフしたはずなのに、それを明け渡そうとしているというのは、最悪の選択ではないかと思うのですが」

柳沢「どこまでほんとうに外資の支配、支配というか、外資を入れるかというのもすごく考えものなんですよね。だけど、そこを自由化しないとまた上位にできないという部分もあるから、上位にするならするでいいけど、このルールの、このゲームの危うさがどこにあるかってことをちゃんと認識しながらやるということでしょうね。

 やっぱり、ものづくりで生きていくのか。マネーゲームで生きていくのか。軍隊で生きていくのか。健全な価値観で生きていくのか。そういうことを選択しなければいけない。そういう時期だと思います」

岩上「そうですね。この本のなかに、大変印象深いところがありました。178ページなのですが、これはアメリカの、今『Pivot to Asia』ということで、アメリカのアジア回帰のなかで、と。こういうふうに題されたところがあります。アメリカのアジア回帰のなかで、というところに、第2次大戦後、アメリカは世界中に軍事力を展開すると共に、世界中で通用するドルの力で、各国を援助してきた。永遠に優位だと考えられてきた。これをまだ信じ込んでいる日本人が多数なのですが、軍事力と基軸通貨ドルの力によって支えられてきたパックス・アメリカーナが揺らぎ始めていったと。

 40年後、アメリカは長引くイラン、イラク、アフガニスタンの戦争から余儀なくされると共に、負傷した兵士への補償も含めれば、3兆ドルに及ぶとも言われる戦費負担。スティグリッツ(※)からですが、によって、膨大な国家債務を抱えている。エアシーバトルのことも言及されてます。

(※)スティグリッツ 【Joseph Eugene Stiglitz】米国の経済学者。情報の非対称性を伴う市場の分析により2001年にノーベル賞経済学賞を受賞。クリントン政権下で大統領経済諮問委員会委員長を務めた後、世界銀行の上級副総裁兼チーフエコノミストに就任するなど実務家としても活躍。著書に「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」「スティグリッツ国連報告」など。(コトバンクより)

 アメリカエアシーバトル構想に従い、グアム、オーストラリアを拠点とする遠距離からの戦力投入能力によって、西太平洋と南シナ海への新たな軍事的プレゼンスの確率を狙っているということ。

 そして、TPPを模索していると。同時に未曾有のドル安を放置して、世界の成長センターとなったアジアの経済圏を取り込むために、環太平洋パートナーシップを模索している。で、アメリカのアジア回帰とは、世界規模に展開した軍事力と強いドルに代わって、アジアの周辺部に分散配置した軍事力と弱いドルによって、アジア限定版のパックス・アメリカーナを再構築する試みにほかならないと。

 こういうことなんですね。つまり、アメリカのアジア回帰というのは、アメリカが一極支配できていた、ついこの間までやってた。だから、まだその残像のなかに我々、あるいは多くの日本人も、日本の政治家も官僚もメディアもあるように思うのですが、そういう世界規模に展開した軍事力と強いドルというのはもう終わっていて、逆にもうアメリカは弱体化して、弱体してるからこそ、アジアの周辺部に分散している軍事力をかき集め、そして弱いドルでアジア限定版のパックス・アメリカーナを作ろうと。一種ブロックを作ろうと。小さなアメリカの帝国、その帝国の一部に日本を組み込んでしまおうという話。

 こういうアメリカのアジア戦略のなかで、日米同盟を深化させることは容易なことではない。アメリカが何をしたいのかが不明確であるからだと。むしろ、日本が何をしたいのか、明確化しなければ、アメリカとの対話も進まないだろうと。

 そして、日本周辺を見れば、大国として自己主張を強めようとする中国の能力と意図は明確だと。北朝鮮の瀬戸際外交も分かりやすいと。エネルギーを通じて影響力を拡大しようとするロシアの意図も明確だと。もっとも不確実なのは、アメリカだと言っても過言ではないと。

 そして、周辺諸国との自己認知をめぐる対立においては、アメリカの同盟国である日本。ここは、従属国であると言ったほうが正確だと思うのですが、というアイデンティティ以外の自己認知を持たないことが決定的なハンディキャップとなる。

 しかし、さりとてアジアの侵略を美化するような復古主義的アイデンティティが通用するはずもないと。日米同盟だけに頼らない戦略的思考軸と、その前提となる日本の国家像が必要なゆえんであると。

 すいません。長々、引用させていただいて。できるだけ多くの方に、このくだりを胸に刻んで聞いてもらいたいなと思ったのですが。ということは、とにかく日本がこのジャイアンにくっついていく何も考えないスネオであることをやめることから始めるのが先なのか、どうしたらいいのでしょうか?」

柳沢「いやあ、それは一気にはやめられないんですね。だから、私は、だから日米安保を破棄すれば、すべてがうまくいくという主張にも反対なのは、それは、最後の目標であって、スタートではないだろうと。そこに向かって、何をしていったらいいのかということを、それを本当に、私はたぶん官僚と政治家がアメリカ信仰の頭を切り替えないと、新しいものは見えてこない。

 よく言われるのは、お前はそうやって批判するけれど、お前なりの戦略はなんなのだと。言ってみろと、こう来るわけですが、それは次の僕の宿題だと思いますが、それは、もう私がどっぷりハマっていたように、何十年もかけて膨大な官僚機構が、日米同盟のみに適用する政策体系を作ってきたものを、一気に違う体系が出来るわけがないので、そこがやっぱりちょっとおかしいのではないのか、という問題意識を少しずつ広めていくしかないというか。他に手っ取り早いやり口はないのだろうと思うんです。

 そういうことを微力でもすこしずつ共鳴する人を増やしていくのが、これからの私の残された人生の課題ということです」

岩上「これは本当に考えなければいけないことで、そしてあらゆる分野に言えることですよね。日米同盟をなくして、というそれが目標だとしても、目標として日米同盟に頼らない日本を作ろうという目標を誰か掲げたら、掲げたところから始まりはすると思うんですよ。議論が。掲げる人がいない。

 でも、過去見ていて、冷戦体制華やかな頃の選択として、日米安保反対と言っていた時には、その向こう側にソ連や中国がいて、共産主義もしくは社会主義化ということで、モデルがあったわけです。でも、そんなモデルは今ないわけですね。

 そんなモデルのないなか、日米同盟を超えて新しい我々の自立した日本を作ろうと言い出すと。これは誰も模索したことがないのではないか。ちょっと思っていたんです。ところが、あまり大きく言われてないですが、冷戦が崩壊したあと、90年代の冒頭、非自民党政権が生まれました。そして、その前後、一極集中型の防衛ではなく、多極外交など言われました。自衛隊というか、防衛省のなかでも、西広さんという方」

柳沢「そうです。渡辺明夫先生が中心になって西広の時代にまとめた樋口アサヒ会長のレポートですね」

岩上「樋口レポートですね」

柳沢「樋口レポートのなかでは、多角的安全保障という」

岩上「これはどうなんですか?これは、その後アメリカの圧力なのか、日本国内の巻き返しなのか、同盟派の巻き返しなのか、要するにそうした政治と官僚が一体となって、あるいは財界も一体となって、多極的な、アメリカの従属から少し身を捩って離れようというような試みだったのではないかと思うのですが、潰されてしまったのですか?」

柳沢「それほど意識はなかったと思いますよ。ただ、ごく自然に、これからは敵がいなくなったのだから、どうやって味方を増やそうかということが大事だよねということで、多角的安全保障という概念が出てきた。

 その時の短期的な話としてはアメリカが危機感を持ったのですね。これは日本がアメリカ離れを始めるのではないかという危機感があって、とくに防衛外務の政策当局に働きかけて、だんだんその方向性が薄まって、やっぱり日米同盟だよねと。

 それで、日米同盟は日本防衛だけじゃなくて、地域の安全に役立っていくものとして意義があるのだという再定義が行われて、それが拡大していって、イラク戦争の頃になると、グローバルに秩序を維持していくことに意味があるのだというふうに拡大していったわけですね。

 だから、それはもう本当にその路線は行き詰まってきてると思うので」

岩上「あの93年ぐらいの時期を中心とした、たしかに非常に時代的制約があるかもしれません。多角的な安全保障。もしくは自立した安全保障。あの樋口レポートみたいなものをひとつのきっかけとして、もう一度あそこあたりに回帰してみて、針の軸を日米安保以前に戻してみて、もう一度考え直し、それをきっかけに、起点に日本の自主独立みたいなものを考えるという線はありえると思いますか?」

柳沢「それは、ありえると思います。というのは、要するにそれは結局イラク戦争で、日本は同盟を選択してしまったのだけど、やっぱり多国間主義だよねと。国際協調主義だよねというほうに、今逆に触れる動きがあるわけですね」

岩上「ありますか?」

柳沢「そのシンクタンクやなんかには。ただ現実の政策で出てくるのは」

岩上「極端なものばかりですね」

柳沢「同盟強化のほうなのですが。それは国際主義的な側面をもっと意識してちゃんと出して行かないと、言葉だけで、こう3行目にちゃんと書いてあるではないかと。1行目ではないけど、3行目に。1行目には同盟が書いてあって、ちゃんと3行目か4行目の最後のほうに国際主義も書いてあるではないかと、それで済まされてしまうけど、本当にそのことの意味をどう政策に活かすかを考えてみる。だから、今南スーダンに自衛隊は行ってますが、ああいうのは、私はどんどんやっていくべきだと思ってるんです。

 それはしかし、なぜできないかといえば、アメリカが評価しないからですよ。そんなところでやる気が起きないという。だけど、それはアメリカが評価しようがしまいが、日本にとって、日本がここは大事だと思ったら、それはやっていくんだというようなところが、具体的な第1歩を担っていくのではないでしょうか」

岩上「たいへん重要なお話です。樋口レポート、もしかしたら、もう一度再考して、そしてぜんぜん違うものに書き換えて、誰かが第一歩を踏み出していただかないと、どうしたらいいの?だって、日米同盟に従うしかないのでしょう、と多くの人がみんな言うんですよ。専門家が誰か考え出して、始めて、一石を投げていただかないと、我々も、我々のような素人は思考のたたき台すらないと言うような状態だと思うんですよね」

柳沢「そうですね。だから、単独孤立主義か、二国同盟主義か、それか多国間主義かというこの3つをどう組み合わせるかということですからね」

岩上「多国間で、かつ、自主独立しているということではないかと思います」

柳沢「思想において独立すると」

岩上「ということだと思います。ぜひ、皆さん。この『検証・官邸のイラク戦争』イラク戦争から10年経ちました。劣化ウラン弾で、とりわけファルージャはたいへん今でも現地の住民に癌が多発したり、白血病が多発したり、たいへん苦しんでる人たちもいます。

 イラク戦争は大義なき戦争でした。あのとき、我々もいち国民として、イラク戦争に自衛隊が加わること、そしてアメリカがイラクに侵攻していくことを正しい戦争なのではないかと少しは思ってしまったかもしれない。だとしたら、それはわれわれもみな加担者であろうと思います。

 改めて、退官されてから、柳沢さん、ご自身の自省も込めて本を書かれました。ぜひお読みいただければと思います。そして、このことは終わった戦争の話ではなく、今日、我々も起きうるんだということ。アメリカは何も変わっていない。アメリカは相変わらず劣化ウラン弾を使ってます。そして、日本にもそんなものが配備されている。

 そして、そのイラクで起こったようなことが、極端に言うと、この日本列島で起きるかもしれない。そういうことにも合わせ考えながら、戦争についても考えていただければなというふうに思います。柳沢さん、本当に長時間、どうもありがとうございました。いつもいつもありがとうございます」

柳沢「ありがとうございました」

【文字起こし@sekilalazowie, 校正・@85singo 】

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