2025年6月2日、「元米軍人に、米国と米軍の本音を訊く! 米国はNATO5条も、日米安保5条も適用せず、欧州も、日本も、米軍は守らない!!『トランプ大統領の本音としては、(負担金を支払ってこなかったNATO諸国に)本当だったら20年間分、全額払って借金を返してほしい』! 岩上安身によるインタビュー第1193回ゲスト 元米陸軍大尉・軍事コンサルタント 飯柴智亮(いいしば ともあき)氏 第1回」を初配信した。
飯柴智亮氏は、日本生まれの日本人だが、映画『ランボー』に憧れて、米軍に入ることを目指し、19歳の時に単身渡米し、1999年に米国の永住権を取得して、米陸軍に入隊した。
第82空挺師団の少尉となり、2006年には中尉になり、情報担当将校としても活躍した。2009年に退役し、現在は米国に拠点を置く軍事コンサルタントとして活動している。
『自衛隊の弱点 9条を変えても、この国は守れない』(2018年、集英社インターナショナル)『米中激戦! いまの「自衛隊」で日本を守れるか』(国際政治学者・藤井厳喜氏との共著、2017年、ベストセラーズ)、『日米同盟崩壊 もう米軍は日本を中国から守らない』(2011年、集英社)などの著書がある。
日米双方の視点で世界を見ている飯柴氏は、著書『日米同盟崩壊 もう米軍は日本を中国から守らない』の中で、「日米関係の温度差」を指摘し、「『米国のことを理解しているつもりでも、まったく理解していない日本』は、対米関係で必ず失敗する」と、「日米安保の終わり」を予測している。
日米安保条約には、「通告から1年の期間をおけば、いつでも条約を破棄できる」という条項があることを指摘する飯柴氏は、「敗戦国であり東洋の小国である日本」は、「力の落ちたメジャーリーガーのようにドライなアメリカから捨てられる」というのである。
6月2日に初配信したインタビューの第1回目では、「停戦できなければ敗戦あるのみ? 米国に依存しきったウクライナの末路は、日本の未来の姿!?」というテーマで、岩上安身が飯柴氏に話をきいた。
ウクライナ紛争は「代理戦争」である、という点について、「政権交代しても、米軍が直接交戦しないという点では、一貫している」という岩上安身の指摘に対して、飯柴氏は、次のように述べた。
「それはもう予想通りです。というのも、アメリカは個人の権利がすごく重視される国なので、米軍兵士が1人戦場で死ぬと、ものすごいお金がかかるんですね。
残った奥さんとお子さんは、大げさな表現をすると、一生働かなくていいようなぐらいの資金が、一気にどかんと(支給される)。
死んだ時点で、まず、50万ドル(約7160万円)以上、必ず支払われます。そのほかにも、いろいろ手当があって。(中略)
未亡人の方が、しっかり生活できるように、さっき言った50万ドルも含めて、手当するんです。
ですので、ものすごくお金がかかるのは、間違いないです。なので、むやみやたらに、(戦場に)兵士を送れないということなんです」。
さらに飯柴氏は、「特に2001年からのアフガニスタンやイラクの戦争で、数千人の兵士が死んだだけじゃなく、片足がなくなった人間、片腕がなくなった人、視力を失った人とかがいるので、それがアメリカの財政を圧迫している」と述べ、「(米国本土が攻撃されていないのに)他人の戦場に行って、犠牲者を出して、補償金を国税で賄うというのは、理にかなっていないので、今後も、よほどのことがない限り、(米軍は他国の戦場に)出て行かない」と断言した。
一方、飯柴氏は、「代理戦争」というのは、「ベトナム戦争の当時からあった」と、次のように語った。
「ベトナム戦争時代、アメリカが入っていったときも、自分の先輩で、日本人で米軍に入った三島軍曹という方がいらっしゃったんですけれども、南ベトナム人を前面に出して、犠牲者は南ベトナム人で抑える、こちらの米軍の犠牲者は最小限にする、という戦略が、その当時からありました。
基地の構築なんかにしても、米軍基地があったら、その周りを外堀のように、現地の兵士が固めるという感じでした。
それを『代理戦争』とは言わないのかもしれないですけれど、(オフショアバランシングとか、オフショアコントロールといった戦略は)非常に合理的な民族であるアメリカ人の立場からすれば、理にかなっているので、当然といえば当然なんです」。
岩上安身が、「米国はウクライナを支援しても、米軍を直接戦闘には参加させず、トランプ大統領は、欧州のNATO加盟国に対して防衛費負担が不足しているから、NATO加盟国がロシアに攻撃されても、欧州を守らない、NATO5条(集団安全保障)を適用しないと言った。NATO5条を適用しないなら、日米安保も、対中国戦が勃発しても、日米安保5条(集団安全保障)も適用されないということが、現実味を帯びてきましたね」と述べると、飯柴氏は、「本当はトランプ大統領の言いたいことは、ちょっと違う」と、次のように語った。
「大統領の言っていることは(中略)、日米同盟もそうだと思うんですけれども、特にNATOですね、NATOというのは、防衛費を、すべての国が『額』じゃなくて、『国家予算の2%』を出して、みんなでそれでやろうと。
でも2%に達している国というのは、ほとんどないんです。ポーランドとギリシャだったかな、とにかく数ヶ国しかない。ほとんどの国がなくて、ひどい国になると、名前は言いませんが、0.7%になっているわけですね。(中略)
彼らが払っていない部分を払わせようと。
アメリカというのは、借金もものすごくあるので、トランプ大統領の意見としては、『君達が払わなかった分を、アメリカがやらなきゃいけなかったから、これだけアメリカの借金ができてしまった』と。
だから、大統領としては、本当だったら20年間分を、全額払って、借金を返してほしい、というのが、本音なんです」。
飯柴氏は、米国にしてみたら「本当は、今までの分も払ってほしい、というのは、無理な要求ではない」が、「それはさすがにできないから、これからちゃんと2%払えよ、じゃないと(NATOから)脱退しますよと。特にNATOの問題というのは、ほぼヨーロッパですから。アメリカ国土は直接的に侵略されることがないので。現時点では」と付け加えた。
飯柴氏は、今は米国民であり、元米国軍人である。その視点から、ドライで合理的な米国のものの考え方を、詳しく説明している。同盟国とはいえど、そのつきあい方はドライに考えるし、日本流の「甘え」は通じないことがよくわかる。
また、NATOの東方拡大について、飯柴氏は、「自分は、(ワルシャワ条約機構に加盟していた)東側諸国までは、いいと思ったんです。ソ連(旧ソ連邦構成共和国)じゃなかったですし」と述べた上で、「ウクライナは、もともと、ソ連邦の共和国ですし、やり過ぎだろうと。ウクライナをNATOやEUに入れるというのは、自分も反対だった」と明らかにした。
飯柴氏は「これは自分の個人的な意見ですけれど、戦争が終わっても、ウクライナは、NATO、EUには入ることはないと思う」との見方を示し、「別にプーチンの肩を持つわけではないですが、彼にしてみれば、(ウクライナ侵攻は)当然の自衛戦争」だとの見解を示した。
さらに飯柴氏は、「ロシアは不凍港を欲しがるので、数少ない不凍港である、クリミアやオデッサを持つウクライナを取り上げるというのは、神経を逆なでする。反発するのは当然」だと指摘した。
その上で飯柴氏は、「東欧諸国や旧ソ連邦構成共和国のバルト3国まで、NATOやEUに入ったのだから、もうロシアとしては負けなのに、なぜ一線を超えて、ウクライナまで東方拡大を進めたのか、誰がやったのか、自分には謎だ」と述べた。