激戦の地ドンバスまで足を運び、自分の目と耳で調査した「学者魂」の研究者に聞く! 第2次トランプ政権でウクライナ政策が見直される今だからこそ、日本も、2014年のユーロマイダン革命にまで立ち返って現在に至る経緯を検証する必要がある! 岩上安身によるインタビュー第1181回 ゲスト 東京大学法学部・松里公孝教授 第1部・第2回

記事公開日:2025.1.18取材地: テキスト動画独自

(文・IWJ編集部)

特集 ロシア、ウクライナ侵攻!!|特集 IWJが追う ウクライナ危機
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 2025年1月18日、岩上安身による東京大学法学部・松里公孝教授インタビュー第1部・第2回を撮りおろし初配信した。

 ロシア帝国史、ウクライナなど旧ソ連圏の現代政治がご専門の松里教授は、2023年7月に、『ウクライナ動乱~ソ連解体から露ウ戦争まで』(筑摩書房)を上梓した。

 同書は、命がけのドンバス現地での調査と、100人を超える政治家・活動家へのインタビューにもとづき、ウクライナ、クリミア、ドンバスの現代史を深層分析。ユーロマイダン革命(クーデター)、クリミア併合、ドンバスの分離政権と戦争、ロシアの対ウクライナ開戦準備など、その知られざる実態を内側から徹底解明した、他に類を見ない貴重な一冊である。

 インタビューは、この松里教授の著書に沿って、連続シリーズで進めている。2024年12月17日に初配信した、インタビューの第1部・第1回は、ぜひ、以下の会員向けIWJサイトのアーカイブをご視聴いただきたい。

 1月18日に初配信したインタビューは、「ソ連で発達した『多極共存的』な制度と分離紛争。ソ連の指導者達は『ソ連の体制が壊れるとすれば、民族問題から壊れる』と予感していた」というテーマで、松里教授に話をうかがった。

 松里教授は、著書の中で、「2008年以降に旧ソ連圏で起こった戦争・紛争は、一つの例外もなくソ連末期以来の分離紛争の再燃だと言える」と指摘している。

 松里教授は、「例をあげると、ソ連の末期に4つ、厳密に言うと5つなんですけれども、大きな分離紛争があったんです」と述べ、カラバフ紛争(アルメニア、アゼルバイジャン)、アブハジア紛争(ジョージア)、南オセチア紛争(グルジア、現ジョージア)、沿ドニエストル紛争(モルドバ)、ガガウズ紛争(モルドバ)をあげ、以下のように続けた。

 「それに加えて、ユーロマイダン革命(クーデター)後のウクライナで、クリミアの紛争と、ドンバスの紛争が起こりました。これは、起源はソ連末期に起こっているんです。

 クリミアの方がもっと根は深いですけどね。ドンバスの方は、やはりユーロマイダン革命をきっかけとした、というファクターが大きいと思います。

 クリミアの場合は、昔、ソ連の中で、ロシア共和国に入ってた時代というのが、1954年まで続いてるものですから、『当時はよかった』と、クリミアの人達はそう思ったんですね。だから、『ロシアに戻れば、また豊かになれる』とか、そういう発想があったわけですね。『昔はロシアだったし、今、もしプーチンのロシアに戻れば、豊かになれる』とか、そういう動機は、非常にあったと思いますね。

 ドンバスの場合はちょっと違いまして、ドンバスの場合は、もう少しウクライナ共和国に帰属していた期間が長いですから、クリミアのように、『ロシアに帰る』という意識は、あまりなかったんですね」。

 松里教授はさらに、ウクライナ東部とロシアの国境の変遷について、以下のように詳しく解説した。

 「今日のドネツク州というのは、革命前の『エカテリノスラフ県』というのと、あと『ドン軍州(ドン軍領、ドン・コサック軍管区)』というのがあったんですね。それをくっつけたものです。

 で、革命前の『エカテリノスラフ県』というのは、19世紀の終わりの人口統計をとってみると、マラルーシュ語、今でいうところのウクライナ語が、多数派だった県なんです。

 だから、これは歴史的にウクライナである、というふうに見てもいいと思います。

 それに対して、『ドン軍州』というのは…、コサックっていうのをご存じですか? 辺境に、国境防衛するために、屯田兵が置かれていたわけですね。ですから、コサックというのは、そもそも身分でありまして、民族じゃなかったんです。

 で、『ドン』というのは非常に面白くて、もともとレザン公国というのがあったんですけど、モスクワのちょっと南、そこから逃げてきた、移住してきた人が作ったコサックの領域で、非常に面白いのが、ヴォルガ川やドン川の流域にあるものですから、カルムイク人(モンゴル系民族、17世紀に現在の中国新疆ウイグル自治区や中央アジアから移住し、ヴォルガ川下流域に定住した)、仏教徒(チベット仏教)が多かったんですよ。(中略)

 それで、『ドン軍州』というのは、ウクライナとは言い難いんです。

 その『ドン軍州』の西半分と、『エカテリノスラフ県』の一番東の端をくっつけたのが、ドネツク州です。

 ですから、言ってみれば半分ウクライナで、半分ロシアというふうに言ってもいいと思いますけど、その国境が確定されたのが、1928年です。

 これは、第1次5か年計画が始まった年です。だから、炭田とか、帝政期から発達していた鉄道網を分断するんじゃなくて、くっつけて、それによってソ連全体の工業化のモデルにしようという野心があったんですね。それがドネツク州の起源です。

 クリミア(がウクライナに編入されたの)は、1954年ですから、ずっと時代が新しいですよね。だから、クリミアの人達は、『昔、自分達はロシアだったんだ』と、記憶に残っているんです。

 でも、(ドンバスがウクライナとして国境が確定した)1928年というと、ソ連がなくなった時点で、まだ生きている人というのは、記憶がある人はほぼいないですから、それは、ウクライナに対する帰属感は、全然違っていると思いますね。

 ですから、ドンバスの場合は、もっと、2014年のユーロマイダン革命以降の、非常に右翼的な潮流であるとか、暴力というのに嫌気がさして、反発して、分離紛争が起きたということになると思います」。

 その上で松里教授は、「ドンバスの分離運動というのは、ソ連末期からあるんです」「ウクライナで民族主義が盛り上がると、それに対抗して、ドンバスでは『分離を、ウクライナはもう嫌だ』という運動が起こる関係になっています」と述べた。

 さらに松里教授は、「ドンバスは工業地帯であるため、富裕層からマージナル(周縁、辺縁)層まで、社会的な階層が激しい」とした上で、以下のように解説した。

 「ドンバスのオリガーク(オリガルヒ)というのは、『フォーブス』に載るぐらいですから、世界的な金持ちなんですよ。何でこんな貧しい国で、こんなお金持ちになれるのか、というぐらいのお金持ちですから。

 それで、企業経営層、オリガーク層というのは、非承認地帯になると、企業経営ができなくなるんです。銀行が、全部撤退してしまいますから。ウクライナの銀行も全部撤退するし、皮肉なことですけど、ロシアの銀行も、撤退するんです。

 非承認地帯で、銀行を開いてると、銀行の本社が国際的な制裁を食らって、モスクワでビジネスができなくなるんですよね。だから、ウクライナも、ロシアも、どっちも撤退しちゃいますから、もう非承認地帯になったら、カラバフとか、アブハジアとか、ドンバスとか、それはビジネスマンにとっては、ものすごく厳しいんです。

 だから、企業経営層とか、オリガーク層とかは、もう、いい悪いの問題じゃなくて、ウクライナからの分離宣言をやって、非承認地帯になったら、『私の企業はめちゃくちゃだ』と。『財産を失ってしまう』ということで、その人達は結局、ウクライナの方に移住してしまったんですね。

 でも、全部、本当に企業に撤退されたら、雇用の問題が起きるから、ドンバスの『人民共和国』を名乗っていた分離政体は、大金持ちの経営者達に、『人民共和国の税金を払ってくれるんだったら、今まで通り経営していいですよ』ということで、それで2017年の初めぐらいまでは、うまくいってたんですね。

 ところが、それはウクライナ側のポピュリズムで、『我々の兵隊を殺した連中と協力して、ビジネスをやるとは、どういうことだ』ということになって、完全に(ウクライナがドンバスを)経済封鎖しちゃったんですよ。

 だから、2017年以降の経済封鎖っていうのは、この今度の戦争の一つの大きな背景としてあるんです。

 それまでのように、分離はしているんだけど、経済的には持ちつ持たれつ、という状況であればあれば、また違ったんですけどね」。

 松里教授は、「ドンバスの場合は、階級対立なんです」と述べ、「上の方(オリガルヒや企業経営者)はウクライナに移住してしまって、その下の、学校の校長先生とか、工場の主任技術者とか、そういう人達が、人民共和国の議会議員になっている。中間層以下が残り、大金持ちはウクライナに逃げた」と、明らかにした。

 インタビューの後半では、ソ連末期から分離紛争が顕在化した背景として、ソ連時代の「民族領域連邦制」や、「基幹民族」という制度が、ソ連崩壊後も残ったことの弊害について、松里教授が詳しく解説した。

■ハイライト

  • 日時 2025年1月13日(月)16:00~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

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